特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『#軍事政権だっていいじゃない』と映画『コスタリカの奇跡』

 いよいよ寒さも本番という感じですね。特に朝 出勤時などの手がかじかむような寒さには、何が地球温暖化だよ、と言いたくなります。

今週は勤務先のパーティーで、ボクは金曜官邸前抗議は欠席です。

 パーティーと言ってもボクは一滴もお酒を飲まず、ニコニコ仮面で作り笑いをしながら1時間半座っているだけです。周囲と取り立てて話すこともないし、楽しいこともないし、無駄に過ぎていく時間は毎度のことながら苦痛です。ああ、生まれ変わったら、パーティーや宴会の無い世界に行きたいです。
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日比谷のクマちゃん🐻サンタにお祈りしてみます。

 今週 ニュースを見ていると、今後の防衛力の整備方針を決める新しい防衛大綱が話題になっていました。
毎日新聞

●読売新聞

●NHK

●日経

「多次元統合防衛力」 防衛大綱、与党に提示 (写真=共同) :日本経済新聞


 各社の見出しを並べてみたのは、取り上げ方がずいぶん違うからです。毎日、NHKは護衛艦の空母化、読売は宇宙空間やサイバー防衛、日経だけが防衛費も含めて多少は総合的な観点から報じています。

 はっきり言って、空母の話なんかどうでもいい。中途半端な空母を持つこと自体、実に馬鹿げている、ミサイルの的になるだけで全く頭がおかしい、とボクは思いますが、ニュースで報じられている『空母かどうか』なんか、枝葉末節に過ぎない。もっと大事な、空母が必要かどうかの議論がない。必要なら持てばいいし、不必要なら税金のムダ、それだけのことです。

 問題なのは膨れ上がる一方の防衛費、それに費用の使われ方が安全保障に有効かどうかです。そういう観点からみたら、日経が多少マシなだけで、あとは全部ダメじゃないですか。

 野党の追及も与党の言い訳も空母がどうとか、F35がどうとかばかりで、どうすれば環境変化に応じた安全保障ができるのか、そういう議論が全然ない。あんなに騒いでいたイージス・アショアはペイするんでしょうか?今どき自衛隊の戦車なんか何でリストラしないんですか?まして安全保障のための国際世論つくりなどの議論など聞いたことがない。
*ちなみに自衛隊の空母保有尖閣などの問題ではなく、アメリカと一緒に南シナ海に出すため、という話をマスコミからオフレコで聞きました。なるほど~


 今 『#軍事政権だっていいじゃない』というハッシュタグがバズっています。元ネタの記事は朝日の日曜版のものです↓
globe.asahi.com

 大学の教員が書いたもので、内容は『選挙で多数を取った政党に反対するのは間違っている』、『経済成長などの成果を出してくれるのなら、軽い軍政でもいいんじゃないか』という学生たちが最近 増えてきている。以前はクラスで1~2人しかいなかった、そんな連中が今はクラスの半分くらいにまで増えているというのです。

 世論調査でも、若い子の間に安倍晋三支持率が高いという話もありますが、ボクにはこの子たちはあんまり物事を考えていないように見えます。いや、思考を放棄している。

 しかし、思考放棄は9条を守りさえすれば平和が守れると思っているオールド左翼の爺さん連中も一緒です。物事を考えない若者は思考放棄したまま現実的な解を示せない野党や市民運動を本能的に拒否しているのかもしれません。思考放棄には思考放棄で対抗する、という訳です(笑)。賢いとは思わないけれど、それはそれで判らないでもない。

 もちろん、かっての学生運動の連中だって、多くはあまり利口ではなかったし、与党の一部や官僚、マスコミは論点をずらして、わざと本質的な議論をしないようにしている可能性もある。
●答えは簡単なのですが(笑)
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 いずれにしても安全保障に限らず、日本人って何が大事で大事でないか、考えようとしないのか、と思ってしまいます。
 日中戦争も太平洋戦争も、思考放棄、国民の『空気』で始まりました。その空気は戦前の議会の与野党の不毛な抗争と部数優先のマスコミの扇動で醸成されました。
 今の世の中も安倍晋三の独裁云々というより、国民の思考放棄、『空気』こそが戦前に似てきているのかもしれません。もっと端的に言うと、戦前の日本人と現在の日本人、同じくらいアホになっているのかも(笑)。


