特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『スプリングスティーンの24枚組ライブ』(笑)と読書『約束の地 大統領回顧録1』

 爽やかなお天気と深刻な感染状況、全く対照的ですね。
 ボクの勤務先では食堂で互いの距離を空けながらも飲み会をやってる人が居るし、街ではコンビニの前で飲んでいる輩を結構見かけます。飲むのなら家で一人で飲めばいいと思うんですけど、わざわざ人とつるんで飲みたい、という発想がボクには理解できません。そんなことして何が楽しいんでしょうか。

 ワクチン接種が進んでいるイスラエルでは接種しても屋内はマスクが必須のようですし、日本でワクチンの接種が終わるのは来年までずれ込みそうです。全国の自治体の約半分が年内には終わらない見込みだそうですから、波はあるにしても、下手すれば来年の夏くらいまでこんな感じでしょう。
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 とにかく接種には医者より、看護士さんが足りないらしい。国は自衛隊の看護士まで動員すると聞きましたが、それで足りるかどうか。
diamond.jp


 ゴールデンウィーク駒沢公園などは人で一杯になりそうです。それでも早くゴールデンウィークになってほしい。
 コロナで人と距離を置くようになって人間嫌いが一層進みました。とにかく人と関わりを持ちたくありません。現実には難しいんでしょうけど、山の中の蟄居生活にますます憧れが募ります。


 先週末、1月にアメリカに注文したCDがコロナで3か月遅れて届きました。ブルース・スプリングスティーンの78年のツアー『Darkness on the Edge of Town Tour 1978』、CD24枚組(笑)。

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 ディランの75年のツアー『ローリング・サンダー・レビュー』とスプリングスティーンの78年~79年の『ダークネス・ツアー』はロック史に残る、殆ど神がかりのような演奏として知られています。どちらも海賊版では知られていましたが、数年前ディランは公式盤が16枚組で発売されました。今回のスプリングスティーンの公式盤は24枚組(笑)。

Rolling Thunder..-Box Set

Rolling Thunder..-Box Set

  • アーティスト:Dylan, Bob
  • 発売日: 2019/06/07
  • メディア: CD

 ディランの16枚組はサイコーでしたが、日によって演奏の違いが少ないので最後の方は頭が痛くなりました(笑)。今回のスプリングスティーンはまだ6枚しか聞いてませんが、毎日 曲順もアドリブも歌詞まで違う、当時の活き活きとした演奏を聞いていると、自分でも元気が出てくるのが判ります。演奏自体は海賊盤で聞いたことがあるものも多いのですが、公式盤はやっぱり音も違う。
 歳をとるにつれ、感動するとかの感性は年々鈍くなってきているのが自分でも判るのですが、最後の感性を振り絞っている感じかな(泣)。


 あ、日テレの入江悠監督のドラマ『ネメシス』は第1話は全然ダメだったけど、養護施設の兄妹をテーマにした第2話は良かった。少し泣きそうになりました。感性、大丈夫じゃん(笑)。
 是枝監督の’’海街ダイアリー’’以来 久しぶりに見た広瀬すずって文字通りキラキラしてる。演技しているのを始めて見た櫻井君は憎めない感じだけど、ただのおっさんじゃないですか(笑)。それに見事な大根(笑)。この人って歌手?俳優?江口洋介や仲間トオルの渋いおっさんぶりとは対照的でした。要するにあのドラマは昔の林海象監督の『濱マイク』ですな。



 この2月オバマ元大統領とスプリングスティーンSPOTIFYポッドキャストを始めたのが大きな話題になりました。

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 『反逆者たち アメリカに生まれて』と題されたポッドキャストアメリカという国の文化、男性性、資本主義、音楽、人種差別、そしてこれからのアメリカについて二人が語ったものです。
 予告編を見ると楽しそうで、この二人は本当に仲良しなんだなーと思いました。

 幼時から人種的な抑圧を受けてきたこと、父親との緊張関係の下で育ってきたことは二人とも共通しています。少年時代は週1回しか風呂に入れないイタリア系の貧困家庭で育ったスプリングスティーンは勿論、大統領まで務めたオバマ氏も自身のことを社会の反逆者とみなしている、疎外感を抱いている。

