特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『これは君の闘争だ』

 駒沢公園イチョウも色づいてきました。秋の深まりを一層感じます。

 この週末は九州へ転勤している友人が戻ってきたので、代官山でランチをしてきました。

 お天気も良かったので散歩がてら、家から店まで1時間歩いたあと、昼に飲むシャンパンは気持ちよかったです(笑)。街に小汚い酔っ払いがいないだけ、昼の方が夜より雰囲気が良いかもしれません。
 二世・三世議員みたいな連中は知りませんが、たいていの人にとって世の中は辛く、苦しい。それをアルコールで麻痺させながら笑顔で耐え忍ぶ、という感じでしょうか(嘆息)。それでも健康で仕事がある、それだけで感謝しなくてはならないのでしょう。


 大変な世の中と言えば、今日 お昼に中華屋へ入ったら、アメリカへ渡った元皇族の女の子の話がワイドショーで流れていました。本人がアメリカに行ってまで、やってるんですね。

 若い女の子が誰と結婚しようと知ったことではないし、本人の好きなようにさせてやるのが大人の寛仁大度というものです。放送している連中もTVを見ている連中も自分が恥ずかしくないんでしょうか。
 今回の話は皇族ですら『こんなバカな国民は相手にしてらんね』って、日本を見限ったってことでしょ。皇族にすら見限られる国、ニッポン(笑)っていう事実をもっと自覚するべきだと思いますね。


 と、いうことで、青山で映画『これは君の闘争だ

www.toso-brazil.jp

 2013年6月、ブラジルのサンパウロで公共バスの料金値上げに対する抗議デモが行われた。通学にバスを使っている中学生、高校生も数万人規模でデモに参加、議事堂を占拠、料金値上げを撤回に追い込む。2015年サンパウロ州政府は96もの公立高校を閉鎖し、20万人もの学生を転校させる公立学校の予算削減案を実施しようとするが、学生たちは200以上の学校で学生たちによる占拠が敢行され、削減案を撤回に追い込む。たび重なる汚職や治安悪化によって、14年間続いた左派政権は群衆の支持を失い、2018年に『一切の社会運動を根絶やしにする』と公言するジャイル・ボルソナロが大統領選に勝利し、ブラジル初の極右政権が成立してしまう


 オリンピック、不況、左派政権が倒れ極右政権の登場と、激動の2010年代ブラジル社会を学生たちの視点から描いたドキュメンタリー。ベルリン映画祭のジェネレーション部門で初公開され、アムネスティ・インターナショナル映画賞と平和映画賞を受賞。2019年山形国際ドキュメンタリー映画祭で優秀賞を受賞した作品。監督はエリザ・カパイという女性。

 映画では実際の学生運動に参加した3人の学生たちが当時の運動を振り返りながら、それぞれの意見をヒップホップ・ミュージックに乗せラップバトルのように衝突させていきます。彼女たちは民主的な政権下で育ったブラジル最初の世代だそうです。
●実際の闘争に参加したルーカス(右)、ナヤラ(中央)、マルセラ(左)、3人の学生のナレーションで映画は進んでいきます。

 硬い映画、深刻そうな映画のようですが、全然そんなことはありません。若い3人のラップのようなナレーションはユーモアとリズム感に溢れて大変小気味よい。お話はすいすい進んでいきます。
 もちろんボクにはブラジル人が話すポルトガル語は判りませんが、やっぱりリズム感が全く違うんだなーと思いました。映画の写真を何枚かご紹介しますけど、殆ど皆、中学生か高校生です。外観はとてもそうは見えません(笑)。

●ラッパーとしても活躍するルーカス

 ブラジルの学生たちのパワーに圧倒されます。即興で歌いながら、踊りながら、バス料金反対のデモでサンパウロの街を埋め尽くす。とにかく陽気です。日本のデモは勿論、アメリカやEUのデモとも全く違う。
●運動を主導するサンパウロ州学生連盟のリーダー、ナヤラ

 これで皆、10代というのも驚きです。既存の政党や市民団体の大人たちに影響されたりしたものではなく、首長や政治家に対して自分の意見をきっちり主張する。
●15歳で学校占拠に参加したマルセラ(左)。右の子は催涙弾対策でゴーグルを被っています。

