特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『#1110原発ゼロ国会前集会』と映画『国家が破産する日』

 土曜日、TBSの『報道特集』を見て驚きました。ジャニーズの『嵐』が天皇即位式典?で歌を歌ったんですって?
 歌声が画面からちょっと聞こえてきただけですけど、それだけで耳が腐りそうだった(笑)。小学生の合唱だって、もっとうまいでしょう。うまけりゃいいというわけではありませんが、最低限度のレベルというものがあるじゃないですか。

 個人的には天皇にも嵐にも興味ありませんからどうでもいいですけど、誰か周りの大人が『みっともない』と言って止めなかったのか(笑)。一応 公式行事?なんでしょ。TPOというか、世の中なんでもアリ、で良いわけがありません。なんで右翼は怒らないの?(笑)
●昨日見かけたバーの看板@霞町(西麻布)。別に目出度いとは思わないけど、面白かったので。

 小泉のドラ息子がわざわざ環境関連の国際会議で記者を引き連れてステーキ屋に行ったのも同様ですが、こういう常識の無さ、分別の無さが目立つようになったのは日本人がどんどん劣化、幼稚になっている証拠なんでしょう。



 日曜日は国会前の集会へ行ってきました。#1110原発ゼロ国会前集会
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 台風で1か月延期になった天皇のパレードが国会前を通るということで、時間は当初 予定していた昼間から夜6時からに変更になりました。冗談じゃないですよ。晩秋の夜はやっぱり冷えます。集まったのは500人くらい?

 反原連の主催者挨拶は『本来なら関電の金銭疑惑は原発自体が無くなっても良いような大きな話だ。恐らく、これと同じことは各地の原発でも起きている。関電の幹部の問題だけでなく、原発を取り巻く構造として考えていかなくてはいけない』というものでした。同感です。
●集会風景

 そのあと政治家が話しました。
 立憲民主の山崎誠衆院議員が『野党が共同提案した原発ゼロ法案は相変わらず審議されない。我々は一刻も早く原発をなくすために、ゼロ法案が審議されない代わりに前倒しで実施法の草案作りを進めている。実際に原発をなくすには基本法だけである原発ゼロ法案だけでなく、具体的な実行を定める実施法が必要になるからだ。それを実行するにはやはり議席の数が必要で、皆さんの力をお借りしたい』と言っていました。

 言ってることは具体的だし、熱意がこもっている。確かに最初に作るのは基本法ですけど、省令で勝手なことをされないように実施法もちゃんとしたものが必要です。

 前回の集会でもそうでしたが、立憲民主の山崎氏は論理的な話をすることが多いです。こっちはわざわざ時間を作っていくのですから、感情を煽るものより、そういうマトモな話の方が良いです。悪いけど、そのあとの古賀茂明のいい加減な話とか聞いても仕方ないですからね。
●順に阿部知子衆院議員、共産党の吉良参院議員、立憲民主の山崎誠衆院議員

●これは野党も一緒です。ネットで見ている限りではネトウヨだけでなく、れいわの支持者も段々カルト化しつつあるんじゃないですか。
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 ということで、新宿で映画『国家が破産する日
 この話は重要だなーと思ったので2回に分けて書くつもり(たぶん)です。今回は映画の感想。
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kokka-hasan.com
 舞台は1997年の韓国。OECDにも加盟したばかりで好景気で沸き返っていました。しかし、通貨政策を担当する韓国銀行のハン・シヒョン(キム・ヘス)は通貨危機を予測する。外資が韓国からどんどん逃げ出しており、外貨準備高がどんどん減少しているというのだ。政府は非公開の対策チームを招集したが、国家の破産までわずか7日に迫っていた。同じころ、危機の兆候を独自に察知したノンバンクの営業マン、ユン・ジョンハク(ユ・アイン)は、一獲千金をもくろむ。一方、町工場の経営者ガプス(ホ・ジュノ)は、大手百貨店との大型取引を手形取引で引き受けるのだが

 1997年のアジア通貨危機によって引き起こされた、韓国の通称『IMF危機』を描いた史実を基にしたドラマです。韓国では昨年400万人近い観客を動員した大ヒット作。と言っても、ボクは韓国の事情って良く知らないんです。ググってみたので、まず背景を簡単に解説します(笑)。

