特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』

今朝は寒かった~。
よく考えれば、今年もあと3週間、稼働ベースの実質は2週間足らず。年末はなぜか出費も多い。うんざりです(泣)。

さて、デモの帰りなど、たまに遅く帰ってくると(と言っても夜9時頃ですが)、こういう風景に出くわすことがあります。

 自由が丘の駅から近く、学習塾が終わった後、塾の職員や警備員が駅まで中学生くらいの子供たちの交通整理をしていました。毎年有名校に沢山合格する、沿線では有名な塾だそうです。びっくりです。
 ボクもそれくらいの時 学習塾に通ってましたが、こんな交通整理はありませんでした。そもそも子供は人の言うことは聞かないのが普通ですよね!(笑)。勝手に余所のビルの中に入り込んだり、塀の上に登ったり、本屋で漫画を立ち読みしたり、いろいろ遊びながら帰ったことを覚えています。勿論 自動車には子供なりに注意してましたけど、信号なんか気にするわけないじゃないですか(笑)。


 でも、今は違う。子供たちは文句も言わず、大人たちの指示に従っている。塾の入り口まで迎えに来ている親も大勢いる。気持ちはわかりますけど、別に治安が危ない場所じゃありません。昔と比べて交通量が増えているわけでもない。まるで軟禁ですよ。

 日本の将来は真っ暗だなー、と思いました。これじゃあ、外国の子供たちには絶対勝てません
 フランスでもアメリカでも、先進国の子供たちは自分で考えてデモへ行くし、新興国の子供たちは日本の子供たちより遥かにたくましい。ところが、日本では自分の頭で考えるという習慣を大人たちが寄ってたかって、子供から奪っている。しかも、そのコストは塾の月謝に跳ね返っている。その一方で相対的貧困で塾にも通えない子も少なからずいる。
 愚かな善意ほど恐ろしい物はありません。自分で物事を考えられない、精神的奴隷の製造工場みたいな光景でした。これでは日本にこんな子供たち↓が増えるのは当たり前かもしれません。


と、いうことで、新宿で映画『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!
sergiosergei.com
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 1991年、冷戦時代の末期、キューバの大学教授、セルジオマルクス哲学を教えることで生計を立てていた。彼の趣味はアマチュア無線だが、夢中になって違法な周波数でアメリカ人作家ともおしゃべりをしていたために 当局から目をつけられてしまう。ある日セルジオは宇宙ステーション、ミールに長期滞在中のソ連宇宙飛行士セルゲイからの無線を受信、二人は親友になる。そんな時 ソ連が崩壊、セルゲイは予算不足から帰還の無期限延長を宣告されてしまう。

 宇宙ステーションに滞在中にソ連が崩壊、帰りのロケットの打ち上げ予算がなくなり何度も帰還が延期され、最終的にアメリカのスペースシャトルで新生ロシアに帰還した実在の宇宙飛行士、セルゲイ・クリカロフをモデルにしたキューバ映画です。


 主人公のセルジオキューバ生まれ、モスクワに留学してマルクス哲学を勉強、帰国後はアンゴラにも従軍したのち、今は大学でマルクス哲学を教えています。彼は本気で社会主義の理想を信じている。キューバの社会ではエリートと言っても良いのですが、平等主義のキューバでは大学教授や医者などのエリートと言えども豊かな暮らしはできません。妻は病気で亡くなってしまいましたが、幼い一人娘と老母との3人で、貧しいながらも楽しく暮らしています。
●セルゲイと娘。物質的にはともかく、楽しく暮らしています。 

 そこに、ソ連崩壊という事件が起こります。アメリカの経済封鎖によって締め上げられてきたキューバ経済は、ソ連からの援助に頼っていたため、セルジオたちの暮らしは一層 厳しくなります。元々バカ安の給与の遅配に加えて、出版予定だったマルクス主義に関する彼の著書もいつ出版されるか判らない有様。社会主義国キューバですら、マルクス主義は人気が無くなってしまったのです。

 ここで描かれるキューバの貧しい暮らしは驚くばかりです。とにかくビルがぼろい。車もぼろい。革命前のものばかりなんでしょうキューバはクラシック・カーの宝庫として世界中からマニアが訪れるそうです)。電気もしょっちゅう止まる。物資不足で牛乳だって滅多に手に入らない。育ち盛りの娘も空腹を訴えています。
●でも日常の足が車ではなく自転車、れるというのはうらやましいです。


