特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

地方の経済を考える:『最低賃金のお話』、映画『ブルックリン』

オリンピックなんか1ミリも興味も関心がないし、なるべく目に触れないようにしていました。そしたら最後におぞましいものを写真で見てしまいました。小池百合子の着物姿と安倍晋三スーパーマリオ
うぎゃ〜
悪い冗談かと思いました。いくらなんでも失礼ってもんでしょう、マリオ君に(笑)。音楽は中田ヤスタカ椎名林檎だそうで。お前ら仕事選べよ。おぞましい東京オリンピックの開会式にPerfumeでも出てきたらどうしよう(泣)。これから4年先までオリンピック便乗のバカ騒ぎには思いやられそうです。どうせ、オリンピック後の日本は大不況突入です。それなのにこんなバカ騒ぎが続くかと思うと超うんざりします。


                                     
さて、この前、島根県で中小企業をオペレーションしている人とお話をしたんです。島根県最低賃金は690円くらいということを聞いて、改めてびっくりしました。島根以外にもそういう水準の地方は随分あります。最低賃金って現実には工場や事業所の賃金のある程度の基準になっています。その会社では800円くらい出して、人を確保していると言ってましたけど、それだって働いている人の生活は大変です。年間2000時間働くとして、時給800円で年収160万円。昔はアルバイトは家計を助けるための主婦、という考え方だったんでしょうけど、今は雇用の4割が非正規雇用です。これでは地方の景気が良くなるわけがありません

今 東京ではアルバイトを採用しようとすると、場所や職種にもよりますが、ほぼ1000円くらいが相場です。それだって年間2000時間働いて年収200万円。家賃を払っていたら、一人では暮らせないですよね。安倍晋三は失業率が改善していると言いますが、増えたのは非正規雇用です。一人では暮らせないような給料の雇用が増えて政治家が胸を張っていても困るんです。
                                 
最低賃金を上げたら失業率が上がるとバカの一つ覚えのように言う奴が居ますけど、それは一定の仮定に基づいたモデルの上での話です。現実はモデルじゃないの(笑)。失業率が上がるかどうかは環境によって違います。その国の経済の成熟度や需要の強弱、労働力供給にもよって違います。そういう時もあるし、そうでないときもある。一概に断定することなんかできません。実際 アメリカのファーストフード業界で最低賃金を上げても失業率は上がらなかったという実証研究はクルーグマンが引用するくらい有名ですしクルーグマン「最低賃金を引き上げよ!」労働市場は他の市場と違う。常識を覆した経済学の”知的革命”(ポール・クルーグマン) | 現代ビジネス | 講談社(3/4)、最近カリフォルニアでは最低賃金を15ドルに上げたしカリフォルニア州、最低賃金を時給1700円に引き上げ 「経済的正義」と州知事 | HuffPost Japan、NYでも上げることに決まりました。それで失業率が上がったとかいう話は金輪際聞いたことがありません。日本だって昨年も最低賃金を上げても失業率は上がらなかったでしょ(笑)
少子高齢化労働力人口は毎年減って人手不足って騒いでいる日本で、少しくらい最低賃金をあげたって失業が増えるはずがない。それでなくとも、一般常識として賃金や雇用には硬直性がありますから、一定の限度まで最低賃金を上げたって雇用に影響が出ることは考えにくい
●2012年以降最低賃金を上げたアメリカのすべての州で失業率は改善しているそうです(2016年1月18日の赤旗)。もちろん最低賃金を上げると失業率が改善するわけでもありません。そうミスリードしかねないのが赤旗クオリティ(笑)。

                          
最低賃金アップで成り立たなくなる中小企業も沢山あることは理解できますけど、先ほどのような計算をしてみると今や最低賃金引き上げは経済問題だけでなく、人権問題のようにみえます。急に上げるのは無理でも、従業員に生活ができないような給料しか出せないような無能な経営者はさっさとお引き取り頂いた方が良いカリフォルニア州知事のジェリー・ブラウンは『最低賃金アップは経済的正義』とまで言っています。例えばTPPに反対しても地方の雇用が増えるわけじゃありません。最低賃金という法的なハードルを決めて、それに向けて皆で工夫して生産性を上げていったり、新しい製品やサービスを作ったりして競争力を高めていく、そういう王道の手段でしか解決策はないかもしれません。
ちなみに島根の会社では工場の仕事では求人の応募は沢山来るけど、営業では幾ら時給を出してもなかなか採用できないとも聞きました。こういう話は良く聞きます。実際に全国の職種別求人倍率は確か事務職は0.4倍くらい、営業は1倍を超えていたと思います。そういうミスマッチもありますから、給料だけ上げても雇用の問題は解決しない、のも事実でしょう。


さて、7月から夢中になっている映画『シング・ストリート 未来へのうた』は結局 劇場に4回見にいきました(笑)『参院選の結果』と未来を選ぶ物語:『シング・ストリート 未来へのうた』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)。映画そのものに『善』が詰まっているからだけでなく、あの、アイルランドの子たちに逢いたいって思っちゃうんですね。当初は東京での公開館もたった2つでしたが、5館に広がりました。すぐ終わってしまう映画も多い中で、2か月近くも公開が続いています。4回目に見に行った時、観客の反応を見ると殆どが複数回見ている人たちでした(笑)。他人に連帯感なんか感じることがないボクですが、その時は『おお、同志!』と思いました(笑)。
                                                 
