特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『蘭州ラーメン』と映画『犬ヶ島』

このところ地震が続いていますが、まさか大阪で大きな地震があるとは思いませんでした。房総沖のスロースリップはやばいんじゃないかと思っていた矢先です。
大阪の地震は被害がなさそうに見える場所でも、交通や工場などの稼働には大きな影響があったようです。中心部は被害はなくとも、出勤できない人は大勢いたみたいですし。関西方面の皆さんのご無事をお祈りしております。



さて、最近 蘭州ラーメンというものが流行りつつあるそうです。蘭州とは中国の北西部、シルクロードの手前、イスラム教徒が多いところだそうです。三国志演義馬超とかが居たあたりですよね。蘭州ラーメンは最近 中国でも全土に広まっているそうですが、日本では昨年 神保町に『馬子禄』という最初の店がオープン、連日 1時間半の行列が続いて話題になりました【日本初】中国最強のラーメン店「蘭州ラーメン 馬子禄(マーズルー)」がついに上陸! 大行列のオープン初日に行ってきた!! 東京・神田神保町 | ロケットニュース24。今は神保町だけでなく、いろんなところに店ができつつあります。一度食べてみたいと思っていたのですが、最近は行列はだいぶ落ち着いたみたいなので、岩波ホールの帰りに行ってきました。その日は5分くらいで入れましたが、それでも食べている間中 行列は絶えませんでした。


メニューは蘭州ラーメン、一つしかありません。一口食べて、『これは美味しい!』と思いました。牛骨のあっさりしたスープに辣油がどっちゃり、コリアンダーパクチー)と牛肉、大根が載っています。麺は手打ちの3種類の中から三角麺を選びました。以前 シルクロードのもっと奥、ウルムチやイーリンに行った際、あちらの料理は実に美味いと思ったのですが、これもその系統の味です。スープは肉々しいんだけど八角などのスパイスと唐辛子の独特の風味で臭さはありません。やはり彼らは肉料理には一日の長がある。手打ちでちょっと不揃いな麺ももちもちしていて、出来合いのものとはちょっと違います。ちゃんと作った料理です。


経営者は日本人ですが中国そのままの味、を売り物にしているそうで、店員さんは全員若い中国人、よく訓練されています。こちらが話しかけるとちゃんと相手の目を見て話すところなんか、たいていのファーストフードの日本人の店員より よっぽど賢いんじゃないでしょうか。『紙ナプキンはいかがですか』と自らお客に勧めるなどサービスも行き届いている。店も綺麗で、ヘルシーだから女性客も多い。
ダイエットで炭水化物の量を減らしているところに久々にラーメンなんか食べちゃったから、麺は少し胃にもたれましたけど、なかなか良かったです。エスニック系のものは安くても手作りの確率が高いので、ボクは比較的好きですが、これは良かった。もちろん 所詮はラーメンですから、すごくおいしいとかいう話ではありませんけど(笑)。


中国のものはサービスが悪いとか言って侮っている日本人が良くいますが、現実には、綺麗な店舗で、二か国語以上しゃべれる賢い店員さんが丁寧なサービスをして、美味しいものを出す店が平気で海外進出してきたりする。日本のファーストフードより遥かに質が高い。ラーメン一つとっても、世の中は変わりつつあります。うかうかしてると世界の人たちから、日本人は偉そうに威張ってるだけで品質は大したことない、と言われるようになってしまうでしょう。

●貧乏くさいジジイばかりのネトウヨが増殖するくらいなら、ラテン系の人たちが増えた方が日本が明るくなって良いと思います。


と、いうことで、六本木で映画『犬ヶ島映画『犬ヶ島』オフィシャルサイト| 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント

今から20年後の日本、メガ崎市。伝染病の犬インフルエンザが大流行し、犬たちは犬嫌いの市長によって沖合の「犬ヶ島」に隔離される。12歳の少年アタリは捨てられた愛犬スポッツを捜すため、たった一人で小型飛行機を操縦し犬ヶ島へと降り立つ。島で出会った5匹の犬とアタリはスポッツを探す旅に出る。


