特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

読書『象の記憶』と『明河似白雲』

 今週は仕事で北海道へ行ってきました。
 北海道というと、楽しそうなイメージを抱く人が多いようですが、ボクは楽しい想いなんか一度もしたことがありません。さすがに街場の店の魚は東京より美味しいことが多いけど、凄く美味しいというほどではないし、とにかく仕事に追われてまともな物を食べる暇もないのが殆どです。
 
 それより拓銀が潰れて以来、北海道の景気はずっと厳しさを感じます。札幌市内は新しいビルとかは立っているけれど、売っているのは安い物ばかりが目につきます。デフレがまだまだ続いているようで、最近の東京のバブルと比べると余計に格差が開いているように思います。正直、いたたまれない気がする。

 今や日本中そうかもしれませんが、札幌は外人も含めて観光客ばかりです。別に嫌いな場所じゃありませんが、北海道なんか観光して何が楽しいんだろう。旭山動物園は一度行ってみたいけど、あとは特に行きたいところも思い浮かびません。1週間くらいかけて電車で一人旅でもしたら面白いかもしれないけど、働いていたらそれも厳しい。

 今回食べた中で一番おいしかったのがこれ↓

 有名土産物の『白い恋人』のホワイトチョコがソフトクリームの中に入っているそうです。言われないと全然わからないけど、味はコクがあって美味しかったです。お昼ご飯を食べる暇もなかったので、現地の人が買ってきてくれた。お腹が空いてたから余計に美味しかった(笑)。


 それにしても人間が生きていくということは難しいです。
 ボクは右でも左でも自分が正しいと思っている人種が大嫌いですが(熱狂的な信者で、対話や議論ができない人種)、それは何より連中が、人間の弱さ、というものを理解しないからでもあります。

 昨日 流れた山下達郎問題の続報。やはりジャニーズを庇うために、山下の意志で自分の事務所の音楽プロデューサーをクビにしたようです。反戦歌を謳っていても金のためには転ぶ、という訳です(笑)。 

 それにしても相変わらず望月衣塑子はバカ。これで良く新聞記者が務まると思います。務まってないか(笑)。

 金に弱いのは『週刊金曜日』も一緒みたいです。

 例えばバカウヨは存在自体が恥ずかしいですが、所詮 反体制とかリベラルだって普段は立派なことを言っていても、いざとなると判らない。それが人間です。

 今回の出張で最大の収穫は往復の機内で読んだ本『象の記憶』でした。
 

 著者の川添象朗氏は荒井由実YMOのプロデュ―サー。明治維新の元勲、後藤象二郎の曽孫です。日本初の本格的イタリアンの『キャンティ』を創業した川添浩史の長男です。ミュージカル『ヘアー』を手掛け、ファッションブランドのイブ・サンローランピエール・カルダンを日本に輸入、結婚は5回、それに麻薬、監禁&暴行で逮捕歴がたぶん4回くらい(笑)。

 この本はそんな彼の生涯を振り返った自伝です。
 
 とにかく話が豪快です。
 親父の川添浩史は戦前 伯爵家の出身なのに共産主義者になり、屋敷に武装闘争用の武器を隠していたのを警察に検挙されます。伯爵家としては流石にまずいので(笑)、彼を欧州に無理やり留学させます。今度は欧州との文化交流に夢中になり、殆ど日本に帰ってこない(笑)。パリの彼の家には大写真家、ロバート・キャパが居候していたそうです。

 オヤジが全然帰ってこない中で育った著者は麻布の屋敷で遊び惚けて育ちます。勉強は完全無視、自分の興味ある事しかしない。慶應幼稚舎、中等部、慶應高校(先輩だ(笑))に進むも、高校生の時から六本木の大通りで自動車でレースをするなど(もちろん無免許)遊び呆けていたので、悪さができないように全寮制の鹿児島のラサール高校へ放り込まれます。

