特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『日本で一番ウザいレストラン』と映画『ピータールー マンチェスターの悲劇』

 楽しかった3連休も終わってしまいました(泣)。
環境大臣がわざわざマスコミを引き連れて環境負荷の大きい牛肉を食べに行くって、世界的には恥ずかしいことくらいわからないのか?(笑)。もう、やだ。こんなバカばっかりの国。
news.tbs.co.jp

●次の日にはこれだよ。だーめだ、こりゃ。日本の恥。



 この前日本で一番ウザいレストラン』と呼ばれる店へ行ってきました。谷中にあるイラン・トルコ・ウズベキスタン料理店です。ボクは見たことありませんが、あまりの強烈さにテレビなどでも度々紹介されているらしい。
rtrp.jp
lineatguide.blog.jp


 お店は下町情緒溢れる谷中銀座の入り口に鎮座して、異彩を放っています(笑)。外観もイラン映画に出てくる現地の店のような感じです。
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 店の中はこんな感じ。店主はランプと絨毯の輸入もやっているんです。谷中銀座に別に店がありますから、商売も盛況なようです。
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 この店、テーブルも椅子もありません。現地と同様、絨毯を敷いた床に直座りして食べろ、と言うんです。
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 料理は単品も無いわけではないようですが、実質的には『食べきれないコース』1種類しかありません。値段は何と2000円(昼は1000円)。マジで食べきれない量が出てきました。
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 料理は当然羊が多く、あとは鶏の煮込みや野菜など。内容はある程度決まっていますが、各テーブル、出てくるものが微妙に違う(笑)。厨房が適当に作って、適当に出してくる、そんな感じです(笑)。しかし、ちゃんと作った料理だから、結構おいしい。値段のことを考えたら脱帽です。

 それに加えて、店の主人のアリ氏が大皿に盛った料理を、これまた適当に(笑)少しずつ配って歩きます。羊の脳味噌(ちょっと生臭い)や羊のタン(かなり美味しかった)、更にチーズが入ったナン(と言っていたけど、ピタです)は今まで他のどの店で食べたものより美味しかった。他にもカブの煮込みや豆のペーストなど。
 エンドレスで出てくる料理は、最終的には何がなんだか判らなくなります(笑)。死ぬほど量が出てくるのも、中東風のおもてなし、なんでしょうか。


 8時になるとベリーダンスのショーが始まります。ダンサーは日本人のお姉さんでしたけど、自分が踊るだけでなく、客を強制的にどんどん参加させます。
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 最終的には店中の客が立ち上がり、大きな輪ができる。見ず知らずの客同士、手を繋がせて、踊らせる。
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 そのあとは主人のアリ氏が色々客に突っ込んできます。男性客には『帰れ』、『男の客が来るなら商売やりたくない』、女性客には『結婚してくれ』、『(結婚届を出しに)今すぐ区役所行こう』
 他にも客に無理やりスピーチさせるわ、誕生日で来ていたカップルを中央に引きずり出して客全員でバースデー・パーティを始めるわ、の大騒ぎです。

 アリ氏によると、この日のお客さんはトルコ、オマーンインドネシア、イラン、インド、パキスタンイラクなど全部で11か国だそうです。
●主人のアリ氏(右)。イランの街には様々な宗教の人たちが集まっていると話していました。
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 最後には水タバコを吸わされます。マ●ファナかと思った(笑)。それと同様に、でかいガラス容器についたチューブからぶくぶく、吸い込むんです。
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 香りを嗅いだだけのボクは、良い香りだな、と思いましたが、煙を肺まで吸い込んだ友人に聞いたら、やっぱり頭がクラクラするそうです(笑)。
 このころはもう、酒池肉林?というか阿鼻叫喚?というか、あんまり覚えてません(笑)。アリ氏にナツメヤシを口の中に放り込まれて、会計の際 お土産に紅茶をもらったかな(紅茶は明快な味で超美味しかった)。


