特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『黒い牡牛』と読書『THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本』、それに『1104再稼働反対!首相官邸前抗議』=愛国心は悪党の最後の隠れ場所

今朝は晴れ渡った空気で良いお天気でした。舗道に反射する朝陽がきらきら輝いて見えたくらい。久々にこういう光景を見たので、少しうれしかったです。


一方 トランプのバカが息を吹き返したせいで、上向いてきた株価は激下がり、まったく迷惑な話です。トランプというより、ああいう奴に投票するバカな奴が悪いんだけど、それがアメリカ人の半分近く、というのが現実です。安倍晋三の支持率が5割近くある日本とどっちがマシなのか判りませんが、やっぱり世の中は大変です。

バーニー・サンダース氏の今日のtweet。自分が都知事選に推薦されなかったからと言って(笑)選挙後 わざわざ産経新聞野党共闘を叩いていた宇都宮健児より、バーニーは1億倍、人間が上等です。

                                            
今日 TPPの内容が殆ど議論されないまま、衆院の委員会で採決されました


                                      
こんなことでいいんですかね。政府の方もまともに内容を説明しないし、反対派もくだらないデマばかり飛ばしているどの産業に影響があって、国民生活にどの程度プラスマイナスがある可能性があるのか、ちっとも議論されてないでしょう。マスコミはまともに報道しない。国民も興味を示さない。勿論 公の場で利益誘導を公然とちらつかせるようなバカ大臣山本はさっさと辞めるべきです。でもアメリカで批准されるかどうかは判らないにしても、ヒラリーが当選したら再交渉を要求してくる可能性は結構あると思います。そうすると属国の日本はお土産をださなければいけないから(笑)、今のうちに国内だけでも批准しようという政府の言い分は一理ある。TPPの内容も含めてそういう議論は全然なされていない。

政治やマスコミがこのざまでは、結局は、自分の身は自分で守る、つまり自分の勤務先や自分自身の競争力を強化する、それしかないと思います。リバタリアンですよ。政府だけじゃなく、野党も反対運動側もバカばかりで何も信じられないから仕方ないんだけど、なんだかなあ(笑)。

                                    
さて、今年見た映画の中で映画『トランボ』は出色の出来でした『ローマの休日』に隠された物語:映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)赤狩りでハリウッドを追放された脚本家ダルトン・トランボが、それでも偽名で書き続け『ローマの休日』、『黒い牡牛』の2本でアカデミー賞を獲得、やがてハリウッドに復帰するまでを描いた作品です。国中がヒステリックな赤狩りに狂奔するなかで、理性と自由のために闘ったトランボの姿には大いに心を動かされました。

                            
ローマの休日』は見たことがあるし、確かに名作です。でも1956年に公開されたと言う『黒い牡牛』は国内版のソフトも売ってないし、見たことも聞いたこともありませんでした。cangaelさん四丁目でCan蛙は羨ましくもリアルタイムでご覧になった、と仰っておられましたが、これは是非見たかったのです。昨日の東京国際映画祭の最終日、六本木のTOHOシネマの一番大きなスクリーンで特別上映されるとのことで、勇んで出かけてきました。

六本木で『黒い牡牛』、原題の『The Brave One』の方がしっくりきます。第29回東京国際映画祭 | 黒い牡牛

メキシコの貧しい牛追いの家に生まれた少年は落雷で死んだ親牛から生まれた勇敢な黒い牡牛を『ヒタノ』と名付け、次第に心を通わせるようになる。牛は周囲の大人たちから何度も取り上げられるが少年はそのたびになんとか彼を取り戻す。しかし理解ある牧場主の死後 黒い牛は闘牛に売られてしまう。少年は黒い牛を取り戻すために首都のメキシコシティを目指すが- - -
                                                                    
映画『トランボ』では、B級映画会社で偽名を使って書いた作品ということになっていたので、もっと通俗的な作品かと思っていたのですが、判りやすい話ながらも格調高い作品でした。カメラも美しいし、描写が大げさでなく品がある。監督のアーヴィング・ラッパーという人も撮影の ジャック・カーディフという人も名手だそうですね。開始直後のクレジット画面にはトランボの偽名、ロバート・リッチという名前が異様に目が付きました。

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CGもない時代 牛の描写は本当に牛に演技させたんですよね(笑)。すごいなあ。こんな牛を探してくるところから始めたんでしょうか。それに大観衆が詰めかけた闘牛シーン。これも実際に人を集めて撮ったそうです。超貧しいメキシコの農村と近代的なメキシコ・シティの対比、それに革命政権だった当時のメキシコ政府の描写も面白かったです。実質的に闘牛士が牛を嬲り殺すだけの見世物、闘牛というものをこの映画で見て、ボクは嫌悪感を覚えたのですが、トランボも闘牛に嫌悪感を持っていたそうです。映画は闘牛をそういう目で描いているから、共感できます。