 オバマって人は映画も音楽もめちゃめちゃ詳しいし、趣味が良いんですよね。今年も彼が勧めたCDを聞いて、感心したばかりです。堅い話題からポピュラー文化まで、どこにそんな時間があるのかと思います。
 このポッドキャストは一本あたり約50分で全8本、ボクのヒアリング能力ではちょっと厳しいのですが、どこかでチャレンジしてみたいと思っています。誰か翻訳を文章にしてくれないかなあ。

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 、やっと読み終わりました。オバマ氏の回顧録約束の地』。

 『約束の地’’The Promised Land''』と言われるとスプリングスティーンの同名曲がどうしても連想されます。上下巻でそれぞれ約500ページ超。内容がちょっと難しいので頭をフル回転させなければいけないのと表現が文学的なので、読むのに1か月かかりました。この期間 他の本が殆ど読めなかったのはきつかった。
 でも読み終えたらそれだけの価値はある、非常に充実した読書体験でした。

 オバマ氏は生まれ育ったハワイでの生活からカリフォルニアの大学へ入学、卒業後にシカゴで貧困問題に関する地域活動家として働きながらハーバードのロースクールへ入学、弁護士になります。彼は祖母や母の影響を強く受けた反面、父親が本当に大嫌いみたいですね。

 そして州議会議員への当選、下院議員選挙での落選を経て上院議員選挙に当選、議員任期の途中で大統領になり、リーマンショックの後始末やオバマケアの導入、中間選挙での敗北、『アラブの春』でのエジプトへの働きかけやリビアへの軍事介入、そしてビン・ラディンを殺害する1期目の任期が半分終わったところまでを今作は描いています。


 上院議員から大統領になるまでのオバマ氏は時代が彼を作り出したかのようです。下院議員選挙で元ブラックパンサーの候補相手に落選した後、前職が不祥事を起こしてポストが空いた上院の補欠選挙に立候補、当選します。その際にイラク戦争に反対する演説をしたことが先見の明があるとして、彼に注目が集まります。

 そして民主党の全国大会で有名な『赤(共和党)のアメリカも青(民主党)のアメリカもない。一つのアメリカがあるだけだ』という名演説をした結果、更に注目が集まり、上院議員の1期目も終らないうちから大統領選の有力候補とみなされるようになります。彼はチャンスを逃さなかったともいえるし、自分でも後に引けなくなった感もある。

 新人議員の1期目も終らないうちから大統領選への出馬を期待されるのは、日本ではちょっと考えられません。年齢に囚われないアメリカの人材登用の柔軟性だけでなく、理想主義的なオバマ氏への世の中の期待はそれだけ大きかった、ということでしょう。多くの人はそれだけ彼に期待した

 回顧録を読むと、大統領になってもオバマ氏は理想を忘れない人だった、とは思いました。毎日 殺人的なスケジュールをこなした後、彼は昼間に会った失業した労働者、保険がなく病院に入れなかった子供、イラク戦争の負傷兵などを思い出しながら『自分にはまだやるべきことがあるのではないか』と悩みながら眠りにつきます。
 それは、アメリカ国民は『善意の人々が一つになればよりよい未来への道を見いだせる』という彼の信念にチャンスを与えてくれたから、だそうです。
 つまんない話ですが、彼は休前日を除いて、平日はお酒を一滴も飲まないと言うのも共感出来ました(笑)。

 オバマ氏は水責めなどの拷問で悪評高かった、テロリストを収容するグアンタナモ基地の収容所廃止に尽力します。また軍トップと協力して軍内部でのLGBTQの権利拡大にも尽くす。
 その一方 時には軍事介入に積極的になる。中東で民衆が民主化を求める『アラブの春』が起きると、エジプトでは独裁政権の退陣を勧告し、リビアでは民衆を攻撃しようと進撃したカダフィの軍隊に対して積極的な空爆を主導します。民主化を求めて広場に集まる人々を見て『自分が20代だったら、あの広場にいたはずだ』と思ったからです。