 そんな暮らしですが、セルジオは倉庫で見つけた第二次大戦前の無線機を使って、アメリカ人のルポライターロン・パールマン!)と話をするのを楽しみにしています。遠い国の広い世界の話を聞けるからです。しかし、彼はポーランドユダヤ人です。第2次大戦当時 ソ連によるユダヤ人虐殺から逃れてアメリカに逃げてきた彼は、セルゲイが信じる共産主義とは絶対に相いれない。そこだけは二人にわだかまりがあります。
●相変わらず、ロン・パールマンのルックスはインパクトがありすぎます。顔が大きすぎて、着ぐるみを着ているとしか思えない(笑)。

 セルゲイはある日 たまたま宇宙ステーションに滞在しているソ連の宇宙飛行士と無線が混信、話をするようになります。折しもソ連経済は厳しい状況でセルゲイの帰還も度々延期される。彼自身も地球に残した家族の暮らしを案じているところでした。生活苦と将来への不安を抱えたセルジオも同じです。二人は意気投合します。
●予算不足で帰還が度々延期されている宇宙飛行士のセルゲイは地球に残してきた家族のことを案じています。

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 キューバから見た冷戦崩壊ということで、視線は非常にユニークです。厳しい境遇だし、人々も大きな不満を抱えています。でも、明るいんです。陽の光も明るいし、セルジオも、まあ、いいかって感じでそれほどは深刻に考えない。


 やがてセルジオアメリカ人やロシア人と無線交信していることが当局に知られ、度々呼び出しを受けます。また、無線も盗聴される。でも当局が持っているリール式の録音機(笑)はぶっ壊れるし、しょっちゅう停電で傍受もままならない。上司に忖度する担当者はセルジオを無理に罪に問うことで出世を狙っているんですが、基本的に当局自体ものんびりしています。とにかく登場人物全員がのんびりしている。この映画で最も良いのがここなんです(笑)
●当局の忖度役人はセルジオの通信を盗聴しますが、度重なる停電でうまく行きません(笑)


 少子高齢化と財政危機で、これからの日本は貧しくなっていきます。この映画で描かれたように、街には古いビルが立ち並び、明かりがつかない朽ちた看板が放置される。水道や電気などメンテがされないボロボロのインフラを騙し騙し使う世の中になるかもしれません。

 将来の我々も、90年代になっても第2次大戦当時の無線機を使っていたセルジオのように、今使っているようなスマホやPCを50年後に使っていたりするかもしれません。まあ、テクノロジーはこれくらいでも構いませんけど。今だって充分使いこなせていないわけだし。

●食うのに困ったセルゲイは悩んだ末に隣人↓の誘いで密造ラム酒の製造に手を出します。国からの給与や配給では食えないため、多くのキューバ人が副業をしているそうですが、監督もラム酒の密造で糊口をしのいだことがあるそうです。

●一方 セルゲイの教え子(右)は自由な意見を述べることができない社会に耐えかねて、アメリカへの亡命を企てます。

 世の中全体が厳しくなる時もあるし、個人として厳しい時、不遇の時もあります。月に満ち欠けがあるように、誰にでもそういうことはある。そういう時の過ごし方として、のんびり、まあいいか、と過ごすのもいいんじゃないか、と思いました。主人公たちにしてみれば必死に悩んでいるんですが(笑)、第3者的に見たら違う景色も見えるかもしれない。分単位で時間に追われるボクの普段の生活がバカバカしく見えてくる。
●それでも、みんなで踊れば、何とかなる(笑)

 地球に帰れなくなったセルゲイのために、セルジオアメリカ人ルポライターに連絡します。そこからつてをたどってNASAへ連絡。NASAはPRのためにセルゲイ救出のためのスペースシャトルを打ち上げます。アメリカのスペースシャトルで帰還したのは実際のセルゲイと同じです。
 社会主義キューバ映画なのに良く、これだけネガティヴな面も描いたな、と思いました。キューバの社会も想像以上に変わってきているのかもしれません。傑作とか良くできた作品ではありませんし、怪作の部類かもしれません。でもなんとなく好きな映画でした。

宇宙ステーションと地上との大気圏を超えた交信から始まるハートフルコメディ/映画『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』予告編