特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『緊急事態宣言?』と映画『21世紀の資本』

 この週末も家で静かに過ごしました。他人から見たらくだらないことばかりですが、料理に読書に運動、衣替えと自分としてはやることは幾らでもあるので、家に籠っていても忙しいのです。
 それでも、お天気が良かった土曜日は運動がてら、23区唯一の渓谷?等々力渓谷まで出かけてみました。
●都内とは思えないような光景です。

●この滝が『等々力』という地名の由来です。かっては轟くような滝だったそうです。滝の上にはお不動さんがあります。

●近所のお寺にて。時節柄 見事な格言?です(笑)


 うららかな陽気の中 新緑の渓谷をのんびり散歩していたら、勤務先からメールが来ました。『日本郵●や三菱●●は近々 緊急事態宣言が出るとして準備を始めている。当社も対策を考えろ。』というのです。
 休日のリラックスした雰囲気が一発で吹っ飛んだ(泣)。

 外出に罰則まである外国の『ロックダウン』(都市封鎖)と違って、日本の緊急事態宣言はそれほど厳しいものではありません。

 もちろん、これで充分かどうか?という問題はあります。ネットを見てるとリベラルな人を含めて『東京をロックダウンしろ』という声が高い↓ですが、それが正しいかどうかはボクにはわかりません。

 むしろ、つい、この間までファシズムの再来だと言って特措法に反対していた人たちが手のひら返しに『ロックダウンしろ』と言っているのを見ると、『なんだかなあー』と思います。

 ボク自身は『既に感染者は大幅に広まっており、東京のロックダウンに大きな意味はない。またロックダウンをするなら東京だけでなく千葉や埼玉、神奈川など首都圏全域でなければ意味がなく、物理的に不可能。』という米山氏の言ってることのほうがまともに聞こえます。
 ウィルスとの戦いは長期戦を避けられません。それだったら持続可能な方式をとるべきではないのか


 今は、政府に『説明を求めること』と『補償と自粛はセットにさせること』の方が重要だと思う。多くの人にとって喫緊の問題なのですから。

 ロックダウンしなくても、緊急事態宣言の実施は数日ではなく数週間だから、経済や生活には大きな影響があるでしょう。幸いボクの勤務先はそうではありませんが、派遣の人を何万人も雇用しているような会社だと大量解雇も始まるようです。

 いずれにしても景気が悪くなれば、みんなにツケが回ってくる。いずれにしてもダメージを最低限に抑えなければならない。



 土曜深夜にやっていたE-TVの「緊急対談 パンデミックが変える世界〜歴史から何を学ぶか〜」、これはかなり面白かったです。
 漫画家のヤマザキマリ歴史学者磯田道史氏、感染症の研究者の山本太郎氏(脳みそがまともな方の山本太郎)(笑)らが、今回のコロナウィルスが社会に与える影響を語り合ったものです。

www.nhk.jp

 興味深いことが幾つも語られました。
『第1次大戦と同時期に起きたスペイン風邪は大戦より多くの犠牲者を出したが、日本では記録・研究があまりにも少ないこと』、
『感染を防ぐためには人ごみを避ける等 人間にできることは100年前とたいして変わっていないこと』、
『香港風邪、SARS、MERS、エボラなどウィルスの脅威は度々起きており、特に2000年以降は数年に一回の割合で流行が起きていること』、
『仮に第一波が収まっても、第ニ波、第三波とウィルスは流行し、致死率も高くなってくること』、
『ソーシャルディスタンスをとって流行を遅らせるのは毒性が弱いウィルスを育てることにもつながること』

 更に前回のエントリーでご紹介したノア・ハラリ氏の『コロナ危機は「監視社会か市民のエンパワーメントか」、「国家の孤立か国際的な連帯か」の2つの選択を迫っている』という発言を紹介しながら、今回の危機は、社会の変化を促進するものであり、感染が収まれば収束するというものではない。監視社会、地球温暖化、国防のありかたなど様々な問題を浮き彫りにしていることを指摘していました。
 

 そうなんです。今回の危機で世の中の変化がスピードアップされることは間違いない。世の中は大きく変わるでしょう。それがどういう方向へ行くか。そして、どういう方向を目指すべきかが大事だと思うんです。

