特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『NHKスペシャル 平成史スクープドキュメント 第8回情報革命』と『淡々と面白い映画(笑)』:映画『ファースト・マン』と『ROMA/ローマ』

 楽しい連休が始まりました。
 でも10日続けて休める人は全体の3割にも満たないそうじゃないですか。皆で一斉に休むなんて時代遅れの発想です。A0153さんが仰ってましたけど『10連休は強者向けの政策
連休に思ったこと(1) - A0153’s diary
というのはまさにその通りだと思います。休めない人の方が多いんですからね。
 それに10連休できる側が強者か?というとそうでもない。なかには強者も居るかもしれませんが、不安を感じながら日々あくせく働き、やっと糧を得ている人たちが大多数でしょう。
 結局 そこにあるのは社会の分断であり、排除する人々を作り出す政治の貧困です。
f:id:SPYBOY:20190429182112j:plain 


 昨日 お風呂の中でNHKスペシャル平成史スクープドキュメント 第8回情報革命 ふたりの軌跡 ~インターネットは何を変えたか~』をたまたま付けたら、結構興味深い指摘がありました。
f:id:SPYBOY:20190429100751j:plain
www6.nhk.or.jp

 番組は「Yahoo! JAPAN」の元社長・井上雅博氏、そして、ファイル共有ソフトWinny」を公開し、「情報」の所有/非所有の関係を一気に変えた金子勇氏という最近亡くなった二人を中心にネット時代の情報の在り方を取り上げたものです。

 まず、金子氏、というかWinnyの件。
 ボク自身、Winnyと言うと怪しい、と思っていましたから、2004年に著作権法違反の幇助でWinnyの作者だった東大の金子氏が捕まったのも当時はなんとも思っていませんでした。
 
 しかし、今にしてみれば、アマゾンやグーグルなど中央のサーバーを経由せずユーザー同士が直接情報交換するWinnyは画期的なアイデアでした。確かに著作権違反やウィルスを媒介させるリスクもありますが、ある意味ネットを民主化する仕組みでもありました。
 
 日本は寄ってたかって、そのアイデアを社会ぐるみで潰してしまったわけです。金子氏は最高裁まで戦い続け、2011年に最終的に無実を勝ち取りました。しかし13年に心筋梗塞で亡くなったそうです。まだ42歳の若さでした。
 
 Winnyのような仕組みを平和利用することを考えていれば、アマゾンやグーグルの隆盛もまた違った形になっていたと思います。結局 日本は何か新しい芽が出てきても直ぐ、潰してしまう。
 我が身の不明も含めて、日本社会の閉塞性を改めて実感しました。
●参考記事
wired.jp


 あと、もう一つ、ネットがもたらすデマやフェイクニュースと人々の分断の件。
 番組ではネットによって人々は自分と同じ意見だけに触れがちになるため人々の分断が進む、という指摘をしていました。

 丁度 先週 朝日新聞で『SNSだけを情報源にしている人ほど内閣支持率改憲支持率が高い』という記事が出ました。
全体の5%を占める『「ネット限定層」の内閣支持率は60%で、全体の43%と比べて高かった。憲法を「変える必要がある」と答えたのは68%を占めた(全体は38%)。安倍内閣の政策で「景気・雇用」を評価する人が多かった。参院選比例区で「仮にいま、投票するとしたら」と聞くと、自民が64%(同43%)を占め、立憲民主は10%(同17%)だった。「ネット限定層」は、30代以下が半数を占めるほか、男性が6割と多めだ。』
 
 この調査自体は、この結果がネットをよく使う人たちだからなのか、若い年齢層だからなのか、その因果関係は判りません。ただ、うなずける結果ではあります。
f:id:SPYBOY:20190429093837j:plain
f:id:SPYBOY:20190429094746j:plain
f:id:SPYBOY:20190429094312j:plain
www.asahi.com


 NHKの番組では『ネットを使っていると人は自分が見たい情報だけしか見ない傾向になる一方、一般のマスコミをバカにする』することを紹介しています。
 それをエコーチェンバー効果と言いますが、自分が見たい情報にしか触れないでいると、どんどん意識が偏ってネトウヨおしどりマコを本気にするような狂った原発反対派、下手すればイスラム国の連中のように過激になっていくわけです。
 デマやフェイクに踊らされるのは右も左も関係ありません。どちらも一緒です。

 NHKはバカにされるマスコミの総本山じゃないか、ということはおいておいても、ネットの危険性をあらわにする話です。自分と同じ意見に触れている方が誰だって快適ですが、そんなことばっかりやっていると、デマと現実の区別が付かなくなってしまうシャブ中と一緒です(笑)。

 
 ただでさえ日本の教育は 知識偏重で自分の考えや意見を明確にする訓練が不足しがちです。付和雷同の奴隷人間を大量生産している。より一層 ネットの影響も受けやすいでしょう。先ほどのSNSだけが情報源の人ほど内閣支持率が高い、というのもそういうことではないでしょうか。

