特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

アメリカの中間選挙と映画『華氏119』

今回から、新しいブログになりました。
旧ブログ(はてなダイアリー)からのインポートは順番待ちだったし、ブログの設定も何だかんだ1週間かかりました。いじらなければ問題ないんですが、フォントを大きくしたり、少しは見やすいものにしたかったのです。まだ新ブログの使い方も慣れてないのですが、内容も含めて試行錯誤をしながらやっていきます。今後ともよろしくお願いいたします。

毎週 恒例の金曜官邸前抗議は日曜日に大規模抗議があるので今週はお休みです。まあ、集会とかボクはあまり好きじゃないです。等身大の生の声ならともかく、マヌケな政治家や独りよがりの活動家の話なんか聞いても時間がもったいない。予定調和だったり、ヒステリックな原発廃止バカ話を聞いても得るものはありません。ま、こちらの模様は来週に。


さてアメリカの中間選挙は今回はほぼマスコミの予想通りになりました(笑)。上院が共和党、下院が民主党過半数共和党過半数を取った上院は圧倒的に地方部ばかりでしたので、もともと民主党が勝つのはムリでした。ほぼ順当な結果でしょう。
WSJの記事はこう言っています。
diamond.jp

民主党が期待していたような全米を席巻する「波」とまでは行かず、共和党を特定の場所で混乱の渦に巻き込む「竜巻」の様相を帯びた
民主党は大勝というわけではないし、大敗北というわけでもない。ただ上院は最高裁判事のことがあるから、確かに厳しいんですけど。

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●選挙結果を受けてのマイケル・ムーア監督のtweetVICTORY!と(笑)

と言っても、共和党の支持が強いのは年齢別には65歳以上のみ、そして地方部だけです。アメリカのどんどん衰退していく部分です。今が社会が変わっていく変わり目だし、逆の意味でトランプの参謀、バノンなんかもそう思っているでしょう。
同時に行われた知事選では『全米50州のうち36の州で行われ、ABCテレビによりますと野党・民主党が選挙前よりも7人増やして16人、与党・共和党が7人少ない、19人が当選を確実アメリカ中間選挙2018|NHK NEWS WEBという結果です。
下院の奪還、知事選の勝利の原因は今回 若者の投票率がアップしたから、です。若者は、トランプの無責任な政治に任せるわけにはいかないというわけですね。

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一方 日本はどうでしょう。国民は政治に無関心、無責任なまま。相変らず 政治も経済も年寄りの男(Boy's Club)が握っているし、そして男は家事をやらない自分で自分の生活を生きていない)。勿論 女性の中にも稲田朋美片山さつきみたいなクズもいますけど、それでも政治は女性に全てゆだねるくらいしないと日本はダメかもしれません。男性の選挙権はともかく、男性の被選挙権(立候補権)を廃止するのはどうでしょうか! 汚いジジイが国会から消えるし、ジジイに媚びることでのし上がろうとする基地外女も消滅するだろうから、きれいさっぱりするんじゃない?


と、いうことで、渋谷で映画『華氏119


gaga.ne.jp
トランプの大統領に当選した2016年11月9日。それまでは誰もトランプの当選を信じていなかった。なぜトランプのような人間が大統領に当選してしまったのか?どうやったら我々は民主主義を取り戻せるのか?


ボウリング・フォー・コロンバイン』でアカデミー賞を、ブッシュを徹底的にこき下ろした『華氏911』でカンヌ映画祭で最高賞を受賞した、おそらく世界で最も有名なドキュメンタリー監督、マイケル・ムーアの新作です。


ボクはムーア監督の大ファンです。劇場公開の作品はもちろん、彼が作ったTV番組のDVDや本も日本語版は殆どは見ている。彼の徹底的にこき下ろすお笑いのセンスが好きなんです。彼のアカデミー賞授賞式のスピーチなんか名画『スミス、都へ行く』みたいな名シーンでした。『ローマ法王もディキシー・チックスもみんなお前に反対だ。ブッシュ、お前の時間はもうおしまいだ!

