特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『moonriders live THE COLD MOON』(老齢ロックの夜明け)と全く笑わせない超大作コメディ(笑):映画『ドント・ルック・アップ』

 週末、クリスマスの夜は(笑)ムーンライダーズのライブへ行ってきました。
moonriders live THE COLD MOON

 コロナ以前からクリスマスの時期には街に出ないことにしています。クリスマスの時期なんて店は高いし混んでるからです。ライブがあるので仕方なく出かけた恵比寿は人ごみでごった返していました。酷い(笑)。大きなお世話ですが、この人たちは何しに街に出てきているのか不思議です。

 

 ましてやコロナ、いくら制限が解禁されても、大勢の人が密集するライブはあまり行きたくありません。以前は毎年見ていたPerfumeですら我慢しているのですが、ムーンライダーズだったら仕方がありません。
 サザンや松任谷由実のようなメジャーからマイナーまで日本のバンドも色々見てきましたが、やっぱりボクが本当に好きなのはムーンライダーズです。ロマンティックだけどシャイな歌詞、革新的な音、演奏は上手いが歌は下手、そして徹底的にひねくれている。

 今年で結成45周年の日本最古のロックバンド。ドラマーのかしぶち哲郎氏が亡くなり数年前に活動休止してショックを受けたのですが、なぜか活動休止の休止を宣言(笑)。メンバーも70を越えつつあるのに、今年になってやたらと元気に活動しています。
 6月には45周年ライブ、12月にライブCD,DVDが出たばかりで、更に現在レコーディング中。今回は今年2回目のライブです。リーダーの鈴木慶一氏曰く『20代の時と同じペースで仕事をしている』(笑)。ちなみに鈴木慶一氏は先日武道館で行われた’’はっぴいえんど’’の再結成に故大瀧詠一氏の代わりに参加しています。

   
 前回6月はサポートメンバーを7人入れてドラム3つ、ベース2つという非常にダイナミックな演奏でした。
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 この日はサポートメンバーは2人、あとはメンバーだけ。メンバーも椅子やアンプに腰掛けながらリラックスした演奏でした。普段と異なりラフなギターロックのような感じです。フォークロック→プログレ→テクノ/ニューウェイブ→労働者階級ロックと複雑な音楽的変遷をたどったバンドですが、今はそれ等が渾然一体として一つの音楽に溶け合っている。
 歳を取っても曲のテンポを落としたりしない、成熟しているけれど時折地獄の縁が見えるようなアバンギャルドな演奏(笑)は健在です。この日は反体制のテロリストをテーマにしたY.B.J.など珍しい曲も多い、攻めのセットリストで楽しかったです。

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 演奏が終わった後 舞台にスクリーンが下りてきました。そして一旦引っ込んだメンバーが重大発表をするということで、再び舞台に出てきました。


 

 来年 レコード会社を11回目の移籍、11年ぶりのオリジナル新作の発売と30周年コンサート以来(笑)の日比谷野音で公演を行う、という発表がありました。歴史が長いバンドですから、新作が11年ぶりと言われても驚きはない(笑)。待たされるのは慣れています(笑)。

 ギターの白井良明氏曰く「歳を取るという事は、"忘れる"という能力が上がる事。これまでのつらさも苦しみも忘れて、もう一度"愛し始める"ことができる。だからメンバーと一緒に音楽をできる」。『老齢ロックの夜明け』だそうです(笑)。
そのあと鈴木慶一氏が『生涯バンド宣言』。高校生の時からずっと聞いているバンドが、尖ったまま今も続いているのは本当にうれしいです。

 

 


 ということで、池袋で映画『ドント・ルック・アップ

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ミシガン州立大の天文学者のミンディ博士(レオナルド・ディカプリオ)と大学院生のディビアスキー(ジェニファー・ローレンス)は、未知の彗星を発見、その軌道を計算した結果、約半年後に地球に激突する可能性が極めて高いことを知る。惑星防衛調整局のオグルソープ博士(ロブ・モーガン)の力を借りて、オルレアン大統領(メリル・ストリープ)と首席補佐官である息子のジェイソン(ジョナ・ヒル)に危機を告げようとするが


 レオナルド・ディカプリオジェニファー・ローレンスメリル・ストリープケイト・ブランシェットクリス・エヴァンスアリアナ・グランデティモシー・シャラメジョナ・ヒル、ヒメーシュ・パテル、ロン・パールマンなど超豪華キャストが勢ぞろいしたコメディ映画。

 なによりも監督は『バイス』、『マネーショート』、『俺たちニュースキャスター』、『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事! 』など政治家や巨大金融機関など権力を徹底的にコケにする知的/痴的なコメディを作って大ヒットを飛ばしてきたアダム・マッケイです。ボクはとにかく、この人が大好き。

 クリスマス映画として24日からネットフリックスで配信ですが、一部の映画館でも公開されています。とにかく見たいという事で上映館を探して池袋まで行ってきました。既に今年のゴールデングローブ賞では作品賞をはじめ、脚本賞・主演男優賞・主演女優賞にノミネートされています。


