特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『鰆の燻製』と映画『彼らは生きていた』と『1917 命をかけた伝令』

 ああ、もう3月ですね。毎月の話ですが早いですねー。
 寒い冬ももう、終わり。と、そんなことを言っていると東京でも3月にドカ雪が来るんですけどね。
●梅と河津桜のアーチ?
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 この週末、新型肺炎騒ぎで新宿も渋谷も青山もやっぱり空いてました。311の時ほどではないけれど、人通りは少なかった。イベントだけでなく、一部の映画館まで閉鎖されていました。ボクは関係なく映画を見てましたが、街が歩きやすいのは良かったです(笑)。
 ただ商業への影響は大きいだろうなあ。景気への影響が目に見えてくるのは4月、5月でしょうけど、えらいこっちゃ。

 相変わらずの低能未熟、逃げ回ってばかりの安倍晋三が『この1,2週間が正念場、でも対策は今後10日をめどに取りまとめ(笑)』と、金曜日の記者会見で寝ぼけたことを言ったらしいですが、早く補正予算でも組めよ、バカ。



 トイレットペーパーやティッシュの買いだめ騒ぎにはびっくりしました。
 スーパーでは米も品薄になっているって聞きました。今日 職場の中国の人にこう言われましたもん。『コメは国産でしょ』って(笑)。
  安倍晋三の低能ウィルスが染ったのか、日本人、バカすぎでしょう。

 確かにハイテク製品や繊維、食料などはやばいけれど、普通に考えれば、紙やガラスのように重くて低単価のものをわざわざ海外から輸入してくるわけない(笑)。それに紙は設備は余剰で困っていて業界再編が続いているところじゃないですか。頭悪すぎる。
 

 スーパーでは買い占めがあっても、外食はお客さんが全然入ってない、と聞きます。そういうときこそ、行かなきゃな―と思うんですよ。
 この週末は三田にあるレストランへ行ってきました。ボクの家から出かけるには不便なので10年以上行ってなかったのですが、古いけど美味しい店なんです。フランス料理ではあるんですが、シェフ氏の個性が全開の、かなり特殊な店です(笑)。


 これは『鰆の燻製』。身が厚い鰆を燻製にして、下に敷いたちょっと酸っぱいビーツと一緒に食べるとちょうど良い味になっています。この前『鰆の糠漬け』の写真を載せましたけど、この燻製はどちらかというと淡白な印象がある鰆のコクを味わう、面白い料理でした。
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 これは、この日から始まったという白アスパラ。皮を向いてもこんなに太いのはちょっと驚きでした。甘くて苦ーい。まさに春の味です。
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 この店はその筋では有名ではあるけれど(笑)、すごく地味な場所にあってちゃらちゃらした雰囲気は微塵もない。
 以前行ったときは隣のテーブルで、女優の余貴美子が彼氏?にデレデレ甘えてましたけど(シン・ゴジラ防衛大臣役は何だったんだと思いました)(笑)、そういうのも飲み込んで店に同化させてしまう特殊な店?です。
 古いマンションの1室を改造した部屋には趣味の良いインテリアと生花、絵が飾られて綺麗にはしてるんだけど、華美さは皆無。料理も飾り気がなくシンプルですが、滅茶苦茶うまい。奇抜な外観で目を惹くインスタ映えとは対極の風景です。
●これはデザートの『イチゴのスープ』
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 メートル・ドテル氏(給仕長)に話を聞いたら、開店して35年間メニューは全く変えてない、ひたすらシンプルで美味しいものをつくるだけ。変わったのは『私たち従業員が歳を取っただけ』だそうです(笑)。メニューだけでなく、10年前、20年前と値段も変わってないからなあ。

 ある意味パニックが起きかけている世の中ですが、8テーブルくらいしかない小さな店は、この日も満員でした。料理を出す側も楽しむ側も普段通り、肺炎騒ぎなんかに流されない静謐な世界がありました。正気を保たなくちゃ。



 ということで、青山のイメージフォーラムでドキュメンタリー『彼らは生きていた
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kareraha.com

