特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

週末のTV番組3つと映画『クレイジー・リッチ!』

この週末は10月とも思えないような陽気でした。これだけ気温の変化が激しいと、身体に応えますね。ボクは何年振りかで休日出勤でしたので(泣)、あんまり関係なかったですが。
●道端にでかいカマキリが歩いてました。


今回は 週末のTVの話題から。
まず土曜夜のTBS報道特集は沖縄の知事選特集、玉城陣営に加わった若者たちの動きが印象に残りました。今回の選挙では公明党衆院議員、遠山清彦自民党衆院議員、国場(沖縄最大のゼネコン一族)の秘書、それにネトウヨなどの玉城候補へのデマが大量に流れましたが、彼らは『#デニッてる』とかDJナイト、YouTube動画などを使ったポジティブな情報発信で対抗していました。その活動が女性たちが中心だったのはなるほど!と思いました。やっぱり男はダメ(笑)。

ただし、それでも10代、20代は佐喜眞に投票した方が多い。組合の動員だの、爺さんばかりの市民運動だの、旧来のやり方では一般の人たちには声は届きません。


土曜、日曜に放送されたNHKスペシャルマネーワールド〜資本主義の未来〜』はひどかったです。土曜はキャッシュレス化、日曜はAIやロボットによる冨の集中や失業が取り上げられていましたが、キャッシュレス化によってお金を循環させて経済を活性化しようという与太話とか、AIやロボットの活用を進め勝ち組企業をつくらなきゃダメという孫正義の妄言、とかまともに見るような内容ではありませんでした。ボクは録画で早回しだから我慢できましたけど(笑)。

ただ同じくゲストの新井紀子先生(最近ベストセラー読書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』と『0601再稼働反対!首相官邸前抗議』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)を出したAIの研究者、上の写真左)が孫正義に『ロボットで雇用を減らすような企業は法人税を上げなきゃいけないんじゃないですか』と噛みついていたのには感心しました。ちゃんと放送に流れましたからね。拍手〜!。新井氏がこういう人だとは思いませんでした。




それとは対照的に素晴らしかったのは日曜深夜に放送されたNHKの『BS1スペシャル 1968 激動の時代』(前後編)。



BS1スペシャル - NHK

イギリスのドキュメンタリー監督が、主に当時の運動にかかわった様々なゲストの証言を取りあげながら1968年に起きたことをまとめたものです。ゲストが凄い。ボクの尊敬するアメリカのロック評論家グリール・マーカス(ボクのブログのスタイルは彼のパクリ)に、

ロックの「新しい波」―パンクからネオ・ダダまで

ロックの「新しい波」―パンクからネオ・ダダまで

ミステリー・トレイン―ロック音楽にみるアメリカ像

ミステリー・トレイン―ロック音楽にみるアメリカ像

ボリビアチェ・ゲバラと行動を共にしたフランス人作家のレジス・ドブレ、『帝国』で有名なイタリアの極左哲学者(笑)のアントニオ・ネグリ慶應小熊英二に、

SEALDsの奥田君

フェミニスト田中美津など、多彩なゲストの証言とともに


世界各国で学生や市民の運動が頻発した1968年を振り返るものです。当時の記録フィルムを見ると、その迫力に驚きました。パリの5月革命なんか今年見た映画『グッバイ、ゴダール『#0805PRIDEDAY』(#0805杉田水脈議員の差別発言に抗議する渋谷ハチ公前街宣)と映画『グッバイ、ゴダール!』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)とは全然違って血なまぐさかった。あの、新宿のフォークゲリラって何ですか、悪いけど、キモい!(笑)


ベトナム戦争という不義の戦いが世界各地の市民たちの反乱を結び付けた、というのが番組の分析です。小熊英二氏は『パリ・コミューンなど過去の歴史を振り返っても あのような活動は2,3か月しか続かない』と言っていました。確かにそういうものかもしれません。官邸前抗議の最盛期も2015年の安保法制反対運動もそうだった。でも、その2,3か月のインパクトは小さくありません。
当時 活動に参加した多くのゲストたちは『あの頃の行動は実に愚かだった』と述べながらも、現代社会の問題を浮き彫りにした、という意義もあったと述べています。また、女性や性的少数者の権利という面では将来につながる成果もあった。それは彼らを反面教師とした ということでもありますけど。
あのようなことはもう起きないかもしれませんが、問題は今も解決されていない と番組はまとめています。番組で証言が語っていたように、活動を続けることが目的ではありません。愚かなやり方は避けつつ、後に続く者は今も残る課題に立ち向かっていかなければならないのです。証言ゲストの質の高さも相まって視点は公平かつ冷静だし、迫力もあって大変面白かったです。世界各国との共同制作だからかもしれませんが、NHKもいい番組を作れるじゃん。NHKオンデマンドにも載っているし、再放送もあるでしょうから、機会がありましたら是非。
●これだって68年に繋がっています。今週末 原宿で見かけたビル広告。カジュアル・ファッションのディーゼルがオート・クチュールをもじって、人種・国籍・性別などを差別するヘイトに抗議しています。曰く『ヘイトなんて着ちらそう!』



