特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』

楽しい3連休も終わろうとしています。日本列島を縦断する台風にはびっくりしました。被害に遭った地域の方はお気の毒です。


俳優のアレック・ボールドウィンエミー賞を受賞したそうです。 演技ではなく、トランプの物まねで(笑)。

https://this.kiji.is/282444229141283937
彼は7月に観た映画ボンジュール、アンでも絶妙なインチキさを醸し出していましたが自分たちを取り戻す:映画『ボンジュール、アン』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)、トランプにはぴったりです。それにTV界最高峰の賞を出すアメリカ、いいなあ。


一方 安倍晋三が国会を解散するんですって呑気なもんです。確かに今のうちの選挙は与党に有利かもしれません。でも、それ以前に仕事をすると言っていたんじゃなかったんでしたっけ?


でも、あれだけ北朝鮮のことを大騒ぎしていたのに選挙なんてやっていていいのでしょうか。日本に出来ることは少ないとはいえ、今は戦争の瀬戸際でしょう。戦争を防ぐために米朝中の対話を促進する気はないのでしょうか。まったく安倍晋三一派は国を私物化するという点では終始一貫しているのには感心します。靖国参拝にしろ、経済政策にしろ、これだけ私利私欲、自分のイデオロギーしか頭にない総理大臣も珍しい。国民もそれを他人事のように黙認している。全く酷い国です。


酷い国と言えば、16日に日本にグラミン銀行が進出するというニュースが流れていました。
 https://this.kiji.is/281682336881394785


マイクロファイナンスソーシャルビジネスという言葉をご存知の方も多いかもしれませんが、バングラデシュで始まったグラミン銀行は、貧しい人に無担保で事業資金を貸し出し自立を助けるという主旨で始まった銀行です。補助や援助だけでは貧しい人は救われない、人間は生業を持って自立しなければならない、という考えです。数百万人の貧しい女性たちにお金を貸し出した創設者のムハマド・ユヌシュ博士と銀行は2006年にノーベル平和賞に選ばれました。
が、現在 ユヌシュ氏は政府の圧力で解任され(居座っているそうです)、銀行は年率20%という高い金利で自殺者まで出ていることも問題視されています。高金利で貧困者にお金を貸し出すという事業には確かに新自由主義的と言う側面はあると思いますが、自立しなければ貧困者は救えないことも事実です。またグラミン銀行金利は高いといっても街場の高利貸よりは安いそうですから、一概にそれだけを非難することもできません。

グラミン銀行は貧困を救えない | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
国際女性デー(3月8日) --グラミン銀行の借り手から話を聞いた(バングラデシュ) | HuffPost Japan


グラミン銀行の是非はさておき、日本も貧困層へのソーシャルビジネスが成り立つと思われるような国になっているということです。確か30年代には日本のGDPはインドにも抜かれるそうですが、日本の現状を客観的に示しているニュースだと思いました。


さて、この前 街場で中華料理に入ったんです。庶民的なんだけどマニアックで評判になっているところです。店内に貼られていた写真をご覧ください。
●クマの掌、スッポンの姿煮


この写真を見たら、あまり食べたいとは思わないですよね(笑)。どちらも初めて見た料理なので、皆さんに御裾分けします(笑)。されたくないって?そうですよね(笑)
●ボクが食べたスッポンのスープ定食。こちらは大変 美味しかったです。



じゃあ スッポンやクマではなく、クジラやイルカはどうでしょう。渋谷で映画『おクジラさま ふたつの正義の物語映画「おクジラさま」ふたつの正義の物語

紀伊半島南部にある和歌山県太地町はクジラやイルカの回遊コースに面しており、江戸時代からイルカやクジラの漁で知られている。ところが第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞の『ザ・コーヴ』で取り上げられて以来、シーシェパードなどの世界中の活動家や団体から非難を浴びることとなった。その太地町を取材し、捕鯨問題の賛否にとらわれないさまざまな意見を集めて、自分と異なるバックグラウンドや意見を持つ他者との共存の可能性を探っていく。


監督は大傑作『ハーブ&ドロシー2010-12-06 - 特別な1日(Una Giornata Particolare) 2013-04-15 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)でボクだけでなく多くの人を感涙の涙に叩き込んだ佐々木芽生。元NHKでニューヨーク在住の人です。
●ただ ただ現代美術を愛した平凡な郵便局員夫婦の生涯を描いた奇跡のような大傑作ドキュメンタリー


