特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

「電話はでんわ」と映画『i-新聞記者ドキュメント-』

 ボクの大嫌いなものはまず『宴会&パーティー』ですが、次に嫌いなものは『電話』です(笑)。
 まず、不意に電話がかかってくるのが耐えられないんです。電話なんてどうせロクな内容じゃないのに、考え事を中断させられたり、気分が損なわれたり、ろくなことがない。メールはこちらも都合が良いとき見るからいいんです。でも、電話ってTPOを顧みず、他人の心の中に土足で上がり込むような行為じゃないですか。人の都合を顧みない、その身勝手さが許せません。

 だからボクは自宅の電話は一切出ません。そもそも留守電に入っているものは95%以上が売り込みか世論調査、間違い電話。そんなものは出る必要がない。用があったら手紙でも書いてこい、ばーか。

 仕事でも原則 電話は出ないことにしています。会社ではスマホを渡されていますが、音やバイブレーションのスイッチは切っています。2、3日後に留守番電話にメッセージが入っているのに気が付くことはありますけど、折り返しなんかしない。営業をやっているときは流石に電話を完全無視することはできませんでしたが、今は違うので関係ありません(笑)。

 時々待ち合わせでスマホの番号を教えてくださいという馬鹿がいますけど、ボクは常にスイッチ切ってるし、もともと電車の中でも、歩いている時でも、ボクはiPODで音楽を聴いて外界の瘴気を遮断していますから、電話がかかってきても気が付くわけがない(笑)。ボクの音楽鑑賞を邪魔するのかって(笑)。

 仕事でもプライベートでも電話はとにかく無視していれば、相手もかけてこなくなります(笑)。それで損していることは多々あるのでしょうけど、それ以上に電話が自分の心の平安を搔き乱す、それがボクには耐えられません。
●人生が残り少なくなってくるとこういう気持ちになります。

 一方 自分から電話も掛けません。これも嫌なものです。自分がかけられて嫌なものは自分だってしたくないじゃないですか。それに他人に電話するような用もありません(笑)。
 唯一の例外は食べ物屋で、特にまともなお店はネットではなく電話でしか予約を受け付けないことが多いですから、そういう場合のみは食い意地が怖れに勝って電話することはあります(笑)。でも、それだって電話をかける度胸が決まるまで30分くらいかかったりする。

 プールの飛び込み台を目の当たりにしているのと同じように、他人と話すのはどうしても躊躇を感じてしまいます。食べ物屋の予約以外で自分から誰かに電話したことは5年、いや10年以上ないかもしれません。
 
 とにかく、電話はでんわ。文明は便利な反面、かえって不便なもの、災厄さえも生み出しています。ボクにとっては電話はその典型です。

●この週末の代々木公園のイチョウ。鮮やかな黄色でした。
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 ということで、新宿で映画『i-新聞記者ドキュメント-

i-shimbunkisha.jp

 オウム真理教を題材にした『A』や佐村河内守を扱った『フェイク』などで有名な森達也監督が東京新聞の望月衣塑子記者に1年以上密着したドキュメンタリー。望月記者は官邸記者会見での官房長官の菅との厳しいやりとりや今年公開された映画『新聞記者』の原案を書いたことでも知られています。
●望月記者

 政権に対して毅然として追及する態度から望月記者は一部のリベラル層から非常に持ち上げられています。でもボクは望月記者が権力を追及する姿勢はともかく、時折デマサイトを引用したり、インチキ・ジャーナリストの言ってることを根拠に質問するなど、いい加減なことも多いので、あまり評価していません。贔屓の引き倒しというか望月記者を過度に持ち上げすぎているんじゃないか、とすら思っています。だから彼女にそれほど関心はない。

 おまけに今年公開された映画『新聞記者』はフィクションですが、彼女がある程度モデルになっていました。この映画はボクはつまらなかった。全然 登場人物の心境などが掘り下げられていなくて、非常に幼稚に感じました。同じプロデューサーが同時並行で進めていた今回のドキュメンタリーもあまり行く気がなかったのですが、森達也監督だったらまともなものになっているんじゃないか、と思って、舞台挨拶付きの上映を見に行ってきました。


 映画は官邸の記者会見でのやりとりから始まります。こんな感じです。
 望月:辺野古の工事の際 元来禁止されている赤土が流出しているのではないか
 菅:法律に基づいて適切にやっている。
 望月:きちんと対策を取る気はないのか?

