特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

見えない壁と戦う物語2:映画『アイ、トーニャ』

この週末は急に涼しくなりましたが、爽やかで気持ち良かったです。
いかにも5月らしい陽気。でも、もう5月も終わりかけている(嘆息)。楽しい時間はすぐ過ぎてしまいます。
●夕陽の勢いが強いです。



今に国会で 安倍晋三のアホが強行採決をしようと狙っている法律は高プロだけではありません。カジノ法案=IR法案もそうです。


定期的に話を聞いている元大臣の政策秘書氏によるとIR法案はアメリカの命令 いや、強い要請(笑)だそうです。なんで、アメリカがそんなセコイことを要求してくるのかと思っていたら、土曜日にこの映像を見て、よくわかりました。
●先週 土曜のTBS『報道特集』より。米大使館のエルサレム移転式典。この陰で、パレスチナの人が子供も含めて60人も殺されました(怒)。


このアデルソンというジジイ、トランプの個人献金一位です。就任式だけで5億円も出しました。正体はベネチアン(ラスベガスで最も高いホテル)↓を持ってるカジノ王。昔から極右のシオニストとして有名。


ついでに、なんで米朝会談がシンガポールになったと思います?このジジイがこれ↓を持ってるからじゃないですか!


ニューズウィークによると初の米朝首脳会談の開催地シンガポール なぜ選ばれた? 会談の行方は? | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト、会談の会場はこの『マリーナ・ベイ・サンズ』か『シャングリラ』(こちらは華人が持っていて、今まではここで外交交渉が行われていた)で揉めているそうです。いずれにしても、このジジイが儲かるのは間違いありません。日本のIR法案もそれが狙いでしょう。安倍晋三モリカケもひどいですが、アメリカは泥棒のスケールも違う。ちなみにカジノの場所は沖縄は決まり(知事選がらみでしょう)、あとは北海道か横浜(菅の選挙区)かで揉めているという話を聞きました。カジノなんか興味ないのでボクには関係ないですけど(笑)。
洋の東西を問わず、こういう連中は早く〇なないかな。



さて カンヌ映画祭是枝裕和監督がグランプリを取りました。すごい!と言っても是枝監督は、ボクが苦手な家族ものが多いので『海街ダイアリー』くらいしか見たことないんです。海街ダイアリーは面白かったけど、ボクは人間関係がどろどろした作品は嫌い。ともあれ、一部のバカが『是枝は反日』と騒いでいます(笑)。


http://anonymous-post.com/archives/23683


引用した『アノニマスポスト』は無知で低能のネトウヨサイトです。普段だったら日本サイコーと騒ぐバカどもが、発作を起こしているのは是枝監督がカンヌでこんなことを発言したからです。
−−経済不況が日本をどのように変えたか。
「共同体文化が崩壊して家族が崩壊している。多様性を受け入れるほど成熟しておらず、ますます地域主義に傾倒していって、残ったのは国粋主義だけだった。日本が歴史を認めない根っこがここにある。アジア近隣諸国に申し訳ない気持ちだ。日本もドイツのように謝らなければならない。だが、同じ政権がずっと執権することによって私たちは多くの希望を失っている」
血が混ざってこそ家族なのか、日本の家族は崩壊したが… | Joongang Ilbo | 中央日報


家族の崩壊が偏狭な国粋主義に傾倒するバカが多いことに繋がっているかどうか、はボクには判らないけど、一つの原因ではあるかもしれません。でも、なんで、この発言が反日なのか、ボクには1ミリも理解できません(笑)。最近 弁護士がありもしない事実に基づいて懲戒請求を出してきたネトウヨを数百人、業務妨害で訴えたことが話題になりました。その過程でネトウヨは若者というより、40代後半から50代、60代の中高年のジジイが多いということが判りつつありますけど、こういうバカの声が高まれば高まるほど、日本は国際的な感覚から孤立していきます。反日って言ってる奴が最も反日っていうのは出来の悪い戯画でしかありません。

