やっと梅雨が明けました。だけど、今年の夏はあまり遊んだり、出かけたりしようという感じではありません。
マスクをして、人と距離を保ちながら、の毎日が続きます。人間同士、物理的にも心理的にも、目を背けあって、と言ったところでしょうか(笑)。
思わず入ってボトルキープしかけた(笑) pic.twitter.com/CRgjJqKZ4c
— RADIO歌舞伎町 (@RadioKabukicho) 2020年8月1日
こんな夏は始めてですが、長い人生、こういう時間もあるのでしょう。
自粛警察に代表されるムラ社会の醜さ、広がる格差、徐々に崩壊する経済、その中でも続く日々の営み、考えさせられることが多い夏になりそうです。
最近はクラフト××という言葉を良く聞きます。
一番 メジャーなのは少量生産で個性的な味のクラフトビールでしょうけど、太るからボクはビールは飲みません(笑)。
クラフトコーヒーなんて言葉も耳にするようになりました。
少し前はスペシャリティコーヒーとかサードウェイブ・コーヒーとか言ってましたが、要は大量生産じゃない、産地の人を搾取しない『フェアトレード』で豆を調達し、焙煎、淹れ方までこだわっているコーヒーの事を指しているようです。
BRUTUS(ブルータス) 2020年2/15号No.909[ブレンドとモーニングコーヒー]
- 発売日: 2020/02/01
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BRUTUS(ブルータス) 2019年2月1日号 No.885 [おいしいコーヒーの教科書2019]
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この週末は珍しく見たい映画がありませんでした。ずっと家にいたので 近くのクラフトコーヒーの店に行ってきました。ちょっと距離があるのですが、散歩としてはちょうどよい、ということに最近 気が付いた(笑)。
onibuscoffee.com
別にボクはコーヒーマニアじゃありませんが、焙煎したての豆で入れたコーヒーが滅茶滅茶美味しいのは判っています。コーヒーは淹れ方と鮮度です。だけど家庭はもちろん、自分で焙煎をやっているような店は少ないから、新鮮な味は中々味わうことができない。
この店は毎日 自分のところで焙煎までやっている。エスプレッソは単に香り高いだけでなく、苦さに負けずに豆の個性が強烈に出ているのは感動しました。まるで果実を絞ったような爽やかな味と香りです。
家からちょっと散歩して、さっと飲んで、さっと散歩に戻るのにはちょうどいい。美味しいし、店員さんも感じが良いので、この店は気に入っています。
●店頭のガラスの奥には毎日使っているアンティークの焙煎機が置いてあります。
苦いものを飲んだ後は甘いモノ(笑)。近くに出来たクラフトアイスの店に寄ってみました。少量手作りで生産するのでミルクや果物もこだわりの材料を使える、生産者の顔が見えるのが売りだそうです。土日しか営業しないという強気の店です(笑)。
hioicecream.com
食べたのは北海道の美瑛町のミルク、沖縄のバナナ、四国かどこかの(笑)甘夏のトリプル・スクープ(笑)。前回ご紹介した神宮前のソフトクリーム屋と同じ、イタリアのメーカーのマシンを使っているそうです。
少量生産とは言え、アイスというのはなかなか難しい。ちゃんとしたレストランで手作りしたアイスや、産地の町どころか牧場まで決まっている、一口食べるだけでびっくりする神宮前のソフトには負けるとは思いましたが、それでも手軽に食べられて美味しかったです。
特筆すべきなのは、どちらの店もおしゃれなだけでなく、オンライン通販とか卸とかサブ・スクリプション(定額制)など、店頭販売以外の新しい試みを取り入れながら、産地や味にこだわった食べ物を作っていることです。高度成長期からバブル期にかけてメーカーや卸、量販店などが流通を支配していたころには考えられないやり方です。世の中 ゲリラ戦が正規軍に入れ替わりつつある。
腕利きの頑固おやじの店は好きですけど、もはや絶滅危惧種。バングラで正当な雇用を作りながら鞄を作っているマザーハウスや、旅館の星の屋など、若い人が元気がある店へ行くと似たようなことを感じますが、若い人たちは彼らなりに新しいやり方を模索しているんでしょう。本当に超美味しいのは頑固おやじの店ですけどね(笑)。
普段 ボクは日本の悪口ばっかり言ってますけど(笑)、資本主義の中で、質とエシカル(倫理的)なことを両立させようとする試みは若い人を中心に日本でも確かに生まれてきてはいます。セブンイレブンでも店頭にエシカルとかのポスターが貼ってある世の中ですが(資源をじゃぶじゃぶ使うコンビニ自体エシカルじゃないだろうって!)、大量生産や大資本ではできないことばかりです。小さな試みが沢山生まれてきているのは確かに希望だと思います。
日本で一番ダメなのは政治です。どうして二世三世ばかりの、あんなに無能な連中ばかりが集まってるんでしょうか。。選挙に行かない国民が悪いんだろうな。
ということで、新宿で『WAVES/ウエイブス』
www.phantom-film.com
フロリダの裕福な黒人家庭に育ったタイラーはレスリングのスター選手として将来を嘱望されていた。大学の奨学金、美人の恋人と満たされた生活を送る彼だが、厳格な父親のスパルタ教育には辟易していたものの反抗することができない。今までの無理がたたって肩を負傷してしまったタイラーは同時に恋人の妊娠が発覚、人生が狂い始めるが。