 いきなり望月記者のダメなところが出てきます。「『適切』というのはどういう根拠なのか」、と質問すればいいのに、『対策をとらないのか』というのは記者の『意見』です。ジャーナリストは質問をぶつけて真実をあらわにしていくのが仕事なのに、自分の意見を直接ぶつけたら失格です。
 案の定 菅はせせら笑って相手にしない。公僕の癖に、菅がはなからまともに答弁する気はないのも問題ですが、こんな質問じゃダメなのは仕方がないと思う。

 ちなみに帰宅後 この映画にも出演しているTBS『報道特集』のキャスター、金平氏のインタビューを見たら、やっぱり望月記者とはレベルが違うなーと思いました。この日の『報道特集』では安倍晋三の後援会員に桜を見る会のインタビューをしていたのですが、金平氏はひたすら聞き役に徹している。自分の意見は言わない事実だけを伝える。でも見ている側は、後援会員がいかにインチキなことを言ってるかが判る。それがジャーナリズムだと思います。

 そのあと、彼女の沖縄での取材風景が映し出されます。でかいローラー付きの鞄を引きずりながら証言を求めて、チャーターしたタクシーで沖縄の夜の街を文字通り駆けずり回る。車の中では東京に残してきた子供に電話をかける。本当に忙しい。
●これだけ忙しく現場を飛び回っていれば、事実確認がずさんになることもあるのもわからないではない、とは思いました。


 そのあと籠池夫妻、伊藤詩織氏、前川前文部次官、スクープになった防衛施設庁宮古島の弾薬庫建設を住民に隠していた件(ボクも知りませんでした)など彼女の取材光景、それに上司とのやりとり(バトル含む)、そして官邸での記者会見などが描かれていきます。
辺野古にて

 この映画の中では傍線かもしれませんが、籠池氏にしろ、前川氏にしろ、宮古島にしろ、辺野古にしろ、取材光景はかなり面白かったです。籠池の奥さんが旦那の言ってることを全く相手にしてないところとか、前川氏の知性やしなやかさ、それに疲れた顔(笑)。望月氏は取材対象に親身になって入り込んでいく。記者なら必要なことかもしれませんが、彼女は本気になって相手に向かっていく。それはこの人の良い点だと思いました。
●伊藤詩織氏、前川氏と

 前述のとおり 記者としてはボクは望月氏をあまり評価していませんが、こうやって人間性を垣間見ると印象も変わってくる。ドキュメンタリーならでは、です。

 舞台あいさつで森監督が『この人は裏表がない』と言っていましたが、とにかくこの人は言いたいことを喋っちゃう。良いか悪いかは別にして、思ったことを関西なまりでまくしたててしまう。

 だから記者会見でも前置きが長すぎる。全く質問に答えようとしない菅を始めとした安倍政権の面々は本当にひどいと思いましたが、望月氏の質問での長い前置きは見ているボクもうざいと思ってしまう。ジャーナリストには向かないかもしれないが、面白い人ではある。それに一生懸命ではある。彼女のお弁当は旦那が作っているというのも良かった(笑)。
辺野古埋め立てに抗議するデモ。彼女が取材していた、地下鉄の入り口で警官と参加者がもみ合いになった、この場面にはボクもいました。


 この人、政治部ではなく社会部の記者でした。安倍政権になって世の中おかしいと思い出して、志願して記者会見に出るようになったそうです。
 元TBSのキャスター氏を交えて、何故 彼女だけが記者会見で政権を追及するのかという会話が面白かったです。
 政治部は官邸と人間関係を良くしておいてオフレコ情報を取る、というのが仕事のやり方だそうです。社会部では確かに追及していく取材が普通だと思いますが、政治部では記者クラブ制度と人間関係で成り立っているお仲間社会です。

 従来は望月氏のように人間関係は関係なく言葉で情報を追い求めていく、というやり方はありえなかったそうです。そうなると彼女の存在自体が異物になります。お仲間同士はつるんで守りあうけれど、異物は排除する、いかにも日本的なやり方です。
 安倍政権は単なるネトウヨのアホ集団というより、旧来の日本的な構図の縮図かもしれない、とは思いました。
MXテレビ吉田豪氏と。望月氏はかなりの出たがりだとは思いました😊

 外国人記者クラブの記者たちは『何で官邸に質問を事前通告したりしなきゃいけないんだ』、『政治家や官僚たちと人間関係を築くのと仕事とは別だろう』と言っていました。欧州では記者のギルド(組合)というものがあって、会社の所属の有無に関係なくギルドから発行される記者証があれば自由に会見場に入って質問できるそうです。

 一方 日本では大企業の記者たちで作る記者クラブに入っていないと会見場に入ることすらできない。クラブの記者連中は男ばかりだし、女性はいるにしても男と同じルールに従って、媚びを売っているような連中ばかりなのではないでしょうか。安倍晋三らとの飲み会に出たのを喜々としてSNSに挙げているNHKの●田明子なんかまさにそうでしょう。自民党の女性政治家も多くはそうなんじゃないですか。
●記事を載せる、載せないで、上司との結構激しいバトルも映っていました。そういう議論があること自体は健全な組織である証拠です。

