特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『TVと冷蔵庫の戦い』(ETV特集)と映画『白いトリュフが宿る森』

 昨日、今日と東京は冷たい雨でした。皮肉なもので、4月になって一気に寒くなりました(笑)。

 ロシアが民間人を虐殺していたのが明るみになっています。日本のTVで見たときは一瞬フェイクかなと疑ってみたのですが、それを報じるBBCやCNNはファクトチェックをしているから、話の信頼性は高いでしょう。


www.yomiuri.co.jp

 これから明るみになってくるのでしょうが、もっと酷いことも起きているみたいですね。
 シリアやチェチェンでも降伏してもただでは済まさないのがロシアのやり口でした。当初『ウクライナは国民を守るためにさっさと降伏すればいいのに』と言っていたバカ共は、現実に起きた虐殺をどう考えるのでしょうか。

●正確には立憲民主の泉は演説の内容を事前調整しろと言っただけで、国会演説には反対はしていないんですけどね。

 
 土曜夜のNHKETV特集ウクライナ侵攻が変える世界 私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く」は興味深く見ました。面白かったです。内容はウクライナ侵略について、ベラルーシからドイツに亡命しているノーベル賞作家のアレクシエービッチ、フランスの経済学者のジャック・アタリアメリカの政治学者のイアン・ブレマーらが語ったものです。

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 『核大国が武力で暴れ出したら、国際社会は止められない』という今回の事態に対して、3人ともある意味、同じことを語っていました。

民主主義社会は専制主義のプーチンに勝たなければならない。』、

プーチンのような独裁者を作ってしまったのはロシア国民に責任があるが、西側の国民もロシアの民主化や経済発展の手助けに熱心ではなかったという点では責任がある。

WW2後 民主主義国家同士では戦争は起きていない。我々一人一人が民主主義に参加して、より良い社会にする。そうすることでロシア国民に専制主義より民主主義の方が良いと思ってもらうしか、世界が平和になる道はない。

 ジャック・アタリ先生は欧州復興開発銀行の初代総裁としてソ連崩壊後の東ヨーロッパ諸国の支援を続けてきましたが、西側は誰もロシアの復興に関心を示さなかったそうです。ロシア自身が融資の前提である民主化に熱意がなかったことに加えて、西側はロシアの支配層の腐敗に嫌気が指していたからです。
 その結果 東ヨーロッパはなんだかんだ言って経済成長しましたが、ロシアは取り残された。NATOの東方拡大は単なる結果に過ぎず、今日の事態の遠因はロシアの経済復興が遅れたことにある。
 どんなに経済援助してもロシアの支配層の質は変わらなかったでしょうから、その時点での判断は正しかったとは思うけど、今 巨大なツケが回ってきた。

 イアン・ブレマー氏は『大国の武力侵略をここで止めなければ、次はバルト3国、台湾への武力侵攻もあり得る。そこでもアメリカが武力介入しなければ、日本は必ず核武装する。それが最悪のシナリオだ』と言っていました。
 確かに台湾が侵攻された時、アメリカも日本も中立の立場で介入しないとしても、そのあと日本は核武装するでしょう。世界から孤立しても、頭に血が上った日本の世論は止められない。悪夢のようなシナリオです。

 今後のロシア、つまり世界の平和についてアレクシエービッチ氏は『TVと冷蔵庫の戦いになるだろう』と言っていました。
 ロシアなど専制主義国のTVはプロパガンダを流し続け国民を洗脳する。国民は冷蔵庫が一杯、つまり生活が豊かであれば反抗しない。しかし西側の経済制裁が続き冷蔵庫が空っぽになってくると、国民はTVを信じないようになる。そこでロシアの人は自分たちの体制に疑問を持つようになる。時間はかかるが、そこに期待するしかないだろう、ということです。
 
 TVが政府のプロパガンダばかり流していると言うのは日本もそれ程変わりません。幸い今はまだ戦禍に見舞われていない日本も市民一人一人が政治に参加して格差などの社会問題を改善していくしか平和は有り得ない、ということなのでしょう。これだもん↓(笑)。番組は6日深夜(7日)に再放送があります。

 
 と、いうことで、渋谷でドキュメンタリー『白いトリュフの宿る森

舞台は北イタリアのピエモンテ州。最高級食材として知られるアルバ産白トリュフを探すトリュフ・ハンターたちとそれを取り巻く人々や犬を描くドキュメンタリー
www.truffle-movie.jp