お話自体はいかにもアメリカらしい、ゴツゴツした男っぽい映画、という感じです。少年も牛も運命に決して屈しません。過酷な運命に翻弄されても、目いっぱいジタバタし、ためらいなく周囲に助けを求めつつも、あくまでも自分の力で闘い続ける。田舎育ちの貧しい少年は独りで首都に向かい、大統領にまで直訴します。無謀にも思えますが全く諦めない。これも昔のアメリカ映画らしく、闘い続ける男を周りから爽やかに手助けする人たちもいる。こういうところも実に泣かせます。ボクの大好きなフランク・キャプラロバート・アルドリッチ、今でいえばクリント・イーストウッドにまで続くリバタリアン的伝統に立脚した作品です。組織や集団は信じない、自分の力でやる人間の自律、善意人生で大事なものは何かを描写するお話なんです。
ちなみに映画評論家の町山智浩氏によると、闘牛は赤狩り公聴会(死刑を衆人環視の見世物にする)、闘い続ける黒い牡牛はトランボが自己投影したもの、だそうです。

                           
良い映画でした。昔は授業で流した学校もあったそうです。確かにぴったり。素朴だけど、人間の基本的な価値観を骨太に描いた作品でした。ちなみにこの作品は11月28日にスターチャンネルで放送されるそうです。黒い牡牛|映画・海外ドラマのスターチャンネル[BS10]

●上映後 町山智浩氏(右)と渡辺幻氏のトークショー。主役の少年はこの後 数本の映画に出演した後、ハイネケンのオーナー家に婿入り、大金持ちになったそうです。町山氏は『ロクでもない奴』と言ってました(笑)


もう一つ、本の感想です。『THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本

著者のブレイディみかこ氏はイギリス在住の日本人。イギリス人と結婚し、保育士をしながら政治状況を伝えるエッセイを書いている人。自称『パンク保育士』(笑)。最近 この人の名前を見かける人も多いと思います。ボクはそんなに熱心な読者じゃありませんが、この人の伝えるイギリスの情報が結構面白いのと、年代的にボクとバックボーンが共通するところが多いので親近感を持っています。ま、この人はセックス・ピストルズやPILのジョン・ライドンが大好きだそうで、そういうところはジョー・ジャクソンスタイル・カウンシルの影響を受けたボクとは明らかに立場が違います。マニアックな基準ではこの差はイスラム教徒とキリスト教徒くらい大きいんですが(笑)、まあ、良しとします(笑)。
ナイト・アンド・デイ

ナイト・アンド・デイ

この本は昨年 著者が自分のブログに書いた「わたしに会ってください&使ってください」という取材協力の呼びかけに応じた貧困者支援、母子支援などに取り組む人たちを、彼女が今年2月 来日時に取材して書かれたものです。
第1章はキャバクラの賃金不払いへの抗議に同行した話。不払いを受けたキャバクラ嬢とユニオンの抗議に対して、同じ立場であるはずの黒服たち(ボーイさん?)が他店の人間も含めて集まって『帰れ』という反応を示すことに著者は衝撃を受けます。第2章では、『日本における「中流」という言葉はイギリスのミドルクラスというものとは全く違うもので、そこには階級意識の欠片もない。だから人々は自らを「中流」、「中の下」等と自認して、自覚や同じ境遇の者たちとの連帯を持ちにくいのではないか』という著者の問題意識が開陳されます。第3章では世田谷区の保育園を見学して子供にまで緊縮財政を押し付ける日本の実態に保育士の著者は衝撃を受けます。第4章は日本のデモ、それに山谷に根付いた活動家を訪問した話、最終章は子育てサークルとホームレスとの交流、という内容です。


内容は平易で、現代のカネ万能の世の中に対してどう立ち向かっていくかという著者の問題意識に基づいたエピソードをサクサク読むことができます。日本人の多くはミドルクラスではなく中流だと思っている、だから階級意識が薄く、権力者に対する抵抗が起きにくいのではないか、という著者の指摘には同感です。なんだかんだ言って、ボクは今の日本の実態は結構な部分、階級社会になっていると思います。親の職業や生まれによって、学歴も職業も大きく左右される傾向は近年どんどん大きくなっています。最近は東大生の親の約60%が世帯年収950万円以上って言うんでしょ東大生の親の年収|年収ガイド。実際 日々の実感として、慶応幼稚舎と東大の出身者(経営者と官僚)が日本のかなりの部分、4割くらいは動かしている、とボクは思いますね(笑)。