 麻布育ちの著者は鹿児島の田舎者とは全く気風が合わない。相変わらず勉強もせず、現地の居合抜きの先生に弟子入り、喧嘩を売ってくる現地の不良を叩きのめしていたそうです。
 その居合抜きの技は後年 彼がNYで空手バカ一代にも出てくるバーの用心棒との対決に役に立つことになります(笑)。

 荒井由実YMOの売り出しの話も面白かった。
 荒井由実は彼が手掛けた大ヒットミュージカル『ヘアー』に出演したがっていた高校生だったそうです。マリファナだらけの『ヘアー』(笑)には流石に高校生は出さなかったものの、才能を感じた彼は彼女を当時欧米で流行っていたシンガーソングライターとして売り出します。著者の親父譲りの審美眼と人脈は当時の日本では圧倒的でした。

 当初は全く流行らなかったのですが、彼がコネを使ってTBSのドラマに彼女の曲『あの日に帰りたい』を使わせたら大ヒット。所謂 流行歌をドラマの主題歌に使うのは初めてだったそうです。ちなみに彼女のレコードジャケットに使われたピアノはピアニストだった著者の母親のものだそうです。因みに著者の母親は日本人初のショパンコンクール出場者。どうなってんだ(笑)。


 YMOの売り出し方も凄い。
 ある日 キャンティの3Fに著者が旧知の細野晴臣がやってきてYMOの構想を売り込みに来たそうです。同席していたアルファレコードの社長、村井邦彦が『細野に全面的に任せる』と言ってレコーディングが始まった。ところが出来上がったものは全く新しい音楽、どう考えても流行る見込みはなかった。

 そこで著者が旧知のアメリカの有名プロデューサーが来日した際 高級シャンパンで泥酔させ、YMOの生演奏を聴かせたら大いに気に入り、アメリカデビューを強引に決めさせます。そのプロデューサー氏は酔いから醒めるとやっぱり途方に暮れたそうですが(笑)、たまたま彼の事務所でYMOを聞いた前衛パンクバンドのチューブスがそれを気に入り前座に抜擢します。確かにYMOは如何にもチューブスが好きそうな音ではあります。

 著者曰く、’’LAの夏のライブなんて皆 マリファナで酔っぱらっている’’から会場は大盛り上がり(笑)。
 著者はマスコミを日本から呼んでおき、その盛り上がりをNHKの夕方のニュースで流したら、日本でも大ヒット、そんないきさつだったそうです。

 まだまだ面白い話は山ほどありますが、著者は、カネに執着せず、法律も気にしない。常に自分にとって面白いことだけを追求してきたのはよく判ります。
 最初にマリファナで捕まった際、著者は『日本でマリファナが禁止されているとは知らなった』と言い訳しています(笑)。でも、その後も何回も捕まるんです(笑)。刑務所の話も面白かった。

 女優の風吹ジュンを含めて5人も妻を娶り、公私ともに波乱万丈な人生を過ごした著者は本の最後で、『自分たちの子どもの世代は真人間になって欲しい』(笑)と述懐しています。でも全然 後悔も反省もしていない(笑)。

 著者曰く、後藤象二郎も日活の初代社長だった象二郎の孫(著者の祖父)もそういう人間だったそうです。
 維新の元勲の多くは暗殺されたり、非業の死を遂げています。後藤象二郎は元勲であるにも関わらず、維新後は飄々と遊び暮らして生を全うした(笑)。当時はただの運送屋だったルイ・ビュトン初めての日本人顧客として、あちらの社史に残っているそうです(笑)。

 あんまり立派な人間はクリエイティブじゃない。やっぱりカネやイデオロギー、有象無象の権力に執着せず、常に自分にとって面白いことだけを追求する、という人こそが立派に思えてしまいます。
 この本を読むと、そういう生き方もまた、難しいことも判ります(笑)。久々に面白い本を読みました。


 たまには ちゃんとした和食でも、ということで、丸の内のビルにある和食屋へ行ってきました。
 ここは滋賀にある古い店の支店です。京都などに多い創作色を取り入れた和食屋とは違って、オーソドックスかつ極端に地味な料理(笑)が出てくるのが特徴です。

