特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

韓国の最低賃金と映画『ベイビー・ブローカー』

 今週は梅雨が戻ってくるようなお天気みたいですね。先週のような熱波も困りますが、雨も困る。年寄りの体力を消耗します(笑)。

 10日の選挙が終わると3年間は国政選挙はありません。大金持ちならいざ知らず、この10年間で世の中が良い方向へ向かっている、とか、日本の前途に明るい希望が見えた、なんて人はいるんでしょうか(笑)。

 確かに野党は頼りないですが、ここで与党に意思表示しないと世の中はより一層ひどいことになる。今の与党をそのままにしておいたら、向う3年間は何に使うのかすらわからない軍事費は増えるが福祉予算は削られる。アベノミクスの延長で物価や学費は高止まりしたまま。更に刻一刻と財政破綻が近づいてくる。
 それでもいいというセルフ臣民ばかりだから、与党からはこんな舐めた候補が出てくる。

 おまけに与党よりひどい維新、れいわやN党、参政党などのカルト政党(最近は福島みずほの演説を聞いてると社民もカルト化しているように見えますが)、それに白票じゃあ、与党は痛くも痒くもない。

 今日のニュースで、韓国の最低賃金は来年から全国一律1010円になることが報じられました。前年比5%増、物価上昇率に合わせた数字だそうです。
www.nikkei.com

 日本の最低賃金は全国平均で930円。1010円の韓国が日本を大きく引き離しました
 若者の失業率が10%近いなど韓国も大きな問題を抱えた社会です「財閥系に落ちたら日本に行くしかない」高齢者が稼ぎ、若者は失業する韓国のいびつな構造 (1/2ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ):自分を磨く経済情報サイト。だから政権交代も頻発する。功罪はあるにしろ、そのおかげで国民の声は政治に素直に反映される。良くも悪くもそういうことじゃないでしょうか。


 と、いうことで、六本木で韓国映画(笑)『ベイビー・ブローカー

 クリーニング店を営む借金まみれのサンヒョン(ソン・ガンホ)と「赤ちゃんポスト」がある教会に勤務するドンス(カン・ドンウォン)は裏では赤ちゃんを売り飛ばすブローカー稼業をやっていた。赤ちゃんポストの前で待ち伏せていた二人は若い女性ソヨン(イ・ジウン)が預けた赤ん坊を連れ去り、売りに出そうとする。翌日考え直して戻って来たソヨンが赤ん坊がいないことに気づき警察に届けようとしたため、サンヒョンとドンスは彼女と一緒に赤ん坊を売りに出して儲けを山分けしようと説得するが。
gaga.ne.jp


 主演のソン・ガンホカンヌ映画祭で主演男優賞を受賞した是枝裕和監督の話題の作品です。このところ『マイ・スモールランド』、『プラン75』と是枝監督の助監督だった女性監督の素晴らしい作品が続きました。どちらもメッセージ性と高い完成度が両立した素晴らしい作品でしたが、自然そうに見えて実は細部までこだわった演出には是枝監督の作品の影響が色濃く出ていました。
 果たして本家の作品はどうでしょうか。

 ソン・ガンホ演じるサンヒョンとドンス(カン・ドンウォン)は深夜 若い女性が教会の赤ちゃんポストに赤ん坊を置くのを目撃します。彼らは赤ん坊を連れ帰って売りに出そうとします。
●ギャンブルに溺れ借金まみれのサンヒョンは、裏では赤ちゃんの人身売買をやっています。

 若い女性,ソヨンは翌日、赤ん坊を連れ戻しに来る。サンヒョンとドンスは彼女に、一緒に赤ん坊を売って一儲けすることを持ち掛けます。

●自分も親に捨てられた養護施設出身のドンス

 ソヨンも何やらワケアリそうです。

●一度は赤ちゃんポストに赤ちゃんを捨てたソヨン

 サンヒョンとドンス、それにソヨンは赤ん坊を養子として高く売りつける客をネットで探すことにします。

 一方 サンヒョンとドンスは女性刑事二人組に見張られていました。警察は彼らが裏で人身売買に関わっているのを掴んでおり、現行犯で捕まえようと泳がせていたのです。サンヒョンとドンス、ソヨン、それを追う女性刑事たちの旅が始まります。

 人身売買を扱った犯罪劇ですが、お話はユーモラスに進んでいきます。温厚そうなサンヒョン、素朴なドンスと直情的なソヨン、登場人物は憎めないキャラクターの人物ばかりです。

 それでも最初は不自然な点があるのが気になりました。まず、母親のソヨンは赤ん坊にあまり触れようとしない。それに気のいいサンヒョンやドンスはなんで人身売買なんかやっているのか。お話が進むにつれ、全てに背景と理由があることが判ってきます。

 ソン・ガンホだけでなく登場人物は皆、名演と思いました。主要人物の3人だけでなく、刑事役のぺ・ドゥナの存在も大きい。

 それぞれに見せ場があり、説得力がある。それを引き出した是枝監督の演出はお見事です。俳優さんたちは赤ちゃんに合わせて演技をしたそうですが、それも功を奏しているのかもしれない。
 映像も非常に美しい。夕方の観覧車の中でドンスとソヨンが話すシーン、電車の中でサンヒョンとソヨンが立ち話をするシーンなど、忘れがたい場面が幾つも散りばめられています。

 『万引き家族』は疑似家族の話でした。今作も同様です。サンヒョンたち3人の旅に、思いもよらぬ人物たちが加わっていき、家族のようなつながりが出来てくる。女性でなく、おっさん二人ばかりが育児をしている、というのも実は大きいと思う。韓国でも日本でも根強い家父長制の罠からスルリと抜け出すことに成功している。

 是枝監督の作品は家族がテーマになることが多く、その点はボクは苦手でした。しかし今作は俳優たちの熱演で観客を自然に疑似家族に引き込んでいく力がある。感情移入なんかできないと思っていた登場人物が直ぐ身近に感じられる。

 この作品を一言で言うと、世界に向かって開かれている物語、とでも言ったらよいでしょうか。
 こんな時代だからこそ生を肯定しよう、という監督の非常に強い、強い意志を感じます
 登場人物たちは厳しい世の中を生き抜くために、ある意味 心を閉ざしながら生きています。ソン・ガンホが見事に演じているように、社会環境の厳しさにしろ、自分の問題にしろ、生きていくには色々な出来事を乗り越えてこなければならない。その中で閉ざしてしまった心を解きほぐすのはそんなに簡単じゃありません。人間はそう簡単に変われるものじゃない。

●終盤になってようやく、ソヨンは赤ちゃんを抱きあげます。

 今作は非常に完成度の高い演技と画面で、説得力のある物語が展開されるのだから、参った、参った。この映画に描かれた、あっけらかんと開かれた解放感が嬉しくて、後半はずっと泣いてました。格差社会の中で虐げられた者たちが疑似家族を作るというテーマが共通している『万引き家族』やソン・ガンホが出ていた『パラサイト』なんかより遥かにボクは好きです。

 甘い話じゃありません。でも、エンタメ性とメッセージ性が見事に両立した素晴らしい作品です。これだけ強いメッセージが込められた作品も中々ないと思う。是枝監督が驚くほどストレートな作品を作った。傑作です。 


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