                                 
それより問題なのは、お金持ちに有利な政策が打ち出されてきても、人々が怒らないことこれはボクが信じがたいところです。今まで30年間 行われてきた消費税アップとセットの所得税減税は勿論、安倍晋三が打ち出した教育費贈与への減税や法人税減税。多くの経済学者が言うように、アベノミクス自体が家計から企業への所得移転です。格差を拡大させる政策が打ち出されても、人々は余り怒らない。逆にアベノミクスでおこぼれが来ることを期待している(バカ)。豊洲市場の地下の空洞とか何が問題なんだか良くわからないことに大騒ぎする癖に、自分たちの暮らしの事はあまり考えない。そういうことを指摘しないマスコミにも責任はありますが、物事をあまり考えようとしない一般の人々により多くの責任があります。
かくして、新自由主義、自己責任、緊縮財政、マヌケな経済政策、自分の権力維持しか興味ない政治家、アホな国民など色々な要素がこんがらがって、日本は転落していく

                                   
しかし転落していく、とだけ決めつけるのも早計です。この本の終章、子育てサークルの野外遊びを親切なホームレスのオジサンが手伝っている光景に著者は、階級意識が明確なイギリスでは100%有り得ない、と驚嘆します。子育てサークルのお母さんたちがそれを受け入れているのも、ホームレスが違う階級の人たちと接触しようとすること自体有り得ない、というのです。確かに 階級意識・分断意識はもろ刃の剣です。かっての日本の市民運動が人々の日常生活から遊離したことで孤立化し、さらに現実から遊離していき無力化したのとも共通しています。

著者はパンク保育士、ですから(笑)、『THIS IS JAPAN』という本のタイトルは、サッチャーによる不況と失業の中でパンクスの少年が右翼に転落していく姿を描いた青春映画『THIS IS ENGLAND』、また80年代 パンクの代名詞だったザ・クラッシュの『THIS IS ENGLAND』から来ているのでしょう。ボクは勝手に後者だと思っています。地方の工業都市に住む貧しいパンクスの少年がポケットの中の鋭いナイフにしか希望を持てない状況を歌った、ため息しか出てこないような悲惨な名曲です(笑)。だけど、そこには最後の希望がある。まだ死んではいない、という希望があるんです。果たして今の日本はどうでしょうか。
                                          
鋭い結論や衝撃的な事実があるわけではありませんが、しっかり現実を直視した、読みやすく面白い本だと思います。図書館などで見かけたら、ぜひ手に取ってご覧になることをお勧めします。
ザ・クラッシュの曲は今ではCMでも使われていますが、元来は80年代の反逆の象徴だった伝説的なバンドです。演奏は下手くそですが(笑)。

ESSENTIAL CLASH

ESSENTIAL CLASH


                    
ということで、今週も官邸前へ。朝方は寒かったですが夕方は気持ちいいくらいの気温でした。今日の参加者は800人。

●抗議風景





今日は8時から国会前でTPP反対の抗議もあるそうです。強行採決は頭来るけど、理由も判らず反対するのはさすがに気が引けます(笑)。

昨日 日経などで報じられた『原発廃炉・賠償コストを新電力にも転化する』という経産省の案、まったくとんでもない話です。

新電力にも原発コスト 経産省案、消費者に負担転嫁も :日本経済新聞

東電や関電、経産省が勝手に原発を作った癖に、なぜ新しく参入してきた事業者や消費者に転化されなくてはならないのでしょうか。簡単に言えば、今吸ってる空気の分だって転化するぞ、という話しでしょ。TPPのISD条項(企業が政府を訴える仕組み)に反対している人がいますけど、これなんか、新電力に外資が居れば不公正取引として、10000%、政府を訴えてくるでしょう。日本の場合 まず、政府が信用できないんです(笑)。ISD条項があることで、新興国に日本企業が進出する場合だけでなく、日本国民の暮らしにとって良い場合だって大いにあり得る
●写真は撮らないけど、この人たち、ボクも知ってます。官邸前抗議にはこういう人たちが何人も居るんです。それが力だとボクは思ってます。

                                    
だいたい通信の自由化や刑事事件取り調べの部分的可視化とか、パブリックコメント公聴会制度など、アメリカの圧力で実現された良いことだって結構あるんですよ。こういうのは是々非々で考えないと。右左関わらず バカなナショナリズムに踊らされて、思考停止するのはやめた方が良いと思いますね! 
愛国心は悪党の最後の隠れ場所(Patriotism is the last refuge of a scoundrel. )
初めて英語辞書を編纂したことで知られるサミュエル・ジョンソンという人の言葉だそうです。