Michael Moore winning an Oscar® for "Bowling for Columbine"


一方、あまりにも姿勢が明確なので、ドキュメンタリーとしては??と思う時もあります。ドキュメンタリーというより、プロパガンダに近いかも。しかし、それは見る方も作る側も明確に判ってやっているから、『真実を伝えている』ふりをした日本の凡百なドキュメンタリーより遥かに良いです。押しつけがましさもないし、誤解しようもないですもん。


今作のテーマはトランプ。でもトランプそのものではなく、トランプを生み出したアメリカ社会そのものに視線は向いています。ちなみに119とは2年前の大統領選でトランプが勝利宣言をした11月9日のこと。

トランプの娘婿クシュナーはかってムーア監督のためにパーティを開いていました。
 

宣伝でも言われているように、ムーア監督はトランプの勝利を事前に予言していました。確かに誰もトランプの勝利なんか予想していない16年の夏、『トランプが勝つ5つの理由』という彼のレターがボクにも送られてきました。ボクは彼のプロモーション用メーリングリストに登録しているんです。
www.huffingtonpost.jp

 
でも、大多数の人と同じようにボクもまさか、と思っていました。ムーアは大統領選のカギを握る激戦州(スイング・ステート)、オハイオやミシガン、ペンシルべニアなどラストベルトのことを理由として述べていたんですが、これらの州は労働者の地域、民主党の地盤ですからね。

ところが選挙ではトランプがこれらの州で得票し、選挙に勝った。映画は本人も含め、誰も勝つと思わなかったトランプの勝利から始まります。トランプ本人も本気じゃなかった。大統領選への出馬自体 自分のTV番組のネタでNBCへのギャラつり上げのための材料だったし、当選時だって、まともな勝利演説を用意していなかったくらいです。


日本ではあまり触れられていませんが、ヒラリーの敗因は単純明快です。トランプ云々というより、ラストベルトでまともに選挙活動をしなかったから。例えば激戦州のウィスコンシンには7か月足を踏み入れなかった。ヒラリー陣営は驚くほど傲慢だった。ヒラリーの敗北演説は感動的だったし、当人は社会を良くしようとする志がある人だとは思います。でも、言葉の端々に現れているように彼女自身も傲慢だった。ウォール街から山ほど献金をもらっていても悪いとも思わない。講演会のギャラが1回7000万円ということが報じられても恥かしいとすら、思わない。
ちなみに昔 ビル・クリントンの大統領辞任直後の日本での講演会ギャラは2000万か3000万円だったと思います。当時は電通が売り込みに来た。20年でずいぶんギャラが跳ね上がったものです。


ムーア監督もミシガン州生まれ、父親も祖父も自動車労働者です。彼が描くラストベルトの人たちの不満、怒りは非常にリアルに感じられます。それと派生して、彼の生まれ故郷ミシガン州フリントで発生した水道の鉛毒が描かれます。コンピュータメーカー、ゲートウェイ2000の社長だったスナイダー州知事共和党)の性急な水道民営化が原因です。このことは日本でもニュースで報じられるほどの騒ぎになりましたけど、州は非を認めない。健康被害データを改ざん、緊急事態保護法を制定して抗議を押さえつけます。しかしGMの工場だけは部品洗浄で不良品が発生したため、違う水道に付け替える(笑)。映画では、このスナイダー知事は昔からトランプと仲良しで、トランプが政治のお手本にしていることが 語られます。

 

トランプや共和党だけが問題なのではありません。民主党だって腐っている。バーニー・サンダースの立候補を党の重鎮たちが顔をそろえる特別代議員制度で押さえつけたのは記憶に新しい。気落ちしたサンダース支持者の多くは棄権します。ヒラリーもトランプも選挙での得票はそれぞれ約6000万票です(ヒラリーの方が100万票以上多い)。しかし棄権は1億票にも上ります。

民主党が人々から遊離しているのは今に始まったことではありません。リーマンショックの原因となったウォール街への規制緩和も始めたのはクリントンです。オバマ大統領はフリントの水道の件でミシガンまでやってきましたが、何もしなかった。フィルムは人々の落胆の表情を良く捉えています。これが民主主義なのだろうか。トランプの当選の原因は今に始まったことではない人々の民主主義に対する落胆からだ、という訳です。

 

トランプは次の選挙での再選に意欲満々だし、既に再選運動を始めています。トランプのやり方はヒトラーそっくりではないか、というのがムーア監督の主張です。人々は政治に関心を失っている。そして、独裁者が過激なことを発言しても、まさかそんなにひどいことはしないだろうと思っている。一方 日常生活に不満を持っているものは過激な発言に熱狂し、独裁者はウケるために本当に滅茶苦茶なことをやりだす。
ムーア監督は『うんざりして、あきらめた時代に独裁者が現れる』と語ります。

トランプの参謀バノンの会社はムーア監督の『シッコ』のDVDを発売していました。


では、我々に希望はないのでしょうか。ムーア監督はこんな動きにも密着します。
ウェストバージニア州での教職員のストライキ、『民主党を乗っ取ろう』と草の根で活動を始めた組合活動家、従来からのボス政治に対抗して立候補する草の根の候補たちがいます(主に女性)。
民主党の下院議員候補オカシオ=コルテス氏。プエルトリコ系の29歳。プログラミングか何かのコンテストで全米2位になるほど優秀な頭脳の持ち主でしたが、その後 父親が死亡して大学進学を諦めて今はバーテンダーバーニー・サンダースを支持する運動から政界に入り、重鎮を蹴散らかして民主党の候補に選ばれました。今回 史上最年少で当選。

