特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

楽観主義は勝つ(笑)。:映画『合衆国最後の日』

勤務先の沖縄支店の人に話を聞いてみた。ボクが20代のころ(笑)、沖縄の得意先を一軒一軒何日もかけて、クルマで一緒に回った人だ。毎日 朝8時から夜12時過ぎまで、あの頃は若かったからなあ(笑)。暑すぎるせいもあるけど、沖縄の人は夜が強過ぎるのだ(笑)。今は責任者になっている彼によると『オスプレイ那覇市内の真上で飛行機モードからヘリモードに切り替えている』そうだ。森本敏というどこの国の防衛大臣だかわからない男は『飛行モードの切り替えは市街地の上では禁止にする』と言っていた。ところが、社屋のすぐ近くでオスプレイの音(独特の音らしい)が聞こえたので、皆驚いて外に出たら、丁度頭の上でモードを切り替えていたそうだ。こういう話は配備初日からあったらしく、現地の新聞でも報じられている。こうやって沖縄の人の心の中に政府の嘘が少しずつ降り積もっていく。『信頼』というものをいったん失ったら、なかなか取り返せないものだ、というのは社会人なら誰でも知っていることだと思うのだが。
                                                                                    
もう少しでアメリカ大統領選だが、スプリングスティーンが投票日ぎりぎりまでオバマ氏と一緒に各地を回ることになったそうだ。Bruce Springsteen大接戦の中でオバマ氏は白人のワーキング・クラスヒーローの手を借りたいのだろう。
激戦州のウィスコンシンオハイオ、5日はオバマ夫妻と一緒にアイオワこの20年間の規制緩和も民営化も、結果は金持ちをより太らせ、中産階級を破壊しただけだ。真面目にこつこつ働いている人が報われるようにならなければアメリカだって、日本だってお先真っ暗だ。選択を間違えたら、それこそ『合衆国最後の日』がくるぞ(笑)。全知全能なヒーローなんかいない。こんな時代だからこそ、よりマシなほうを選ばなくてはならない。アメリカ人、わかってんだろうな。
                     

最近 ミニシアターがどんどんなくなっている。東京ですらこうなのだから、これから日本の文化と言うものはどうなっちゃうんだろうかと思う。
来月閉館する渋谷のシアターNでロバート・アルドリッチ監督の77年の作品『合衆国最後の日』。原題は『Twilight's Last Gleaming』

合衆国最後の日<2枚組特別版> [DVD]

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基本的に封切第1週は混むから見にいかないのだが、閉館記念でアルドリッチ(オルドリッチ)監督の作品『合衆国最後の日』と遺作『カリフォルニア・ドールズ』(傑作)をやるそうなのだ。これは応援に行かざるを得ない(笑)。

                      
モンタナ州ICBM基地が脱獄囚に乗っ取られた。脱獄囚のリーダーはベトナム帰りの元将軍、デル(バート・ランカスター!)。無実の罪を着せられ投獄されていた彼はベトナム戦争アメリカ政府が始めたという秘密文書の公開と国外逃亡を要求して、基地に立て篭もる。ICBMの発射スイッチを手にして。
                                                                         
驚いた。登場人物がタバコ吸いまくり、とかウィスキーをストレートで飲みまくり、とかいう時代背景を除けば、思い切り今の話なんだもん。
将軍が公開を要求する秘密文書(国防会議の議事録)には、戦争はアメリカから仕掛けた、ということが記載されている。前政権が行ったことに対して現大統領は苦悩する。だが、その文書の公開には全ての官僚組織、国務省もCIAも軍も猛反対する。

                                   
今 見ても緊迫感はぞくぞくする。マルチ画面を駆使した話の運びは、そのころは斬新だったのだろう。特にあわやICBMが発射されるシーンはものすごい緊迫感で、世界の終わりが本当に描かれているような錯覚さえ覚えた。
バート・ランカスターのことを、監督は『観客が、こいつの言っていることは本当のことだと信じてしまうような俳優』と評したそうだが、まさにそういう感じ。ハンサムで重厚な表情のなかに真実を隠していた政府に対する怒りを静かに表現している。この役柄は実際にベトナム戦争の秘密文書を暴露したダニエル・エルズバーグがモデルになっているという。他の役者さんも皆 かっこいい。皆 顔に深い皺が刻まれているし、それぞれに感情を表現する見せ場がある。端役にもバート・ヤングジョージ・ケネディなどアルドリッチ作品に欠かせない人の顔が見えるのがうれしい。おまけに往年のTVドラマ『謎の円盤UFO』のストレイカー司令官役のエド・ビショップまでコマンド部隊の隊長役で出てきたのは嬉しかった。
●男前のバート・ランカスター

最近の映画は殆ど1時間半程度だが、この作品は昔の映画らしく2時間半というフォーマットだ。少し長く感じるけれど、お話の展開がひと山もふた山もある。今 見ると新鮮だし、お話が一段と深く感じられる。
ホワイトハウスでの閣僚会議のシーンがいい。
殆どの閣僚は情報公開に反対する。混乱を避けるためには国民に本当のことを教えてはならない、と。どこかの国の原発事故みたいじゃないか(笑)。だけど、監督はその中に理性の声を紛れ込ませる。『私たちは1945年以来 国民を騙し続けてきた。今こそ真実を明かして、国民を信じるチャンスなのではないですか。』
大統領(チャールズ・ダーニング)は一度はデルを抹殺するため、軍に秘密作戦を命じる。だが作戦が失敗に終わると、大統領は自分が人質になって事件を解決しようとする。と 同時に、もし自分が死んだら秘密文書を公開することを命じる。「国民を信じることは政府の義務だ。」と言って。
                                                       
生涯を通じて、自律した個人のドラマを追及してきたアルドリッチ監督らしく、お話は途中から将軍と大統領、立場を異にする二人の男の共感のドラマに変わって行く。自分の命を懸けて、米兵5万、東南アジアの人20万人以上が死んだ戦争の真相を暴こうとする、ベトナムで捕虜生活を過ごしたバート・ランカスター。それに対して大統領も最初は『何でおれが今までの政権の悪事の尻拭いをしなくちゃいけないんだ』と喚いているが、最後には自分の職業上の義務を果たしつつ、自分の良心に従おうとする。冗談を飛ばしながら、自ら進んで死地に赴く二人の男の姿はアルドリッチ映画の真骨頂だ。

                                        
ラストシーンで二人の男の生き様が踏みにじられたように見えるところは、多くの友人をマッカーシー時代の赤狩りで失ったというアルドリッチ監督らしい観点なのだろう。だが、彼の映画は『人間はやり過ごすために日々の現実に妥協もするけれど、心の一番深い部分では「かくあるべしという生き方を望む」ものだ』ということを教えてくれる(赤狩りでハリウッドから追放された友人による、アルドリッチ監督の追悼挨拶)。
この映画でもそれは変わらない。いや、その信念はより一層強く感じられる。こんな時代だからこそ、その楽観主義とそれを持ち続けられる心の強さに感動する。人生は勝ち負けなんかじゃない。だけど正義は勝つんだよ、正しい映画では(笑)。