 世界で最も高い食材と言えば、おそらく白トリュフです。1キロで40~50万円、今はもっと高いかもしれません。金と同じくらいの値段です。
 さすがに扱う店も限られているし、食べる機会は多くありません。だけど、あの白トリュフの甘美な香りだけは癖になると言うより、逆らい難い。10月を過ぎてシーズンになると、やっぱり店に出かけてしまいます。

 昔 通っていたイタリアンの店の巨匠に教えてもらいましたが、料理店の方も白トリュフを扱うのは大変だそうです。一筋縄ではいかない。
●巨匠の白トリュフパスタ(タリアテッレ+クリームソース)

 まず、調理するために刷毛で砂を掃除するなどの手間があります。何といっても生ものです。質に当り外れはあるし、なかには虫が食っているものもある。それは仕入れて、削ってみるまでわからない。入荷量が限られているので交換、と言う訳にも行かない。
●同じく卵麺+仔牛のコンソメ

 そんなリスクを冒して仕入れても、もし期間内に消費することができなければ店の損害は大変なことになる。仕入れ値が他の食材とは違います。
●近所のイタリアンの白トリュフパスタ

 つまり技術だけでなく、価値が判るお客さんが沢山来てくれる店でないと白トリュフは扱うことができません。白トリュフを扱うのは店にとってはプライドでもあるそうです。

●茶碗蒸しに載せてもOK


 そんな白トリュフですが、人工では作れません。黒は栽培が出来るようですが、白は天然ものしかない。しかも白の方が香りが強く、香りも独特です。
 白トリュフは深い森の土の中に生えているものを犬や豚が探し出して採取するしかありません。トリュフが生える場所はトリュフ・ハンターしか知らない、それこそ一子相伝の世界。

 近年は森林伐採や気候変動により供給量が減少しているそうで、しかもグローバル化で日本や中国など世界中のバイヤーが仕入れるようになりましたから値段は上がる一方、と言われています。


 と、ここまでが前置き。映画にはこんな説明はありません(笑)。ひたすら、山の中で暮らすトリュフ・ハンター4人とそれを取り巻く人たちに密着したドキュメンタリーです。
 撮影期間は約3年、ティモシー・シャラメ君をスターダムに押し上げた『君の名前で僕を呼んで』などのルカ・グァダニーノが製作総指揮を担当しています。


 映画はトリュフ・ハンターたちの生活とトリュフを取り巻く日々が綴られていきます。3年かけて撮影したそうです。取れる季節が秋から冬に限られていると同時に、経験が左右する仕事ですから、ハンターたちは老人が多い。
 

 彼らは昔からの生活を昔からのやり方で続けています。自然の中で、どこに生えるか判らないキノコが相手です。山の中でトリュフを嗅ぎつける犬たちと一緒に暮らし、探すしかない。 
 

●トリュフ獲りの家

 老人が山の中に入ることに対して、良い顔をしない家族もいます。足元だって危ないから、当然です。

 

 大金が動く白トリュフの商売です。山に毒餌を撒いて犬を毒殺したりするような輩もいるそうです。金儲け優先、効率重視の資本主義の波は彼らの周囲にも押し寄せてきています。
 それに嫌気を指して、商売をたたもうと思っているハンターもいます。

 取引もハンターたちと仲買人との人間関係、口約束頼みです。仲買人がハンターから買い取る価格は当初100グラム2万円くらいだったのが、段階を経るにつれ、途方もない価格、数倍レベルに吊り上がっていくのも面白い。

●これで数百万円?

 ハンターたちは風変り、変人みたいな人が多い。でも共通しているのは犬たちと深い精神的絆で結ばれていること。そこは大好き。共感できる。

 映画は白トリュフを巡る様々な人間模様を散文のようにちりばめて構成されています。何かを訴えるような映画ではありませんが、美しい場面がいくつも積み重なっている。
●目玉焼きの上に白トリュフを振りかける。あとは地元の赤ワインがあれば、それだけでいいんです。一皿1万円くらいですか(笑)。

 良くも悪くも現代では珍しくなった前近代的な世界がここには残っています。時代の流れもあって、古めかしい世界から離れようとする人もいる。しかし、つい戻ってきてしまう。たとえ自分では食べなくても、トリュフを取り巻く暮らしからは離れられない。それこそトリュフの香りの魅力によく似ています。この人たちは、まるで何かの魔力に取りつかれているかのように見えました。

www.youtube.com