特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

オバマの当選と『ポリーニ・パースペクティヴ第3夜』

昨日 帰宅してTVニュースをつけたらオバマの大統領選勝利演説が流れていた。演説終了後 会場にスプリングスティーンWe Take Care Of Own俺たちは自分たちで支えあう)が大音量で流れる中、色々な人種が混じる観衆に向かってオバマ一家は笑顔で手を振っていた。
オバマの4年間の業績が色々言われていたが、16兆ドルの累積財政赤字のうち12兆はブッシュ時代のものだし(笑)、高失業率は財政出動によって一桁台後半に留まっている。それだって酷いが、リーマンショックインパクトを考えれば、大恐慌のときのように、また今スペインやギリシャがそうなっているように失業率が20%以上にならなかっただけでも良かったと思うのだが。
歳をとるにつれ、色んなニュースを見ても『自分だったら、どれだけのことが出来るか』と考えてしまう。そう考えると、オバマは外交は色々問題あるにしても、あの状況で大恐慌を防ぎ、オバマケアを導入しただけでも優秀な指導者だと思う。

                                 
結局 アメリカが推進してきたグローバリゼーションと弱肉強食の自己責任主義が、アメリカの社会をおかしくしているように見える。単純労働を中心に仕事は低賃金の発展途上国に移り、金融業が社会に占める比率が拡大する。そこから利益を得る1%の階層は肥え太る。それに伴い財政赤字と失業率の悪化、格差の拡大、社会資本の劣化が起きて99%の層は苦しくなる。アメリカのこの姿はこの30年間 金持ち減税(所得税)と庶民の増税(消費税)、見境のない自由化/規制緩和を続けてきた日本の姿にも重なる。日本では財政危機と言われながら最富裕層への所得税率40%をたった5%上げることすら、ままならない有様だ(この30年間で最高税率は35%も下がったのだ『マッチポンプ』の時代 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)。また規制緩和のほうは、未だに民営化や自由化を万能の処方箋だと勘違いしているバカ政治家や御用学者ばかり、維新の会も安倍晋三も野田もみんな単純にTPP推進だ。規制緩和には良いものもあるが悪いものもあるTPPがどうのと抽象的な議論に終始するより、何を規制して、何を自由化するか、具体的に取捨選択する議論をすることがまず必要だろう。そんな簡単なことがわからないのか。

だがアメリカはもしかしたら、少しは変わりつつあるのかもしれない。人種的なことは勿論だが、CNNの開票結果を見るとオバマに投票したのは主に女性、そして44歳以下だ。年配の白人男性が目立つロムニーの集会と様々な人種と年代が入り混じったオバマの集会を見て、どうしてこんなに違うのか、と思ったのはボクだけだろうか。年配の白人男なんて、人口的にも勢いでもこれから落ち目一方の連中だ(笑)。映画監督のマイケル・ムーアは『レイプによる妊娠も神の思し召し』と広言した中絶反対派のキチガイ共和党議員二人の落選、ウォール街の規制強化をずっと主張してきたエリザベス・ウォーレン上院議員への当選も合わせ、今回は女性の勝利、と言っている(ちなみにロムニーは中絶反対派)。
This country has truly changed, and I believe there will be no going back. Hate lost yesterday. That is amazing in and of itself. And all the women who were elected last night! http://www.michaelmoore.com/words/mike-friends-blog/morning-america

マイケル・ムーアが言っているように、本当にアメリカは後戻りせず変わっていくのだろうか?日本と同様 自分は何もしないで結果だけ要求する人は多いだろうが、確かに自分も動いて本当に物事を変えようとする人たちも大勢いるようには思える。
果たして日本はどうだろうか?
                                             
●投票日前日 激戦州ウィスコンシンでの集会でブルース・スプリングスティーンと抱き合うオバマ

当日スプリングスティーンはこう、スピーチした。『大統領がやらなければいけないことは、君たちや僕自身の問題でもある。どんな政党を支持していようと、金持ちだろうと貧乏人だろうと、どんな肌の色をしていようと、どんな職業だろうと、どんな性的嗜好だろうと、この世界に生きていたいと願い、皮肉や冷笑と闘うことができる自分を信じることで生活や世界を変えようする、全ての人間にとってもやらなければいけない問題だ。だから明日になったら、世界を変えるための仕事に戻ろうじゃないか。そして次の日も、また次の日もやり続けよう。』 

The President’s job, our job–yours and mine– whether your Republican, Democrat, Independent, rich, poor, black, brown, white, gay, straight, soldier, civilian–is to keep that hope alive, to combat cynicism and apathy, and to believe in our power, to change our lives and the world we live in. So, lets go to work tomorrow, and the day after, and the day after that.