 パキスタンに潜伏していたビン・ラディンを殺害することにも積極的です。オバマ氏は911で亡くなった消防士たちの遺族を度々見舞っています。違法ではあることを認識しつつ、彼らのためにビン・ラディンを罰する、と言うのです。
 軍は『特殊部隊がステルスヘリで潜入して当人を確認してから殺害』『超小型ドローンによるミサイル爆殺』、2つの選択肢を用意します。軍は超小型ドローンで当人だけを殺せると保証するのですが、オバマ氏は万が一の人間違いを恐れてリスクの大きいステルスヘリによる潜入に拘ります。いかにもオバマ氏らしい。
 理想主義は時には軍事介入につながる、皮肉な話です。トランプだったら自分の得にならなければ、軍事介入どころか何もしないでしょう。
 
 しかしオバマ氏は現実主義者でもありました。強大な権力を持つ大統領は訳の判らないことは出来ません。就任当初 彼の最大の課題は『100年に1回の危機』と呼ばれたリーマンショックでした。

 ボクはオバマ氏の最大のミスはウォール街に甘かったこと、と思っています。リーマンショックで大勢の人が失業したり、家を失いました。この前見た映画『ノマドランド』で描かれた人々がその典型です。しかしギャンブルまがいの取引で経営危機に陥った金融機関は税金で救済されたし、経営者は誰も牢屋に入らなかった。

 リーマンショック当時 解決案は3つあったそうです。
 1つは銀行の不良債権を国が買い上げる。納税者の税金で銀行を救済することです。もう1つは銀行を国有化し、経営者をクビにするオバマ氏はこれをやりたかったそうですが、金融機関の株価が暴落し、株式市場全体が大混乱するリスクがある。そうなればオシマイです。これは確かにそうだなーと思いました。
 3つ目の案はストレステスト。銀行の不良債権など経営状態を国が綿密に調査し、危ない場合のみ国が資本注入して救済する。時間稼ぎをすることができると同時に、税金の投入を最小限に抑えられるというメリットがあります。拓銀や山一を潰して大不況に陥ったため、りそなの時は一転、救済した日本の経験に学んだ策でしょう。

 オバマ氏は第3のストレステストの案を採用します。同時にアメリカ復興法という大規模な財政出動を行い、リーマンショックの危機を見事に脱します。

 しかし一旦危機を脱したら、人々はそのことはもう忘れてしまいます。進歩派からすればウォール街の経営者は誰も罰せられなかったし、悪質な金融機関も温存された、としか見えません。オバマ氏が『経営者を罰する法律はない』と言っても大衆には理解されません。彼が大変な苦労をして成立させた、金融機関の規制を強化するドッド=フランク法(ウォール街改革・消費者保護法)はリーマンショックの再発を防ぐ非常に意味がある法律ですが、これまた難しくて一般大衆には理解できない(笑)。世界各国が巨大な財政出動をしている今 この法律がなければバブル崩壊が起きてもおかしくないんですけどね。

 一方 ティーパーティーなどの保守派から見れば、オバマ氏は巨大な財政出動を行い、市場に介入した社会主義者です(笑)。ティーパーティー運動草の根運動の体を装っていましたが、実態は二人合わせれば世界NO1の大金持ち、コーク兄弟が莫大な資金を拠出した極右団体です。ティーパーティーは莫大な資金を生かしてCMなどのキャンペーンを展開、マケインなど共和党の良心的な議員に圧力をかけたり落選させ、共和党はどんどん過激化していきます。

 ボクはオバマと言う人はローマ時代 哲人皇帝と言われたマルクス・アウレリウスみたい、と思っているのですが、回顧録を読むと、想像以上に内省的な人であることが判りました。選挙にしても政策にしても、ああすればよかった、こうすればよかった、と反省ばかり書いています。権力者でありながらも権力を抑制し、自分は正しくあろうとしている。誠実な人です。
 彼は『演技をしながら真実を語ること、それが私の超えるべきハードルだった』と書いています。

 だが、常に正しくあろうとしているオバマ氏に対して窮屈さを感じる人も出てきます。
 特に日々の生活に追われている人はもっと簡単なメッセージに心を動かされます。耳に心地よければ真実である必要はない。人種に対する偏見に加えてオバマ社会主義者だ』というティーパーティーや『オバマアメリカ生まれじゃない』というトランプのデマに惹かれる人が増えてきます。