 97年のアジア通貨危機アメリカのヘッジファンドがタイやマレーシアなどアジア各国の通貨空売りを仕掛けたことで引き起こされました。
 当時からアジア各国は目覚ましい経済成長を見せていましたが、企業、強いては金融機関は海外からの借金を抱えているだけでなく、不良債権も抱えていました。イケイケドンドンの時は融資の審査だっていい加減になるのは日本のバブルと一緒です。
 特に韓国の不良債権は多かったそうです。自動車会社、鉄鋼会社が経営危機に陥り、それが韓国の経済危機の引き金になりました。外国の資本家が一斉に韓国から逃げ出したのです。具体的には株を売り払い、融資を引き揚げ始めます。


 ここまでが史実。ここからがフィクションです(笑)
 通貨政策を担当する韓国銀行のシヒョンは外資の逃避に気が付き、政府にこのままでは韓国が破産する=外貨準備高がゼロになる、と警告します。事態を公表して、巻き添えを食う企業や国民を最低限にするべきだというのです。
●主人公のシヒョン。韓国銀行の通貨政策担当チームのリーダーです。
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 しかし政府は動きません。大統領選挙を控えていたからです。選挙前に通貨危機なんて公表したら、文字通り政権がひっくり返ります。当時の大統領は金泳三、軍事政権から代わった初めての文民政権です。民主派だって保身に走りました。
●主な登場人物。左から韓国経済を救おうとするシヒョン、大儲けをたくらむ元証券マン、手形が不渡りになり窮地に追い込まれる町工場の社長、危機に乗じて構造改革を目論む財務次官
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 刻一刻と韓国の外貨準備高は減っていく。このペースではあと1週間しかもたない。シヒョンは政府に日本やアメリカに借金をして急場をしのぐことを訴えます。
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 一方 財務省の次官は通貨危機を韓国経済の『構造改革』のチャンスと考えていました。不良債権を抱えた企業や体質が惰弱な中小企業をつぶし、大企業中心の経済にしようというのです。日本でもそうでしたが『構造改革』とは便利な言葉です。この場合は言い換えるとショック・ドクトリンです。

構造改革を実施し、大企業中心の韓国経済にすることを目論んでいる財務次官(右)。
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 その一方 お話では韓国が破産することに賭けて大儲けを狙う元証券マン、大手デパートと手形取引を始めたばかりの町工場の社長の姿も描かれます。
●韓国経済が破綻することに賭ける証券マン。勤務するノンバンクを退職、すべての財産を韓国経済が破綻すると儲かるデリバティブ取引につぎ込みます。
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●町工場の社長。今まではすべて現金取引をしてきましたが、大手デパートとの取引が決まり、初めて手形で代金を受け取ることを承諾します。
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 登場人物の類型からも分かるように、この映画はリーマン・ショックを描いてアカデミー賞にノミネートされた『マネー・ショート』の影響を多々受けています。でも、パクリとかそういう感じではない。金融危機の被害者、儲かった人間、それを利用した人間、それと闘った人間、それぞれを多面的かつ丹念に描いている。

 にっちもさっちもいかなくなった政府はIMF国際通貨基金)に融資を頼もうとします。しかしIMFは過酷な条件を突きつけます。ノンバンクの営業停止、労働者のリストラや非正規雇用の導入などの規制緩和外資が韓国の会社を買収するなど資本の自由化etc。不良債権を抱えた金融機関をつぶせば、中小企業の多くも潰れてしまいます。失業者が大勢出ることになる。
●シヒョン(写真右端)は強硬なIMFに抵抗しますが
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 取引先の大手デパートがつぶれたことで町工場の社長は途方に暮れています。代金として受け取った支払手形が紙くずになってしまったからです。今まで威張っていたデパートに債権者たちが押し寄せますがどうにもならない。自宅を売ったり、自殺する経営者も出てきます。
 一方 韓国が破産することに賭けた元証券マンは大儲け、更に底値になった不動産を買いあさります。財閥が跋扈する格差社会の韓国で庶民が立場を逆転させる千載一遇のチャンスだというのです。
●元証券マンは投資家を集めて、韓国が破産する方に賭けることを熱弁します。
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 IMFは韓国と交渉するにあたって、アメリカの財務長官を帯同していました。投資など資本を自由化することでアメリカなどの大手金融機関が底値で韓国の会社や資産を買いあさることが出来る、という筋書きです。
 映画ではアメリカとIMFはグルだった、というイメージを作っていますが、韓国に対してだけではなく、元々 冷戦終結以降IMF世界銀行などはワシントン・コンセンサスとよばれる、アメリカに限らず大手金融機関中心の新自由主義政策で動いていました。少なくとも当時のIMFはそういうもの、だった。
IMFのトップ(ヴァンサン・カッセル)は強硬な条件を韓国に突き付ける。史実通りフランス人です。陰謀論者が想像するようにアメリカの陰謀、というだけではありません(笑)。
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 シヒョンはIMFの条件受け入れに懸命に反対しますが、衆寡敵せず。IMFの条件を韓国は受け入れます。その一方 財務次官など韓国政府の高官はいち早く情報を財閥側に流し、彼らの事業をサポートします。
●うつむく韓国政府代表
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 IMFの資金で韓国は国家破産を免れることはできました。しかし多くの企業がつぶれ、98年には失業者は前年の142%になります。一方 財閥への集中は一層進んでいく。
●政府はIMFに支援など求めていない、と嘘をつき続けます。裏で交渉していたのです。
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 この映画、ボクはすごく面白かった。
 映画としては善玉、悪玉とはっきり分かれています。韓国映画らしい、一時代前のベタな判り易い演出です。そこは物足りなかった。しかし、冷静に話を追っていると、そんなに白黒はっきり出来るような話ではない、と分かるように出来ている。なおかつ多くの人たちに伝わるよう、きちんとしたエンターテイメントになっているんです。