ということで、新宿で映画『クレイジー・リッチ!映画『クレイジー・リッチ!』期待&感想投稿キャンペーン

NYの大学で最年少の経済学教授を務めるレイチェル(コンスタンス・ウー)はイケメンのニックと恋に落ちる。親友の結婚式に出るためにシンガポールの実家へ帰るというニックに同行、ニックの家族と対面することになったレイチェル。しかしシンガポールに着いてみると驚きの出来事が待ち構えていた。ニックはシンガポール1の富豪一族の御曹司だったのだ。レイチェルはニックの母親(ミシェル・ヨー)、それにニックを狙う女性たちから露骨な敵意を向けられるが。


●NYっ子のレイチェル(コンスタンス・ウー)(前)とシンガポール人のニック、アジア系だけが出演するラブコメディです。


今 話題になっている作品。プロデューサー以外は監督、キャストすべてがアジア系にも関わらず、この映画は3週連続全米1位、興収1億ドル超えの大ヒットを記録しました。今年前半に公開された、黒人ばかりが出演して大ヒットした映画『ブラック・パンサー』もそうですが、キャストに白人を優先してきた(ホワイト・ウォッシング)ハリウッドの映画作りがこれで変わる、とまで言われている映画です。今まではハリウッド実写版『攻殻機動隊』だって、ヒロインは日本人じゃなくスカーレット・ヨハンソンだったんですから。
原作は『クレイジー・リッチ・アジアンズ』。世界17か国で出版されたベストセラー小説でシンガポール生まれ、アメリカ在住の著者がシンガポールでの実体験をベースに書いたものだそうです。

クレイジー・リッチ・アジアンズ 上

クレイジー・リッチ・アジアンズ 上


今や シンガポールは一人当たりGDPは日本より2万ドルも高い。日本人より平均年収200万円以上のお金を持っています。
●世界の一人当たりGDPランキング。日本は25位、シンガポールは9位


●アジアの一人当たりGDPランキング。今や日本はシンガポール、香港にも劣ります。

世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング - 世界経済のネタ帳


これは税金を安くして金融や貿易業を優遇したり、人的資源を活用するために国家予算の2割を教育に費やして国民には徹底した英才教育を施したり、外国からは優秀な人や金持ちを集めて、より一層儲ける、という政策を取った結果です。もちろん良い面だけじゃありません。一党独裁だし、各国から低賃金労働者を呼び寄せては肉体労働に従事させ、自分たちは金儲けする格差社会です。また道路にモノを捨てただけでも捕まるほど厳しい『明るい北朝鮮という異名がある管理社会でもあります。


ボクはシンガポールに行ったことはありませんが、あちらの中国系の外交官と直接 ディスカッションしたことがあります。驚いたのは、小国である彼らは常に国がいつ潰れても良いように、それを想定して政策を行っているという話でした。いざとなったら対岸のマレーシアと合併するプログラムまで持っている。国が滅びても、自分たちが生きていくことを本気で考えている。
それを聞いてから、ボクは『日本はアメリカの51番目の州になればよい』とマジで思うようになりました。独裁国家の是非はともかく、自分たちの将来に対する真剣さ、危機感は我々と全然違う。あと、もうひとつ、中国系の彼はバイトで中国の地方政府のアドバイザーもやっていた(笑)。外交官ですら、自分の国なんか全く信用していない。


そんなシンガポールの大富豪の息子と中国系アメリカ人とのラブ・ストーリーということで玉の輿の話みたいなテイストを想像する方もおられるかもしれませんが、そんな感じはほぼ(笑)、ありません。ホラー・コメディといった方が的確でしょうか(笑)。
中国系アメリカ人で生粋のニューヨークっ子のレイチェルは大学で経済学の教授を務めています。移民として渡ってきた貧しいシングルマザーに育てられた彼女は苦労して、ここまでのキャリアを築きました。彼女には大学で知り合ったニックという中国系の恋人もいます。優しくてイケメンです。
●ニックとレイチェルはニューヨークの大学で知り合いました。


