特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

2021年の映画ベスト10

 いよいよ今年も今日で終わり。
 世の中はあまり良い兆しは見えませんでした。コロナの影響は勿論大きかったけれど、それだけではありません。
 少子高齢化や女性の社会進出が進まないなどの従来からの日本の宿痾に加えて、円安による日本窮乏というアベノミクスの弊害がいよいよ具体的に見えてくるようになってきました。本質は家計から企業への所得移転ですからね。

 そして、これまた最初からわかっていたように、今の日本の体力ではバラマキの後始末をどうにかするのは中々難しい

 それに加えて、政治の問題。コロナの第4波、第5波が襲ってきても国会が開かれなかったことに代表されるように、政治が機能しないどころか、まともな議論すら行われない。人口当たり死亡率などコロナの被害NO1の大阪ですら府民が知事を支持してしまうのが典型で、国民だってワイドショーや感情論に引き摺られるばかりです。
 政治とは政治家と国民の共同作業ってことを改めて感じます。

 29日のBSーTBS『報道1930』で作家の保坂正康氏が鶴見俊輔先生の『デモクラシーの後ろをついてくるのはファシズムなんだよ』という言葉を引用して今の状況を語っていました。デモクラシーが疲弊するとファシズムが取って代わる、という訳です。

 結局、日本はこのまま衰退していくだけなのか、という意識は意識的にしろ、潜在的にしろ、多くの人が感じているのではないでしょうか。


 個人的には、人事異動で新しい仕事が増えてウンザリしたのと、寄る年波で身体にガタが出てきたのが目に見えるようになってきました。
 今までの自分に軽い限界が来ていて、またもう一段変わらなければいけないんだろう、と思っています。死ぬ間際まで変化し続けたデヴィッド・ボウイの域には程遠いにしろ(笑)、心の中にあるものを変わらないようにするには、人間はいくつになっても変わり続けなくてはいけない

 それでも今年1年、なんとか大過なく過ごすことができたのは神様に感謝しなくてはならないでしょう。今週 近所のイタリアンへ行ったら『来年は普通に働ける年であるといいですね』と言われました。その通りです。当たり前のことが一番尊い
 ブログを読んでくださっている皆様、ありがとうございました。どうか良いお年をお迎えください。


 そんな 2021年、映画のベスト10はこちら。毎年そうですが、今の世の中を象徴する作品ばかりになっているのには驚きます。
 日本だけでなく、世界的にも気候変動による異常気象に脅かされ、政治は混迷している。人々はフェイクニュースや感情論に惑わされ、貧富や性による分断が進む一方。
 それでもどうやって生きていくかを問いかけている、そんな作品ばかりです。

10位 『ドント・ルック・アップ』

 先週見たばかりのネットフリックスの超豪華キャストによる大バカコメディ。深刻過ぎて全然笑えないけど、面白かったなあ。DVD出ないかなあ。結局こういうことなんですよね↓。

9位 『ラストナイト・イン・ソーホー』

 60年代テイスト満載のスタイリッシュなホラーでありながら、女性差別を告発する内容は前半の佳作’’プロミシング・ヤング・ウーマン’’とテイストはとても良く似ています。トーマシン・マッケンジーちゃんが出ている特別感でこっちを選びました。

8位 『世界で一番しあわせな食堂』

 フィンランド映画らしい、多様性と寛容性を前面に打ち出した映画。呑気だけど優しい心根に溢れています。一歩足を踏み外したら奈落の底へ転落しかねない世の中だからこそ、対極の世界に感動するのだと思う。トナカイの中華料理は食べたいと思わないけど(笑)、

7位 『JUNK HEAD』

 悪い意味ではなく、これだけ暗い未来、そしてこれだけクリエイティブなイメージを提示してくる作品は初めてでした。で、尚且つ『生の賛歌』になっている。ホスの絵画を見ているみたいですが、もっとオリジナリティに溢れていると思う。監督がほぼ独力で作ったという完全自主制作のストップモーションアニメ。

6位 『ミナマタ』

 今も続く水俣の被害を訴えたいとジョニ―・デップが主演・プロデュースを務めた作品。と言っても、ちゃんとエンタメになっているし、何よりも美しい画面、音楽が心を打ちました。國村準の名演が映画を成功作にしました。

5位 『イン・ザ・ハイツ』

 あふれ出るエネルギー、美しい画面、キャスト。理屈抜きで感動します。

4位 『ボクたちはみんな大人になれなかった』

 センチメンタルな映画だけど、この30年の日本の非常に優れたクロニクルになっています。だから自閉的な私小説とは異なり、普遍性がある。脚本も良くできているし、画面も美しい。正直、やられた―と思いました。

3位 『ドライブ・マイ・カー』

 これもセンチメンタルな映画です。お話もマジでくだらない(笑)。だけど余韻が深く心に残るのは、観客の心に断片的な美しいイメージが何枚もの木の葉のように折り重なっていくからだと思う。語らないことによる勝利。

2位 『1秒先の彼女』

 いかにも台湾映画らしい、昔のアメリカ映画みたいなウェルメイドな佳品。ちょっとフランク・キャプラの作品みたい。笑って、泣いて、元気が出るコメディ

1位 『アメリカン・ユートピア』、『あのこは貴族』
 同着1位のこの2つは他の映画とは違う、断トツの存在です。どっちがどう、と選べなかった。

 『アメリカン・ユートピア』は齢70を過ぎたデビッド・バーン(元トーキング・ヘッズ)のステージを収めただけですが、どうしてここまで感動できるのだろう、と思いました。躍動感、スタイリッシュさ、差別との戦いが渾然一体となって、殆ど純粋芸術の部類になっている。見なければわからない、本当に凄い映画です。史上最高の音楽映画であるのは間違いないけど、それ以上の存在。

 『あのこは貴族』は、シスターフッド・ムービーの体裁をとりながら、新自由主義+縁故+性差別による分断が広がる今の日本で普通の人間が如何に戦っていくか、を描いていきます。しかし視線はひたすら優しい。だからこそ戦っていけるのでしょう。