 ヒロインのシヒョンは国民の暮らしや雇用を守ろうとしています。しかし、冷静に考えると彼女もどうすることもできない。イケイケどんどんで人々が調子に乗って(バブルです!)、銀行のいい加減な融資や企業のずさんな事業によって多くの不良債権を抱え込んでしまっている以上 どこかで破裂せざるを得ない。
 彼女はせめて早いうちに経済危機を公表して傷を少なくしようと主張しますが、それでも多くの企業はつぶれざるを得ないし、政府だって大統領選前にそんなことを公表できるはずがない。
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 悪役の財務省の次官は構造改革を狙っています。これを機に不良債権を一掃し、大企業中心の効率的な経済構造にしたい。中小企業を見捨て、大企業だけを救済しようというのです。そんなことをすれば多くの人が傷つきます。酷い話です。
 しかし、経済全体を考えれば次官の言ってることも一理はある。韓国経済全体が壊滅するよりはマシじゃないか、というのです。構造改革論者の決まり文句ではあるけれど、そう言われるとシヒョンも反論することが出来ない。
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 この映画ではIMFははっきりとした悪者になっています。韓国人から見ると余計にそう見えるのでしょう。映画の中で、選挙でどちらが勝っても良いように与野党の大統領候補からも合意を覆さないよう念書を取れ、という融資条件を出すところは凄いと思いました。いかにも金融屋らしい小賢しさ、血も涙も無い(笑)。

 確かに以前のIMFは緊縮財政や民営化など強引な新自由主義改革の推進者として批判を受けていました。しかし今は、かっての自分たちの押しつけ政策を自己批判するなど、一概にアメリカの手先と言い切ることもできない。かっての日本もそうでしたが、実際IMFの融資で発展した例も多いわけです。東海道新幹線だってそうです。そこいら辺も難しい。
 IMFアメリカの手先、といった単純な陰謀論だけでなく、金融を中心としたシステム=構造として捉えなければ問題を解決することはできないでしょう。
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 映画の終盤で描かれた危機から20年後の話が面白かったです。
 通貨危機後 政府は、通貨危機は韓国人がバブルに溺れたからだ、というキャンペーンを行い、国民の間では節約ブームが巻き起ります。バブルの真の原因には目が向けられません。その一方 大資本による再開発が進み、古い家々は取り壊され、街には近代的なビルが立ちならぶようになります。どこかの国でもそうじゃなかったですか?

 財務次官など危機当時の政府のトップは民間の大企業に天下りします。元証券マンは拝金主義の新興財閥になりあがりました。自殺する寸前まで追い込まれていた町工場の社長は韓国人社員をリストラし、安い人件費で外国人をこき使っています。優しかった社長ですが『自分以外 誰も信じるな』を口癖にするような人間に変わってしまいました。

 この、町工場の社長の変貌を見て、日本の自己責任病の蔓延の原因がわかった、と思いました。
 90年以降、バブル崩壊、山一ショック、ITバブル崩壊、小泉不況にリーマンショックアベノミクスと日本経済は頻繁に危機に陥っています。
 しかし誰も助けてくれない。政府は格差を拡大させる政策ばかりだし、地域コミュニティは崩壊しつつある。法の網をかいくぐる大企業もあるし、規制緩和で商売がどんどん拡大している人材派遣会社には緩和を推進した竹中平蔵天下りする。経済危機が起きれば政府はメガバンクなど大手だけは救済する。
 卑近な例で言えば、リーマン・ショックの時は大手銀行の連中は『政府の救済資金をもらったのだから』と電車で取引先を回っていました。喉元の熱さを忘れた今は支店長ごときでも社用車でやってきます。なんか納得いきませんよね(笑)。
 ボク自身もそうですが、自分以外 誰も信じられない、と思う人が増えるのは当然です。