 イギリスの帝国戦争博物館が所蔵する第1次大戦の2200時間を超える白黒の第1次大戦の記録フィルムとBBCの所有する軍人のインタビュー音声を組み合わせて、『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督がデジタル技術で修復、着色、3D化して編集したもの。まるで胸が締め付けられるような原題は’’They Shall Not Grow Old'’ 


 映画は、第1次大戦当時のイギリス国内の、戦場へ行く前の兵士たちの白黒の記録映像とインタビューから始まります。
 兵士たちは皆、驚くほど若い。殆ど少年たちばかりです。当時は19歳から35歳までが兵士の年齢だったそうですが、それ以下の年齢の若い少年たちが大勢 戦場へ向かったそうです。
●白黒とカラー、同じドキュメンタリーフィルムでも驚くほどインパクトが違います。

 それは政府も世の中の雰囲気も愛国心を煽ったからです。当時は戦争へ行ってこそ一人前、ドイツなんかすぐやっつけられる、という雰囲気が蔓延していた。政府だけでなく、一般の人たちもそれを共有していた。画面に映された愛国心を煽る当時のポスターや『軍服を着てないと女性にバカにされた』などのインタビューは当時の雰囲気を生々しく伝えています。

 戦場へ赴く兵士たちの多くは自分たちが到着する前に戦争が終わってしまったらどうしよう、とか、戦争は数週間で終わるだろう、と思っていました。確かに今までの戦争はそれほどの長期戦というものはヨーロッパではなかったからです。
 しかし彼らを待っていたのは従来の戦争とは異なる、第1次大戦の地獄のような戦場でした。

 映像はここからカラーに変わります。当時の状況が鮮明に映し出される。
 そのころの戦争は塹壕戦、です。双方が戦場に穴=塹壕を掘り、その前に鉄条網を巡らせ防御しています。

 お互いの砲兵隊が援護射撃をしたあと、小銃を抱えた兵士たちが相手の陣地に突撃する。しかし、その前には鉄条網、機関銃、小銃を持った兵士たちが待ち構えています。鉄兜くらいしか防御手段がない兵士たちは、砲撃で穴だらけになった原野で、鉄条網で、塹壕の前で、大勢死んでいく。それでも軍は銃剣突撃させるしか手段がない。
 延々と突撃を繰り返す兵士たちの犠牲はやがて何十万人単位になる。やがて戦線は膠着状態になる。それが第1次大戦の実像です。

 戦闘がないときは塹壕は兵士たちにとって生活の場です。相手を見張りながら、食事をし、用を足し、眠る。死体を片づけ、負傷兵を運び出す。やがてネズミが繁殖し、塹壕には水がたまり、水浸しの生活になる。

 そんな時でも双方の狙撃兵が狙っていますから、塹壕から頭を出すと直ぐ撃たれます。時には砲撃や毒ガスなどの攻撃もある。毒ガスの被害者なんか見ていられません。ガスマスクがあっても効果がなかったり、ガスマスクが足りなくて水に浸したハンカチを顔で覆っただけの兵士もいます。

 当時は4日交替で休暇があったそうですが、体調や精神面で異常をきたす兵士が多かったからです。それでも第2次大戦の日本軍は休日なんてなかったようですから、第1次大戦を描いたこの画面を見ながら、第2次大戦時の日本軍はいかに非人間的な集団だったかという思いも浮かびました。

 やがて、場面はイギリス軍の突撃場面に変わります。発明されたばかりの戦車の突撃シーンはビックリしました。こんなフィルムが残ってたのか。

そして山ほど築かれる双方の死体の山。それも若い兵士ばかりです。この子たちが生きていれば、どれだけ世の中が変わっていたでしょう。なんと無駄なことを人類はやっているのか。

 戦闘はイギリス軍の勝利に終わりますが、戦闘が終わると双方の兵士たちが仲良くなっているのも驚かされます。双方とも同年代の若い少年たちです。お互い命令で銃を握っただけで、兵士たちは戦いたくもないんです。愛国プロパガンダに乗せられて戦場へやってきた兵士たちでしたが、凄惨な戦闘を味わった後はもう、双方とも無事に帰りたいだけ。

