特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『波紋』

 週末はこのtweetが話題になってました。
 平井堅CHEMISTRYを担当していた有名音楽プロデューサーがジャニーズの性犯罪についてマスコミで言及したため、所属していた山下達郎の事務所をクビになった、というのです。

news.yahoo.co.jp

 山下達郎自体、ボクはあまり興味がありません。好きな曲、良い曲もあるし、音楽の質は高いと思うけど、あの独特の、子音を不自然に伸ばす歌い方が苦手です。気持ち悪い。CDだって長年無視してきて、昨年初めてベスト盤を買ってみたくらいです。
 凝りに凝ったであろうマスタリングの音の良さと彼のリズムギターのうまさにはビックリしたけど、歌がなければ良いのに、とも思いました(笑)。

 ただ、山下達郎と言う人のパーソナリティは超ラディカル、という印象があります。インタビューなどではボクが驚くくらい商業主義に対して批判的な発言をするし、ライブでも反戦歌を唄っていたりする。
 そういう人がいくら自分の大口顧客とはいえ、性犯罪を誤魔化そうとする連中に加担する、とは意外でした。

 この件に関してはまだ、本人の発言や釈明はありませんから本当のところはまだ判りません。ただ、周辺事情を積み重ねると興味深い。

 山下達郎と言う人自体はどうでもいいのですが、彼のように(おそらく)純粋に自分の好きな音楽を追求して来た様な人でも、いざと言うときの身の処し方を間違えると老醜を晒してしまうことになりかねない。
 人生には思わぬ落とし穴があります。こういうことは他山の石、にしなくてはなあと思いました。


 と、いうことで、新宿で映画『波紋

 依子(筒井真理子)はサラリーマンの夫と暮らしながら義父の介護と高校生の息子の世話に明け暮れていた。原発事故後 放射能の危険を感じた夫は失踪、取り残された彼女は緑命会という水を信仰する新興宗教にのめり込んでいた。庭に作った枯山水の庭を手入れして砂に波紋を描くことが彼女の毎朝の習慣となっており、それを終えては静かで穏やかな日々の尊さをかみしめる。しかし長いこと失踪したままだった夫の修(光石研)が突然帰ってきたことを機に、彼女を取り巻く環境に変化が訪れる。
hamon-movie.com

 恐ろしい映画だった(笑)『よこがお』などの筒井真理子が主演を務めるドラマ。

 ある女性が、失踪していた夫が帰ってきたことを機に、老々介護や新興宗教、障害者差別といった問題に直面する。監督は『川っぺりムコリッタ』の荻上直子。『バイプレイヤーズ』シリーズなどの光石研磯村勇斗安藤玉恵のほか、江口のりこ平岩紙柄本明木野花キムラ緑子など、その筋(笑)では豪華キャストが揃っています。非常に評判が高い荻上監督の作品を見るのは初めてです。

 今回の主役を演じる筒井真理子、昨年ドラマ『エルピス』にも出演していましたが、演技力もさることながら、その迫力は怪優の名が相応しい人ですよね。怖いと言えば怖いのですがどうしても惹かれてしまいます。

 一見シリアスなドラマに見えますが、これはコメディです。それもカラカラに乾いたブラックコメディ。

 自分の父の介護を主人公に押し付けたまま失踪し、突然戻ってきたかと思ったらがん治療に必要な高額の費用を助けて欲しいとすがってくるクソ夫(光石研)。

 何も相談や挨拶もなしに突然、障害のある彼女を結婚相手として連れて帰省してきたドラ息子・拓哉(磯村勇斗)。

 無垢な障碍者のようでいて、実はしたたかな息子の彼女。

 パート先では癇癪持ちの貧乏老人客(柄本明)が理不尽な値引きを執拗に迫ってくる・・。

 どいつもこいつもロクなもんじゃありません。その挙句、彼女はますます怪しい新興宗教に縋り付いていきます。

 その一方 パート先で知り合った掃除のおばさん(木の花)には『思い切って戦うべきだ』と唆されます。彼女はどうしたら良いのでしょうか。

 まるで枯山水を体現したかのような(笑)、筒井真理子の抑制された演技が続きます。

 出演者全員が芸達者。だから面白いは面白いんです。笑えない話ですが笑ってしまう。ただ、実は登場人物の中では最もエキセントリックなのに常に受け身、ふらふら揺れる主人公に多少のイラつきも覚えます。

 なによりも、今どき、中年女性が精神的に解放されるまでにここまで手順を踏まなくてはならないのか、とは思いました。短気なボク(笑)は主人公のまどろっこしさは古臭いと思いましたが、人によって感じ方は違うかもしれません。普段の筒井真理子の役だったら途中でもう、暴れているだろうと思いましたもん(笑)。この映画の中でも静かに暴れてはいるのですが(笑)。

 忍苦の果て、最後に観客が導かれるのはカタルシスや爽快さというより、解放感です。筒井真理子の存在感も相まって、美しいシーンではあります。
 脚本、脚色は正直いまいちでしたが(ボクとはあわない)、映画としては芸達者な出演者たちに引っ張られて退屈しなかった。それなりに面白かったです。


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