特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『偶然と想像』

 今日は嬉しいお休みです。
 コロナ感染の再拡大で一部では成人式が中止になっているそうですね。そういえば、ボクの身内には成人式に出た人って誰もいない。殆ど誰も気にしていなかった(笑)。


 ボクが生まれ育った渋谷区では普段はコンサートが開かれる渋谷公会堂で成人式をやってましたが、区長が訳の判らない挨拶して、興味ない芸能人がショーをやって、晴れ着をきて同級生が大勢集まるって、どう考えても苦痛でしかありません。そんなものに行く人が大勢いるのが当時から不思議でした。

 家族などプライベートでお祝いするならともかく、公的に成人のお祝いをやるなんて日本だけじゃないのでしょうか。晴れ着を着たい人の気持ちは判るけど、わざわざ公的機関が式典を開くのには個人という感覚が薄い日本人の幼児性を感じてしまいます。

●旧立憲から番組制作費をもらっていたことを明かしていなかったネットメディア、チューズ・ライフ・プロジェクト「Choose Life Projectのあり方に対する抗議」へのご説明 - Choose Life Projectもそうですが、これもまた、幼児性の現れです。言い訳を読んでも個としての責任感が甚だ薄い。ただDAPPIと同一視する向きもありますが、あちらは自民党から資金を受けてデマを拡散していた訳で、それとは話が違います。 

  そんなことより、今日は2016年に亡くなったデヴィッド・ボウイの命日です。

 夏目漱石の時代から日本人の『個の確立』は問われ続けているわけですが、事情はいまだに変わらないようです。


 と、いうことで、六本木で映画『偶然と想像
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guzen-sozo.incline.life

 第1話『魔法(よりもっと不確か)』:ヘアメイクで親友のつぐみ(玄理)から好きな男がいると聞かされたモデルの芽衣子(古川琴音)。だが、その男が元恋人の和明(中島歩)だと知ると、彼女は和明の元へ突然押し掛けるが。
 第2話『扉は開けたままで』:芥川賞を受賞した大学教授・瀬川(渋川清彦)に落第させられた大学生・佐々木(甲斐翔真)はゼミの同級生で人妻の菜緒(森郁月)に頼んで、色仕掛けで復讐(ふくしゅう)を企てる。
 第3話『もう一度』:高校時代の友人である夏子(占部房子)とあや(河井青葉)が、20年ぶりに仙台で再会。あやの家で昔話で盛り上がるが徐々に違和感を覚え始める

 カンヌ国際映画祭で日本映画としては史上初となる脚本賞を受賞、今年のゴールデングローブ賞アカデミー賞の外国語作品賞に絡むことが有力視されている『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介の新作です。
spyboy.hatenablog.com

 「ドライブ・マイ・カー」は昨年7月のカンヌ国際映画祭脚本賞、12月のロサンゼルス映画批評家協会賞でも作品賞と脚本賞を受賞。第94回アカデミー賞では国際長編映画賞(旧外国語映画賞)部門の対象作となっています。

 昨日も全米映画批評家協会で4冠作品賞、脚本賞、更に「偶然と想像」の2作品で監督賞にも選ばれ、主演の西島秀俊主演男優賞。日本映画の作品賞受賞は黒沢明監督の「乱」(1985年)以来。主演男優賞はアジア人初だそうです。昨日NHK夜7時のニュースで聞いてびっくりした。

news.yahoo.co.jp

 で、今日もゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞アカデミー賞も取るかもね。

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【速報】映画「ドライブ・マイ・カー」がゴールデングローブ賞(非英語映画賞)受賞 日本映画の受賞は62年ぶり(TBS系(JNN)) - Yahoo!ニュース