佐々木監督はアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した『ザ・コーヴ』を観て、憤りに駆られたそうです。事実が歪曲されているし(例えばイルカの死骸ではなくマグロが映像に混ぜられていた)、主張も一方的過ぎる。それで公平な眼で映画を作りたいと思って、この映画を撮影したそうです。ボクも『ザ・コーヴ』はバカ右翼が上映反対運動をやっているので是非見に行こうとは思ったのですが(笑)、内容の評判があまりにも酷いので見に行きませんでした。


まず、ボクはクジラ料理は好きです。が、滅多に食べる機会はありません。イルカは食べたいと思わない。やっぱり可愛いと思います。この映画の中でもイルカ肉が紹介されてましたが脂が多くてまずそうでした。
こういう問題はなかなかセンシティヴです。例えば中国や韓国、ベトナムなど世界には犬を食べる国があります。犬が大好きなボクの感覚では神をも恐れぬ所業、絶対に許しがたい犯罪行為とは思います。が、ベトナムで仲良くなった工場の女の子に『日本人は優しくて良い人が多いけど、犬を家族だと思っているのはおかしい』と言われて、あまりの感覚の違いに思わず納得してしまったことがあります。一面的な価値観を押し付けてはいけないんですね。


太地町はクジラ漁、イルカ漁で生計を立ててきた町です。名前は良く聞きますけど どこだか判りません。地図を見ると、東京からも大阪からも離れた超遠隔地です。


映画で見ると実に美しい。『土地も少なく、水も少なく、海に出るしかない』街だそうですが、実に美しいです。今夏 志摩に行ってきたので、余計に親近感がわきます。志摩も寂れていると思いましたが、こちらは遥かに凄い。人口はわずか3000人。かってはクジラ漁が盛んでしたが、アメリカの1850年代の乱獲でクジラが激減した今はイルカ漁が中心になっています。


監督は20〜25回も現地に通って取材したそうです。主な登場人物は、シー・シェパードの駐在員スコット、環境運動家のリック・オバリ―、太地町の町長、右翼(日本世直会)の活動家の中平氏、元AP通信の記者で太地町に住み込んだアメリカ人のジェイ、それに町民たちです。
シーシェパードらの捕鯨・イルカ漁反対派が常に漁を監視しています


映画『ザ・コーヴ』の公開以来、町は世界的に注目されるようになりました。環境保護団体や反捕鯨団体の人たちが世界中からやってくるようになったのです。彼らが実力行使して警察や町民とトラブルが起きているのは時折ニュースで報じられています。
●静かな漁村にこんな感じでやって来られても町は対処できません。


ところが太地町の側は困惑しているけれど、彼らの主張はあまり聞こえてこない。町民は殆ど英語を話せないし、町のホームページの更新も年1回だけ。一方環境保護団体はイルカ漁の度にネットで世界に実況中継しています。実況と言っても主張は一方的で、漁師をモンスターや人殺し呼ばわりする罵詈雑言に溢れています。でも町がやっているのは漁の現場をシートで覆い隠すだけ。これでは全く勝負にならない。


反対派は漁師をひたすら批難し、漁師や町民たちは口をつぐみ、事物を隠そうとする。これではいつまで経っても堂々巡りです。その中で一人だけ、双方の会話を呼びかける男が居ました。
右翼団体『日本世直し会』の会長を名乗る中平氏です。スキンヘッドにサングラスをかけた中平氏は、反対派のところへ街宣車で押しかけ、対話をすることを英語で呼びかけます。と言っても彼は英語は喋れません。英語をカタカナで書いてもらった原稿を棒読みしているんです(笑)。
●双方とも数か月単位で現地に滞在しています。中平氏(左)とシーシェパードのスコット(右側の髭の黒Tシャツ)はともに対話が成り立つ関係になっています。


やがて中平氏の尽力で町長・漁民とシー・シェパードらとのハチャメチャだけど実にユニークな対話集会が実現します。このシーンは実に面白かったです。『右とか左とか、時代遅れ』と言いながらも、いざとなると『邪魔だ、どけ、ワレー』とカメラマンに罵声を浴びせ、双方の対話に奔走する中平氏には恐れ入りました。
太地町の町長。親戚の前町長から引き継いだ、如何にも地方の町長と言う感じですが、言ってることはまともでした。