 巨大彗星が地球に衝突するコースを進んでいることを発見したミンディ博士(レオナルド・ディカプリオ)とディビアスキー(ジェニファー・ローレンス)はNASAの惑星防衛調整局(実在するそうです)の局長の力を借りて、大統領(メリル・ストリープ)に『このままでは人類は滅亡する』と直訴します。
●ミンディ博士(レオナルド・ディカプリオ)とディビアスキー(ジェニファー・ローレンス

●いかにもぱっとしない見事なおっさん演技です。

 しかし大統領は目前に迫った中間選挙で忙しく、全く取り合おうとしない。一流校でもないミシガン大の教授の言ってることなんか信用できない(笑)というのです。

 そこで二人は危険を冒してマスコミに情報をリークすることを決意。しかしテレビの人気ワイドショーに出演するも司会者コンビ(ケイト・ブランシェット&タイラー・ペリー)には軽くあしらわれ、新聞社の反応も冷淡です。
アメリカでもワイドショーはくだらない芸能ネタばかりやっています。地球滅亡の危機という大ニュースも茶化されてしまいます。

 カメラの前で直ぐブチ切れるディアビスキーは怒り顔をネットで笑いものにされ、逆に緊張でうまく喋れないミンディ博士は可愛い、と人気者になる始末。誰も地球の危機にまともに向き合おうとしない。

 しかし大統領にセックス・スキャンダルが発覚(笑)人気がガタ落ちになると、大統領は地球の危機を演出して彗星対策に乗り出します。彗星に大量の核ミサイルを撃ち込んで軌道を逸らそうというのです。今度は国中が好戦的なお祭り騒ぎになります。
●本物の戦艦を使って、大統領は彗星に宣戦布告の記者会見(笑)。

 危機を演出して支持率99%(笑)で選挙に勝った大統領ですが、今度は大口献金者NO1のIT企業のCEOが彗星にレアメタルを発見すると迎撃を中止、彗星からのレアメタル採掘に乗り出します。

●大統領への政治献金トップの巨大テクノロジー企業・バッシュのCEO(マーク・ライランス)(中央)。政府の受付窓口まで自社のスマホでないと繋がらないようにしてしまいます。

 かくして国は『危機をもたらす彗星なんか存在しない。空を見るな(ドント・ルック・アップ)!』という大統領&保守派と『事実を直視しろ。空を見ろ(ルック・アップ・ザ・スカイ)!』という二派に分断されます。そうやっている間にも彗星はどんどん迫ってきます。

 多種多様な人物が登場してきます。超人気歌手とDJのカップル(アリアナ・グランデ&キッド・カディ)、ディビアスキーの恋人・フィリップ(ヒメーシュ・パテル)、彗星爆破計画に起用された老軍人(ロン・パールマン)、地元のヤンキー(ティモシー・シャラメ)、色々な人物を巻き込みながら騒動は少しずつ大きくなっていきます。
●彗星に核爆弾を仕掛けるために起用された好戦的な老軍人(ロン・パールマン

●彗星を模したアリアナ・グランデの超豪華ステージシーン

 アダム・マッケイらしく、政治家もテレビもネットも巨大企業もタブーなしで切れ味鋭くぶった切るバカ映画です。徹底的に容赦ない。

 しかし今回は全く笑えない。登場人物たちがやってることは徹底的にバカで笑うしかないんだけど、現実そのままなので全く笑えないんです。
 お話そのものは地球温暖化のパロディに見える。それ以上に、危機にあっても選挙のことしか考えない政治家、立派なことを言いながら自社の利益を最優先する巨大企業や上級国民、くだらないニュースしか流さないマスコミ、自分の都合の良いようにしか現実が見えないバカウヨや偽善的なリベラル、スキャンダルや判りやすい話にしか反応しない、その癖 なんでもすぐ忘れてしまう一般大衆も現実そのままです。

●在任中のトランプを公然と批判していたメリル・ストリープは、共和党の副大統領候補だったサラ・ペイリン(アフリカという国があると思い込んでいたことで有名な右翼婆)とトランプを足して2で割ったようなバカ大統領を嬉々として演じています。

 いや、アメリカの事だけじゃないんです。日本だって一緒でしょ。

 アダム・マッケイと一緒に原案を書いたデヴィッド・シロタという人はジャーナリストで、2020年の米大統領選ではバーニー・サンダースのブレーンを務めていたそうです。

ジョナ・ヒル演じる大統領補佐官。大統領の息子で重度のマザコン

 本物の戦艦の上での大統領の会見やら(空母の上で会見をやったブッシュのパロディ)、宇宙船の打ち上げやセットやら、アリアナ・グランデのベネフィットコンサートのシーンなどお金も滅茶滅茶かかっています。ケイト・ブランシェットのエロ・キャスターやティモシー・シャラメ君のチンピラ役、挙句の果てにはメリル・ストリープのヌードまで(笑)、豪華スターもトンデモナイことばかりやっている。ウルトラバカな映画でこんなことやっていいのかって。

●街のチンピラ役のティモシー・シャラメ

 この映画の描写があまりにもリアルで、今の世の中がどこまで酷いのか、考えさせられざるを得ません。唸ってしまう。全く笑えない超おバカな豪華ダーク・コメディ。これは新ジャンルの映画かも。笑えないけれど面白いし、素晴らしいです。


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