特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『下がり続ける内閣支持率』と映画『ありがとう、トニ・エルドマン』

楽しい3連休も、あっと言う間に終わってしまいました。これからはお盆休みを希望に生きるしかありません、うん。早く定年にならないかなあ。


この週末は女子大生とデートをしました! と言っても、姪っ子ちゃんのお誕生会、お寿司パーティーです(笑)。入学したばかりの学校のことを尋ねたら、『高校では一方的に教わるばかりだったけど、今は自分の意見を求められるので戸惑っている』と言ってました。姪っ子ちゃんながら良くわかってるな、と思いましたが(笑)、それまで学校は何をやってたんだよって感じです。19歳の子供にそんなことを言わせるのだから、日本は国ぐるみで無駄な教育システムをやってるよなーとつくづく思いました。



その一方(笑)、この週末 自民党新潟県連のこのツイートが炎上してました。わざわざ#政治とはHIPHOPである なんてタグまで作って火に油を注いでいます(笑)。

HIPHOPを引き合いに出して自民党政治学(そんなものがあるんですね)に若者の参加を呼びかけるtweetです。前回のエントリーで、若者の安倍内閣の支持率が案外高い、ということを書きましたが野党より自民党の方が若者を遥かに意識しています。それはこんなところにも表れている。若者がターゲットに入っている点は自民党の方が野党よりマシです。


しかし、これは酷い。これにかみついたのが有名ラッパーのKダブシャイン氏です。

別にボクはHIPHOPのファンじゃないし、Kダブシャイン氏も名前くらいしか知りませんが、日本のHIPHOPの草分けのラッパーの一人である彼が怒るのは当然です。自民県連の言いぐさはクソださいだけでなく、男女差別的でもあり、何より楽器さえも買えなかった若者の怒りを代弁するツールとして生まれたHIPHOPを根本から侮辱し、バカにしている
Kダブシャイン氏はHIPHOPの始祖であるアフリカ・バンバータパブリック・エネミーを引き合いに出して怒っていますK DUB SHINE 新潟自民党「政治って意外とHIPHOP。ただいま勉強中」を語る
パブリック・エネミーの『Fight The Power』。SEALDsはこのスタイルをパクったそうです。


が、日本の音楽ファンに、そういう根本的なことを知らないバカが多いのはHIPHOPに限ったことではありません。SEALDsの奥田君がフジロックに出たことに対して『音楽に政治を持ち込むな』とかいうアホが居たくらいですから(笑)。そういうバカはロックもHIPHOPも全然知らないだけじゃなく、歌詞の意味も理解してないんですね(笑)。こういうノータリンがいるから自民党が調子に乗って、HIPHOPがどうの、みたいな宣伝をするんです。こういう宣伝をする自民党には、若い奴なんかバカばかり、という意識があるに決まってます。
●Kダブシャイン氏も言及していた、人種差別に反対する有名ミュージシャンたちによる『SUN CITY』。ロック/ヒップホップ、白人/黒人の混成軍の、この圧倒的なカッコ良さ。元々ロックもヒップホップも政治的なものです。市井の人たちの音楽なのだから当たり前です。


安倍内閣の支持率が引き続き続落しています。共同通信社が15、16両日に実施した全国電世論調査によると、2012年の第2次安倍政権発足後で最低を記録しました。もちろん、不支持が支持を上回っています。

https://this.kiji.is/259232658913134077
●テレ朝でも同じ結果が。

支持率“危険水域” 加計・内閣改造にも厳しい世論


ついでにトランプの支持率も就任半年時点では史上最低を記録しました。政策別では、トランプ大統領の外交交渉能力を信用すると答えたのは34%で、66%が信用しないと答えたほか、トランプ大統領が撤廃を目指す医療保険制度、オバマケアについて、50%が存続を支持し、与党・共和党の代替案を支持するのは24%にとどまったそうです。


http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170717/k10011061811000.html