 それでもオバマ氏は常に共和党と話し合いをしようとします。しかし過激化した共和党には全くその気はなかった。リーマンショックを何とかするより、オバマ氏の足を引っ張ることを選ぶのです。

 オバマ氏が就任当初は上下院ともに民主党が多数派でした。しかし彼は多数派であることを生かして上院の規則を変えフィリバスター(議事妨害)を拒否するのに60票が必要なルールを変えることを拒みます。回顧録では当人も強引に規則を変えるべきだったかも、と書いていますが、結果としてオバマ氏の政治は共和党に足を引っ張られ続けます。

 大統領就任後の6か月間はその政権の印象を左右する非常に重要な時期、と言われています。オバマ氏はオバマケアを成立させ、リーマンショックからの立て直しに成功します。それだけでも立派な業績ですが、経済を全面回復させるには至りません。小さな政府を標榜する共和党が予算措置をことごとく邪魔したからです。ティーパーティーやトランプのデマも相まって、就任2年後の議会中間選挙では民主党は敗北します。 


 オバマ氏について、面白い見方を最近見かけました。先週4/16の朝日朝刊に転載されたNYタイムズの3/20付けのコラムです。
www.asahi.com

 コラムでは、副大統領だったジョー・バイデン新大統領はオバマ政権当時 案外冷遇されていた、と書いています。バイデン夫妻は8年間1回もオバマ夫妻からプライベートで招かれたことがなかったそうです。回顧録を読んでもバイデン氏が議会対策に成功したことやオバマ氏と異なる視点を提供したことへの感謝は度々言及されていましたが、それ以外は旧世代の政治家、バイデン氏やヒラリー氏に対する言及は最重要閣僚にも関わらず、あまり多くありません。

 バイデン氏とオバマ氏が仲が悪かったとは全く思わないけれど、オバマ氏のスタッフは外交や経済、国防に関するプロフェッショナルのベテラン、それに理想主義を追求する若い学者や運動家に二分され、旧世代の政治家の影は薄かったのは確かだったようです。ちなみに現国務長官のブリンケン氏はオバマ政権当時、かなり理想主義的な意見を吐く人でした。
 
 バイデン新大統領は就任後いち早く、大企業に対する増税を打ち出しています。迅速なワクチン接種と給付金などによる経済回復も相まって、政権は順調な滑り出しを見せています。

 結果はまだまだ判りませんが、共和党とのフェアな話し合いを重視したためにスタートダッシュに失敗したオバマ政権の教訓を生かしているように見えます。
●これは画期的です。バイデン政権が職業訓練と雇用を保障したから、ラストベルトで大きな力を持つ石炭組合がグリーンエネルギーへの転換に賛成しました。日本でもこれが必要。

 NYタイムスのコラムはこうも言っています。『結局 オバマ氏は政治が嫌いだった。自分が正しい政策を打ち出せば、皆がついてくると思っていた。スプリングスティーンポッドキャストで話しているオバマ氏は大統領当時より遥かに生き生きしている。

 結果論に過ぎませんが、オバマ氏は自分が正しい人間であろうとする自分のエゴに囚われたところもあったのかもしれません。ボクはNYタイムスのコラムのこの意見が真実に近いと思う。
 『アメリカはオバマ氏を選ぶことで急進的な変化を受け入れたのに、彼自身が自分を抑制してしまった
 
 ボク自身もそうですが、自分を抑制することは良いことと思いがちです。しかし状況によっては自分を抑制することが良い結果を生むとは限らない
 卓越した知性と雄弁、それに現実を直視しながらも理想主義を忘れなかったオバマ氏でも限界はあった。リーマンショックに、オバマケア、LGBTQの権利伸長など多くの功績を残しましたが、ウォ―ル街が世の中を動かす構造(金融資本主義)は止められなかったし、世の中の格差は広がった。
 正しくあろうとすることが常に正しい結果をもたらすとは限らない。かように、人生は難しい(笑)。

 ここまでがオバマ政権2年目までの回顧録の感想です。ボク自身学ぶべき点が非常に多い本でした。この感想がどう変わっていくのか、政権はあと6年あります(笑)。いつ続刊が発売されるのか判りませんが(笑)、この先を読むのが非常に楽しみです。