 日本でも時間をかけて韓国と同じ弱肉強食化、金持ちによる国家の私物化が進行しています。庶民は少しずつ貧しくなっている。それでも、誰も助けてくれない日本に蔓延る自己責任病の原因はこれではないか。
 でも自分でもどうしていいかわかっていない(笑)。だから『NHKを潰せ』とか『消費税を廃止しろ』等 訳の分からない、でも判り易いキャッチフレーズに騙されてしまう。


 映画の最後には、韓国に再度の危機がおきるかもしれないことが示唆されます。ニュースでご存知かもしれませんが、今 韓国では莫大な量の家計の借金がたまり続けているそうです。20年前と同じように、いつ爆発しても不思議ではない。
 それに対して韓国銀行を退職に追い込まれ、今は民間で経済分析をしているシヒョンの『人生、2度も負けられない』というモノローグで映画は終わります。
●美しいです(笑)
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 この映画で最も感銘を受けたのは、これは他人事ではないと思わせてくれたところです。
 アベノミクスにしろ、アメリカの財政赤字や利下げにしろ、行きつく先はバブルです。世界的にだぶついている金はどこかへ過剰投資されるのですから、いつかは爆発するに決まっています。今回はそれがどこへ向かっているのか、土地なのか、株なのか、国債なのか。
 まして山本太郎お勧めのMMTなんか狂ってるとしか言いようがない。これ以上バブルを作り出してどうする、ばーか(笑)。

 この1年ほど、金融筋で言われているのはアメリカの債券バブルです。かってのサブプライムローンと同じように、今 会社の債券は優良会社もゴミ会社の債券もばらばらに分割されて組み合わせたCDO資産担保証券)として売られています。CDOの中身はゴミ会社の社債も随分入っているわけですが、日本の銀行はかなり買い込んでいるそうです。先日発表されたソフトバンクの大赤字の原因となったWeWorkのようなインチキベンチャーの債券も多々混じっているのでしょう。それがいつ破裂するのだろうか、ということが密かにささやかれ始めています。
 潰れかかっているドイツ銀行の問題もありますし、リスクはそこいら中に転がっている。
www.nikkei.com

toyokeizai.net


 先週も東証の平均株価が年初来最高値を記録しましたが、今 日本でもアメリカでも、いや、世界的に株が上がってます。これはどういうことなのか。ボクは考えあぐねています。一つ言えることは今はバブル状態で、米大統領選のあとか、直前なのか、いずれにしてもどこかで弾ける、んじゃないかと思っています。
 際限のない金融緩和はバブルを引き起こす、そのことはバブル崩壊リーマン・ショックでみんな学んだはずなのに。
●これ、先週の話です。

世界株、最高値まで1% 「適温相場再び」危うい楽観 :日本経済新聞

 再び経済危機が起これば、この映画で描かれたようなことが日本でも起きる可能性はあります。この映画で描かれたように1週間で国家破産のような極端なことが起きるかどうかは別にして、経済が悪化すれば政治家や官僚は大企業を優遇政策をとるでしょうし、その見返りに甘い汁を吸う。
 この映画で財務次官が天下っていたのと、文科大臣の萩生田が加計学園に、文部次官などの高級官僚が民間英語試験の受託先のベネッセに天下りしてるのと見事に重なりましたよ。スケールは違いますが(笑)。

 そうなると庶民がより大きく経済危機の被害を受けるけれど、バカな感情論に踊らされて、また騙されるのでしょう。それでもシヒョンが言っているように『何度も負けるわけにはいかない』んですね。ボクには大したことはできないけれど、この映画を見てファイトが湧いてきました。
 
 金融危機という難しい題材をエンターテイメントに仕立て上げた手腕には感心します。多少 善悪を強調する幼稚な芝居臭さもあるけれど、多面的な視点も確保されています。日本で作られた『新聞記者』なんかよりも1000倍くらいは面白いし、深い映画だと思います。遥かに面白いし、いろんなことを考えさせられます。こういう映画を作れる、そして観客動員380万人もの大ヒットになるのですから、韓国の民度も立派ですよ。
www.youtube.com