特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

哀切だけど温かい。映画『行き止まりの世界に生まれて』

 秋らしい爽やかなお天気になりました。今朝は朝陽が眩しいくらいでした。

 が(笑)、今日は怒りのオンライン署名のご紹介から。
 今更 杉田水脈の発言、人間性の下劣さは言うに及びませんが、この女は男社会の論理を代弁する、いわば名誉白人的な女として食い扶持を稼いでいるんでしょう。
www.change.org

 自民党や維新の女性議員によく見かけますが、こういう女はたまにいますよね。あと、曽野綾子林真理子とか。杉田にとっては、差別やデマ・侮辱は数少ない自分の商売ですから確信犯、何度でも繰り返すでしょう。


 中曽根の葬儀に税金が投入される話中曽根元首相の葬儀、10月に 9600万円支出を決定:朝日新聞デジタルも、びっくりしました。国鉄電電公社を民営化したのに、自分の葬儀は国営かよ。ましてコロナ禍で困っている国民が大勢いるのに、これですか?

 安倍晋三を筆頭に最近の政治屋を見てると中曽根の方が遥かにマシ、とは思いますが、中曽根も所詮はこういう人物ですからね↓。クリックすると新聞記事が出ます。日本の恥。


 それとはまったく対照的な人、ルース・ベイダー・ギンズバーグさん(RBG)の逝去は日本でも取り上げられるようになりました。先週末 女性で初めて議会に棺が安置されて葬儀が行われたそうです。
 生前 彼女は健康維持のため、80を過ぎてもワークアウトを続けている事でも有名でした。葬儀の際の彼女のパーソナルトレーナーのこの行動↓、一見笑っちゃいますけど、深い気持ちが籠っていると思いました。こんな哀切な腕立て伏せは見たことがありません。

 当然のようにトランプは電光石火で宗教バカの後任を指名し、民主党はこれから徹底抗戦ということになるのでしょう。仮に指名が成立しても、民主党が選挙で勝てば、保守派が圧倒的多数を占める最高裁判事の数を現在の9人から15人に増やす、という案も検討されているそうです。
最高裁の前で大勢の人がRBGの棺が着くのを待っています。中曽根の葬儀でこんなことはあり得ないでしょう。
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abcnews.go.com

 映画『ビリーブ 未来への大逆転』でRBGを演じた女優のフェリシティ・ジョーンズが彼女のことを『マントの無いスーパーヒーロー』と評してましたが、

ビリーブ 未来への大逆転(字幕版)

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  • 発売日: 2019/08/02
  • メディア: Prime Video
 こうやってスーパーガールの扮装で弔問する少女を見ていると、それは本当だなと思います。

 誰もがスーパーヒーローになれるわけではないけれど、現実にそういう人が居た、という事実は今も多くの人を勇気づけています。


 と、いうことで、新宿で映画『行き止まりの世界に生まれて
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bitters.co.jp

 家庭環境に恵まれないキアー・ジョンソン氏、ザック・マリガン氏、ビン・リュー監督の3人の若者は、イリノイ州ロックフォードで暮らしている。子供の時から厳しい現実から逃れるようにスケートボードに熱中する彼らにとって、スケート仲間は家族、ストリートが自分たちの居場所だった。やがて彼らも成長し、結婚や就職、子育て、自分の目の前に立ちはだかるさまざまな現実に向き合う時期がやって来る。

 第91回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞と第71回エミー賞Wノミネート。オバマ前大統領が年間ベスト映画に選んだことでも話題のドキュメンタリーです。

 舞台はイリノイ州ロックフォード。鉄鋼や自動車などの産業でかっては隆盛していた労働者の街です。しかし80年代以降 産業が衰退し、失業率も増加、地域コミュニティも崩壊しつつあります。いわゆる『ラスト・ベルト』と呼ばれる地域です。
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 そのロックフォードで生まれ育ったスケボー好きの3人が主人公です。下の写真は左がキアー、中央が監督のビン、右がザック。映画監督志望だったビンが少年時代から撮りためたドキュメンタリーです。
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 鉄鋼や自動車などの基幹産業は衰退し、街には良い職がありません。失業者が増え、アルコールや麻薬に走る人も出てくる。税収は減るから水道や道路などのインフラは老朽化し、教育レベルも落ち、治安維持もままならない。