親友の結婚式に出席するため帰郷するニックと一緒にシンガポールへ行くことにしたレイチェルですが、現地には驚愕の出来事が待ち構えていました。ニックは黙っていたのですが、彼はシンガポール1の大富豪一族の御曹司だったのです。驚くレイチェルですが、彼女自身はそれほどお金や大富豪にも興味があるわけではありません。自分にも充分なキャリアがあるし、ただニックを愛しているだけ。そんなレイチェルを、息子を溺愛する母親、それにニックの元カノやニックを狙っている女性たちが待ち構えていました。タダでは済むはずがありません(笑)。
●左から母親、ニック、レイチェル。アクションスターの印象が強いミシェル・ヨーが母親を演じています。マジで強そう(笑)。怖い〜。


大富豪の中国人家族が名門ホテルに泊まろうとするシーンを描いた冒頭から、大富豪一族の生活を描写する中盤、後半まで、大富豪のスケールの大きさにびっくりさせられます。ホテルの買収から、シンガポールの観光名所の植物園やサンズの屋上プールを借り切っての大パーティまで、もう笑うしかない。でも、それだけでなく視点はあくまでも客観的です。大金持ちたちの生活をどこか醒めた目で見ているから、庶民の我々が笑えるコメディになっています。これは非常に感心しました。
●度肝を抜かれるような大金持ちたちの生態はむしろバカバカしく描写されています。結婚前のバチェラー・パーティは借り切った小島に小型飛行機で押しかけます。

シンガポールにいるレイチェルの唯一の友人も大金持ちです。彼女はレズビアン




あと もう一つ特徴的なのが中国人、華僑の社会であるということ。ニックの先祖は中国からシンガポールへ移民して富豪になりました。一族は中国、インドネシアシンガポール、アジア各地に散らばっています。活動範囲はグローバルでありながらも、文化的には自分たちの伝統を厳しく守っている。老幼の序を重んじ、円卓を囲みながら皆で餃子を包み、一人一人が一族の繁栄のために尽くす。
●一族はニックの祖母(中央)が仕切っています。跡継ぎであるニックの幼児教育から留学まで全て決めてきました。


ニックの母はケンブリッジ大の法科に学んだ才媛でありながら、結婚後はキャリアを捨て、夫とニック、それに一族のために尽くしてきました。それでも姑からはよそ者として未だに認められない。貧しい生まれながらも、自分でキャリアを切り開いてきたレイチェルとはまさに対照的です。溺愛する息子がよりにもよって、そんな娘を連れてきた(笑)。
●友人の結婚式。この写真では判りませんが、新婦の足元には本当に水を流しています。


レイチェルは見かけは中国系でも中身はアメリカ人です。彼女はニックの一族から『黄色いバナナ』と呼ばれてしまいます。外観は黄色いが中身は白人、ということです。
主役のレイチェルを演じるコンスタンス・ウーという女優さん。可愛いです。主にTVで活躍していたそうですけど、絶世の美女という訳でもないし、大学教授にも見えないけれど、しっかりした意思の強さと知性、それに適度な可愛さ。感情移入しやすいキャラクターです。だけど見ているうちに可憐にすら見えてくる。ニックもイケメンだけど、程よい善人でお話しの邪魔にならないのが良い(笑)。
●日本のTVなどでも紹介される植物園『ガーデン・バイ・ザ・ベイ』を借り切って、一族はパーティを開いています。美しい画面は見ていて楽しいです。


レイチェルとニックの母、一族とは越えがたい溝があります。どっちがいいとか悪いとかいう問題ではありません。大富豪と庶民という問題でもないし、男とか女とかの問題じゃないし、中国系かどうか、という問題でもありません。単に文化が違うのです。じゃあ、どうする。この映画のもっとも優れた点は単なるラブコメディが徐々に、『異なる文化が触れ合ったときどうするか』という普遍的な物語に変わっていくところです。


限度を超えた中国系大富豪の生態を見てゲラゲラ笑っているうちに、気が強いけど可憐な女の子のラブロマンスが、自分はどうやって他の人たちと生きて行ったらよいか、を観客に突き付ける展開に変わっていく。これは拾い物というか、お見事です。テンポの速さも画面の美しさも観客を飽きさせません。全米1位もうなずける、良くできた作品です。早くもPart2の制作も決定したようですが、この映画、おすすめです。あまり期待しないで見に行ったからかもしれませんけど、とっても面白かった!