素晴らしかった『グランド・ブダペスト・ホテル2014-07-07 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)などのウェス・アンダーソン監督によるストップモーションアニメです。


この作品も今年のベルリン映画祭で監督賞を受賞しています。日経の映画評でも5つ星。声優陣はビル・マーレイエドワード・ノートンティルダ・スウィントンスカーレット・ヨハンソングレタ・ガーウィグブライアン・クランストン、ヨーコ・オノなど超豪華です。なんといっても犬がテーマです。公開初日に見に行きました。
●真ん中の少年が飼い犬を探して、犬たちと冒険に出るお話です。


舞台は近未来の日本。超細部にまでちりばめられた日本テイスト、それも江戸時代、戦前、戦後の各時代のテイストが雑多に散りばめられています。キッチュと言えば、そうかもしれません。この監督独特の感覚ですが、人形やミニチュアを使ったストップモーションアニメということで、実写より一段とキッチュさが強調されています。趣味の世界ですが、目茶目茶に手間とお金がかかっていることはぼーっと見ているだけでも判ります。こりゃあ、楽しい。
●最初は犬たちの表情は結構険しいのですが、後半になるにつれて可愛くなってきます。人形の表情を変えているんです。すごい手間です。


お話はどうでもいいと言えばどうでもいいんですが、独裁者が君臨し、国民はデマと扇動で独裁者を支持し、壊れた原発や廃墟が広がる日本の未来図は作り事とは思えません。画面に広がるのはまさにディストピアですけど、これは現実だなーと思いました。独裁者が犬を追放したりするのはトランプを意識しているようですし、画面に映し出される収容施設はアウシュビッツそっくりに作られたりもします。が、日本の姿もそれと同じということでしょう。ちなみに独裁者の市長は三船敏郎がモデルだそうです。人形アニメと見せかけて(笑)、非常に政治色が濃い作品です。。少しびっくりした。
●廃棄された犬の収容所はアウシュビッツを模しています。


なんで声優がこんなに豪華なんだろうと思っていたんですが、お話しは犬がメインだからです。それを表現するために豪華声優陣の演技がうまく使われている。人形にセリフで表情を出している。ボスという犬役のブライアン・クランストン(『トランボ』)をはじめ、犬たちのキャラクターを強調するために俳優たちの声の演技が光っている。また学生運動のリーダーの女学生(グレタ・ガーウィグ)なんかも、まさにそういう役でした。
●留学中の女学生に率いられて(真ん中のパーマ頭)、学生たちは自分たちと犬たちの自由を求めて独裁者に戦いを挑みます。


映画自体は白人優位=ホワイト・ウォッシュという批判もあるそうです。リーダー役の犬は西洋犬だし(そもそもシーズーやチンなどアジア系の犬は出てこない)、学生運動を率いる女学生もアメリカからの留学生。賢い白人が遅れた人たちを導くというおなじみの構図じゃないか、という考え方は表面的には成り立つけれど、そもそもトランプやアウシュビッツなど西洋に対する批判が込められた映画だし、挿入される日本のディテールがやたらと精密だったり、和太鼓の音楽などがやたらとカッコよかったりする(演奏する人形の動きもカッコいい)、この映画は異文化に対する尊敬も込められているとも思います。でも、シーズーやチンは出して欲しかった!可愛いもん!

●六本木の映画館には実際に映画で使われたセットが飾られていました。


個人的には、クライマックスは拍子抜け、もうちょっと犬たちがバカな人間をぼろくそにやっつけて欲しいとは思いましたが、それでも脚本は工夫されているし、何よりもとことん細部まで表現されたディティールが汲めども尽きなくて、とにかく観ていて楽しい。何度も見て楽しめるでしょう。前作のグランド・ブダペスト・ホテルと並ぶような傑作だと思います。DVDが出るのが待ち遠しい。