安倍晋三にしてもトランプにしても、さすがに多くの人が酷過ぎると思い始めているのでしょう。日本ですら、いかに野党がバカ揃いでも国家を私物化するような輩のお友達内閣には任せておけない、と思う人がますます増えている。誰かが言ってましたけど、電車の運転手がチンパンジ―だったら、替わりが居ようと居まいと、すぐに降ろさなければダメ、ということです。
かといって野党に政権を任せるわけにもいきません。民進党は勿論、維新や都民ファーストみたいな連中だったら最悪です。現実的には、与野党が伯仲する勢力構造の上で自民党ハト派が政権を担う、それが一番マシな解だとボクは思うんですが、皆さんはいかが思われますか。



ということで、新宿でドイツ映画『ありがとう、トニ・エルドマン

主人公のヴィンフリートは悪ふざけと変装が好きな初老のドイツ男。小学校の音楽教師だったが現在は老犬と二人で暮らしている。彼にはコンサルティングファームで忙しく働く娘のイネスがいる。老犬が亡くなったのをきっかけに、彼は彼女の任地ルーマニアの仕事先まで押しかける。折り合いが悪い父親と仕方なく数日を共にするイネスだが、仕事をしくじったことに腹を立て、父をドイツに追いかえす。その後 イネスは友人と女子会で愚痴っていると、トニ・エルドマンと名乗る出っ歯の入れ歯と長髪の小汚い男が声をかけてくる。追い出したと思った父親だったのだ- --



今年のアカデミー外国語映画賞にノミネートされた家族ドラマです。他にもカンヌ映画祭の国際映画評価連盟賞、全米批評家協会賞などを受賞する等 玄人筋に非常に評価が高い作品です。


ただ、ボクはあまり笑えなかったんです。父親のルックスがでかくて汚い。それでやたらとギャグを連発するのですが、全く面白くない。全然似てない変装に、おなら枕、おもらしなど、つまらない冗談を押し付けてくる。それをゆったりとしたペースでやられるものですから、嫌悪感すら覚えます。上映時間が2時間40分もあるんです。こんなつまんないギャグを飛ばすんなら、話を早く進めろよ。

●このオヤジは一人暮らしの自宅でも下手くそな変装をして犬を抱いています。犬を抱いてるのは共感できるけど。


観客のボクと同じことを娘のイネスも感じています(笑)。コンサルティング会社で働く彼女は、プレゼン、調査、接待と、休日も含めて超忙しく過ごしています。日々の生活も効率第一。いくら父親とはいえ、スローモーなオヤジギャグに付き合っている暇はありません。この映画、面白くないんですが、面白くないと感じるイネスには非常に感情移入できるんです(笑)。
●仕事場に突然押しかけてきたオヤジ(左)に娘(右)はこんな表情


彼女はルーマニアで石油会社のコンサルティングをしています。業務の合理化と言えば聞こえが良いですが、要するにリストラを提案する仕事です。無駄な業務を効率化すれば企業の利益は増えます。従業員の給料も増えるかもしれない。しかし、雇用は減る可能性が高い。合理的・効率的に仕事をするイネスですが、心の底から楽しいという感じではありません。今後発展するアジア圏で働きたいという自分の夢をかなえるため懸命に努力はしていますが、どこか割り切って仕事をしています。ここいらへんの描写はうまいというか、非常にリアルです。まさに我々の仕事と同じ、と思いました。