 例えば公立高校を再編する案に反対して学校を占拠した際は、当初、マスコミの報道は低調だったそうです。そこで学生たちはマスコミに報道させるために、学校だけでなく、一般道路を占拠して通行止めにする。
 当然 通勤途中など一般のドライバーたちは怒って、学生たちに詰め寄ってきます。しかし学生たちは、『公立学校の再編は貧しい家庭の子供たちの教育の権利が損なわれかねないから、申し訳ないけど我慢してくれ』と反論する。そこで議論が生まれます。是非は別にして、民主主義の原点を見るような思いがしました。
●学生たちのデモ。ものすごい人数です

 また警官(軍警察)はバンバン催涙弾を撃ってくるだけでなく、子供たちに暴力をふるってくるのも驚きます。女生徒が頭を殴られて救急車で運び込まれるシーンがありますが、警官は一応は法を守る意識はあるものの、日本人の感覚から見ると暴力的です。
●この次の場面では警察が警棒で学生たちを殴ってきます。

 まあ、日本の警察も必ずしも平和的ではありません。311後の反原発デモでは、ボクの目の前で老人が警官に殴られて血を流したり、有楽町のガードレール下の暗い場所(報道のカメラがいない場所)になると機動隊が隊列に襲い掛かってくることもありました。労組や既存の団体とは全く異なる、反原発デモは一般の市民ばかりが目立つので、参加者を何人か捕まえて、既存の組織と繋がりがあるのかを探ろうとしたらしい。つながりなんかある訳ないんですが。
 それでもブラジルの警察はカメラの前でも学生を普通に殴ってたので、やっぱり違うかな。
●警察は盾を叩きながら威嚇して、学生たちに襲い掛かってきます。

 あと、やはり日本とは文化が違う。学生たちは集会をやりながら、端っこへ行って恋人同士で普通にいちゃいちゃしていたりする。ナレーションではマルセラちゃんが『お楽しみ』もなくちゃいけない、と言ってました(笑)。
●学生たちの集会。政党とは何の関係もなく、彼らたち自身の意志で集まっています。

 人目をはばからないのは異性同士だけではありません。同性もです。全然はばかるところがない。
●学生たちはLGBTQ+の権利も主張します。愛し合うもの同士の権利を認めろと。


 とにかく、政治的な意見を言うことすらはばかる白痴なみの奴隷臣民ばかりの日本とのあまりの違いには頭がクラクラしてきます。
●学校占拠の光景。皆、中高生です。

 ただ思ったのは、そんなブラジルの社会は貧富の差も激しく(将来性は日本より遥かに明るいにしても)、政治の汚職も酷い。必ずしも暮らしやすい社会ではありません。奴隷臣民だらけの日本とどっちがどうだろうか。

 単なるアホかもしれないけど、自己主張の強い国ではマスクをしない自由やワクチンを拒否する自由を主張する人もいるわけです。日本はワクチン接種率の高さなど自己主張の少なさがプラスになっている面もないわけではありません。

 また日本では政治運動をやる学生は数少ないけれど、ブラジルの子たちと同じくらいの真剣さで就職活動をしたり、起業したり、ボランティア活動をやったり、物事を考えている子もいます。これをどう考えたらいいのか。視野は狭いんだろうけど、それだけでかたずけていいのか。
 日本人より遥かに自意識が確立しているブラジルの高校生たちを見て感心しましたけど、色々な面もあるなーとは思います。

 学生たちはバス料金の値上げも公立高校の再編も撤回を勝ち取ります。ここで終われば、メデタシなんですが、そうはいきませんでした。

 左翼政権の腐敗と陣営の分裂で、18年の選挙では極右の大統領、ボルソナロが当選してしまいます。こいつは一切の社会運動を根絶やしにする、と公言している。映画はここで終わります。
●ブラジル初の極右の大統領になったボルソナロ。『一切の社会運動を根絶やしにする』と記者会見で公言しています。
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 映画の終了後 監督が後日談を語ったインタビューのフィルムが流されました。
 映画の完成はボルソナロ政権成立後になりましたが、監督は出演者たちに『身の危険が及ぶかもしれないが、映画を公開しても良いか』と改めて確認したそうです。すると全員が、『こんな政権ができたからこそ、映画を公開してほしい』と言ったそうです。
 中心人物の3人は今も社会運動を続けています。危険がないわけではありません。時折 監督も身の危険を感じるそうです。’’だからこそ映画を公開し続けることが闘いになる’’と語っていました。

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 高校生たちの饒舌な言葉・首長とものすごいエネルギーを、ビートとともに紡ぎだす。不謹慎な言い方かもしれませんが、見ていて非常に面白かったです。と、同時にブラジルと同じように日本も極右の政治家が政権を執って今も影響力を保持している。他人事ではないなーという気持ちも改めて感じました。

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