 普通に考えると、コロナ危機をきっかけにデジタル化は一層進んでいくでしょう。ネット上の通販やマーケティングも飛躍的に増えるし、自動運転や遠隔化も進む。それに乗り遅れる人や産業も出てくる。だから悪い方の予想だと『より一層の格差拡大』、『政府の強権化やナショナリズムによる自国ファースト化』されることもあり得る。

 一方 番組でヤマザキマリ氏が言ってたように『超個人主義のイタリア人がこの機に政府の言うことの是非を真剣に考えるようになった』ということもあり得る。磯田氏は『今回の危機で下手に戦闘機を買うより医療設備を拡充しておく方が国防としては遥かに効果があることが分かった』、『税金を払っていて良かったと思えるような国家にできるかどうかが21世紀半ばまでの課題』と言っていたように、国家や市民、経済の在り方を考え直すきっかけにだってなりえる。

 今回の危機の間接的な要因にはジャングルなどの開発や地球温暖化などの問題があるし、ウィルスの蔓延一つとっても一国だけで解決できない問題はますます大きくなってきています。国家がなんとかしてくれると言うのはもはや時代遅れの考えかもしれません。


 この番組は4月9日(木)午前0:00~に再放送があります。来週土曜はジャック・アタリ先生やユヴァル・ノア・ハラリ氏らの海外編だそうで、こちらもすっごく楽しみです。



 ということで、新宿で映画『21世紀の資本
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フランスの経済学者トマ・ピケティ氏のベストセラー『21世紀の資本』を映画化したドキュメンタリー。ピケティ氏が監修・出演し、18世紀から現代までの資本主義の歩みと問題点を、経済学者のジョセフ・E・スティグリッツ氏、政治学者のイアン・ブレマー氏、ジャーナリストのポール・メイソン氏、歴史家のフランシス・フクヤマなどが出演して解説する。

headlines.yahoo.co.jp


 世界中でベストセラーになった『21世紀の資本』は論理的かつ簡潔で、とても良い本でした。100年以上のデータから試算して、『労働による利益率より資本による利益率の方が高い、再分配を行わなければ格差は広がっていく』ということを実証的に述べています。ただし、600頁の大冊なので読むにはそれなりの根性が必要です(笑)。

21世紀の資本

21世紀の資本

spyboy.hatenablog.com

 この映画はドキュメンタリー、ピケティ自身も出演して本の内容を判りやすく噛み砕いて、説明しています。
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 前半は18世紀から現在までの資本主義の歩みです。
 産業革命が起きた18世紀の西欧は生産能力が飛躍的に増大したものの、労働者は資本家に酷使され、平均寿命は18歳!。労働者たちは組合を作り抵抗はしたものの、大きく労働条件が改善することはありません。国も当然資本家の味方、例えば当時のアメリカでは軍隊の主な任務はスト破りだったことなどが描写されます。

 状況が変わったのは2つの世界大戦と世界大恐慌でした。
 人類史上初めてとなった総力戦では労働者の協力がなければ、国は戦争が出来ません。
 その引き換えに各国で福祉や労働など法制の改善が行われます。元来 年金だってビスマルクが戦争のために作ったものです。
 また、戦後 復興のための資金を持っているのは資本家しかありませんから、彼らに重税を課すことになります。もちろん資本家にとっての社会主義革命の恐怖も労働者に味方した。

 世界大恐慌に際しては、アメリカのルーズベルト大統領が公共投資による需要の拡大と累進課税独占禁止法など格差の縮小のためのニューディール政策を推し進めます。大規模な再配分によってアメリカには中産階級が生まれてきます。アメリカの繁栄期は最高税率80%もの累進課税によって作られたと言っても良い。

 災害や不況などで資本家や政治家が自分たちの有利なように世の中を作り替えるショック・ドクトリン(CIAによるチリのアジェンデ政権転覆やロシアの経済危機、韓国のIMF危機など)を指摘する人がいますけど、災害や不況で必ずしも資本家や政治家が有利になるとは限らない
 世界大戦と大恐慌というカタストロフによって、格差は縮小したんです。