 
 番組では、先日行われた『東京新聞の望月記者を支持して言論の自由を守れと訴える新聞労連の官邸前デモ』に触れながら(番組では望月記者のことは全く出ませんでした)、マスコミがフェイクニュースやデマを検証する必要に触れていました。

 

 その中でなるほどと思ったのは『マスコミは取材過程をオープンにするべきだ』というデモ参加者の意見です。ボクはデマを検証するためには、『情報のソースを確認する』、『複数の記事を比較する』、『反対の立場の人の意見を読む』といった事を心がけていますが、確かに取材過程がオープンにされれば情報の信ぴょう性は増します。デマを見破りやすくなる。

 情報の量、伝達の仕方はどんどん変化しています。だとしたら情報を利用する我々も変わっていかなければなりません。情報リテラシーを高めるというか、テクノロジーを使いこなすだけの賢さを持てるかどうかが、現代人は問われていると思います。
●訪米時、赤カーペットにも立たせてもらえない安倍晋三夫妻。2つ目はクリックすると日韓双方の画像が比較できます(笑)


今回はどちらも、少し前の映画ですが何も触れないのは勿体ない映画です。 
 新宿で映画『ファースト・マン

firstman.jp

幼い娘をガンで亡くしたテストパイロット、ニール・アームストロングライアン・ゴズリング)は、NASAの宇宙飛行士に応募し、選抜される。妻と残った子供たちと一緒にヒューストンに移り住んだ彼はNASAで宇宙に飛び出す訓練を続ける。折しも冷戦の真っただ中、ソ連アメリカは宇宙開発競争にしのぎを削っていた。初めての宇宙遊泳や宇宙船とのドッキングを行うジェミニ計画、有人月飛行を実現するアポロ計画、事故で飛行士たちが亡くなっていくなか、ニールは初めての月着陸計画、アポロ11号の船長に選ばれるが

 『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリングが再び組んだ作品です。
この監督の前作『セッション』、『ラ・ラ・ランド』は高い評価を得たし、実際面白かったですが、個人的には好きになれませんでした。どちらも音楽がテーマでしたが、音楽に対する愛情が感じられなかったからです。技術とか構成の面ではすごいけど、この監督、性格悪い(笑)、というのがボクの感想です。

 今作はどうでしょうか。
 取上げられたのは史上初めて月に着陸した男、宇宙飛行士のルイ・アームストロング。脚本は『スポットライト 世紀のスクープ 』、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 』のジョシュ・シンガーと言う人が担当しています。どちらも秀作でしたから期待ができる。極力 事実に近い作品にするよう心掛けたそうです。

spyboy.hatenablog.com

 アームストロングという人はとにかく沈着冷静な人だったそうです。テストパイロット時代、ジェミニ8号でも事故に遭遇しても、沈着冷静な処置で対処しました。それが買われて月着陸第1号に選ばれた。

 それとは対照的に前半の映像はカメラの揺れとか、微妙な音楽で、宇宙空間の不気味さや美しさ、事故の恐怖を表現します。観ている方を静かな不安に掻き立てます。ここいら辺の演出は素晴らしいです。でも、そんなに怖くはありませんから、ボクでも大丈夫でした(笑)。

 あと、宇宙船、特にジェミニ宇宙船はボロくて驚きました。
現在の目から見るとアナログだし、リベット止めなどがゴツゴツしているし、船内も狭くてぼろい。文字通り 棺桶のようです。その棺桶が微妙に振動で揺れたり、爆音が響いたりする。
 アポロ宇宙船も現代の目から見れば超ぼろいのですが、ジェミニと比べると立派に見える。いずれにしても、こんなボロい宇宙船で宇宙に行ったのは大冒険だったに違いありません。観客もそれを認識できる。ここいら辺の作りもこだわってるなーと思いました。

 アームストロングという人の極端な沈着冷静さはある意味 エキセントリックです。子供が死んでも他人の前では殆ど口に出さない。そのことについては何年も妻と会話をしない(笑)。月に行く時も家族に何も話そうとしない。これで最後になるかもしれないのに子供にも何も話さない(笑)。黙々と荷造りを続ける夫を妻が無理やり子供たちの前に引き出して、話をさせるのですが、やっぱり話がはずまない(笑)。この沈着冷静さは事故対応には向いていますが、家庭生活には明らかに向いていない。

 お話しのクライマックス、月面着陸も淡々と進みます。月面着陸の際 主人公の隠されていた内面が初めて吐露されますが、オチとしてはいまいちだったとボクは思います。
この映画を見ていて深く感動するとか涙するとかは有りませんが、演出は過不足なく、的確、職人芸だと思います。観ていて面白かったことははっきり言える。今までのディミアン・チャゼル作品のように意地が悪い視点もありません。機会があれば見てみる価値は十二分はある優れた映画だと思います。

