特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『LORO 欲望のイタリア 』

 暦の上ではもう、12月。今年もあと1か月でおしまいです。本当にあっという間でした。

 12月は12月でまあ、いいんですが、毎週1回は宴会があるから、どうしてもユーウツになります。
 ボクは勤務先の宴会では1滴もお酒を飲まないし、2次会にも出ません。愛想笑いでやり過ごすだけとは言え、無意味で空疎な2時間を過ごすことを考えると気持ち的には沈んできます。おまけに普段より遅く帰るのは肉体的にも辛いし、生活のペースも乱れるし、とにかくいいことがない。
●先週土曜日、朝の日比谷公園。東京も紅葉だそうです。
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 宴会に負けず劣らず国会のほうも酷い。与党の方は桜を見る会の証拠も出さないし(名簿を廃棄したって言うけど、バックアップが残っているに決まっているでしょう)、大学入試の改悪だって、一方的に不利なアメリカとの通商協定だって、まともな議論もしない。
this.kiji.is


 安倍晋三は常に議論から逃げ回り、不祥事を起こした閣僚や政治家は責任を取らずにひたすら居座り、国会の会期末とアホ国民が忘れ去るのを待っている。
 そんな与党でも選挙のたびにバカが新党を作って野党が分裂するから、嘘つきでも政権に居座ることができる。それがこの7年間の日本の政治の実態です。
●来年1月デモがあります。それ自体は楽しみ。どんな服を着ていこうかな(笑)。


 ということで、渋谷、有楽町で映画『LORO 欲望のイタリア

 イタリアは同じ敗戦国で戦後長期政権が続いた点でも、長期政権が終わった後も政治が全く機能していない先進国という点でも日本と双璧と言われています。
 そのイタリアで戦後 最長の政権を築いた元首相をテーマにした作品です。
www.transformer.co.jp

 2006年 イタリアの元首相シルヴィオ・ベルルスコーニ(トニ・セルヴィッロ)は、マフィアとの癒着、職権乱用など度々のスキャンダルで政権から引きずり降ろされ、サルディニア島の豪奢な別荘で暮らしていた。手段を選ばず首相への返り咲きを図っていた彼の元にイタリア南部の若い野心的な建設業者が近づいてくるが- - -


 アカデミー賞を取った『グレート・ビューティー/追憶のローマ』、『グランド・フィナーレ』のイタリアの監督、パオロ・ソレンティーノの新作です。Loroとは英語で言うところの『Them』、『彼らを』の意味。

 監督の前作『グレート・ビューティ』も『グランド・フィナーレ』もボクは本当に大好きです。圧倒的に美しい映像、奇抜な造形、かっこいい音楽、お洒落なファッション、ベテラン俳優の重厚な演技、哲学的なセリフ、それらの中に沈んでいく文明と重なる人生の哀歓がイメージのようにちりばめられている。観ている間中、美をシャワーのように浴びているような気がする。
 かなりアップデートはされているけど、かってのフェリーニのテイストを強く感じます。何度も見たくなる映画なんです。映画館だけでなく、家でお酒飲みながらDVDを見るには最適(笑)。

グレート・ビューティー 追憶のローマ [DVD]

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 その反面、感想が非常に書きにくい作品でもあります。明確なあらすじがないし、実は話自体は大したものではなかったりもする(笑)。文字で感想を記すのが非常に難しい。やはり映像を味わうしかなくて、実に映画的です。


 今回は数々のスキャンダルで知られるイタリアの元首相、ベルルスコーニをフィクションを混ぜながら描いた作品です。まず史実から。

 ベルルスコーニは元々ミラノの建設業者でした。まずミラノ近郊の巨大な集合住宅の建設&完売で名をあげる。手口はとにかく強引で、自分が売った宅地の上を飛ぶ飛行機の空路まで変更させたそうです。建設業での成功を足掛かりにベルルスコーニはメディア界へ進出、出版社、そしてTV局4つを買収していきます。イタリアの民放全てを独占するのです。
 ついでに有名サッカーチーム、ACミランや保険会社のオーナーでもある。イタリア第2の大富豪、まさにメディア王です。と、同時にボローニャ駅爆破事件などの白色テロを起こした極右の秘密団体『ロッジP2』のメンバーでもあります。

 ベルルスコーニの度重なる強引な企業買収の資金源については当初からマフィアとの癒着がうわさされていました。当局から告訴されそうになったベルルスコーニは逆に政界へ進出。

 イタリアの政界は日本に非常によく似ています。戦後 キリスト教民主党社会党の連立長期政権が続き、政治家も腐敗して、汚職が横行していました。92年の『タンジェントポリ』と呼ばれる汚職事件では400人もの国会議員が摘発され、政界再編が起こります。
 保守にも左派にも国民がうんざりしていたのをいいことに、ベルルスコーニは北部の右派政党を糾合して勢力を拡大、数か月で首相に上り詰め、告訴を逃れます。

 ベルルスコーニは首相就任後も資金源、贈賄、マフィアとの関係、職権乱用、女性問題、暴言など度重なるスキャンダルに見舞われますが、首相在任中は収監されないという法律を通すなどして抵抗、結局 イタリア最長の9年間も政権を担当することになります。

 それでも2013年には未成年者売春罪と職権乱用罪で議員資格をはく奪され、議会を追放されましたが、今年の5月 欧州議会選挙で議員に返り咲いたそうです。極悪人であることは間違いないですが、一部では人気があることも事実です。これはいったい何なのか。