 そんな中で育った3人はスケボーだけが生きがいでした。金もかからないし、友人もできる。いやなことも忘れられる。ギャングにもならないで済んだ。


 失業やアルコールが間近にある環境です。3人とも親のDVを受けながら育ってきました。実親、継父など家族からの暴力が3人にとっては日常です。貧困だけでなく暴力にも脅かされる、そんな3人の12年間をビンのカメラは写し続けていました。
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 やがて彼らは大人になります。キアーは懸命に職を探して、ようやくレストランの皿洗いの職を得ます。でも、これでは一人暮らしを始めるための貯金すらすることができない。しかも、やっとの思いで貯めたお金は同居する兄に盗まれてしまいます。
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 屋根専門の大工になったザックには、彼女との間に子供が生まれます。しかし彼女とは喧嘩ばかり。
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 低賃金や不安定な雇用で生活にはどうしたって不満がたまるからです。ロックフォードの労働者の半分以上はファーストフードなど最低賃金の職だそうです。親の世代からの貧困は連鎖する。ちなみにイリノイ州最低賃金は約1000円、地方だったら日本の方が最低賃金は安いですからね!
 
 やがてザックは酒におぼれ、彼女に暴力を振るうようになる。かって彼が父親から受けた仕打ちがまた繰り返される。貧困だけでなく、暴力はまた連鎖する。まさに行き止まりの世界です。
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 シングルマザーに育てられたビンは母が再婚した継父から自分が受けた虐待も含めてロックフォードで暮らす若者の暮らしを、淡々とカメラに写し取ります。

 本当はDVを告白するだけでも当事者にとっては心理的な負担は大きい筈です。

 ザックは彼女とも別れ、新しい職に就こうとしますが、うまくいかない。アルコールにどんどんおぼれていく。
 キアーは懸命にザックを救おうとしますが、ザックは受け入れない。

 でも、アルコールが入ってないときにザックは告白する。
『自分の敵は自分だった』
 彼にも判っているんです。


 3人の若者を個人的な体験を描くことでラスト・ベルトの厳しい現実が描き出されます。一度貧困に陥ったら、そこから抜け出すのはアメリカと言えども難しい。まして階級間の流動性が低い日本ではどうでしょうか。

 この映画をアメリカの話と思う人もいるかもしれませんが、ボクは正直 日本の地方都市もあまり変わらない、と思います。
 ボクは仕事で何年も色々な地方を見てきましたけど、どこの地方も商業は衰退し、工場は撤退し、街には空き店舗が増えています。商店街のアーケードなどインフラは老朽化し、人は減り、中心街はどんどん衰退していく姿ばかりでした。町を歩いているのは老人ばかりです。

 麻薬の有無だけはアメリカと日本は違うけれど、地方経済の衰退が経済だけでなく、地域コミュニティまで破壊しているのは日本もアメリカも同じです。ただ日本の場合は地域コミュニティが土建屋や商店街の既得権益者の利益を守るためにあった面もあるから、これまた一概に悪いとは言えないですけれどね。
 
 そして貧困は連鎖する。地域にまともな職もなく、良い教育を受ける機会も少なかったら、親から子に貧困は続いていく可能性は高い。更に暴力も連鎖する。親のDVを受けて育ったザックが結婚後 妻へのDVに走ったのが典型です、恐ろしいことに暴力も貧困も連鎖する。
 こういう事情は日本も同じだとボクは思います。


 それでも厳しい現実の中で最後まで人間に対する温かな視線を失わないところが、この映画の素晴らしいところです。さびれた町が淡々と描かれる画面は哀切といってもよいけれど、美しさすら感じられます。人物の描き方も、どうしようもない現実を直視しながらも、希望を忘れない。
 こういう映画を年間ベスト10に選ぶオバマ元大統領の人間性にも感服しました。心に深く染み入る傑作ドキュメンタリーです。

 最後は明るいニュースで締めくくります。これ↓は映画のシーンではありません。ノミネートされたアカデミー賞の会場でも3人はスケボーをしていました とさ(笑)。
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news.biglobe.ne.jp
『行き止まりの世界に生まれて』予告編