楽しい楽しい夏休みも終わってしまいました。
会社に行かなくていい、というだけで、人生の質がまるで変ったかのようです。午前中は柔軟体操をしたり日課をすませ、午後はベランダで本を読んで、ギターを弾く。それから夕飯を作ってワインを飲んで寝る。定年になったら毎日をそうやって過ごすのが今から待ち遠しくてなりません。
仕事が始まった今朝は久方ぶりに登る朝陽を見ました。それだけは悪くありません。
自民党の総裁選も酷い顔ぶれが並んでいます。石破や河野は論外ですが、統一教会とべったりの小林をやたらとマスコミがプッシュしているのが気になります。今朝もXでトレンドに上がってましたし。
テレビもこの調子で、候補者らの情報。ジョギングの情報要る?パンケーキにノート、いいかげんメディアも反省しないのか。東京都知事選挙のスルーにも呆れ果てたが、劣化の自覚はないままか。
— Kako(人民kakopon) 入管法改悪反対🍉🔑 (@kakopontan) 2024年8月18日
自民・小林鷹之氏、ランニング姿公開 総裁選「遠くない時期に判断」 | 毎日新聞 https://t.co/nDGiIpW3Xj
経済安全保障を担当していた小林はおそらく経産省や産業界の一部がプッシュしているのでしょう。連中が進めようとしている『米中分断のチャンスを生かしてAIや半導体を日本に誘致する、そこで不足する電力を賄うために原発を動かす』、そんな筋書きはボクは真っ平ですが(日本では半導体は失敗すると思うので)、目先の経済のことを考えれば一定の説得力があるのは事実です。野党にはそれに対抗できる政策もない。
今朝のモーサテで1番面白かったのがこのグラフ。マーケット関係者が考える総裁選は、普通の世論調査とかなり違うようです。 pic.twitter.com/RrfX7OJu9E
— かんべえさん (@tameikekanbei) 2024年8月18日
この顔ぶれだったら、変にやる気がある奴ではなく、とにかく何もしない奴がいいです。安倍にしろ、菅にしろ、岸田にしろ、下手に何かするとロクでもないことしかしないんだから、何もしない政治家が一番被害が少ない。
主要メンバーが60代以上で、数少ない例外の40代2人が、著名ポエマーの小泉進次郎と、統一教会イベント出席して挨拶もしたのにしらばっくれた小林鷹之なの、さすが人材の宝庫の自民党様だな。
— 愛国心の足りないなまけ者 にきめっ! (@tacowasa2nd) 2024年8月19日
野党も似たようなもんだし、これが政治を忌避し続けたアホの国の成れの果ての姿か。
日本の未来は暗そうだ。 pic.twitter.com/vachMtCUZB
嘘か本当か知りませんが、タイタニック号が沈むときに生き残ったのは助けを求めてジタバタせず、沈没現場でじっとして体力を温存していた人、と聞きます。今の日本はまさにそうじゃないですか(笑)。
#令和の歴史教科書
— なすこ (@nasukoB) 2024年8月17日
「こんな感じに仕上がりました」
自民党総裁選候補 小林鷹之議員 pic.twitter.com/bgcaD5ZMnf
と、いうことで、渋谷で映画『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』
1978年3月。イタリアの元首相で与党キリスト教民主党の党首のアルド・モーロが極左武装グループ「赤い旅団」に襲われ、誘拐された。55日間に及ぶ事件の全貌が、モーロ自身や救出の陣頭指揮を執った内務大臣、赤い旅団のメンバー、モーロの妻などの視点を通じて浮かび上がっていく
『シチリアーノ 裏切りの美学』のマルコ・ベロッキオ監督が、1978年にイタリアで起きたアルド・モーロ元首相誘拐事件を題材にしたドラマ。
ボクは未見ですが、この監督は20年前に赤い旅団の側から事件を描いた作品を撮っています。監督にとって事件=夜みたいです。
今度はモーロの側から事件を描くこの作品は、事件が起きてから40年が経ったことを契機に企画が始まったそうです。イタリア版の映画ポスターは映画の中身を象徴しています。
当時は事件の意味なんか分かりませんでしたが、日本でも大きく報じられたことは覚えています。