 アリ氏の客いじりも含めて、異文化が個人のちっぽけな境界を土足で踏み越えてきます(笑)。多少は気おくれしますけど(笑)、楽しい体験でした。
 普段は専守防衛に徹して自分の境界を守っていることが、時には如何にバカらしいことでもあるかを思い知らされました。これって、個人だけでなく国と国との関係だってそうなんじゃないですか。

 海外に行くのもそうですが、たまに異文化に触れる体験をするのは楽しいだけでなく、良い勉強になるなーと、改めて思いました。ネトウヨや男社会や原発ムラ、社畜といった村社会のように他を認めない排他的な連中とは一切かかわりあいになりたくありませんが、そうでなければ違いに触れることは楽しいです。違いを認められる人たちは、どうやら日本では少数派のようですけどね。


ということで、日比谷で映画『ピータールー マンチェスターの悲劇

 舞台はナポレオン戦争直後の1819年。戦争には勝ったイギリスだが、人々は戦争の傷と不況で苦しんでいた。それに対して普通選挙を求めたマンチェスターの聖ピーターズ広場で開かれた約6万人の市民集会に軍隊が突入し、多数の死傷者が出た「ピータールーの虐殺」。この民衆弾圧事件を描いた作品
gaga.ne.jp


 映画を見るまで知りませんでしたが、『ピータールーの虐殺』はイギリスでは非常に有名な事件だそうです。スノーデン事件など権力に屈しない報道で有名な新聞、ガーディアン紙の設立のきっかけとなった物語でもあります。それを名匠マイク・リー監督が事実を忠実に映画化しました。

 映画はナポレオンを破ったウォータールーの激戦の場面から始まります。イギリスとプロシアがナポレオンを破った戦いですが、勝敗に関係なく、どちらの陣営の兵士たちも傷ついています、苦しんでいます。
 冒頭の2,3分の映像だけで戦争のバカらしさを思い知らせる。お見事です。
●勝ったイギリス兵にも喜びの表情なんかありません。

 ナポレオンとの戦争に勝ったイギリスでしたが、人々は戦争による犠牲や負傷、それに物価の値上がりに苦しんでいました。
●当時は産業革命がはじまりかけている時代。戦争による義税に加えて、大工場の資本家は労働者を搾取していました。

 マンチェスターには多くの工場ができていますが、当時は労働者の権利なんか認められていません。労働条件は過酷です。
 また市場で売っているパンは値上がりしていく。戦争から帰ってきた兵士は職を探して街を彷徨う。賃金は下がっていきます。そこで盗みなどの犯罪を犯すと、上流階級の治安判事は過酷な判決を下す。コートを盗んだだけで、絞首刑です。
 これ、そんな昔の話じゃないです。イギリスで、たった150年前の話です!
●国王ジョージ4世や貴族は民衆のことを同じ人間とは思っていません。

 人々の不満はどんどん高まっていきます。また、『マンチェスター・オブザーヴァー』などの新聞が多くの人々の窮状や怒りを他の人々に知らせていくにつれ、人々の間では普通選挙を求める議論が高まっていきます。
●貴族たちは化粧やかつらを被る余裕があるわけです。

 一方 権力側の王や貴族、治安判事、それに工場主などの資本家は民衆の動きに恐れをなします。そして大陸から帰還した軍隊をマンチェスターに派遣します。また、資本家たちは自警団という名でゴロツキどもに金と武器を与えて武装させます。香港のデモに中国共産党が送り込んでいる連中と一緒ですね。

 民衆の側も権力の側も一枚岩ではありません。民衆の側には武装闘争を主張する者もいるし、穏健な運動を目指すものもいます。権力の側も即時武力弾圧を主張する者も居れば、法的手続きにのっとった対応を主張する者、普通選挙に理解を示す者もいます。

 映画は様々な立場の人々の事情や心理を淡々と描いていて、非常に判り易い。まるで大河のような群像劇です。それが次第に1点に収束していく。
●映画は史実を見事な迫力で再現しています。

 民衆の間では過激派を抑えた穏健派が主導して、ロンドンから高名な運動家、ヘンリー・ハントを呼んで、大集会を開こうとします。
●非暴力主義で普通選挙を目指す運動家ヘンリー・ハント

