特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

「moonriders LIVE 2022」と映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』

 めっきり暖かくなりましたが、我が家の2月の電気代を見てびっくりしました。今までより2割くらい上がった。
  アベノミクスのつけである円安は今に始まったことではありませんが、原油高で泣きっ面にハチ、といったところです。円の暴落に繋がりかねないMMTとか財政出動とか言ってるアホ連中は今の状況をどう考えるんでしょうか(笑)。
  ロシアは大インフレになりそうですが、我々のほうも大変です。もっと節電しよ。


 週末 土曜の夜はワインを飲みながら平日に録画したTV番組を消化するのですが、先週の木曜日に放送された「NHK MUSIC SPECIAL 小泉今日子」に見入ってしまいました。

 小泉今日子相米慎二の映画『風花』や『あまちゃん』などでの名演の印象が強いのですが、
 

 今年 音楽活動を再開させた彼女の過去映像と現在のスタジオライブを組み合わせた番組です。個人的にはアイドル時代はあまり興味なかったけど(今 見たら可愛いなーと思いました)、今も歌はあまり上手くないけれど、特に90年代は名曲が沢山あります。

 特に番組の最後に演奏した93年の『優しい雨』。力強さと不穏さ、それに狂気が両立する圧倒的な名曲で、久しぶりに聞いたら思わず涙が出てしまいました。   
 最後のフレーズで彼女がキーを上げるのですが、ここはレコーディングの際 本人が勝手に変えたそうです(確か『音響ハウス』のドキュメンタリーでスタジオのスタッフ?が言ってました)。

 ここで歌の意味が全く変わってくる。
 その瞬間 何気ない日常を歌った曲が、世界に対する希望と不条理、それに対峙する人間の力強さを描いたものに鮮やかに転換、昇華される。どこかヒロイックさ、すら感じる。作詞も本人だそうですが、(この曲での)小泉今日子は天才的、と思います(もうちょっと歌がうまければなあ)。


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 この曲の演奏や編曲はムーンライダーズのメンバーだったのも、今回 初めて気が付いた。番組は本日15日の深夜1:00から再放送があります。

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 ということで、日曜日は日比谷の野音で「moonriders LIVE 2022」。
 日本最古のロックバンド、平均年齢69歳のムーンライダーズ、12月の恵比寿ガーデンホールに続いてのライブです。
●12月のステージのダイジェスト
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 こんなに短い間隔でライブを連発するのは46年のバンドの歴史の中でも初めてではないでしょうか。

 この日は、44年前はテクノだった『いとこ同士』の人力演奏(笑)で始まりましたムーンライダーズは日本で最初にシンセやコンピューターを使ったバンド)。緩い感じで始まった演奏が次第にタイトに、重くなっていくのには感無量です。3曲目の『モダン・ラヴァーズ』は先日亡くなった西郷輝彦も歌ってた(笑)。

 歌はともかく(笑)、演奏は70近くなった今の方が、30代、40代の時よりいいんです。それも枯れた良さというのではなく、今の方が音はよりヘビーに、リズムはタイトになっている。勿論、音の引き出しの多さは全然違う。キーボードの岡田徹氏は車いすからのリハビリ中だし、ギターの白井良明氏は1月に入院したばかりなのに(笑)。

 4月発売の新曲も含めた2時間のステージ。本編は『戦争反対!戦争反対!戦争反対!戦争反対!言いたいことはそれだけだ』というアドリブが入った『ヤッホーヤッホーナンマイダ』から、平和を希求する歌詞と沖縄音階を取り入れた『黒いシェパード』で終わりました。
 戦禍が止まない2022年の現在を濃厚に反映したものでした。


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●新譜は4月発売

 


 と、いうことで、日比谷で映画『ゴヤの名画と優しい泥棒

 1961年、イギリス・ロンドンにある美術館ナショナル・ギャラリーで、スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤの絵画「ウェリントン公爵」の盗難事件が起きる。犯人である60歳のタクシー運転手ケンプトン・バントン(ジム・ブロードベント)は絵画を人質に、政府に対して身代金を要求する。テレビが娯楽の大半を占めていた当時、彼は絵画の身代金を寄付して公共放送BBCの受信料を無料にし、孤独な高齢者たちの生活を救おうと犯行に及んだのだが。
happinet-phantom.com

