特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

NHKドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』と映画『アンモナイトの目覚め 』

 いよいよ楽しいゴールデンウィーク
 普通だったら海外に単身赴任している人が日本に帰ってくることも多いのですが、今年はベトナムに赴任している人が家族から『日本はコロナで危ないから帰ってくるな』と申し渡されたそうです(笑)。ベトナムのコロナ感染者数は累計で3000人弱、死者は約30人、日本の1日分以下、ベトナムの方が日本より遥かに安全です。日本なんて今やその程度の国だと思います。

 北海道、広島、長野の選挙結果は良かったですが、名古屋市長選の結果は驚きました。リコール署名の偽造という民主主義の根幹を破壊するような奴が再選されてしまうのですから、名古屋市民の民度も東京や大阪と変わらないくらい、もしくはもっと低い。

 国政選挙の投票率の低さも気になるし、与野党の激突となった広島では20代は野党候補より自民候補の支持率の方が高いそうですし手放しで喜べるような結果ではありません。
www.chugoku-np.co.jp

 ボクだって、若い人の支持率が低いままの今の野党が政権を取れるとは思いませんし、菅が変わっても、世の中は大して変わらないかもしれません。それでも安倍や菅よりバカな奴って、自民党の中にそんなに多くいるのでしょうか?(杉田水脈稲田朋美みたいな明らかなアホは別にして)。
今回の選挙で岸田は完全に総理候補から外れたようです。麻生でも河野でも自民党内でも、今 オリンピック中止を言い出す有力者が居れば直ぐ菅の後継になれる、と思うんですけどね。もちろん、どっちもごめんですけど。

 一方 野党の成れの果て、こちらは『貧すれば鈍』を絵にかいたような話です(笑)。

 安倍や菅がいつまで経ってものさばってるのも、こういう同じくらいのアホが野党にも、国民の中にも、沢山いるからかもしれません。


 土曜日NHKドラマ、『今ここにある危機とぼくの好感度について』面白かったです。ドラマなんか滅多に見ませんが、脚本が『その街のこども』の渡辺あや氏でしたので試しに見たら、実に風刺が効いて面白かった。

その街のこども 劇場版 [DVD]

その街のこども 劇場版 [DVD]

  • 発売日: 2011/06/03
  • メディア: DVD

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www.nhk.jp

 松重豊國村隼古舘寛治安藤玉恵など芸達者な人を使って『臭いモノには蓋』の男社会を徹底的にコケにしたコメディは、大本営発表と化した夜7時のニュースをやってる放送局とは思えない、です。社会問題を扱う切れ味だけでなく、主演の松坂桃李君自身のセルフパロディみたいなテイストも気が利いています。頭空っぽのイケメンが自分自身を笑い飛ばす皮肉っぷりはちょっと60年代のゴダールみたいなシニカルさです。

権力を持っている人たちって、見下している人間に対して想像力がない

(相手を)見下すのは勝手だけど、見くびるのはやめた方がいい

(今の世の中)お金の事ばっかりに必死になって、あまりにいびつに歪んでしまって。絶対このままじゃダメだって皆判ってる。でも誰も止められない

 コミカルな中にグサグサ来るセリフをぶち込んでくる渡辺あや氏、良い仕事をしています。松坂君もそれを正面から受け止めて演技している。面白いドラマです。第1回の再放送は28日夜11:40から。


 と、いうことで、映画館が封鎖されそうなので、これは見ておかないと、と急いで見に行った映画です。渋谷で映画『アンモナイトの目覚め
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gaga.ne.jp

 舞台は1840年代のイギリス。イギリス南西部にある海沿いの町ライム・レジスで、人間嫌いで世間との繋がりを断つように生活する古生物学者メアリー(ケイト・ウィンスレット)。かつて発掘したイクチオザウルスの化石が大英博物館に展示されて脚光を浴びたが、女性の彼女には論文発表や学会への入会は認められなかった。今は土産物用のアンモナイトの発掘で生計を立てている彼女は、裕福な化石収集家の妻シャーロット(シアーシャ・ローナン)を数週間預かることになる。教養があり裕福で容姿端麗、と全てが自分と正反対のシャーロットに冷たくしながらも、メアリーは彼女に惹(ひ)かれていく。

