東京でも夜になると、時折虫の声を聴くようになりました。虫の声も昔に比べれば明らかに少ないですが、それでも嬉しいものです。
先週 土曜日の放送で金平キャスターの交代を告げたTBS『報道特集』、番組公式は事前にこんなtweetをしていました。
心配の声たくさん頂いています。報道特集は1980年に『調査報道』『現場主義』を掲げスタートし、40年以上続いてきた番組です。その精神を今後も大切にしていきます。視聴者の皆様の信頼に応える内容であるか?これまで以上に厳しい目で見守って頂ければと思います。#報道特集 #旧統一教会と政治 https://t.co/xgMVmmmeWq
— 報道特集(JNN / TBSテレビ) (@tbs_houtoku) 2022年9月2日
このtweetと実際の放送で交代を報告する金平氏の顔を見ていた限りでは、ボクは『上からの降板圧力を金平氏と現場が突っぱね、特任キャスターで不定期出演という形でなんとか継続させた』と想像しました。
『金平氏は特任キャスターとして長期取材を中心に』とTBSは言っていますが、この日の放送も含め、今までも『報道特集』では数年間かけて取材した、という例はいくつもあります。長期取材は理由になりません。金平氏の降板は圧力なのか、68歳と言う年齢なのか、真相はどうなんでしょうか。
●月刊住職って、まさに『業界紙』ですね(笑)。
相変わらず攻めてるなあ、「月刊住職」 pic.twitter.com/erbvZD4CMk
— 西岡研介 (@biriksk) 2022年9月3日
2019年、香港政府による「逃亡犯条例改正案」への反対は200万人もの人々が参加する大規模なデモに発展する。あまりにも激しい市民の反対に逃亡犯条例は撤回されるが、警察の取り締まりは暴力を伴うようになり、香港のありとあらゆる場所でデモ隊と機動隊が激しくぶつかり合うようになる。やがてデモ隊は香港理工大学に立てこもり、警察が構内に突入した結果、多くの参加者たちが逮捕されるが
jidaikakumei.com
2019年の「逃亡犯条例」改正案への反対運動以降、中国当局の締め付けで自由がそぎ落とされていく香港で、警察と衝突しながら最前線で戦った市民による抵抗運動の様子を映し出したドキュメンタリー。
監督は香港では著名というキウィ・チョウ、他の制作スタッフの名は安全上の理由のため、明かされていません。またインタビューを受けた人たちの多くは顔を隠していますが、一部の人たちは亡命や刑務所に入れられ連絡が取れなくなっています。
昨年 カンヌ国際映画祭や東京フィルメックスで上映直前まで作品名・内容共に伏せられたまま、サプライズ上映をしたことによって国際的にも大きな反響を呼びました。大ヒットした台湾では最優秀ドキュメンタリー賞も受賞。
www.excite.co.jp
それでも中国本土や香港では上映することはできません。まだ香港にいる監督自身も映画館のスクリーンで自分の作品を見たことがないそうです。
cinemore.jp
映像は「逃亡犯条例」反対運動が始まった19年の春から11月まで、そしてその後を追っています。
犯罪容疑者の中国本土への送致を可能にする逃亡犯条例を切っ掛けに市民たちから抗議が始まります。6月には香港の人口700万人中、200万人がデモに参加するようになる。7月には立法府に人々が突入、占拠する事態になる。
●警察は人々に向かって催涙弾を1発や2発ではなく数千発も乱射し、デモ参加者はヘルメットやマスクを被らないと参加できないような状況になります。人々はマスクやヘルメットなどのデモ用の装備を「文具」と呼ぶようになりました。
その後 警察は暴力を使うようになります。7月には香港のマフィアが鉄パイプを使って抗議参加者を襲う事件が起きる。警察は全く見て見ぬふりです。警察がマフィアに指示していたことがその後明らかになる。8月には警察が市民を直接襲撃するようになります。11月には交通警察が非武装の市民二人に至近距離から発砲、重体になるという事件まで起きます。そして学生たちが立て籠もる大学に警察が突入、大量の逮捕者が出ます。
そしてコロナ禍が起きると一切のデモや集会は禁止され、20年の6月に抗議活動を封じ込める『国家安全維持法』が施行、新聞の幹部や多くの活動家が逮捕されます。
映画は現場での映像と抗議の参加者、獄中にいた民主化運動指導者などのインタビューで構成されています。インタビューに答えるのは反対運動に参加した市民、70過ぎの老人から10代前半の子供まで、それに放送局のキャスターや学者など。危険があるため、市民は皆 顔を隠しています。