映画『ファースト・マン』特報


 銀座で映画『ROMA/ローマ

www.netflix.com

舞台は1970年、メキシコシティのローマという地区。中流階級の家庭に働く、先住民出身の若い家政婦クレオ (ヤリツァ・アパリシオ) からみた世界のお話。

 ベネチア映画祭の金獅子賞、アカデミー監督賞、外国語映画賞、撮影賞、ゴールデングローブ外国語映画賞、監督賞を始め、様々な賞を総なめにしていると言っても良い映画です。

 でも有料配信のネットフリックスでの公開ということで中々見る機会がありませんでした。ネットフリックスどころか、ボクはケーブルテレビすら入ってないですから。そんなの定年になるまで見る暇があるわけない。 
 3月になってイオンの中に入っている映画館、イオン・シネマで上映が始まりましたが、イオン・シネマなんか東京にねーよ!(本当はあるのかもしれませんが、ボクの知ってる東京にはない)。3月も末になって、やっと銀座のミニシアターで公開が始まりました。

 『ゼロ・グラビティ』でアカデミー監督賞を受賞したメキシコのアルフォンソ・キュアロン監督が自分の幼少時の想い出、自分を育ててくれた女性たちへの想いをこめた、いわばキュアロン監督のラブレター、だそうです。
●主人公のお手伝いさん、クレア。メキシコ先住民出身です。監督は実際にそういう女性に育てられたそうです。

 映画はタイル?石?の床を執拗に水洗いするシーンから始まります。やがて一家の主人が帰ってくると、水洗いするものの正体が判ります。
一家は白人の子供4人に夫婦と祖母、それに先住民の若い女性お手伝いさん2人、それに犬一匹と暮らしています。中庭つきの豪奢な家です。長期出張で不在がちの父親は学者らしい。監督の父親も原子物理学者だったそうです。
●主人公の家。豪奢な家です。妻が出張する主人を惜しんでいます。異様な惜しみ方は何かを暗示しているようです。
 

 親たちは忙しく、遊び盛りの子供たちはお手伝いさんに懐いています。子供が一杯なのに加えて、家事にはあまり興味がない奥さんで家はいつも散らかっているのに加えて、犬がやたらとウンチをする。バカ犬です。中庭、ガレージはウンチだらけ。父親がでかいフォードで帰ってくると犬のウンチをふんづけるのが日課になっています。これ、洒落じゃないです(笑)。口やかましい奥さんの下で仕事は大変ですが、楽しい生活。休日にはクレアらお手伝いさんも男の子とデートすることも出来る。
●子供が4人もいると、とにかく忙しい。
 

 やがて父親は長期出張と偽って愛人と暮らしているのが発覚します。そしてクレアも妊娠していることが判る。その途端にボーイフレンドと連絡が取れなくなる。ボーイフレンドは何やら怪しい自警団に入って武道を習っています。


 平凡なクレアたちの生活も時代と深く関わりを持たざるを得ません。クレアたち先住民の土地が無理やり接収されるのが描かれます。彼らは抵抗の術すらない。また1968年秋には平和的な学生運動を政府が武力で弾圧して数百人の死者を出した『トラテロルコ事件』という虐殺事件が起きています。映画の中でもそれを模した騒乱にクレアたちも巻き込まれる。ボーイフレンドが属していた自警団もそれに一枚噛んでいた。白色テロです。
●お母さんの脇を軍隊が威圧するかのように行進していきます。

 白黒の映像が美しいです。専門のカメラマンではなく、iPhoneを使って監督が撮ったそうですが、深い陰影はまるで彫像を撮っているかのようです。その中で時にはユーモラスに、時には深刻な話が展開される。淡々と、それも言葉少なに語られますから、非常に印象に残ります。音も非常に気を使って撮られている。映画館では前後左右から自然の音や話し声が聞こえてくる。なんども、実際の音かと勘違いした位です。
●とにかく画面が美しい。陰影が深い白黒の映像は情報量が多く、見ていて全く飽きません。

 監督は、商業性が全くない映画なので配給先に有料配信のネットフリックスを選んだそうです。それは判らないでもない。だけどホームシアターの設備があるならともかく、自宅のTVやPCの小さい画面、音響でこういう空間が再現できるのかどうかは疑問です。特に画面の大きさで受ける印象は全然違うと思います。でも監督がいう様に既存の映画配給会社がこういう映画をまともに配給できるのか、観客が入るのか、それも難しいところです。

 高品質で完成度が高い映画であることは間違いありません。万引き家族アカデミー賞でこれとぶつかったのは確かに運が悪かった。監督の過去への思い、お手伝いさんや家族への愛慕や追憶、それに時代への贖罪の気持ちまで伝わってきます。観客に想像力を要求する、余韻の残る映画です。ただ、ボクがこの映画で一番印象に残ったのは犬のウンチ(笑)。ウンチに始まってウンチに終わる。そんな映画です(笑)。

ROMA | Teaser Trailer [HD] | Netflix