 1961年にイギリス・ロンドンのナショナル・ギャラリーで起きたゴヤの絵画盗難事件に基づいたコメディー。
 60歳のタクシー運転手が盗んだ絵画を人質にイギリス政府に身代金を要求、裁判では額縁を壊したことで微罪にはなったが、絵画の盗難については無罪になった、という驚きの実話です。

 主人公のタクシー運転手はジム・ブロードベント、彼の妻はヘレン・ミレン、息子は『ダンケルク』などのフィオン・ホワイトヘッドが演じています。
 『ノッティングヒルの恋人』、『私が愛した大統領』のロジャー・ミシェル監督の遺作です。なお映画の製作は実際の犯人、ケンプトンのお孫さんだそうです(笑)。

どもりくらいなんだ!:映画『私が愛した大統領』 - 特別な1日


 主人公のタクシー運転手ケンプトンは60歳のタクシー運転手。曲がったことが大嫌い、第2次大戦の打撃からまだ立ち直っていない労働者階級がもっと大事にされるべきだ、という信念の持ち主です。周囲には直ぐ議論を吹っ掛け、延々喋り続ける。

 現実では彼は社会を良くするどころか、周囲に迷惑をかけっぱなしです。貧しい客からタクシー運賃を取らなかったり、客に議論を吹っ掛け苦情を受けたりで、とうとう運転手をクビになってしまいます。工場に勤めてもパキスタン人労働者への差別に抗議してクビになってしまう。これは偉いんですけどね。
 こういう爺さん、周囲にいたらあまり関わりたくありません。うざい、面倒くさい(笑)。
●息子(右)にまで議論を吹っ掛ける迷惑なジジイです。

 プライベートでの彼の楽しみはその頃始まったばかりのテレビを見る事でした。しかしBBCのTV受診料に憤慨した彼は不払いを続け、とうとう刑務所送りになってしまいます。稼ぎの悪い夫を補うために議員の家で家政婦として働く妻は、自分までクビになるのではないか、と気が気ではありません。家族にしてみれば迷惑な人です。
●主人公は妻(ヘレン・ミレン)に頭が上がりません。

 或る日 ケンプトンはナショナル・ギャラリーがスペインの画家ゴヤの書いたウェリントン公爵肖像画を高額で買い取ったことを知ります。イギリスの英雄の肖像画とはいえ、BBCの受診料すら払えない年金生活者が大勢いるのに、国が絵画ごときに大金を使ったことに彼はTVの前で憤慨します。

 そのうちナショナル・ギャラリーからウェリントン公爵肖像画が盗まれ、国中大騒ぎになります。スコットランドヤード(イギリスの警視庁)は高度な訓練を受けた犯罪組織のしわさでは?と捜査を始めます。妻は夫の様子がどうもおかしいことに気が付きますが(笑)。

 『うざい』主人公をアカデミー俳優のジム・ブロードベントがまるで本人そのままのように演じています。画面を通じても『うざさ』がビンビン伝わってくる(笑)。
 社会正義を唱える癖に家族の迷惑を顧みない夫に対して、たまに耐え、たいていは怒りを爆発させる奥さん役のヘレン・ミレンもオーバーアクションぶりも含めてうまい。特に目の奥が笑ってないところがすごい(笑)。

 アカデミー俳優のこの二人が夫婦役をやっているだけで、この映画は十二分に大人の鑑賞に堪えるものになってしまいます。

 コメディですが、時折いくつもに分割される画面や60年代風のジャズが流れるのがいかにもお洒落です。『お洒落だろー』といかにも作ってる感じじゃなくて、実に自然です。いい感じ。

 例えば60年代の街並みも良く再現されていると思いました。

 息子と恋人の物語もサイドストーリーではあるのですが、労働者階級に生まれるということはどういうことなのか、を良く示していました。アラン・シリトーの世界みたい。

 

 子供じみた迷惑爺さんの話がだんだんと謎解き、老夫婦の愛情物語へと変わっていきます。最後の着地もなかなかやるな、という感じです。

 あまり期待しないで見に行ったのですが、お話としては感動的だし、小品ではあるけれど、想像以上に良くできた、いや、かなり良くできた映画ではありました。これが実話だから、イギリス社会、奥が深い。満足しました(笑)。


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