特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

20年目の''911''と映画『アナザーラウンド』

 この週末は911同時多発テロから20年、だったのですね。

 事件の翌日、9月12日の ''グラウンド・ゼロ''(ワールド・トレード・センター)はこんな有様↓だったそうです。この写真はマイケル・ムーア監督のメルマガからの引用ですが、事件を思い出すのならこのような写真がふさわしい。

 バイデン大統領やオバマ氏などが出席したNYでの式典ではスプリングスティーンが演奏しました。昨年発表された曲ですがCDとは全く違って聞こえる、気合が入った演奏です。
 彼は911の後 消火のためにWTCに登っていく消防士をテーマにした’’The Rising’’という歌を作っています。「事件の数か月後 消防士の遺族にスプリングスティーンから突然電話がかかってきて『お話を聞かせてください』と言われて驚いた」という話が以前 日経新聞に出ていました。そうやって作られた''The Rising''は昨年 バイデン氏が大統領候補を受託する民主党大会のオープニングでも使われました。
2001.9.11から20年。ニューヨークで行われた追悼式典でブルース・スプリングスティーンが「I'll See You In My Dreams」を演奏。 | ブルース・スプリングスティーン | ソニーミュージックオフィシャルサイト

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  国内の貧富の差にしろ、先進国/途上国の間にしろ、格差が拡大していくと、911のような悲劇は幾らでも起こり得る。もちろん、日本でも同じです。格差のような世の中の不条理は、軍事力やテロでは解決できない911もまた我々の今と繋がっていると、ボクは思っています。

 その911という事件から何かを学ぶどころか、弔意すら示さないトランプが酷いって話ですけど、日本の政治家だって同類です。
 岸信介の頃から安倍晋三が韓国のカルト極右宗教、統一教会と繋がっているのは有名ですが、今年は統一教会のフロント団体’’UPF’’の集会に安倍晋三やトランプがオンラインで登場したそうです。

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 どんな立場やイデオロギーでもその人なりの理屈はあるものです。賛否は別にして、話は聞かなくてはいけないと思います。それがインクルージョン(社会的包摂)というやつです。
 でも、安倍晋三やトランプのような連中の本性はこんなもの、もはやカルト、ってことも理解しておかなければいけないと思います。こういう連中こそタリバンみたいなもんなんだよなー。



 と、いうことで、渋谷で映画『アナザーラウンド
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舞台はデンマーク。40歳を迎えた冴えない高校教師マーティンは退屈な男として家族や生徒たちから相手にされない毎日を送っていた。そんなマーティンとその同僚3人は、ノルウェー人哲学者の「適度な血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる」という理論を証明するため実験をすることに。朝から酒を飲み続け常に酔った状態を保つと、授業も盛り上がり、家族との会話も復活する。だが次第にアルコールの濃度がエスカレートしてー―ー

 今年のアカデミー長編国際映画賞を受賞、ゴールデングローブ賞やフランスのセザール賞外国語映画賞ノミネートなど高い評価を受けている作品です。
 と、言っても、中年男が始終お酒を飲みまくるバカ映画、と思って見に行ったのですが、全然違いました(笑)。

 マーティンは40歳を迎えた高校の歴史教師。授業中は話が退屈と生徒にはバカにされ、最近は親たちからも抗議を受ける始末。家庭でも妻からも息子二人からも全く相手にされない。

 それでもマーティンは全くやる気が出ない。かって仕事や恋愛に情熱を燃やしていた自分はいったい何だったんだろう、と思いあぐねてばかりです。いわゆる中年の危機、です。
 

 教師の同僚たちに相談すると『血液のアルコール濃度をワイン1~2杯分の0.05%に保っていると、仕事の効率も上がり、想像力がみなぎる』という学説を言い出す同僚がいました。次の日から、彼らは試してみることにします(笑)。
 

 中盤までお話としてはやや退屈でした。コメディタッチのお話は悪くはありません。でもブラッドリー・クーパー出世作、大ヒットした『ハングオーバー』シリーズじゃありませんが、こういうアルコール話って、先は判ってるじゃないですか。

 最初はいいけど、飲み過ぎでしっぺ返しがくる。それをコメディにするしかない、こういう風に(笑)。

 ただ、この映画では主役のマーティンを演じる名優ミッツ・マケルセンが最初からやたらとシリアスな演技をしています。最初は冗談か、とおもったのですが、どうやら様子が違うらしい(笑)。

 温和で几帳面なマーティンですが仕事にしろ、家族にしろ、人間関係にしろ、内心忸怩たるものを抱えています。かっては楽しくてたまらなかった教えるということが今は自分でも興味を持てなくなっている。子育てのために博士号を取る夢を諦めたのが(さすが北欧!)今また後悔としてのしかかっています。家にいても妻は夜勤ばかりですれ違い、話す機会もありません。お互い壁が出来てしまっている。子供からも全く相手にされない。

 典型的な『中年の危機』でしょうか。青年の時だって、老境に達してからも、人間は悩みを抱えるもの、ですが、中年の危機というのも結構辛いものです。
 ボクも体験しましたが、毎日毎日、自分の可能性が、未来が狭まっていく、なのに時間だけが過ぎていく、あの感覚。ミッツ・マケルセンの重厚な演技はうまくそれを表現しています。

 ボクは週末以外は一滴もお酒をのみませんが、登場人物たちのように嫌なことがあるとアルコールに頼りたくなる気持ちも判ります。あんなに嫌な事でも、金曜の夜にお酒を飲むとどうでもよく思える(笑)。人間にとって、正に福音という感覚でしょう。
 根は真面目な教師たちがアルコールの血液濃度を測りながら酒を飲んでるのは面白かったけど、外人って身体がでかいからでしょうか、お酒が強いなーと思います。

 デンマークの人々の生活を描いた映画の描写は大変興味深い。
 こちらの国では16歳からアルコールOKだそうで、高校生もガンガン飲んでます(笑)。学校では生徒の数に比してやたらと教師が多いとか(教育に力を入れているということ)、恐らく移民の子供なんでしょう、クラスにブルカを着た子供がいたり、様々な人種が混じっている多様性、お互いの議論が中心となっている授業の在り方、また家では当たり前のように男たちが家事をやっているところは興味深い。
 

 何よりも登場人物が精神的に大人です。相手を尊重することが社会生活の基本、お互いの人格の基本になっている。土足で他人の中へ入り込もうとしたり、やたらと他人の足をひっぱりたがる幼稚な日本人とは天と地ほどもある、民度の高さです。

 デンマークの高校生の飲酒文化をテーマにした題材、というのは監督の娘さんのアイデアだそうです。ところが撮影開始後まもなくして娘さんは事故で亡くなった。娘さんの名前は映画の献辞に出てきますが、その悲劇が映画には色濃く反映されています。
 複雑で悲しい人生をいかに明るいものにしていくか、そういう精神がこの映画には流れています。


 コメディタッチの中盤までと打って変わって、終盤のドラマは哲学的な色彩を帯びていきます。そこが凄く良いです。特に中年の危機に差し掛かっている人がみたら、感動すると思います。最後のシーンも素晴らしい。
 人生って言うのは楽しいこともあるし辛いこともある。辛いときには世界全体が真っ暗に見えてくるものです。そんな人生をいかに肯定していくか。そのためのヒントが描かれた映画だと思います。

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