 実在の古生物学者メアリー・アニングをモデルにした作品です。貧しい労働者階級の家に生まれた彼女は1811年、わずか13歳でイクチオサウルスの世界初の全身化石を発掘、独学で地質学や解剖学を学び、さらに多くの化石を発見するが、女性で富もないメアリーは論文発表も学会入会も認められませんでした。しかし彼女の研究はダーウィンの進化論の理論形成にも影響を与えたともいわれており、2010年、王立協会はメアリーを「科学の歴史に最も影響を与えた英国女性10人」の1人に選んでいるそうです。

 アカデミー賞女優のケイト・ウィンスレット(写真左)が彼女を、近年 アカデミー賞ノミネートの常連のシアーシャ・ローナン(写真右)が相手役を演じています。
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 メアリーは海岸で化石を発掘、それを売って僅かな生活の資を得ています。10人産んだ子供の内 8人を失ったことで半ば心を病んだ母親と二人暮らし。
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 ボクは知らなかったのですが、化石の発掘って化石が含まれていそうな石を拾ってきて丁寧に削り、文字通り掘り出していく作業なんですね。地層や石を選ぶ経験と勘、それに丁寧な作業が必要です。
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 ある日 彼女の元にロンドンから裕福な化石収集家がやってきます。彼女の仕事のやり方を見学させて欲しいというのです。いやいやながらも謝礼に惹かれて、メアリーは申し出を受けます。

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 彼には鬱病で心を病んだ妻、シャーロット(シアーシャ・ローナン)が同行しています。海岸の気候が気分転換に良いと考えた彼は妻を街に長期療養させることにします。 そして、その間 妻の話し相手になって欲しいとメアリーに頼み込みます。

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 これまた嫌々ながら、メアリーは彼女の相手をすることにします。
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 ある日 シャーロットは高熱を発します。人間嫌いだったメアリーですが放ってはおけません。献身的に看病をするうちに、彼女という人間に興味を持つようになります。
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 そして、お互いが惹かれていく。

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 静かな、静かな映画です。セリフも音楽も必要最小限。二人の女優、特にケイト・ウィンスレットの表情の変化で物語が語られていきます。うーん、これは凄い。対照的な役柄のシアーシャ・ローナンも繊細な反応を積み重ねていきます。

 労働者階級の独身中年女性、裕福で教養溢れる若妻、対照的な二人ですが、荒涼とした海岸の灰色の光景は二人の女性の心中をぴったり、表現しています。人間嫌いで他人に対して壁を作っているメアリー、強権的な夫に絶望しているシャーロット、鬱屈しているのはどちらも共通しています。
 どっちが主でどっちが従ではなく、あくまでも二人が対等の関係というのが、ジェンダーという政治的な意味付けから逃れることができる?LGBTQならではかもしれません、

 映画の中で繰り返される岩の中から化石を掘り出していく行為は、自分の中を掘り下げて隠れていた自分を見つけだすというメタファーになっています。特に年長のメアリーがシャーロットに『掘り出されていく』という傾向が強く感じられたのは見事な脚色だと思います。

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 ただ、あまりにも静かで息が詰まりそうになるので、もうちょっと音楽を使っても良いとは思いました。これは個人的な感覚ですが。
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 舞台も同じ海岸だし、女性同士の恋愛をテーマにした時代劇ということで、昨年の傑作『燃ゆる女の肖像』に良く似ています。
spyboy.hatenablog.com

 共に端正に作られたLGBTQを題材にした芸術映画ですが、こちらは女性の権利や社会進出まで絡めているところが、もうちょっと現代的なテイストを感じます。テイストは現代的だけど、音楽の使い方などは古典的と言うかオーソドックスなところも、前衛的な『燃ゆる女の肖像』と対照的です。
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 登場人物たちに対する感情的な思い入れはありませんでしたが、やっぱり 今の時代 恋愛ものは異性間より、同性間の方が遥かに盛り上がります(笑)。障害もあるし描くべきことが沢山あるからでしょう。
 大英博物館でのラストシーンは本当に素晴らしい。ケイト・ウィンスレットシアーシャ・ローナンの演技を堪能できる見事な作品でした。

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