ということで六本木で『ポリーニ・パースペクティヴ第3夜
会場に入ると今日もNHKのTVカメラが入っている。これで3晩連続、ということになるとさすがに地上波中継ではなさそう。BSなんか入ってねーよ。困ったなあ。まだ放送日は未定だそうだ。

しばらくしたら緒方貞子嬢(笑)が入ってきて最前列のど真ん中に座りやがった。くっそ〜(笑)。まあ、仕方ないか。国連難民高等弁務官当時 この人は、どこかの難民を船で助ける際に難民たちが飼っていた犬を国連の救援船に乗せさせなかったという話に激怒して、犬を乗せるためにわざわざ救援船を引き返させた、という記事を読んだことがある。その点 ボクは非常に高く評価している(笑)。ワンちゃんは大事なのだ。彼女はもう結構な年の筈だが足元もしっかりしてるし、身じろぎもしないで2時間演奏を聴いてたし、元気な人だった。

今日はドイツの前衛作曲家ラッヘンマンベートーヴェン中期のピアノソナタ28、29の組み合わせ。
ラッヘンマンという人はノーノに師事して、ノイズで作品を構築したり、赤軍派の手記を取り入れてオペラにしたりしている人だそうだ。hatahei666さんにご教示いただいた朝日夕刊の記事でも『ベートーヴェンは革命的な音楽家』とあったが、この日の組み合わせは今回の企画の狙いが一層、明確なんだろう。

サントリーホール:今日は噴水が流れていた

<セットリスト>
ベートーヴェンラッヘンマン
ラッヘンマン:ジャック四重奏団
 弦楽四重奏曲第3番 「グリド(叫び)」
                            
ベートーヴェンマウリツィオ・ポリーニ
 ピアノ・ソナタ第28番 イ長調 op.101
            
    休憩
              
 ピアノ・ソナタ第29番 変ロ長調 op.106 「ハンマークラヴィーア」


                      
最初はラッヘンマン弦楽四重奏曲から。バイオリンがぎーという鋸みたいなノイズを奏でて始まる。確かにノーノの作品みたいな感じだ。そこにチェロが入ったり、ビオラが入ったりして、ノイズを挿入する。いわゆるクワルテットと言うと優雅なイメージだが、優雅さは微塵もない(笑)。音階もない(笑)。あるときは単独で、あるときは組み合わさって、各楽器が刺激音をひたすら出して、建築物を構築していくような感じだ。
こういうのはボクでも弾けそう、という感じもするんだが、聴いていて楽しかった。特にノイズを出す色んな技法を見ることが出来たのは楽しかったが、クワルテットの必然性はあまりなかったかな。同じノイズミュージックと言うことで第1夜のマンゾーニより曲は良かったんだけど、編成はピアノが入っていたほうがコントラストが出て面白かったと思う。とても緊迫感がある演奏で四重奏団の面々は終わった後 場内から盛大な拍手を受けていた。

                           
そのあと登場したポリーニ先生。足取りはしっかりしていて、今日は体調がいいんだなと思った。また椅子に座るか座らないかのうちにいきなり、弾き始める。

ピアノソナタ28の第1楽章はスローということもあるが、先生のエンジンの係り具合も問題なし。今日は前回にも増していいなあ。演奏の安定度では第1夜より第2夜、第2夜より第3夜だ(良い悪いではありません。危なっかしかったけど、第1夜は信じられないくらい感動的でした)。ソナタ28は軽快なところと重厚なところのバランスが良くて個人的に好きな曲なんだけど、文字通り とても楽しい演奏でした。
ポリーニ先生の演奏風景(10/23)


休憩後のハンマークラヴィアもすばらしかった。特に第3楽章。哲学的とか評されるスローな楽章だが、確かに家で聞くときは昼寝してしまうこともよくある(笑)。だが、この日の演奏は、穏やかだけど力強さを感じる仲春の光のように脈動する音の流れの上に、時折 希望の光のように音符が上書きされる。大げさだけど、人間の精神の中にある、行きていこうとする力のようなものまで表現されているようだった。全然眠くないどころか、ちょっと泣きそうになる(笑)。
                                                   
ハイライトの第4楽章、難易度がどうとかはボクはわからないが、動き回る腕を見てると演奏するのは死ぬほど難しいんだろうな、ということははっきり判る(笑)。それをポリーニ先生は完璧に弾きこなす。それも風呂での鼻歌みたいに(笑)、唸りながら弾いているしかもスローテンポのところでなく、信じられないような早弾きのところで歌ってやんの。どーなってんだ(笑)。
クライマックスはこの人にしてはアタックが若干弱いと思ったけど、ダイナミックな音が渦のように巻き上がってはゆるやかになり、また一段と強く巻き上がって行く感じはすごい。前半のラッヘンマンは建築物を組み立てているという感じだったが、ポリーニの演奏は大理石の彫刻、それもルネッサンス期の彫刻を目の前で彫りあげているようだ。よくポリーニの演奏は氷のよう、とか表現されるが、今のこの人は全然そんなことない。雄弁な感情と流麗な美が提示されて、それが会場全体の空気を支配している、そんな感じだ。
                                       
                                           
さすがに今日のアンコールはなし。4度、5度と舞台に出てきてポリーニ翁は満場の拍手を浴びる。最後などはスタンディングオベーションに応えて、おどけて手を広げるポーズまでとって見せた。会場を出たら、もう9時を過ぎている。ホント、早かった。
第4夜も楽しみ。毎週通うのは色々大変なんだけど、この時間が何時までも終わらないでくれたらなあ。

●拍手に応える10/23のポリーニ先生。11/7は観客はもっと立ち上がってた。恥ずかしながら、立ち上がって拍手している髪の毛が薄い男がボクです(泣)。上着脱いで興奮している後ろ姿は我ながらマヌケ(泣)。