特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

ドラマ『いだてん』と『終活』のススメ:映画『家へ帰ろう』

 いよいよ今日から、世の中が本格的に動き出す、という感じでしょうか。まあ、個人的には動いてくれなくてもいいし、動きたくもないんですけどね(笑)。

 今朝の朝刊に掲載された毎年恒例になっている宝島社の新年の広告、良かったと思います。
●朝日に載ったもの
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●読売、日刊ゲンダイに載ったもの
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もちろん 何冊もヘイト本を出している宝島社が良いという訳ではありません(笑)。むしろ、盗人猛々しい。


 情報が溢れている今の時代、『嘘つき』は根本的な問題です。嘘は民主主義が成立するのに必要な一人一人の判断力を失わせるばかりか、社会そのものを破壊すると言えるでしょう。しかし現実には安倍晋三やトランプ、杉田水脈百田尚樹堤未果おしどりマコに至るまで、右左関係なく嘘が溢れている。まさに『敵は嘘』なのに。
 それにしても正月早々から総理大臣が国営放送で見え透いた嘘をついても誰も突っ込まない。国も放送局もどうなっているんでしょう。これで誰も不思議に思わないのが不思議です。



 昨晩 放送されたNHKのドラマ『いだてん』、興味深かったです。
www.nhk.or.jp

 そもそも忙しいので、ボクはドラマなんか見ません。そんな時間はない。内容のくだらなさもさることながら、ドキュメンタリーなどは早回しで見られるけどドラマはそれができないし、TVの前で1時間座っていること自体耐えられない。受け身なのが嫌なんです。しかも、このドラマのテーマはボクの大嫌いなオリンピック。

 しかし、『いだてん』の制作は井上剛(演出)+大友良英(音楽)です。このコンビの前作『あまちゃん』は本気になってしまったし、神戸の大震災をテーマにした『その街のこども』、311をテーマにした『LIVE !LOVE!SING!生きて愛して歌うこと』は生涯ベスト10に入るような映画です。大河ドラマなんか見たくありませんが、仕方がない(笑)。

その街のこども 劇場版 [DVD]

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「LIVE! LOVE! SING!?生きて愛して歌うこと?」オリジナル・サウンドトラック

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 始まって直ぐ、森山未来(『その街のこども』)や『あまちゃん』に出ていた橋本愛ちゃんや小泉今日子などの面々が出てきたら、懐かしい気がして、いっぺんに見てしまいました。『俺たちを止められるか』で文字通り暴れていた満島真之介くんがここでも暴れていたのも嬉しいし。

 懸念した内容も、嘉納治五郎役の役所広司に『国家を背負うなんてばからし』、『勝ち負けにこだわるなんて間違っている』なんて言わせるなど、良いじゃないですか。ボクには、オリンピックを利用しようとしている安倍晋三などの政治家やインチキ臭い代理店の連中を真っ向から否定しているように聞こえました。NHKを利用して、堂々と異議申し立てをやってる、と。
 音楽の方も疾走するようなテーマ曲はかっこよかったし、劇中 ところどころで鳴り物がさく裂するのも大友良英らしくて良かった。今までの大河ドラマとは明らかに異質です。

 長丁場の連続ドラマを見る、というのは時間的にも肉体的にも苦痛ではあるんですが、これからどうなるか、注目していきたいと思います。
●クイーンのブライアン・メイ氏も辺野古基地反対の署名に参加したそうです。彼は天文学博士だから、Drがついてるのよ。


ということで、新年らしい?映画。銀座で映画『家へ帰ろう
uchi-kaero.ayapro.ne.jp

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ブエノスアイレスに暮らす88歳の仕立て屋アブラハムは病で足を悪くしてしまい、切断しなければならない瀬戸際に立たされる。そこで彼は自宅を娘たちに譲り、老人ホームへ入ることになる。入居の前夜 アブラハムは家を抜け出し、第2次大戦当時ユダヤ人の彼が強制収容所から生還する際、助けてくれた親友に逢いに一人、ポーランドへ旅立つ