 日本の政治部の記者たちのやり方は、一般企業で言えば、取引先や社内でお酒飲んだりゴルフしたりして人間関係を構築、それで仕事や地位を得るというまさにボーイズ・クラブの世界です。この、ボーイズ・クラブをベースにした人間関係は右左関係なく蔓延っている。そういう世界を心の底から嫌悪し、それに加わらずに如何にサバイブするかを葛藤し続けている?(笑)ボクは、彼女の媚びないやり方にはシンパシーを感じました。

 中盤から森監督が官邸の記者会見場に入ろうとするサイドストーリーが挟まれます。望月記者が質問する光景をカメラに収めたいのは監督として当然です。しかし記者クラブにも入ってない、文字媒体に殆ど記事も書いていない森監督の入場は何度働きかけても許可されない。
 仲間内でもなければ、異質な人間は排除される。これもまさに日本的光景。異物としての望月記者と森監督の立場が重なっていくわけです。ここいら辺は実に面白かった。
 

 望月氏のドキュメンタリーを通して、我々自身が組織の中で『個が失われているのではないか』ということが見えてきます。確かに政治部の記者が人間関係をぶち壊すような追及をしてしまえば、自分だけでなく、会社の立場も損ねてしまう。そこで萎縮というか忖度が働いてしまう。

 しかし、組織の利害やミッションの前に自分というものがないのか。それが我々に突き付けられた課題です。その課題に対して彼らなりのやり方で戦っている望月氏や前川氏、それに対して望月氏の質問妨害を続ける官邸の役人や質問に答えない防衛施設局の役人たちの無表情な顔。
この映画では2種類の人間が描かれます。権力か反権力かというより、個があるのかないのか、我々はどちらの立場なのか。
●質問に答えない役人に食い下がる望月記者


  舞台挨拶で、望月氏は「今回の『桜を見る会』でも朝日や毎日は勿論、読売でさえ、現場では結構厳しい質問をしている記者はいる、しかしなかなか記事にならない」と言っていました。たぶん、そのせめぎあいだと思います。実生活でも我々はどちらなのか。

 饒舌な望月氏ですが、度々望月氏が黙って取材対象を見ている光景が映し出されます。官邸が望月氏を念頭に置い取材制限に関する文書をだしたことに対する抗議デモ、秋葉原での安倍晋三の演説会、官房長官の菅の街頭演説。勿論 内心はうかがい知れませんが、彼女の表情は雄弁に何かを物語っていたように思います。


 ということで、今回のドキュメンタリーは大変面白かった。舞台挨拶で森監督が『望月記者はジャーナリストとしては欠点も多いし、やっていることは記者なら当たり前のこと』と言っていましたが、それがドキュメンタリーになってしまう、ということ自体が今の日本のお寒い現状を表していると思います。

彼女を孤立させないためにも、我々は自分が個を保っているかどうか、自分自身を突き詰め続けた方が良い。映画自体の出来も劇映画の『新聞記者』の何十倍も人間を掘り下げていたし、何よりも結論を押し付けようとはしていない。こちらはお勧めです。

森達也監督の社会派ドキュメンタリー『i-新聞記者ドキュメント-』予告


『i -新聞記者ドキュメント-』Q&Aイベント


 上映後の舞台挨拶では、この映画が、先日行われた東京国際映画祭で「日本映画スプラッシュ作品賞」という賞を受賞した裏話が披露されました。
東京国際映画祭には国の予算も入っています。こんな内容ですから😊、上映に当たっては圧力や忖度があっても不思議ではない。
 しかし映画祭の現場責任者(プログラム・ディレクター)からは「しんゆり映画祭で「主戦場」が上映中止になっているような時だからこそ、是非 この映画を上映したい」という申し入れがあったそうです。しかも受賞してしまう😊。たかが市への忖度で上映中止にするような連中とはだいぶ違います(笑)。
 やっぱり『個』をいかに保っていくか、それが我々にとっても大きな課題だと思います。

 森監督はこういっています。
 メディアと社会は合わせ鏡です。社会も3流です。その3流の社会が選んだ政治家も3流です、つまりこの国は3流の国なんだっていうことを日本人は意識したほうがいい。少しでもグレードアップする方法を見出さないと本当にダメな国になってしまうと思う。ただ、今の日本のジャーナリズムはおかしいと思っている記者や報道関係者は沢山いるので、何かのはずみで劇的に変わる可能性はまだ残されていると思う。

 真の敵は政権より、同調圧力、というのは全くその通りだと思います。嘘と公私混同だらけの安倍晋三一派がクズなのは間違いないけれど😊、それ以上に我々自身が問われています。
cinefil.tokyo

●写真では分からないかもしれませんが、ノースリーブのドレスを着てきた望月記者の腕は取材のためか前腕部が真っ黒に日焼けしていました。いわゆる『土方灼け』です。そういう細かいところにかまわないところは好感が持てました(笑)。
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