22年作のこの映画はイタリアのアカデミー賞と言われるダヴィッド・ドナテッロ賞に17部門ノミネート、監督賞、主演男優賞など4部門を受賞、カンヌ映画祭でもプレミア部門で上映されるなど評価も高い。
しかし、上映時間が340分。殆ど6時間(笑)。前後編各3時間、間に休憩1時間。以前アジェンデ政権の崩壊を描いた4時間半のドキュメンタリーは見たことあるけど、今回はそれを超えます。作る方も作る方です(笑)。
でも監督の力量は判っているし、ボク自身 とても興味がある題材なので夏休みの1日を捧げました(笑)。1時間ドラマを6本、一気見すると思えば何とかなる(笑)。
イタリアの戦後政治史は日本とよく似ています。
イタリアも日本も第2次大戦の敗戦国で戦後50年近く保守政権が続きました。一時的に野党が政権を握ったものの、そのあとベルルスコーニ、安倍晋三と極右ポピュリストが長期政権を握りました。民放を幾つも持っているイタリア最大の金持ち、ベルルスコーニは安倍晋三より遥かにスケベですが(笑)。
共産党や社会党など野党は非現実的な政策を振り回すだけでなく、分裂してばかりで国民の信頼を得られず、結局は解体。ベルルスコーニに対抗して野党連合『オリーブの木』を構成する中道左派の政党が出来ましたが、景気の低迷や格差の拡大などで社会の亀裂は開き続け、れいわ新撰組や参政党みたいな5つ星運動のようなポピュリスト政党まで出てきました。勿論(笑)5つ星運動も上手くいきません。ローマ市長を輩出しましたが、ゴミ収集すらまともにできなかった(笑)。
現在は極右の政治家が政権につき、比較的現実的な政策をとっています。
勿論 イタリアは戦争責任を有耶無耶にせず、ムッソリーニを縛り首にし国王を追放したのは日本とは根本的に違います。しかし、これだけそっくりだと、日本が学ぶべきところが多々あるのではないか、と思うんです。
当時は判らなかったけど、今考えてみれば、モーロの事件はイタリアの政治、いや世界の政治の分水嶺になりました。
当時 イタリアの政治を30年以上握ったキリスト教民主党は汚職などで、国民の信頼を失っていました。共産党が勢力を伸ばし、街頭ではデモが頻発し、テロも起こります。テロは左翼の過激派だけでなく、実は政界や軍、NATOと結びついた右翼の秘密結社(ロッジP2)も糸を引いていた。
●右翼が過激派のふりをして引き起こしたテロ事件を描いた映画です。今作のモーロ役のファブリツィオ・ジフーニがここでもモーロ役で出演しています。
騒然とした世の中で、元首相でキリスト教民主党の党首、アルド・モーロは政権を安定させるため、野党第一党である共産党と連立政権を組もうとします。
しかし、党内は反対が大多数です。彼の友人でもあるローマ教皇も反対。イタリア政治に陰に陽に影響を及ぼしてきたアメリカも反対です。
左右の思想に関係なく、一致団結してイタリアのための政権を作るべき、と信じるモーロは与党内の各派閥をポストで釣って懐柔(笑)、『魔王』と呼ばれる保守の大物、アンドレオッティを首相に起用して黙らせ、渋る共産党も説得し、アメリカとも粘り強く交渉することで、かって誰も見たことがない、キリスト教保守と共産党との連立政権を誕生させようとします。
いよいよ国会で政権が承認される日、モーロが乗った車が武装した集団に襲われ、護衛は殺され、モーロは誘拐されてしまいます。当時活発に活動していた極左の過激派、赤い旅団からは犯行声明が届きます。
映画はモーロ(ファブリツィオ・ジフーニ)や彼の妻であるエレオノーラ(マルゲリータ・ブイ)、赤い旅団メンバーのアドリアーナ・ファランダ、捜査の責任者である内相のコッシーガ、ローマ法王パウロ6世(トニ・セルヴィッロ)など多面的な視点で描かれています。
●監督は『夜よ こんにちわ』でも赤い旅団メンバーのアドリアーナを描いています。彼女は後日 赤い旅団を脱退。
上映時間6時間と言っても、TVやネットフリックスでの放映を意識した1時間弱の中編の6部構成なので、全く退屈しません。
お話は実話ベースとはいえ、虚実入り乱れています。映画の冒頭には実はモーロが生きていた、というシーンが挿入されたりもする。
想像力を掻き立てる映画ならではの描写は見事、というしかない。
実話ベースの描写も容赦ない。