 兵士たちはやがてイギリス本土へ帰っていきます。しかし郷里に戻った兵士たちを待っているのは戦後の不況や失業、それに人々が向ける兵士たちへの冷たい眼でした。

 鮮烈な画面の連続はまさに驚きの映像、です。まさに正しいデジタル技術の使い方ピーター・ジャクソン監督がこのような映画を作ったのは祖父が第1次大戦に参戦したからだそうですが、第1次大戦が如何に人々の心に傷を作ったか、よくわかる映画でした。その教訓から学ばず、人間は再度 世界大戦を起こしてしまうのです。
 少なくとも一般人は、戦争では誰も得をしない。そのことが良くわかる、見事な映画でした。

町山智浩が『彼らは生きていた』を徹底解説!死者を多くした戦争の背景とは!?大ヒット記念トークイベント


 もうひとつ、六本木で映画『1917 命をかけた伝令
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 舞台は1917年4月のフランス。ドイツ軍と連合国軍が西部戦線で対峙(たいじ)する中、イギリス軍兵士のスコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)に、将軍(コリン・ファース)から、翌朝ドイツ軍に攻撃をしかけようとしているマッケンジー大佐(ベネディクト・カンバーバッチ)の部隊に作戦の中止を知らせるよう命令が下される。ドイツ軍の撤退は罠だったのだ。部隊にはブレイクの兄もいる。電信線は切られており、徒歩で伝令に行くしか命令の伝達手段はない。二人は前線を横切って、命がけの伝令に向かう。

 全編ワンカットに見える大迫力の映像が話題になっている映画です。
 『彼らは生きていた』を見た次の週に見ました。塹壕など戦場の風景がかなり忠実に再現されているのが判ります。戦場に散らばっていたり、半分土に埋まって死体や人体の破片、水につかった塹壕、死体や食料を盗み食いして丸々太ったネズミ。これを再現したのは大変なもんです。
 この作品はアカデミー賞では作品賞や監督賞は取れなかったですが、技術関連の賞を総なめにしたのは良く判ります。
●よく見ると浮いているのは死体です。

 かなりビックリするような画像ですが、『彼らは生きていた』で本当の映像を見たばかりですから、正直言って怖くはない(笑)。

 そのような中 イギリス軍の若い兵士が将軍に、明朝 撤退中のドイツ軍に攻撃を仕掛ける予定の部隊に攻撃中止の伝令に行くよう命じられます。ドイツ軍の撤退は罠で、下手に攻撃を仕掛ければ部隊は壊滅的な打撃を受ける。そして将軍は兵士の兄がその部隊にいることを知っています。その兵士は命令を伝えるために死力を尽くすであろうことも。
●将軍役はコリン・ファース。チョイ役なのに豪華です。

 映画は二人の兵士のいわば『地獄めぐり』のようです。
 兵士たちは戦場を超え、ドイツ軍が残した陣地に仕掛けられた罠を超え、破壊された町や教会を超え、残存ドイツ兵と戦いながら、まさに突撃しようとする自軍を横切って伝令の使命を果たそうとします。

 全編 中断がないワンカットの画面は観客に兵士たちと同じような体験をしているかのような感覚を味合わせます。ドラマチックさを配した、だけど雰囲気は伝わる音楽も効果的です。

 なんというか、遊園地のお化け屋敷が好きな人だったら喜ぶと思います。ボクはお化け屋敷嫌いだし(笑)、『彼らは生きていた』を見たばかりでしたので、遊園地感覚、エンタメぽさを過度に感じてしまいました。けれど、それほど怖さを感じなくてよかった、とはいえるかもしれません。怖いのも嫌いですから(笑)。


 映画としてはエンターテイメントでありながら、戦争のむなしさ、特に一般兵士に犠牲を強いる戦争のバカバカしさを感じさせるようには作られています。ワンカットの映像と音楽は大したものです。映像体験としてはかなり良い。全然悪い映画じゃありません。ただ、やっぱりドキュメンタリーには敵わないとは思いました。

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