 ベルルスコーニのキャラクターは『私利私欲を追求する安倍晋三』と『大衆操作に長けた橋下徹』を足して2で割り、更に『服装にお金をかけて』、『性格を明るくした』(笑)という感じです。
 既存政党に失望した国民がとんでもないポピュリストを選んでしまった、というところは日本やアメリカ、イギリス、みんな共通しています安倍晋三が憲政史上最長の首相というのは本当にがっかりですが、イタリアではベルルスコーニが戦後最長の首相ということを考えれば、多少諦めもつきます(笑)。
 


 映画は2部構成に分かれています。前半はフィクション。ベルルスコーニに取り入ろうとするイタリア南部の建設業者が描かれます。貧しく仕事もないイタリア南部に生まれた若くて野心満々の若者が、金と女性と麻薬を使って成り上がろうとする。北部と南部、舞台は異なりますが、若き日のベルルスコーニのパロディでしょう。
●若い建設業者(中央)はお金で美女を集めてベルルスコーニに取り入ろうとします。

●やってることはサイテーですが、ルックスも服も景色も実にカッコいい。

●やっていることは下衆だけど、画面が実に美しい(笑)。目の保養です。


 若い建設業者がサルディニア島ベルルスコーニの別荘の隣にやってきたところから、ベルルスコーニが登場します。
 折しも舞台は2006年、ベルルスコーニは民放を買収した際の贈賄疑惑で、左派連合『オリーブの木』から発展した民主党に選挙で敗北、2回目の政権から追われたところです。しかし、まだまだ野心満々のベルルスコーニの生活が描かれます。

 豪奢な別荘、蝶が飛び交う温室、そこに集う美女、お洒落な服、豪華な調度品、美しいサルディニアの光景、美しい映像が画面に文字通り咲き乱れます。そこに時折 醜悪な人間の性(さが)が挿入される。美と醜、若さと老い、悔悟とプライドと失望、そして生と死。
奔放なイメージ。
●美女と豪邸、宝石。とんでもないパーティですが画面は実に美しい。

●奥さん(右)も別荘に暮らしているのですが(笑)

●女性には贈り物を欠かしません。

 ベルルスコーニを演じるイタリアの名優、トニ・セルヴィッロは怪物のような本人に負けず劣らず、怪物のように演じています。長回しでの演説シーンなんか見事すぎる。名演というより怪演です。彼の演技もこの映画のもたらす美の一つです。
●名演というか、怪演!

●連日連夜、美女を集めての大パーティ

 これでもか、というばかりに美女の洪水ですが、女性たちをも野心や悩みを抱えた一人の人間として描いているので、見ている側も嫌な気持ちになりません。
●20代、50代、30代、年齢に関係なく美女揃い。ただ日本やアメリカのバカ映画と違って、女性を一人の人間として描いています。

 そして、リゾート地の別荘に暮らしていてもベルルスコーニは政敵との政争、マフィアとの癒着や買収が日常になっています。本人には良心なんかまったくない。自分の権力のためなら何でもする。それでも「自分をいかに愛してもらうか」を常に気をかけているところは面白い。ただし、自分は人を愛することはない。
●笑顔で、とんでもないことを話しています。

 やがてベルルスコーニは対立する議員をお得意の買収で篭絡(笑)、2008年には政権に返り咲きます。
●対立する左翼の議員を金で買収(笑)。ベルルスコーニは首相に返り咲きます。

 しかし、経済も外交もベルルスコーニの政治は必ずしもうまく行かなかったのは皆さんもご存知の通り。

 折しも2009年4月イタリア中部のラクイラを大地震が襲い、町は崩壊、死者は300人近くに上ります。ベルルスコーニは被災地へ向かいます。
 滅茶苦茶な政治に、襲ってくる天災、ここも日本と一緒です。イタリアに救いはないのか、というところで物語は終わります。エンディングは観る人の解釈がさまざまに分かれると思いますが、ボクは実に美しく、力強いと感じました。本当に素晴らしい。
●被災地を訪れたベルルスコーニ(実際の写真)

 ちなみに現実では被災地を訪れたベルルスコーニがテント生活を送る被災者に『週末のキャンプだと思えばいい』と暴言を吐いて顰蹙を買い、自分の別荘を提供する羽目になったのですが、映画ではそのシーンは描かれません(笑)。


ベルルスコーニ伊首相、地震被災者に自身の別荘を提供 写真8枚 国際ニュース:AFPBB News

 ふと思ったのですが、これが他の人物だったらどうでしょうか。
 トランプだったら?コメディというかリアリティショー、そのまんまでしょう。深みがないから映画では厳しいけどTVだったらいいかも。
 安倍晋三だったら?みみっちい男が自分の利権維持に汲々とするせこい話ばかりで面白くもなんともないでしょうね。芸術性ゼロ。
 そう考えればベルルスコーニという人物はそれなりの大きさ、怪物性はあるのかもしれません。ローマの皇帝ネロとまではいきませんけど、そこに頭の悪い大衆が惹きつけられる。だから、これだけスキャンダルがあっても何度も返り咲くことができるのでしょう。


 映画はベルルスコーニを正面切っては非難しません。自然に笑えるようにはできているけれど、彼を非難しないし、弁護もしない。独裁者とピエロ、自分の欲望に全く躊躇しない男と気弱な男との間を絶えず行き来するベルルスコーニの心境はどうなのだろうか、と観客は想像するだけです。

 映像もお話も演技も美術も服飾も実に膨大な情報量なので、正直、1回見ただけでは消化しきれませんでした。2度目のほうが面白かった。ですが2時間40分、溢れんばかりの美の洪水に身を任せるのは楽しかったのも事実。イメージの奔流のようなフェリーニ色はますます強くなりました。
 完成度では前2作には負けているかもしれませんが、ボクは満足しました。面白いというか、やっぱり、この作品もボクは大好きです。何度でも見たいから、DVDが出たら買っちゃう(笑)。
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