近年アカデミー賞を取った『ルーム』や『ムーンライト』、それに『フロリダ・プロジェクト』など優れた作品を手掛けていることで有名なインディ系映画会社A24の新作。設立されて8年で25回もアカデミー賞にノミネートされているプロダクション。今作も非常に評判が高い。
映画は前半と後半に分かれています。
前半は裕福な黒人家庭の長男、将来を嘱望されるレスリング選手のタイラーの物語。
●映画はスポーツカーでマイアミを疾走するタイラーと彼女の姿から、始まります
タイラーはいわゆるリア充です(笑)。ハンサムなスポーツ選手で奨学金も得られそう。親も金持ち、彼女は美人。遊びもスポーツも学生生活も充実している。ボクの嫌いなタイプです(笑)。
彼は父親や学校からスパルタ式の教育を受け、それに応えてきました。しかし周囲の期待の大きさから薄々感じていた体の不調を言い出せず、オピオイド(アヘン。今 アメリカでは中毒が社会問題になっている)でごまかしながら試合に出場、肩のけがで負傷してしまいます。
シーズンを棒に振ってしまった彼に父親は冷ややかです。大学への奨学金も危なくなる。と同時に、同級生の彼女の妊娠が発覚、彼の運命が狂い始めます。
父親は建設業者として熱心に働き、成功した人物です。本人曰く、黒人だから白人の10倍働かざるを得なかった、と。
そういうタイプにありがちですが、成功した自分に自信を持っている。ストイックで自分にも厳しいが、家族にも厳しい。他人に自分の価値観を押し付ける。
●父(右)と子
毎週教会に通い、良い人間であろうとする。抑圧的、家父長的、そして保守的でもあります。
息子はそんな父の期待に応えようと頑張ってきました。身体が悲鳴を上げても、弱音を吐くこともできなかった。いざ夢が絶たれたとき、彼は自暴自棄に襲われます。
監督の実体験が反映された話だそうですが、いやーな感じです(笑)。自分の父親も抑圧的な人間だったので、こういう父と子の物語ってボクは大嫌い(笑)。
父親も息子も弱さをひた隠しにして強がってばかり。で、こういう連中に限って、いざって時、女性にすがって泣いたり、過度に支配的になったりする。こういう男性像、良くあるけど、頭にきます。甘えてんじゃねー、クズ。
客観的に見れば、彼らも社会にはびこるバカなイデオロギー、男性優位主義の犠牲者でもあるんですが、それでも愚かさには代償をはらわなければならない。こういうクソ男は死ね、としか思いません。くたばれ、豚野郎! ボクは男には酷薄なんです(笑)。
しかし映画の主眼はそこではありません。画面と音がひたすら美しい。あふれるような太陽と海、ピンク色の夕景、夜に浮かぶネオン、など美しいマイアミの光景。絵画的ともいえるような画像の光、そして鍛えられた登場人物の身体。
金属音や効果音が多用されたテレンス・トレント・レズナー(ナイン・インチ・ネイルズ)のインダストリアルな音楽、ミュージカルの様に挿入されるヒット曲。これは映画館で見るしかない。
控えめで多くを語らない演出と言い、素晴らしいセンスです。
後半はタイラーの妹、エミリーが主人公です。
タイラーの転落後、家族の心はバラバラになります。夫妻は離婚の危機にあります。快活だったエミリーは誰とも口を利かず、自分の感情を殺して、時間をやり過ごすようになります。
余談ですが、ボクもそうだった。そこからの彼女の再生の物語です。
前半のつまんない話(笑)とはうって変わって、深みのある話です。
自閉していたエミリーは、犯罪者となった兄のことを気にしないルーク(ルーカス・ヘッジス、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の男の子)と知り合います。
今まで出てきたバカ男連中とは全く対照的な、人物です。アル中でDVの父親が家族を捨てたため、彼はシングルマザーに育てられた。父親のことを憎んでいるせいか、男性優位主義とは全くかけ離れている。
恋人となったエミリーとルークの周りを死と生、生と死が交錯します。若い二人はその中で葛藤しながら、精神的に自立し、自らの力で癒され、立ち直っていく。
お話を皆迄語らない抑制のきいた演出が説得力を持たせています。登場人物たちの表情も素晴らしい。エミリー役の子とルーク役の子は実際に付き合っているそうです(笑)。
マジでつまらない前半のお話は不愉快ですが、それ以外は見事な完成度です。映像、音響、演出と もはや高級な総合芸術の域に達しています。
質的にはAクラスとしか言いようがない。甘ったれたリア充の自慢話と転落噺を見せられているような前半は正直ムカつきますが(笑)、後半のお話の完成度の高さはなんたることか、とも思います。鮮やかな色彩やカメラワークなどの映像&音楽&クールな効果音に加えて、精神性まで感じられる。画面も音もお話(後半)も実に美しい。
前半が全体の半分と少し長かったせいもあって思い入れを持てる映画ではなかったですが、質の高い見事な映画としか言いようがありません。映画を見ると言うより、体験をするような作品です。名作『フロリダ・プロジェクト』+『ムーンライト』と言えばよいでしょうか。これは映画館で是非。
『WAVES/ウェイブス』日本語字幕付き海外予告
映画『WAVES/ウェイブス』予告編|7月10日(金)公開