特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

ムーンライダーズ@恵比寿ガーデンホール+映画『怪物』

 日曜日はムーンライダーズのライブへ行ってきました。

 今年2月に73歳で亡くなったキーボードの岡田徹氏の追悼ライブです。
 ムーンライダーズは昨年結成45周年を迎えた日本最古、平均年齢70歳近いロックバンドです。6名のメンバーのうち、10年前にドラマーのかしぶち哲郎氏を亡くし、今年キーボードの岡田徹氏を亡くした。

 メンバー全員が曲を書き、編曲し、歌うのがムーンライダーズの特徴ですから、メンバーが抜けても簡単に代わりがいるわけではない。

 なかでも岡田徹氏の作品はロマンティックな良い曲ばかりです。今年は坂本龍一氏や高橋幸宏氏も亡くなりましたけど、ボクとしてはショックは遥かに大きい。

 会場のロビーには岡田氏の遺品が飾られていました。

 ゴールドレコードは岡田氏が演奏に参加した『いもきんトリオ』のもの。ムーンライダーズはメンバーそれぞれが優秀なスタジオミュージシャンでそちらで稼ぎながら、ライダーズではやりたい放題、というのがもう一つの特徴です。岡田氏が参加した『ハイスクールララバイ』や『恋のぼんちシート』なんか、今考えれば演奏はもろにムーンライダーズでした(笑)。昔はお茶の間でこんな音楽が流れていた(笑)。

 この日のライブはスクリーンに岡田氏の演奏を流しながら、それに合わせてメンバーがフリーのジャムセッションを行う形で始まりました。

 特に追悼の言葉などはありませんが、岡田氏の曲を中心にした2時間の演奏です。自意識を過剰に押し付けない、いつも通りのライダーズです。

 いつも思うのですが、ムーンライダーズの演奏を生で聞くと『こんなに良い曲だったのか』と思うことが良くあります。この日はレアな『天罰の雨』や『マイ・ネーム・イズ・ジャック』、それにゲストで呼ばれた岡田氏の娘さんが歌った『幸せの場所』がそうでした。
 CDだとアレンジが凝りまくっていてよく判らないこともあるせいもあるのですが(笑)、ライブだと曲の骨格が露わになるからだと思います。


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 中盤『無防備都市』で御年72歳の鈴木慶一氏がギターを弾くのに夢中になって歌い出すのを忘れ、皆が困っていたところをサポートメンバーの澤部氏が代わりに唄って挽回する一幕もありました。臨機応変な演奏も含めてチームワークばっちりなのも如何にもライダーズらしい。

 一番良かったのはベースをガンガン打ち下ろすように弾きながら鈴木博文氏が歌った『駅は今 朝の中』。別れの歌ですが気合の入った演奏はこの日 一番大きな拍手が送られていました。

 

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 アンコール最後の曲は岡田氏の名曲『さよならは夜明けの夢に』。ライダーズは演奏だけ。スクリーンに流れる歌詞を見ながら観客が歌います。そしてメンバー紹介、と言うエンディングでした(泣)。


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 岡田氏を悼む気持ちは勿論ですが、ライダーズのようなバンドが未だに現在進行形であることが如何に幸せなことか、しみじみと感じた夜でした。

●晩年の岡田氏。車椅子に乗ってステージで演奏していました。


 と、いうことで、六本木で映画『怪物』

 長野県諏訪地方。息子を溺愛するシングルマザーや生徒思いの教師、元気な子供たちなどが暮らす田舎町。小学校で起こった教師の虐め問題や子供同士の喧嘩が周囲を巻き込み、メディアで取り上げられる大きな騒ぎに発展する。そして、ある嵐の朝、子供たちが突然姿を消してしまう。

gaga.ne.jp

 カンヌでグランプリを獲った『万引き家族』の是枝裕和が監督を務め、脚本を『花束みたいな恋をした』などの坂元裕二、音楽を坂本龍一が担当したサスペンス。

 カンヌでの脚本賞と優れたLGBT関連映画に与えられるクィアパルム賞の受賞で話題になった作品です。って、賞の名前でネタばれじゃん(笑)。ボクはサスペンスとかスリラーとか怖いものは嫌いなので、それはそれでいいんですけど。
 出演も『万引き家族』などの安藤サクラ永山瑛太、田中裕子、高畑充希など豪華メンバーです。

 映画は3部構成になっています。
 第1部は主人公の一人である小学生,湊を育てるシングルマザーの早織(安藤サクラ)からの視点。担当教師の保利に虐められたと息子の湊が訴えたことで、早織は学校へ度々抗議を行います。しかし学校の側は一向に埒があきません。

シングルマザーの早織

早織の息子、湊

 第2部は湊たちの担任教師、保利(永山瑛太)からの視点。果たして保利は本当に湊を虐めていたのか、早織の抗議を保利はどう考えていたのか、が語られます。

●担任教師の保利

●保利の恋人、広菜

 第3部は小学生の湊、衣里からの視点。
 と、或る理由で、衣里はクラスの中でいじめられていました。それに対して湊はどういう行動をとっていたか。複雑な関係です。湊たちと同年代の孫を亡くしたばかりの小学校校長の伏見(田中裕子)の姿も描かれる。

●湊の友達、衣里

●小学校長の伏見

 第1部では観客の感情を煽りまくります(笑)。安藤サクラや田中裕子など迫力があり過ぎる役者さんが演じているから余計です(笑)。わざとやってるんだろうなーとは思いつつも、ボクも『こいつら、ぶっ殺せ』と思って見てました(笑)。見事なエンターテイメントです。

 勿論 地方都市の経済状況、シングルマザーの厳しい環境、閉塞感溢れる公教育、断片的な事物を拾い上げて大騒ぎする腐ったマスコミなど、是枝監督らしい視点は忘れられていません。

 第2部からは第1部で煽った話が徐々に回収されていきます。第1部で悪役だった担任教師の保利がどういう人物か描かれる。観客の印象も変わっていく。是枝監督得意の展開です。

 第3部では伏線が回収される。子供たちにとって、母親も保利も抑圧者でしかないことが明らかになる。それにしても廃線になった電車が山の中に取り残されているって、夢があります。

 社会的な視線を保ちつつも よく出来たエンターテイメントです。引き込まれるような面白さがありました。
 LGBTQ描写が少ない、という批判もあるようですが、それは良いんじゃないでしょうか。主人公たちの年齢もあるし、何らかの枠に嵌めることの方が違和感がある。

 強いて言えば、お話が判り易過ぎる。アンビバレントなところがあまりなくて、ちょっと小ぎれいにまとまり過ぎている気はします。

 坂本龍一の音楽も凄く良いのですが、クライマックスは既存曲のAquaでした。とても良い曲だし大好きですが、予定調和感はある。新曲を2曲しか提供できなかったのは彼に残された体力の問題だから仕方ないんですが。

 結末の解釈は色々あるようですが、映画を見た誰もが納得できるような話だと思います。ボク自身は最後の感触もすごく良かった。怪物はこの国の社会ですよ。

 何よりも今の日本、特に政治とは対極の位置にある映画だと思いました。

 この国の現状ではLGBT法一つ、まともに作れない。是枝監督の新作、カンヌでの受賞などでNHKのゴールデンタイムでも取り上げられるような話題作ではあるけれど、今の日本社会、日本人とはあまりにも距離があり過ぎる。
 その距離の遠さを考えると愕然としてしまう。そんな映画でした。 


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