是枝監督はこういうことも言っています。
−−主人公は社会のセーフティネットから疎外されている。
「日本は経済不況で階層間の両極化が進んだ。政府は貧困層を助ける代わりに失敗者として烙印を押し、貧困を個人の責任として処理している。映画の中の家族がその代表的な例だ」


小泉内閣の頃から今に至るまで、我々の社会には『見えない壁』が出来つつあるように見えるんです。政府や政治家、それに頭の悪い国民が、愚かさで出来た煉瓦を憎しみ/嫉みという接着剤で積み上げて、現実から我々の視界を遮っている。その行きつく先は焼け野原、というのは言わなくても判ります。世界は自分を中心に回っているんじゃない。バカは●なきゃ治らないから、それはそれで構いませんが、ボクは巻き添えはごめんです。



ということで新宿で映画『アイ、トーニャ映画『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』公式サイト

×6でDV気質の母親ラヴォナ(アリソン・ジャネイ)に育てられたトーニャ・ハーディングマーゴット・ロビー)。貧困家庭に生まれながらもフィギュアスケートの才能に恵まれた彼女は、若くして結婚した夫、ジェフ(セバスチャン・スタン)のDVに悩まされながらも米女子選手で初めて(公式試合で)トリプルアクセルを成功させ、全米選手権で優勝、アメリカ代表として1992年のアルベールビル、1994年のリレハンメルオリンピックに出場する。ところがトーニャのライバルだったナンシー・ケリガンが襲われる事件が起き、彼女と当時は離婚していた元夫の関与が疑われる……。


トーニャ・ハーディングを演じるマーゴット・ロビーが今年のアカデミー主演女優賞候補、母親役を演じるアリソン・ジャネイがアカデミー助演女優賞を獲得した話題の作品です。スポーツものは嫌いなので普段ならスルー、ですが、評判が高いのでとりあえず見に行きました。
これが素晴らしかった!


お話しはトーニャと元夫の述懐をもとに進んでいきます。実際 映画の脚本もトーニャと元夫のインタビューをもとに書かれたそうです。
アメリカ、オレゴン州の田舎で、トーニャは×6(笑)でウェイトレスをしている母親と二人暮らしで育ちました。その時々の父親に時折可愛がってもらった記憶はあるけれど、次から次へと変わってしまうので、本当の意味での愛情を味わったことはありません。

なんといっても母親が強烈。男をとっかえひっかえするだけでなく、トーニャに対しても悪口雑言と暴力の嵐です。殴る蹴るどころか、投げつけたナイフが娘の腕に刺さったりもします。そんな環境で育ったトーニャは冒頭 自分で自分のことを『ホワイト・トラッシュ(クズ白人)』と称します。まさにその通りです。
●F〇CKを連発し続けてアカデミー助演女優賞を取りました!素晴らしいです(笑)


しかし母親はトーニャの希望と才能を見込んで、フィギュアスケートの英才教育を受けさせます。スケートだけが人生の希望だったトーニャはめきめきと頭角を現していきます。
学費がもったいないと母親から高校を辞めさせられたトーニャは近所の若い男とねんごろになります。母親からは『バカとバカが結婚してどうするんだ』(笑)と反対されますが、初めて他人からの愛情を感じたトーニャは直ぐに男と結婚します。結婚して間もなく男のDVが始まります。だが、トーニャは内心 DVは自分が悪いからではないかという意識があり、男と中々切れることができません。離婚したり、裁判所が接近停止命令をだしても、すぐくっついたり、切れたりする。これも典型的なパターン。
●DV夫(左)とトーニャ。裁判所に接近禁止命令を出されても、彼女はバカ男をなかなか切れません。


この映画で描かれているのは、どうしようもない環境に生まれた少女があがき続けながら、サバイブする話です。彼女の周りにはまともな文化はない。その頃は麻薬が今ほど広まっていなかったのは幸いでしたが、それでも周りは暴力、酒、たばこ、TVばかりです。そういう人たちの家には共和党レーガンのポスターが貼ってあるのが印象的です。
しかしトーニャは被害者であるだけではありませんでした。恵まれた運動神経を生かして男に対して暴力で対抗することも出来るし、何と言っても精神的にタフです。スケートを武器に自分の酷い環境、階級から何とか這い上がろうとする。
ケリガンが襲われたのは気の毒だけど、私は生まれたときから暴力を受けて暮らしてきたのよ』とうそぶくトーニャ(笑)。
●ポスターにもなっているこのビジュアル、見事に彼女を象徴しています。