 アルゼンチン・スペインの合作映画です。ラテン系の血が強烈に濃縮された作品でした。
冒頭 主人公の爺さん、アブラハムの家に娘たちが訪れるところから始まります。大勢の孫たちと写真を撮る姿は嬉しそうですが、足を引きずっていて、日常生活も辛そうです。

 明日は老人ホームに送られる日です。その晩、アブラハムは一人、家を抜け出し、ヨーロッパへ向かいます。


 お洒落で女好きという雰囲気を漂わせているアブラハムですが、表情は険しく、眉間には深いしわが寄っています。いかにも因業ジジイという感じで、あまり知り合いにはなりたくないタイプです。
●こんなお洒落な88歳、なかなかいません。

 お話が進むうちに、彼はもともとポーランドに住んでいたユダヤ人でホロコーストの生き残り、家族は皆殺しにされるなか、ポーランド人の親友の助けで生き残ったことが判ってきます。第2次大戦後アルゼンチンにまで逃げてきた。死を目前にした今、故郷ポーランドに戻って50年以上音信不通の親友を探し出して、自分が最後に作ったスーツを渡したい、というのです。

 そう、この映画は『終活』のお話です。
 娘たちから逃げるように飛び乗った飛行機で、アブラハムが最初に降り立ったのはマドリッド。お金に余裕があるわけではない彼は電車でポーランドへ向かいます。足が不自由で体調も悪いアブラハムポーランドにたどりつけるでしょうか。

行く先々でアブラハムは様々なトラブルに直面します。その際、彼が出会うのは女性たち。マドリッドでは同年代の宿の主人、マリア(写真中央)。

パリでは中年のドイツ人人類学者、イングリッド

ワルシャワでは若い看護師のゴーシャ。

 不機嫌そうなアブラハムの表情に、当初は見ているこちらも陰鬱な感じでしたが、年代も個性も異なる女性たちが表れてくると、お話ががぜん面白くなってきます。羨ましいというか、映画ならでは、です(笑)。そんな旅の間に、今までアブラハムが送ってきた人生、そして戦争が遺した傷のことが判ってきます。
スペイン語が通じないパリで、アブラハムはドイツを通らずにポーランドへ向かう方法を必死に探します。


 特にワルシャワへ向かうドイツで列車の乗り換えをする際、アブラハムが『絶対にドイツの土を踏みたくない』と強硬に言い張るところは度肝を抜かれました。乗り換えの際ホームにすら足をつけたくないというのです。アブラハムは自分の目の前で家族を殺されました。戦後70年が経っても、傷は癒えることはない。戦争とナチスの非道性を思い知らされます。と、同時に、大日本帝国に対してそういう思いを持っている人も居るんじゃないでしょうか、とも思って愕然としました。ちなみに、そんなアブラハムを救ったのはドイツ人のイングリッドでした。

 やっとのことで、ワルシャワに着いたアブラハムは現地の看護師のゴーシャの力を借りて、かって自分が住んでいた街へ向かいます。彼の家族が殺され、財産を奪われた、親友が住んでいた街へ。

 段々 ボク自身も『終活』がそんなに遠いことのようには感じられなくなってきました。自分の人生にどのような区切りをつけたらよいか、どんな締めくくり方をすればよいか、考えてしまう。もし自分の終活をすることができたなら、感じることは後悔だらけなんでしょうけど、それでも半分ボケた頭で自分で自分をごまかして区切りをつけるのだと思います。

 この映画は欠点だらけの人間たちを温かく包んでくれます。最後は号泣必至。70年経っても忘れることができない戦争の深い傷と自分の頑なさ故の後悔だらけの人生。そんな人生でもいつか終わりがくる。さあ、どうしよう。中々の佳品でした。

映画『家へ帰ろう』予告編