 この「偶然と想像」も第71回ベルリン国際映画祭審査員グランプリを受賞、で、前述のとおり全米映画批評家協会の監督賞も受賞。短編映画3本からなるオムニバスです。

 元カレが自分の親友と良い仲になったことを聞いて元カレのところへ押しかける第1話『魔法(よりもっと不確か)』、主人公の親友役の玄理は大好きだし、テンポや撮影、二人のセリフ回しはとても面白いのですが、実に嫌な話でした(笑)。客観的にはどうか判りませんが、ボクはこういう話は嫌い。大嫌いです。
●親友から話を聞いた後、主人公はハンサムな元カレのところへ突然押し掛けます。

 元の恋人が誰とどうしようとどうでもいいじゃないですか(笑)。主人公が元カレのところへ押しかけて、延々 色々な言辞を呈するのも理解ができない。 ???だし、嫌悪が先に立ちます。
●玄理(中央)という人は最近気になっています。


 堅物の文学教授に落第させられた学生が復讐のために、自分のセフレ、奈緒を使って誘惑させ、セクハラをでっちあげようとする第2話『扉は開けたままで』も同じです。
奈緒は朴念仁の教授のところへ押しかけて、教授の作品の朗読を始めます。

 人妻でもある学生、奈緒を演じる森郁月は存在感があって良いし、教授と奈緒のかみ合わない会話が次第に転調して違う方向へ進んでいくのも面白い。だけど話が嫌い、大嫌い(笑)。実にくだらない。
●この森郁月(右)も存在感があってよかったです。CMとかに出ているそうですが、よく判らん。


 第3話『もう一度』になると多少、風向きが変わります。コロナで失業中のSE、夏子(占部房子)が故郷の仙台に同窓会で帰郷します。帰り道、高校時代の親友、あや(河井青葉)とすれ違います。そこから二人の会話が盛り上がっていきます。
 話をしているうちにだんだんと違和感が大きくなっていくのを会話劇だけで描いたのは見事だし、原発事故をいち早く描いた傑作『希望の国』やイラク人質事件を描いた『バッシング』で大好きだった占部房子を久しぶりに見られたのも嬉しい。相変わらず繊細な演技が凄く良かった。

 小学校から大学まで1回も同窓会へ行ったことがないボクはお話自体にはやはり、共感もできないし、興味も持てませんが、第1話や第2話と違って嫌悪感を催すほど酷い話ではないし(笑)。
●仙台の駅前で、高校時代の親友、夏子(占部房子)(左)とあや(河井青葉)が出会います
 


 3本の短編を見ていて、これはボクの大好きなフランスの映画監督、エリック・ロメールの作品を見ているような気がしました。というか、作風はもろパクリかも。落ち着いた雰囲気や美しい映像の中で盛り上がったり、勘違いや思い込みなどで違和感が生じたりする会話劇が演じられ、最後に少しクスリとさせる。人生ってこんなものか、と思わせる。
 もちろんロメールエスプリには遥かに及びませんけど、あの会話劇が再現されるだけでも大したもので、見た後の感触は悪くありません。話以外は本当によくできているからでしょう。面白かった。
ロメールの映画でも、極端に奥手な女の子が親友の彼に恋してしまって悩むコメディがあったりします

友だちの恋人

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 ただ、話としては全く共感できない、というより大嫌いな類の話が続くのはロメールと違う。
 でも、それは悪いことばかりじゃなくて、主人公たちはどうして、こんなに他人と話し続けるのだろう、という疑問、気づきが湧いたんです。ボクには全く興味がない、元カレとか美人局とか同窓生みたいなくだらないことばかりなんですが、ひたすら他人と会話を続ける、しかも当人たちは結構楽しそう。不思議だなーとしみじみと思いました。ボクには理解できない世界ではありますけど、これはこれで人間世界の一つのありようなんでしょう。

 『ドライブ・マイ・カー』も話自体は超くだらない作品でしたが(笑)、映画で描かれていた寂寥感とか多様性には実に感動しました。そういう意味ではこの監督の作風、ボクとのマッチングの仕方かな。
 ということで、ボク自身は多少含むところがありますが(笑)、かなり良い映画ではあります。面白いです。 

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