入管法だってそうでした。現在いる技能実習生27万人の期限を延長して働かせたかった。それが今回の与党の強行採決の本質だったと思います。もちろんふざけているし、実習生制度なんか廃止すべきです。ですが、今すぐ廃止したり、期限が切れたらどうするのか、実習生をいっぺんに強制帰国させるのか、そんな現実的な議論は野党の側からも全然ありませんでした。あとは騙されて日本に来る不幸な人たちが少しでも減ることを願うのみです。



ということで、青山のイメージフォーラムでドキュメンタリー『コスタリカの奇跡 ~積極的平和国家のつくり方~
www.cinemo.info


1948年に憲法で軍隊を廃止。軍事予算を教育の無料化、医療の無料化に充てる道を選んだ中米コスタリカのドキュメンタリー。

 昨年 公開された映画ですが、映画館ではなく、各地で自主上映会という形が行われているため、中々見る機会がありませんでした。今回は予定されていた、ワクチン関係のドキュメンタリーが事実関係に疑問アリ、ということでボツったため、配給元の緊急上映という形で映画館での上映が実現しました。ラッキー(笑)。


 非常に面白かったです。
コスタリカは人口約500万人、面積は51000平方キロ、四国と九州を合わせたくらいの小国です。人口で言えば兵庫県くらいでしょうか。
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*googleより

 1948年、中米の国コスタリカは新たに憲法を制定、軍隊の廃止を宣言します。当時、社会民主主義を信奉する大統領が選挙に負けたにも拘わらず居座ったことに対して、フィゲーレス・フェレールが反乱を起こして大統領に就任、憲法を制定したのです。フィゲーレスは軍隊に使う金を医療や教育に回そう、として軍隊を廃止しました。素晴らしい(笑)。
 ただ、現実的には前大統領が既に大幅な軍縮を進めていたこともあったし、またフィゲーレス自身に対する軍のクーデターを防ごうとする狙いもあったようです。

 ご存知のように、中南米は政情が不安定です。軍事独裁政権、アメリカの経済的支配と政治介入、麻薬カルテル、不安定な要素が沢山あります。

 どちらが卵で鶏かはわかりませんが、中南米の多くの国では、アメリカが農園など経済的に支配、搾取していました。それを邪魔しようとする民主的な政府が出てくると、アメリカが裏で手を引き、クーデターを起こさせて軍事独裁世間を樹立させる。基本的にはそういうパターンです。
 この150年間 中南米の国の政府の転覆にアメリカは60回以上も加担していたそうです。またアメリカが手をまわすまでもなく、独裁政権がうじょうじょある。近年はコロンビアやメキシコの麻薬カルテルの暗躍もあります。


 そのような状況でコスタリカはどうやってきたか。
 軍事予算を教育や医療の無料化、さらに近年は環境保護に充てる、素晴らしい考え方ですけど、きれいごとだけでは世の中やっていけません。

 この映画の優れた点は、そのためにコスタリカ常備軍を廃止しながらも平和を守るために、どういう努力をしてきたかを描いているところにあります。現実に常備軍を廃止してから、コスタリカは何度も安全保障上の危機に見舞われています。その厳しさは日本の比ではありません

 まず、コスタリカ常備軍は廃止していますが、南米各国と集団的自衛権を保証する条約に加盟しています。
 実際 1965年にドミニカで内乱が起きたとき、コスタリカは警備隊を派遣、積極的に集団的自衛権を行使する立場を示しています。さらに常備軍はなくても、武装警察や民兵は持っています。いざという時は、大統領は国会の同意を受けて徴兵制を敷く権限が与えられているそうです。現に常備軍廃止後に前大統領派がクーデターを起こそうとしたときは民兵武装警察が戦っています。

 またニカラグアとの国境紛争もありました。ニカラグアは軍を派遣し、国境沿いの土地を占領します。コスタリカ国際司法裁判所に提訴、国際法の下での解決を粘り強く追及、10年以上かけて平和的に解決します。

 更に南米ではお決まりのアメリカからの圧力もあります。
 ニカラグアでサンディニスタ革命が起きたとき、アメリカは隣国のコスタリカに革命転覆のための基地を設置させようとします。コスタリカはいったんは米軍基地を設置させたものの、新たに選挙で選ばれたアリアス大統領は自国の中立を宣言、基地を撤去させます。もちろん国内世論の猛烈な支持があったことは言うまでもありません。

サンディニスタ!

サンディニスタ!