不況に加えて、サッチャー新自由主義で雇用や暮らしが破壊されたアイルランドのダブリンで、少年少女たちは音楽を武器に、なんとか自分たちの運命を切り開いていこうとする。誰かのせいにしたり、誰かを憎んだりするような無駄なことはしない。ただ前を向いて、懸命に生きるだけ。ダブリンで起きたことは日本だって他人事じゃありません。サッチャーのような奴が産業をつぶしたり、戦争を起こしたりしているような時代、ダブリンや炭鉱などがある地方の人たちはどんな気持ちだったんでしょうか。戦争こそ、まだ起きてないにしろ日本の地方だって同じですよね。この30年間、多くの地方では経済が縮小してきました。産業の新陳代謝はボクは否定しませんが、日本の場合 福祉がお寒いですからね。政治だけでなく、少子高齢化や技術革新で、停滞・縮小し、不安定さを増していく社会は多くの人にとって生き辛さを増しているのではないでしょうか。ボクのような軟弱な人間は、映画や音楽など様々なイメージを総動員して現実に対抗するしかありません。劇場に何度も見に来ている人たちもきっとそうだと思います。現実に対抗する勇気をもらう、そのためには『シング・ストリート』は格好の映画でした。サントラもいいんだけど、普通に聞いてるだけで泣けてくる曲が何曲かあるのが困りものです(笑)。本当に良い音楽ってBGMには出来ないんですよ。曲が流れてきた瞬間に心を奪われてしまうから。


シング・ストリート 未来へのうた

シング・ストリート 未来へのうた

                                           
さてさて、ちょっと感想が遅くなっちゃったんですが、有楽町で映画『ブルックリン

今年のアカデミー賞でも作品賞、主演女優賞、脚色賞の3部門にノミネートされた評価の高い作品です。でも東京では2か所でしかやってない(嘆息)
1950年代初頭 アイルランドからニューヨークのブルックリンへ単身 移民した若い女性の物語。貧しいアイルランドで雑貨屋の店員をして働くレイシー(シアーシャ・ローナン)。まともな仕事がないアイルランドに見切りをつけた彼女は神父の紹介で単身ニューヨークへ渡る。慣れない高級デパート勤めに戸惑う彼女だったが、周囲の助けを受けながら簿記学校に通いキャリアを積み上げていく。やがてイタリア人の配管工と恋に落ち結婚した彼女だが、その直後 姉が急死してアイルランドに戻ることになった。まだ彼女が結婚したことを知らない周囲は彼女をむりやり地元の青年と結婚させようとするが
●寂れたアイルランドの街をあるく主人公。この街にはまともな仕事がないんです。

監督のジョン・クローリーという人は舞台劇が多く、日本での公開作はこれが初めてだそうです。脚本はボクが大好きな名脚本家&小説家のニック・ホーンビィ(『17歳の肖像』、『私に会うまでの1600キロ』、『アバウト・ア・ボーイ』、『ハイ・フィディリティ』など)が担当しています。
●ハイ・フィディリティはブルース・スプリングスティーンの多分 唯一の映画出演作。元カノを訪ね歩く文系ダメ男(ジョン・キューザック)の成長物語、ハート・ウォ―ミングな作品です。

この映画を観る前に同じアイルランドを舞台にした『シング・ストリート』(1回目)を見たばかりでした。80年代を舞台にしたその映画でもアイルランドは貧しくて仕事もなく、多くの人が国外へ出稼ぎに行っていました。50年代を舞台にした『ブルックリン』でも同じです。前世紀のイモ飢饉の時代から、いやもっと前からそうだったのかもしれません。アイルランドはそういう土地なんでしょうか。ボクには良くわからないけど、イギリスに収奪されていたせいでしょうか(本土と沖縄みたいなものか)。おまけに、離婚や堕胎を許さない強固なカソリックの因習で人々は雁字搦めになっている。それが生活の苦しさを助長しているともいえる。カソリックを信じるのは自業自得とは言え、宗教の負の面を非常に強く感じます。
ネトウヨみたいな排他的な思想に覆われれば、日本だってこうなるかもしれませんよ!(笑)
●この人が主人公を演じるシアーシャ・ローナン赤毛で気が強くて、あか抜けない彼女の姿は、ボクのような門外漢にもいかにもアイルランドの田舎娘〜に見えます。カワイイ(♥)

                        
この映画の評価が高いのもアイルランドの人たちや風俗が特徴的に描かれているのが原因の1つでしょう。
アイルランドからの出稼ぎの人はNYでも建築現場や店員など低賃金の職業に就く人が多い。でも、その人たちが摩天楼などのNYの街並みを命がけで作ったんです。そのプライドが随所に描かれています。アイルランドから来ている出稼ぎの人たちの多くは生活の苦しさを紛らわすためにぐでんぐでんに酔っぱらっています。でもひとたび同郷人が集まれば、美しいゲール語の歌を合唱する。そんな人たちです。NYへ出てきてからの主人公が常にアイルランドのカラーである美しい緑色の服をまとっているところが象徴的です。

                             
主人公を演じたシアーシャ・ローナンという人は骨太で垢抜けないところが魅力です。愚直だけど、いかにも芯が強そうなところが可愛い(笑)。昨年『グランド・ブダペストホテル』に出ていた人だそうですが、全然気が付かなかった。この映画の主旨は、オーソドックスな演出で素朴な彼女の魅力を堪能する、というものかもしれません。


                 
ドラマチックな展開があったり、お話の捻りに感動するとかはありませんけど、非常によくできた品の良い演出。良い意味でオーソドックスで格調高い、端正な文芸作品です。良かったです。主演女優もお話も骨太、なんです。いかにもニック・ホーンビイの脚本らしい、自分の意志で因習を振り捨てる主人公は素敵です。後味も爽やかな、良い映画でした。
●お話を象徴する大変優れたスチールだと思います。