一方 全く会話にならない反対派もいます。リック・オバリ―は対話集会をドタキャンし、強硬にイルカ漁反対を唱え続けます。また神戸から来たアメリカ人の英語教師は制止を振り切ってイルカが飼われている網にまで泳いでいき、網の中にイルカのためにボールを投げ込みます。その時の警官との会話が面白かった。『自分は法を犯していない』と言い張る教師に対して、現地の警官は『君は法は犯してないが、礼儀を知らない。無礼だ』と説教をします。教師は一言もありません。多国籍企業と一緒で法を守っていれば何をしても良い、というわけではありませんよね。現地の人たちの深い知恵に触れるような気がしました。
●リック・オバリ―。『ザ・コーブ』にも出演していた彼は『わんぱくフリッパー』の調教師でした。罪の償いとしてイルカ保護運動に身を捧げています。同じ強硬派でもシー・シェパードとは反目しています。現在 日本から入国拒否処分を受けています。


AP通信の元記者のジェイは太地町に住みつき、町民と友達関係になっていきます。町民たちの話を聞き本にまとめようとしているのですが、その合間に町民の情報発信を手伝おうとする。だけど、人口3000人の街には広報担当者を置こうとしてもムリがあります。町民にはTwitterとは何か、から始めなければならないのですから。


監督は映画の中でイルカ漁に関する様々な論点を提示します。イルカ漁や捕鯨の歴史&経緯、資源保護の観点、肉の水銀汚染。太地町の中にもイルカ漁に反対する人もいるし、日本でも捕鯨に反対する人もいます。町のスーパーではイルカ肉が売られていますが、町の人の消費量も減ってきている。日本全体でもクジラ肉も需要が減っていてピーク時の4分の1の値段になっているそうです。日本人は外国から捕鯨の事を指摘されると反感を抱く癖に、全然捕鯨を大事にしていない。


捕鯨やイルカ漁に反対する側の言い分も一方的なところがあります。そもそも鯨が激減したのは脂をとることを目的にしたアメリカの乱獲が原因です。ノルウェイアイスランド捕鯨制限条約に入らず、今も堂々と捕鯨を続けていますが、日本はアメリカにサケ漁の水揚げ量を減らすと脅かされ、捕鯨制限条約に入っているそうです。太地町で捕獲されたイルカが水族館に売られていくのを奴隷状態と非難もされていますが、イルカに触れる機会が減ることの方がデメリットは大きいのではないかと反論する水族館員の言葉も一理あります。
シーシェパードのスコット。強硬なイルカ漁反対派ですが町との対話に応じます。その後 彼はシーシェパードから脱退。


かと言って、日本の側もあまり効果的な発信は出来ていない映画『コーブ』の上映館に押しかけたネトウヨたちの醜態は世界中に日本の恥をさらしました太地町の側も情報発信もできていないし、そもそも『これは伝統だ』と言っても、通用しない。反対派からは『良くない伝統は止めるべきだ。奴隷制度は廃止されたし、闘牛やキツネ狩りは減っているではないか』と言い返されるのがオチです。
映画の中でジェイが漏らした言葉が心に残りました。
ここにきて初めて分かったことがある。絶滅しそうなのはクジラやイルカではなく、太地町という小さな町だった


ここで問題は太地町ではなく日本全体の話になります。グローバリゼーションの中で我々はどう生き残っていくか。『これは伝統だ、我々に構わないでくれ』と言っても、広い世界の中でそれでは生きていけない。特に日本では、右でも左でもこのような問題は直ぐナショナリズムに回収されてしまいますそれではダメなんですね。それでは議論にならない。なんとかファーストのアホさ加減と一緒です。いやそれだけではありません。難民や移民の問題で揉めている西欧諸国はどうでしょう。嫌いだからと言って、知らないからと言って、他人を排除できるのでしょうか?それで生きていけるのでしょうか? 思考停止の罠は洋の東西を問わず、足元にあるのです。


公平かつ、ユニークであるだけでなく普遍的な視野に立った、とても面白い映画でした。佐々木監督はシー・シェパードを始め捕鯨反対運動の団体から多くの誹謗中傷を受けたそうです。つまり 非常に優れたドキュメンタリーです(笑)。こういう社会派ものは主張を一方的に押し付けるものが多いですが、この映画は全くそんなことはありません。お近くでご覧になる機会があったら、絶対逃さない方が良い映画です。



●佐々木監督。2枚目は当日 終演後に予定もないのに監督が客席の中から立ち上がって挨拶と質疑応答を始めたのでびっくりしました。そういう人なんですね(笑)。質問をしたのは有名企業の社長とか、外国帰りの人ばかり、そういう客層なのもユニークでした。
[:W300]