 湾岸戦争の際は、コスタリカアメリカの圧力に負けて、同志連合に名を連ねます。それに対して国民からは違憲という声がでて、最高裁は同志連合から脱退するよう政府に命じる、ということもありました。軍隊や軍事行動は嫌だというコスタリカ国民の強い意志があるようです。


 付け加えると、コスタリカは終始 反共の、中道国家であったことも大きいと思います。社会主義を奉じる大統領を倒して、平和憲法を持った体制が成立したという国の成り立ちがあるからです。これが社会主義色を出していたら、チリのアジェンデ大統領のようにCIAがクーデターを画策して潰されたかもしれません。

 彼らの常備軍廃止の成功の秘訣を整理すると、このように言えるでしょう。
1.『集団的自衛権』、『国際法遵守』などの国際的な取り決めを尊重、国際世論にアピールする姿勢

2.最低限の武力(民兵武装警察)

3.軍隊は要らないという国民の強い意志"

4.現実主義、プラグマティズム:映画の中で誰かが言ってました。『小国のコスタリカが軍隊を作ってもアメリカのミサイル一発分くらいしか予算がない。そんな国が軍隊なんか持っても国を守れるはずがない』

 これを、キャスターのピーター・バラカン氏がホームページ上の解説で上手く表現しています
「20世紀半ば、ホセ・フィゲーレス・フェレール武装を「制度化」した。
その後継者たちは、教育や医療、福祉を充実させることで、武装を「文化」 にまで昇華させた。21世紀の現在、彼らは環境問題に取り組むことで、その文化をさらに発展させようとしている。」


 日本には武力はありますけど、それ以外はいずれも当てはまりません。憲法9条を守れという人たちにも、文化にまでブラッシュアップすることは出来ていないし、こういう意識、特に現実主義は薄いでしょう。
 一方 スウェーデンデンマークなど北欧諸国が積極的にPKOに参加するのもコスタリカと同じことを考えているからです。集団的自衛権の問題は改憲することも含めて、良く考えてみた方が良いんじゃないでしょうか。もちろんPKOへの貢献は軍隊以外のやり方もあるとは思いますが。

 コスタリカのように軍備を廃止、その金を社会保障環境保護に使う、素晴らしい考え方だと思います。でも、そのためにはそれを実現するための現実的な方策を考えなくてはならない。この映画は自主上映を各地で行うことで広められているようですけど、結構 共産党系の団体の主催も多いようです。もしかして一番 現実から遊離している人たちじゃないですか(笑)。大丈夫か??(笑)。この映画は、コスタリカ集団的自衛権を認めていることで常備軍を失くしたことを描いているんですから、それに従えば憲法は改正すべし、という結論が出るはずです。


 終盤 映画では『近年コスタリカは再び危機に見舞われている。それは格差の拡大だ』と指摘されています。コスタリカは一人当たりGDPは1万ドル程度、世界の平均ぐらい、日本の4分の1強です。それほど豊かな国ではない。その中で国民のおよそ2割程度が貧困状態にある。貧困、格差の拡大は社会の危機をもたらします。軍隊を持たない国家という国民のコンセンサスがどこまで維持できるでしょうか。


 アメリカの左寄りのインテリが作った映画ですが、視点は比較的公平で大変面白く、考えさせられる映画でした。コスタリカの国民には軍隊は要らない、というコンセンサスがあり、更にそれを現実にするにはどうするべきか、という不断の努力を続けたから、軍隊を持たずにいられた。 コスタリカと日本では政治のやり方も国民の意識もあまりにも違いすぎる。憲法9条だけじゃダメなんです。それを認識することから始めなければいけないのかもしれません。

 この映画を見て、ボクは、日本は平和国家なんかじゃない、ということが改めて認識できました。憲法戦争放棄と書いてあるだけでは平和国家でも何でもない。実際 戦後の日本の経済発展には朝鮮戦争ベトナム戦争の軍需も寄与してきたわけですし。沖縄も含めて戦後史を見つめなおすこと、また日本の政府だけでなく野党など平和勢力の欺瞞を見つめなおす努力を続けることが、平和を守るためには重要だと思いました。

『コスタリカの奇跡 ~積極的平和国家のつくり方~』予告編


●実際に家族でコスタリカに生活したことがあるという配給元ユナイテッド・ピープルの関根氏。自分の子供を公立小学校に連れて行ったら、日本人にも拘わらず直ぐ教科書や教材を無料で渡されて、『明日から来なさい』と言われたそうです。『外国人でも、子供の学習が子供の当たり前の権利として保障されていて感動した』と言ってました。
 でも、学校の先生はいい加減で半分くらいしか学校に来ない(笑)。たまりかねて半年で私立学校へ転向させたそうです。コスタリカ人はとにかくのんびりしてるし、あまり仕事をしない。でも政治と国民との距離が非常に近くて、大臣が日常的に街を回って車座集会をやっているそうです。映画に血肉が付くような解説でした。