島根の次は秋田。
最近の大雨には驚くばかりです。線状降水帯なんて、どこで出来るか分かりません。まさに明日は我が身です。
東京は酷暑。被災した人には申し訳ないけど、楽しい楽しい3連休。
普段より1日休みが多い、というだけで、どうしてこんなに楽しいのでしょう。
ベランダでビーチチェアを広げて、日がな読書をしていました。風が適度にあるし、木の葉の音も聞こえるので、そんなに暑くはありません。
本を読み疲れたら椅子をリクライニングさせてうたた寝し、目が覚めたらまた読んで、の繰り返しです。これは楽しい。時間があっという間に過ぎていく。
今回読んだのはピケティの最新の講演録です。いつもどおり、長期的なデータに基づく実証研究が特徴です。WW1の頃までスウェーデンは金持ちしか投票できない非民主主義国家だった、というのは面白かった。女性の権利向上もまた然り。
長い歴史の中では、ちっぽけな人間は格差や差別をなくすために少しずつ力を尽くすことしかできません。
午後になって眼が疲れてきたら、すぐ近くにあるケーキ屋へ出かけました。マカロンの元祖の店、ラデュレのチーフパティシエだった女性がやっている店が住宅街の裏道にあるんです。
この店は猫が描かれた缶に入ったクッキーが有名になってネット販売では順番待ちになるほどですが、店は判りにくいところにあるからそんなに混んでない。今年からソフトクリームも始めています。『桃のソフトクリーム』
ボクが良く行く北参道のソフト屋は自家製の牛乳で勝負ですが、こちらのソフトはミントとキルシュが効いて、まるでケーキのような味です。面白い。
夜はマンションの池の周りで夕涼み。都会では珍しくなったセミの声がうるさい位なのは嬉しいですが、ベンチに座ってもあまり涼しくはない(笑)。直ぐ部屋に戻りました。
今回は マニアックな映画です。
1934年にノーベル文学賞を受賞したイタリアの小説家、ルイージ・ピランデッロと言う人がいるそうです。全く読んだことが有りませんが、戯曲を得意とした不条理をテーマにした小説家だそうです。奇しくもその人をテーマにした作品を2本、見る機会がありました。
新宿で映画『遺灰は語る』
第2次世界大戦直後のイタリア。ノーベル文学賞を受賞したルイジ・ピランデッロの遺灰が入った骨壷をローマからシチリアに移送することになります。ピランデッロは「自身の灰は故郷シチリアに」との遺言を残していたが、彼の名声を利用したい独裁者ムッソリーニの意向で遺骨はローマに留まったままだったからです。命を受けたシチリア島の特使は迷信に影響されてアメリカ軍の飛行機から搭乗を拒まれたり、列車の中で骨壷が消えたりと、次々とトラブルに見舞われる。
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『塀の中のジュリアス・シーザー』などのタヴィアーニ兄弟の弟パオロ・タヴィアーニの作品。刑務所内での囚人たちによる演劇をテーマにした『塀の中の』は滅茶滅茶面白い作品でした。今作はどうでしょうか。
お話自体は何てことありません。シチリア島からの使者がローマから遺灰を運んでいく。ただそれだけです。
ですが、白黒の画面が非常に美しい。
終戦直後のイタリア、ドイツ軍との戦いで荒れ果てた国土や人々の風俗が非常に興味深い。
遺灰と一緒に飛行機に乗るなんて縁起が悪いと信じ込む人々や貨車で移動する人々がユーモラスに描かれます。結構笑えます。
荒廃した国土でも、平和を迎えた人々には希望がある。終戦時の日本もそうだったのでしょうか。
やがて遺灰はシチリアに着き、葬儀が行われます。ここでも地元の人々のドタバタが静かに(笑)描かれます。
終盤 画面はカラーに切り替わります。今度はピランデッロの短編『釘』が再現される。舞台はNY、シチリアからの移民の少年に少女が道端に落ちていた釘で殺されるという不条理劇です。
解説では映画全体がピランデッロを巡るメタ構造になっているとか言われていますけど、そうかなあ(笑)。ただ、画面も美しいし、不条理劇としては悪くありません。
これは純然たるアート映画ですね。非常に美しい画面とトータル上映時間も1時間半と丁度良いくらいで、これくらいなら退屈しない。それなりに面白かったです。
もう一つは映画『奇妙なこと』
この時期恒例 イタリア映画祭のオンライン上映です。
主演はイタリアを代表する名優トニ・セルヴィッロ。少し前には『LORO 欲望のイタリア』でベルルスコーニ首相を怪演しましたが、今作ではノーベル賞作家のピランデッロ本人を演じています。
今作はピランデッロの代表作である戯曲、『作者を探す六人の登場人物』が下敷きになっています。この作品は劇の中で劇中劇が上演されるというメタ構造になっているそうですが、きっと『遺灰は語る』がメタ構造になっているのもピランデッロの作風を反映させたのでしょう。
更にこの映画はその『作者を探す六人の登場人物』を舞台劇として取り扱う、という2重のメタ構造になっているコメディです(笑)。
●主人公はこの3人。セルヴィッロ(左)がピランデッロを演じています。
お話は『作者を探す』の執筆途中 深刻なスランプに陥ったピランデッロが叔母の葬儀で故郷のシチリアへ帰郷、アマチュア劇団をやっている葬儀社の二人組と出会って、というドラマです。
執筆で忙しいピランデッロは葬儀を早々に済まそうとしますが、埋葬許可を出す地元の役人は全くだらけている。融通が利かないばかりかワイロまで要求する始末。
一方 担当する葬儀屋の二人は趣味でアマチュア劇団を主宰しています。参加する地元の人たちはワーキングクラスの人たちばかりですが、彼らの間には劇を演じるという文化が根付いている。
舞台の上だけでなく、彼らの実生活でもイタリア人お得意の艶笑劇が繰り広げられます。
ピランデッロは是非にと誘われ、彼らの劇を見に行くのですが。
お話はコミカルで普通に面白い。ピランデッロを演じるセルヴィッロはいつもどおり、一筋縄でいかない役柄を謎の?説得力を持って演じていて、流石だと思いました。狸ジジイぶりは安心して見ていられる。重厚感があるけど、インチキ臭い。インチキ臭いけど、異様な風格がある。
ただピランデッロの『作者を探す六人の登場人物』を読んでいれば、もっと面白かったとは思いました。そこいら辺の文学的素養があることが前提になっている。これは自分が悪いのですが、敷居の高さもある文芸コメディです(笑)。
ムーンライダーズの音楽が典型ですが、映画も音楽も食べ物も敷居が高いからこその深み、面白さを感じることもあります。啓蒙主義に通じる嫌味もあるわけですが(笑)、そこを一概に否定してしまうのは愚かだし、心性、自分の人生そのものがプアになってしまう。そんなバカなこと、やってられません。
『作者を探す六人の登場人物』の翻訳はアマゾンでは高額な全集のものしかなかったですが図書館では読めそうなので、定年後に(笑)チャレンジしたいと思いました。でも読んでなくても映画は普通に面白いです。シチリアのお菓子、カンノーリが食べたくなりました(笑)。これだけ暑いと凍らせたレモンチェッロかな。
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