最初から最後まで映像の迫真感は凄い。警察がデモの参加者を引きずり倒してガンガン殴っているところだけでなく、非武装の参加者に発砲するところも何度も写されている。抗議で自殺する人の映像もある。さらにドローンによる上空からの撮影まである。これらの映像を一体どうやって撮ったのか、驚くばかりです。
香港で起きた出来事、市民たちの逃亡犯条例反対運動や香港マフィアの市民への襲撃や警察の市民弾圧、大学への立て籠もりなど断片的にはTBS『報道特集』などで見ていましたが、こうやって時系列で追って描かれると大変分かり易い。
抗議運動は「分権化されたリーダーシップ」、集まっては散り、散っては集まる柔軟な戦術「水になる」、香港全体を使った運動を展開する「どこでも開花する」などの特徴や指針を持っていました。映画は運動家たちの現場に入り込んで、実際に分権化された活動や役割分担など人々の多様な動きの全体像を捉えようとしています。
重苦しい話ではありますけど、なぜか暗いところは感じられません。
人々が語る話と何が起きたかを示す実際の映像があまりにも印象的だからです。『美しい』とすら思える。
様々なエピソードが示されます。例えば香港の抗議は14年の雨傘運動の頃から、強硬手段に訴えることを辞さない『勇武派』と平和的な手段で抗議しようとする『和理非派』の間で立場が別れていました。それが今回の抗議ではお互いが率直な議論を重ねて、次第に協力し合うようになる。
抗議の仕方も様々です。街頭にデモに出たり、大学に立て籠もったりする人たちだけではありません。活動家たちを警察から逃がすために自家用車を提供したり、それを組織するボランティアがいました。警察が市民に暴力をふるったニュースを聞いて自宅から救護に駆け付ける医療ボランティアの学生、抗議の現場で自分が警察に対する盾になり若者を優先して逃がそうとする70過ぎの老人もいる。
この映画は権力に対峙する香港の人々が自主的に助け合う話が幾つも積み重なってできている。見ながら何度も涙が出てきました。
もちろん監督は抗議の側に立って描いています。だからこんなリアルな映像を撮ることが出来たわけですが、抗議に懐疑的な人や親中派の声は殆ど描かれてはいません。途中 『抗議が長期になると商売が出来なくなって困る』とデモ隊に食って掛かる外国人が出てきますが、程度の差こそあれ、そう考える人も大勢いたでしょう。
なんと言っても抗議に出たのは700万人のうち200万人です。残りの500万人は何を考えていたのか、という問題は残っています。
ボクが見た上映後、『なぜ君は総理大臣になれないのか』の監督、大島新氏のミニ・トークショーがありました。大島氏は『自分がいくら権力に都合の悪い映像を撮っても命までは取られないが、この作品ではその前提が成り立たない。そういう緊張感、切実さを感じる』と述べていました。
本日はドキュメンタリー監督の #大島新 さんと
— 時代革命 (@jidaikakumei) 2022年8月27日
本作のパンフレット編集でもお手伝いくださいました#米原範彦 さんを聞き手にトークを行いました!#キウィ・チョウ 監督から聞いたお話しも絡めつつ
香港にはなく日本にはある投票権、民主主義の形
などたくさんお話しくださいました。#時代革命 pic.twitter.com/j7yvdyg4zd
国家安全維持法という強圧的な法律が出来て、香港の自由は失われました。『一国二制度』という約束を中国は守らなかった。この映画は中国が何をやったか、見事に記録しています。今 香港では大規模な人口流出が起きています。
www.asahi.com
この映画に出てくる人たちも、ある者は香港に残り、ある者は台湾や外国に逃れました。彼らは絶望はしつつも、香港の自由を諦めていないのが非常に印象的でした。
人々の『香港人』というアイデンティティは一層強くなっている。
映画の中で抗議の参加者はこう言っていました。
『時代は私たちを選びませんでした。しかし、私たちは時代を変えることを選んだのです。』
この映画で描かれていることは勿論 他人事ではありません。日本の政治だって権力は何をやってもいい、という、中国共産党の目指す方向と同じ向きへ動いています。この映画を見るとやはり、自分に何が出来るのだろう、と思います。
2時間半の長尺が全く長く感じられなかった。今年見た中では断トツのドキュメンタリー。単に質が高いドキュメンタリーであるだけでなく、見ることが出来て実に良かったと思える感動的な作品でした。
台湾の蔡英文総統は「すべての台湾人が見るべき映画だ。香港の経験は我々に、民主主義と自由は守るべき価値のあるものだと教えてくれる。それは社会にとって最大の共通認識でもあり、そこに譲歩の余地は一切ない」と語ったそうですが、日本人にとっても同じだ、と思いました。