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ソマリア難民、パレスチナ移民、イスラム系の女性二人、それにレズビアンで先住民の女性も当選。



 

そして銃規制を訴えるフロリダ州の高校生たち。


●選挙後 映画に出演した高校生のマット↑へのムーア監督のtweet。『パークランド高校の子供たちが革命に火をつけたんだ。これからが始まりだ!』

既にニュースなどで何度も見たパークランド高校のエマ・ゴンザレスさんの演説、映画で改めて見ても泣けて困ります。

Emma Gonzalez Speech At March For Our Lives Rally

銃規制運動への参加を禁止した小学校の校長に、11歳の子供が『これは私たちの問題だ』と言い捨ててデモに参加するところも印象的でした。『みんなで参加すれば、処罰なんかできない』と、ほぼ全校生徒が校長を無視してデモに参加するんです。
女性、若者、マイノリティがダメダメ政党だった民主党の中身を入れ替え、世の中を少しだけマシにするかもしれない。
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●11/5、NHK夜9時のニュースで


今回はお笑いは控えめです。ムーア監督自身もアカデミー監督の有名人になり、アポなし突撃も難しいのでしょう。

スナイダー州知事の家にフリントの水道水を撒くムーア監督。水が無害と言うのなら使って見ろという訳です。


映画の構成もやや乱雑な印象を受けました。しかし、教職員たちのストライキや組合活動家、民主党の草の根候補たち、それに高校生たちの姿には希望が持てます。こんな状態でも画面には希望が映っています。与野党ともに既成政党が腐ってしまい、人々が政治に関心を失くす。その隙間でポピュリズムがヘイトを煽る危機的な状況は日本もアメリカと変わりません。


ムーア監督は雑誌のインタビューでこう語っています。
この映画は究極的にはファシズムについての映画だ。だけど、20世紀のファシズム、第二次次大戦の時代のドイツ、イタリア、日本のようなファシズムを指しているわけではない。今あるのは“21世紀のファシズム”で、それよりずっとフレンドリーなバージョンだ。そして多くの人を殺すことになるだろう。誰かを列車に乗せて強制収容所に連れて行くようなことはしない。
では、どういう形をとるかというと、トランプのような人間が多くを自分の味方につけ、社会を引き継ぐ。それも人を強制するのではなく“僕についてきてくれれば、僕は君たちのためにこんなことができる”とね。非常に危険なことが起こっているんだよ。アメリカ以外でも同様なことが起こりつつある。民族主義者や右翼結社がヨーロッパ、ブラジルので勢力を伸ばしつつある。それは日本でも起こる可能性があるんだ。そういう意味で、この映画は日本に向けてのメッセージが多く込められた映画だと思う。

courrier.jp

●NHK9時のニュースで『日本に望むことは?』と聞かれて。誰のことか判りますよね(笑)。はっきり言った!NHKも放送した!

こんな映画を撮ってもトランプの支持者は絶対に見るわけがありません。そんなことはムーア監督は判っています。彼は、この映画のターゲットはサンダースを支持していたけど棄権してしまったような、政治に絶望している人たちだ、と語っています。彼らが棄権さえしなければ、トランプを引き摺り下ろせるのです。
果たして私たちはまた、独裁者を登場させてしまうほど愚かなのでしょうか。今は人々が自ら行動するしかない、とムーア監督は呼びかけています。
 

 

 


ボクはオバマ氏もサンダース氏も立派な人と思いますが、スタッフは抱えているにしても、彼らは一人でした。一人の力にはどうしたって限界があります。
でも、この選挙で起きていることは違います。女性や若者、マイノリティが立ち上がりだした。若者や女性を中心にオバマ氏やサンダース氏のような人たち、民主党民主党たちが大勢表れているんです。もともとトランプの支持層は年寄りばかりですが、今回の選挙では18~24歳までの若者の民主党支持率は約7割だそうです。格差、宗教、人種、性、アメリカという国に広がる分断は日本から想像するよりはるかに大きいにしても、チャレンジすること、新しいことをする人の足を引っ張ってばかりの日本とは随分 違うように見えます
日本にも、立憲民主党立憲民主党員、反共産党共産党員みたいな人たちがどんどん出てくればよいと思います(他の政党は論外)。どっちも今のままじゃ政権の可能性なんか皆無ですから。それとも、反自民党の自民党員の方が良いかもしれませんね。

華氏119 - 映画予告編