しかし 幾ら才能があり素晴らしい演技をしても、普段の態度の悪さに加えて、黒いマニキュアを塗り、手作りの衣装を着て、バックの音楽にZZトップやヘビメタを使うトーニャは『彼女は健全なアメリカ人家庭のイメージではない』として 全米スケート協会も味方しません。ライバルだったケリガンは自分専用の練習リンクを持っているのとは対照的です。スケートはもっともお金がかかるスポーツの一つだそうですが、事件以前からトーニャは場違いであるだけでなく、いわば悪役扱いだった。でも、トーニャはそれしかできない。そういう環境しか知らないんです。まさに見えない壁です。階級というものの強固さ、残酷さを改めて思い知らされます。


トーニャの周りもクズのような人間ばかりです。DVの母親と夫に加えて、ボディガードに雇った夫の友人も完全に頭がおかしい。ひきこもりの中年デブだったくせに自分は元諜報機関のプロだと思い込んでいる。正直 フィクションも含めて、映画でここまでバカな登場人物は見たことがありません(笑)。でも、本物もそのまんまなんです。
●DV夫(左)と引きこもりの友人。このデブは自分は元諜報機関と思い込んでいます。


こいつが連れてくる友人もそれに輪をかけたバカ。このバカの勢揃いがケリガンを巡ってとんでもない事件を引き起こします。ですがバカだから、証拠はそこいら中に山ほど残ってるわ、酔っぱらって酒場で事件を自慢するわで、一瞬でFBIにつかまってしまいます(笑)。
●こんなバカはこの世にいるわけないと思っていたら、記録フィルムの現物とそっくりでした!


ボクはスポーツものは嫌いですが、ここまで徹底していると良くできたコメディです。DVを扱っていても全然暗くない。トーニャの周りの人間のクズさ加減には本当に感心しました。襲撃事件を起こしたのは元夫やその友人たちですが、もっとも酷いのが実の母親です。これだけ酷いといくらトーニャが努力しようと、心を入れ替えようと、ムリです。これだけ4文字熟語を連発する口汚い人は初めて見た。アカデミー助演女優賞は当然です。


もちろんトーニャは反省するとか心を入れ替えようという殊勝な気持ちは1ミリもありません。それが却ってすがすがしい。これだけ環境が酷いと反省なんかする余裕はない、と納得させられてしまう。それ以前に反省なんかしてたら、毒母やDV夫につぶされてしまう。映画を見た人の多くは限りなく犯罪者に近いトーニャに共感するんじゃないでしょうか。こういう共感の仕方をしたのはボクは生まれて初めてです。


トーニャはオリンピック後 罪を認め、スケートからは追放、その後 新しい恋人への暴行事件(今度は自分が暴行)などを起こした末、ボクサーになり、今は別の男と子供を設けた良い母親(自称)だそうです。『アメリカは常に敵役を必要としている。私はただ、それを演じただけ。』 が映画の最後のセリフです。自分はTV画面に出てくるフセインやホメイニと一緒だ、という訳です。滅茶苦茶 説得力あります。


トーニャを演じるマーゴット・ロビーが素晴らしいです。ハーディングの田舎臭さだけでなく、スケートをしていない時の弛んだ身体から、鍛えたアスリートの身体まで説得力を持って演じてみせる。トリプルアクセル等 高度な技は特撮にしても、普通のスケートのシーン、更に表情もポーズも本物のトーニャ・ハーディングを完全コピーできている。完璧です。それだけでなく、映画の最後に対比される出演者と本物の記録フィルム、トーニャも極悪な母親もウルトラバカばかりの他の登場人物も表情も喋り方も全員そっくり! これには度肝を抜かれました。スケートなんか全く興味がなくても面白いし、本当にびっくりするほどすごい映画です。傑作です。