 労働者たちは工場を休み、女性や子供、老人も参加した平和的な集会です。これなら権力も弾圧できないはずです。近郊から多くの人たちが集まり、集まった民衆は6万人にも上ります。女性が非常に多かったことが伝えられています。
●6万人もの大集会です。多くの女性や若者も参加していました。

●ウォ―タールーの戦いで生き残った兵士も集会に参加していました(これも史実です)。彼はナポレオン軍ではなく、イギリス軍の手で命を落とします。

 当然のことながら当時は、マイクとかPA、照明なんかありません。それでスピーチとかやってたんです。急ごしらえの台の上で、大声張り上げて。よく考えれば当たり前の話ですが、驚きでした。

 一方、民衆が持ってくる旗やプラカードは今のデモと同じです。日本のプロ市民団体団塊ジジイ連中の汚らしい幟(笑)と違って、色彩的に美しい。政治的主張に加えて、地域色が濃厚です。これらの描写は非常に面白かった。
●組合が地域ごとの旗を立てて集会やデモに参加するのは映画『パレードへようこそ』等で見た現代の組合と変わりません。それだけ組合というものが地域に根付いているのでしょう

 平和的な集会でしたが、権力の側は民衆の数に恐れをなします。彼らは心の中に後ろめたさを感じているからです。

 特に工場で人々に接している資本家たちは民衆を弾圧するよう強硬に主張、最初に自警団が、次に軍隊が民衆の中に突入、殺戮を始めます。

 

 ピーターズ広場の虐殺はすぐ全国に広まりました。政府は報道を管制しようとしましたが、記者たちは虐殺を目の当たりにしたんです。『タイムズ』など保守派の新聞も積極的に政府の暴力を報じます。
●ピータールーの虐殺を描いた当時の絵画。映画は史実を忠実に表現しています。

 かねてから民衆寄りの報道を続けていた新聞、マンチェスター・オブザーヴァーの記者がウォータールーの戦いを準えて、『ピータールーの虐殺』と名付けると、その名前は全国に広がっていきます。政府は弾圧を続け、多くの運動家が投獄され、マンチェスター・オブザーヴァーも発行を禁止されます。


 直接的にはピータールーの虐殺は普通選挙には寄与しませんでした。それでも人々の運動は続きます。発行を禁止されたマンチェスター・オブザーヴァーの編集人たちは『マンチェスター・ガーディアン』紙を創刊、それはそのまま、現在の『ガーディアン』紙になります。

 どうりで、ガーディアンが権力に屈しない新聞なわけです。正直恐れ入りました。罪もない人々の血が流れた上に築かれた新聞です。おいそれとは商業主義や忖度に走る訳がありません。日本とは全然違う。それでも堺利彦の萬朝報が政府に潰されなかったら、ガーディアンみたいな新聞になったかもしれないと思わないでもないのですが。

 そして1932年、イギリスに普通選挙法が成立します(男だけですが)。
●ピータールーの虐殺から100年を記念して書かれた交響曲。歴史を継承しようという試みが続いています。

Peterloo Overture,Op.97 (ピータールー)東京佼成ウインドオーケストラ


 200年前の話、時代劇と言っても良いです。敢えてイギリスの恥部を見事なリアリティで映画化した作品です。
 時代劇と言っても現代の日本に繋がる話が沢山あります。国会前、香港、マスコミ、運動のやり方、今と共通する点や学ぶべき点が様々ある。非常に考えさせられる。何よりも民主主義は一朝一夕では生まれるものではないと改めて感じました。こうやって民主主義を獲得するための人々の苦闘の歴史を目の当りにすると、今の日本が民主主義国家なんて、ちゃんちゃらおかしいのかもしれない。

 地味な映画ですけど絢爛豪華な、そして、とても良くできた、学ぶべき点が多々ある感動的な映画です。語り口の端正さが美しい。ボクはとても面白かったです。惹きこまれる傑作でした。
www.youtube.com

Peterloo - Official Trailer | Amazon Studios