 戦後も国家による福祉政策は続けられますが、70年代の石油ショックとともに風向きが変わります。
 インフレと不況が両立するスタグフレーションが起こり、先進国の繁栄が怪しくなってくる。特にアメリカは石油の値上がりや日本やドイツなどの新興工業国との競争に苦しめられます。70年代後期から規制緩和と金融業への注力をすすめます。それを決定的にしたのがレーガン政権の小さな政府です。
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 製造業は大きな雇用を作り、如いては中産階級を育てていきます。しかし金融業やその後 勃興してくるIT産業では雇用ははるかに小さい。そして利益率ははるかに高い。金を端末の前で転がすだけで莫大な利益が転がり込んでくる。
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 現在は製造業やサービスなどリアルなモノやサービスのやり取りである実体経済は世界経済の15%に過ぎず、残りは金融などによるものと言われています。だから度々バブルとバブル崩壊が起きるんです。

 また悪いことに冷戦が終わり共産主義国との競争がなくなると、資本家は労働者たちのことを考慮する必要は更になくなっていきます。社会の格差は再び広がり、現在は上位1%に富と資本が集中しつつある。18世紀と同じだ、と語ります。
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 映画ではどこかの大学で行われた『モノポリー』(金もうけを題材にした昔からあるゲームです)の実験が紹介されます。モノポリー(独占)ではプレイヤーは働いたり、会社や土地を売買することで、金を儲けていきます。

ハズブロ ボードゲーム モノポリー クラシック C1009 正規品

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  • 発売日: 2018/04/02
  • メディア: おもちゃ&ホビー

 通常は最初の持ち金は平等ですが、実験では最初から持ち金に2倍、差をつけると何度プレイヤーを変えてみても絶対に逆転は起こらない。金持ちは金持ちのまま、です。

 そして面白いのがプレイヤーの態度です。金持ちの役を演じるプレイヤーは誰がやっても次第に傲慢な態度を示すようになる。金持ち役をやっていると誰でも自己責任とか、貧乏なのはそのプレイヤーが下手だから、と言った傲慢な態度を示すようになるそうです。これは面白かった。何を示唆しているかは明快ですよね(笑)。
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 映画には度々過去の映画が挿入されます。例えば18世紀だったら『レ・ミゼラブル』、大恐慌だったら『怒りの葡萄』、現代だったら『ザシンプソンズ』など。これが非常にわかりやすい。効果的です。
 そして識者のコメント・解説も端的でわかりやすい。

 原作本と映画とテイストが違う部分もありました。原作本は実証研究が主でしたが、映画では格差拡大に対する危機感は一層強まると同時に、資本に規制をかけることが強調されるようになります。
 資本と労働では利益率が違うのだから、格差が拡大するに決まっている。そして資本はその利益を元に法律や議席などを左右し、民主主義さえもゆがめてしまう。だから資本に規制をかけたり共有化させることはごく当たり前のことなのだ、というのです。
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 資本を規制しなければならない、といいますが、多くの人はそういう意識は薄いと思います。格差の拡大や教育の機会の欠如などに苦しみつつも、自己責任で対処しようとする、それがアメリカや日本の多くの人々の意識だと思います。

 しかし先ほどのモノポリーの実験で示された通り、世の中は最初から、政治も金儲けも金持ちが有利なように出来ている。ムリゲーなんですよ(笑)。
 大金持ちはヘッジファンドに預けて二桁の金利を受け取ることができますが、庶民の普通預金は0.02%(笑)。
 ピケティが実証したように、資本は労働より利益率が高い。貧しい生い立ちから成り上がる立志伝の人など例外がないとは言いませんが、大勢として、世の中はそういう風に出来ている。
 しかし、大勢の人が豊かになったほうが、経済は豊かになります。消費は大きくなるし、教育や医療も行きわたって、新たな発明だって生まれやすくなる。


 だったら大勢の人が豊かになるよう、政治で資本を規制するしかない
 当たり前ですよね??でも、その当たり前が今の世の中、制度では当たり前じゃない。不思議な話です。
 ピケティの大冊を読むのは大変ですけど、この映画は楽しくスラスラ、見ることができます。お勧めです。

ピケティ・21世紀の資本・3分間版