 正直、20~30代の若い頃は?と思っていて、一時期は足が遠のいていました。しかし最近は華美を排した地味さが逆に気に入っています。やっぱりボクも歳を取った(笑)。

 ビルの中ですが、部屋には額が掛けてあります。『明河似白雲』、出典は知りませんが晴れた夏空を思い出させるような句で、気持ちが明るくなりました。

 まずは梅酒を頂いて、

 紫の穂紫蘇と金箔を散らした美しいごま豆腐。味付けは煎り酒、と言うのは珍しい。

 中にはプリプリの海老とウニ。こういうものは普通に美味しい(笑)。

 お椀。夏らしいお茶碗です。

 適度に昆布を強調した出汁の中には蒸したウナギと賀茂茄子、上にはネギ。賀茂茄子は揚げてあるからホクホクしています。

 涼し気に水滴を散らした釣瓶状の容器が出てきました。

 お造り。鯒、鯛、イカ。どれも美味しかったです。日本酒は強いのでボクはあまり飲めないですが、お刺身だけは日本酒が欲しいです。

 次に出てきたのは氷の容器。抹茶のお椀をかたどって削ってあります。味には関係ありませんが贅沢です(笑)。

 中にはそうめん。

 食べ終わったら、布を巻いてお薄のように出汁を頂きます。この店のやり方はNHK美の壺』の氷特集で紹介されたことがある、と仲居さんが言ってました。

 琵琶湖産の鮎の塩焼き。下には焼いた石が敷かれ、鮎に青竹の香りがつけられています。

 鮎は頭から食べられるこれくらいのサイズが一番美味しいです。この店の蓼酢は他の店と異なり、ねっとりしています。これもまた、食べ応えがあります。

 八寸。一番上が鮒の熟れ寿司、時計回りにへしこと新物の蓮根、近江牛、トウモロコシの揚げ物。本店が滋賀ですから(笑)。

 強肴は鮑と煮含めた冬瓜。大きな鮑は驚くくらい柔らかかったです。これはかなり美味しかった。冬瓜も今年初めて。

 ここでお鍋が出てきました。鱧しゃぶです。パチパチパチ。

 控えめな味の出汁は鱧の骨でとったもの。美味しかった。一滴残さず全部飲んだ(笑)。

 最後は銅釜で炊きたての近江米。

 料理屋の漬物って手作りだから、美味しいですよね。赤だしにはジュンサイが入っています。柔らかく炊いたお米も相まって、この3品、まるで『水』を味わっているようでした。

 良く見るとお椀にはホタルが。

 黒豆の水羊羹。とろけそうな柔らかさです。
 この店は新宿の伊勢丹売店で朝 調理場で作ったお菓子やお寿司をテイクアウトとして売っています。この水羊羹も2週間前に同じものを食べたばかりですが、柔らかさが全然違う。仲居さんは『同じ職人さんが作っても店と売店では柔らかさは変えています』と当然のように言っていました。これも一期一会です。

 お抹茶。当然のことながら家でボクが点てるお茶とは葉の質が違う(笑)

 とどめは(笑)キウイ、スイカ、パパイヤ。スイカは種が取ってある。流石 料亭です。

 お皿の数が多いからか、案外、お腹いっぱいになります。
 お料理だけじゃなく、部屋の調度にしろ、器にしろ、ちゃんとした和食はネタ、蘊蓄があるのが面白いです。
 少し前にエントリーしたムーンライダーズのライブも同じですが、散りばめられた蘊蓄が判る人には判る。判らない人は判らない(笑)。良い悪いではなく、それでいい。勿論 判る方が楽しいに決まってます(笑)。

 ボクも全てのネタが判る訳じゃありませんが、美味しく食べながら自分の経験や知識に応じて蘊蓄を楽しむ。それもまた食事や音楽の楽しさの一つです。