首相のアンドレオッティを始めとしたキリスト教民主党の腐敗や共産党の頭の悪さは勿論、イタリアの赤化を防ごうとするアメリカはエージェントを送り込んできます。
それに社会の上層部に浸透している秘密結社ロッジP2がばっちり描かれたのも驚いた。首相のアンドレオッティは政府や党より先にロッジP2に相談して方針を決めていました。日本で言えば日本会議か統一教会が思い起こされます。ロッジP2は軍と結びついているだけ、もっと怖いですが。
7回も首相になったアンドレオッティは日本の佐藤栄作とも比較されますが、本当に悪い奴です(笑)。手練手管を使って与党内で権力を握るだけでなく、秘密結社、それに恐らく共産党や社会党とも裏で結びついていた。マフィアを使って政敵を殺した疑惑もあります。まさに『魔王』です
派閥の力学で政治が動くキリスト教民主党も日本の自民党そっくりです。
映画は革命による救済を夢見る極左の理想(と腐敗)と神の救済を求めるカトリック信仰との共通項にまでたどり着きます。どっちも宗教ですから、理屈は通じない。
赤い旅団は自らを抗独パルチザンの後継者とする妄想に取りつかれ、日本の過激派同様 内心では社会を変える気なんか全くない。そして与党同様 腐っている。連中こそ、ひたすら現状を維持しようとしている。
赤い旅団内部にはソ連かロッジP2のスパイが入り込んでいてモーロの事件もその影響ではないか、という説もあるそうです。赤い旅団は銃器には素人なのに自動小銃まで使った襲撃の手際があまりにも良すぎた。
与野党ともに腐敗した政界、アメリカの圧力、過激派の偽善と狂気、絶望的な『システム』の中で、それでも生きようとする個人の存在が重厚に描かれます。
モーロを演じるファブリツィオ・ジフーニ、妻役のマルゲリータ・ブイ、教皇役のトニ・セルヴィッロが物凄い芝居をたっぷりと見せます(笑)。この3人は本当にすごかった。
モーロは政府に手紙を書き、赤い旅団と交渉して自らを解放するように訴えます。政府は表向きは『人命最優先』と耳障りの良いことをいいますが、裏では国家の威厳を守るためにはテロリストとは交渉しないと交渉を拒否します。共産党も態度は同じです。
教皇庁だけは教皇とモーロの個人的な友人関係から、救出のために身代金を払おうと動きます。しかし政府をないがしろにする訳にも行かず、何もできない。教皇は苦悩に満ちた声で呼びかけることしかできません。
もともと、モーロの共産党との連立政権構想は保守だけでなく、左翼からも『修正主義』と非難を浴びて総スカン状態でした。しかし誘拐後は『モーロを解放しろ、連立政権を成立させろ』という声が国民の間で沸き起こります。今度は赤い旅団もキリスト教民主党も国民から総スカンになる。
しかし監督はここで、赤い旅団に憤る庶民がムッソリーニのようなファシストを待望する声も敢えて挿入します。深いです。
膠着状態の中で、赤い旅団も政府も正常な判断が出来なくなっていきます。そして悲劇が起きる。
現在では実はモーロは解放される予定だったことが判っているそうです。しかし現状を改革しようとするモーロは孤立無援でした。キリスト教民主党だけでなく、共産党や社会党も含めたイタリア政界も過激派も現状を変えたくないのです。
監督は『モーロの一番の敵は(冷戦という現状維持を図ろうとする)アメリカであり、ソ連だった』と指摘しています。実際 モーロの妻は『夫はアンドレオッティ首相に殺された』と国葬を拒否、国葬はモーロの棺なしで無理やり行われました。
モーロが作った連立政権は国民の声に押されて、いったんは国会で承認されます。しかし彼の死後 直ぐ潰れてしまう。
彼が作ろうとした政治とは何だったのか。非現実的な左派政権でもなければ、アメリカべったりでもない政権を作ろうとしたことは間違いありません。それがイタリア人自らの手によって潰された。イタリア政治の闇は深い。
その後 ソ連が崩壊して(笑)冷戦構造自体も潰れてしまいましたが連立政権が続いていればベルルスコーニが出てくることもなかったし、イタリア、いや欧州の混迷状態はなかったかもしれません。
凄い映画です。莫大な情報量と俳優さんの名演。超重厚な人間ドラマです。めちゃめちゃ見ごたえがあります。上映時間6時間でも全く間延びしなかった。
俳優さんの演技も脚色も、タブーなしで描こうとする姿勢も素晴らしい。今年のベスト1映画になりそうです。