●接待のパーティー会場にまでオヤジはついてきます。

ルーマニアでドイツ人が働くってどういうことでしょうか。ルーマニアでは石油が取れます。しかし、それで金儲けをするのはドイツ企業です。資本も技術もルーマニアは足りないですから、それは仕方がない。それに外国企業はルーマニアの人にも雇用を作ります。現場作業はもちろん、彼女のコンサル会社でもアシスタント業務に優秀なルーマニア人を大勢雇っています。個々人で見ればルーマニアにはうさんくさいやつもいるけど、素朴で優しい人もいるし、高い教育を受けて優秀な人も多い。でも高給をもらい、夜は仕事仲間の外国人ばかりが集まるパーティや高級スポーツクラブで過ごし、時にはコカインもたしなみ、高級マンションで暮らすイネスらとは別の世界です。言葉も違う。そもそもイネスは殆ど英語で仕事をしています。プライヴェートではドイツ語にもどるけど、1年以上赴任してもルーマニア語は判らない。殆ど植民地状態です。
●変装しても、こんな汚いオヤジが来たら嫌ですよね。

●汚いだけでなく、バカなんです。オヤジは娘に手錠のいたずらをして、それが外せなくなります。


ボクの知り合いのルーマニア人で、8か国をペラペラ話しマーケティングの博士号をもっている女性がいます。それだけ優秀な人でも国内にはあまり仕事がない。外国で職を得るか、この映画で描かれているように外国企業のアシスタントで働くしかないんです。彼女はボクに言ってました。 『社会主義時代はものがなかったから、みんな何も買えなかった。今は何でもあるけど、買える人は限られている。

余談ですが、職を得るために若者が外国へ出ていくことが当たり前になっているルーマニアの話を彼女から聞くと、日本も将来は若者が海外で職を求めざるを得なくなるんじゃないかと思います。少子高齢化で日本の市場は縮小していくのですから、力がある企業は海外へ主軸を置くようになるでしょ。そうなったら良質な雇用だって国内から減っていきます。これは特別なことではありません。戦前だって日本人は大勢、東南アジアやアメリカ西海岸で肉体労働者=苦力として働いていたんですから。また、元へ戻るということです。それは構わないけど、ボクは姪っ子ちゃんのことが心配です。
●バリバリ働くイネスの胸にもどこか釈然としないものがあります。



イネスは悪い人間じゃないけど効率第一で働いているから、ルーマニアにいてもルーマニアの人とは実はあまり打ち解けていない。そこに異物として混入するのが彼女の父親が変装したトニ・エルドマンです。バカで空気を読まないトニ・エルドマンはイネスの効率第一の世界を相対化させます。全然面白くないギャグを押し付けて誰とでも友達になれるトニ・エルドマンからは『お前は幸せなのか』と問われます。映画で描かれている世界がボクが垣間見ている現実と見事に重なります。

彼女がホイットニー・ヒューストンの『グレイテスト・ラブ・オブ・オール』を絶唱するところはこの映画の白眉です。文字通り心に染みます。普通のラブソングかと思っていたら逆で、自分の内面を見つける歌だったんですね。これは知らなかった。


イネス役の女優さん(ザンドラ・ヒュラー)は凄くいいです。リアルなワーキングパーソンという感じです。ぴちぴちすぎて一人で着られない服をフォークでファスナーをひっかけて強引に着る大人の女性を文字通り体を張って演じています(笑)。


高い評価を得ている映画ですが、ボクはあまり好きではない。やっぱり、つまらないオヤジギャグもだらしがない下ネタギャグは嫌いです(笑)。それにイネスとエルドマンが和解するシーンは多くの人が号泣するでしょうけど、ボクは父と娘の愛情に押しつけがましさも感じるからあまり好きじゃない。でも、この映画はそれだけじゃない。この映画が描くグローバリゼーションの現実への視線は鋭くて、切実です。それは我々一人一人の日常に帰ってくる。結論があるわけじゃありませんが、この映画には、我々の毎日はこれでいいのだろうか、と思い返させる力があります。我々はある意味 イネスと同じなんです。オヤジギャグの連発で頭に来なければ(笑)、見る価値がある、非常に質が高い映画だと思います。とにかく鋭い視点と見事な描写です。既にハリウッドではジャック・ニコルソン主演でリメイクされることが決定しています。