特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『マスコミのミスリード』と説教する映画2種(笑):『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』と『スノーデン』

今日 厚労省が12月末の賃金調査を発表しました。2016年の年間結果です。『実質賃金、5年ぶりプラス』という大きな見出しがYAHOOニュースのトップに出てました。

                           
                         
え〜っと思いますよね(笑)。このブログを読んでいる方で生活実感が改善している人っています?(笑)。どういうことだろうと思って、厚労省の元ネタを見てみました。
●2010年からの実質賃金指数推移(2010年を100とする)

確かに2016年の実質賃金は95.5と、前年の94.6よりは改善しました。昨年は石油価格も下がったし、アベノミクスの失敗で円高になって輸入品の価格も多少は下がってきましたからね。でも時系列で見てください。2013年からアベノミクスが始まって以来、どかーっと減った実質賃金が昨年は前年よりちょっと良くなったと言うだけです。まだまだ民主党政権当時の水準どころか、2013年の水準にも達していません。この見出しは嘘ではないけど、現実を表現していないミスリードです。どうせマスコミは厚労省の発表をそのまま出したんでしょう。アホかって。

                                                
ついこの前もマティス米国防長官と稲田が会見後 『辺野古が唯一の選択肢ということで一致した』と日本のマスコミは報じました。

アメリ国防省の発表を見ると、実際はマティスは『米軍再編に伴う代替施設の建設』と発言しただけで『辺野古』のことなんか一言も言っていませんStrength of Alliance Highlights Meeting Between Mattis, Japan’s Prime Minister > U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE > Article
安倍政権になってから日本政府の発表がアメリカの発表と食い違うことは良くあるな〜と思います。ボクですら?と思ったらアメリカ側と突き合わせますけど、未だに政府の言い分を鵜呑みにしてチェックすらしない日本のマスコミは酷いもんです。アメリカ大使館のHPを見れば5分で確認できるのに。アメリカの偽ニュースやデマが話題になってますけど、日本の政府もマスコミも酷いもんですよ。
ボクらはそういう時代に生きているわけです。自分の身は自分で守らないと。

●やっぱりこうなるでしょ。文字通り『#年金献上』。

●『透析患者は死ね』と発言した長谷川を大阪維新は選挙に擁立。維新って、文字通りハキダメみたい。

それにしても、もう立春なんですね。春は花粉も飛ぶしせわしないのも嫌いだけど、寒いのはやだ〜。早く暖かくなれ!
●水もそろそろ温み始めました。触ってないけど(笑)。



ということで、銀座で映画『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ

今迄男性との付き合いが半年以上続いたことがない30代女性、マギーは結婚を諦め、友人から精子の提供を受けて人工授精することにした。そんな時 彼女は勤務先の大学でアラフィフの文化人類学者のジョン(イーサン・ホーク)と出会う。キャリア志向の冷たい年上妻(ジュリアン・ムーア)の為に家事育児全般を引き受け、才能があるにもかかわらず臨時雇用に甘んじていた彼の姿に彼女は恋をしてしまう。数年後 ジョンと結婚したマギーだが、依存症のダメ夫ということが分かったジョンにウンザリ、前妻に返品する計画を立てる- - -


この映画のあらすじにあるような、略奪婚とか前妻と後妻がどうしたとか、そういうドロドロした話はボクは大きらいです(笑)。昼メロみたいな人間関係ものは興味ない(笑)。ということで、当初はスルー予定でしたが、評判が良いのと、レベッカ・ミラーの監督&脚本ということで気が変わりました。この監督の『50歳の恋愛白書』って50歳を過ぎたロビン・ライトが当時は30代で格好良さ絶頂のキアヌ・リーブスと恋に落ちる話で、とっても面白かったんですよ。

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この『マギーズ・プラン』はとにかく、登場人物たちが魅力的でした。
主人公のマギー(グレタ・ガーウィグ)。親と早くから死別して、しっかり者として育ったマギーは、自分は男とやっていけないことに気が付きます。だけど子供は欲しい。そこで頭脳優秀な数学科卒の友人を口説き落として精子の提供をさせます。そしてセルフ人工授精キットを使って(そんなものがあるんですね!)、独力で妊娠しようとします。
●主人公のマギー。主役のグレタ・ガーウィッグはボクは初めてですが、最近『フランシス・ハ』などNYを舞台にした映画で売り出し中です。ちょうど今 彼女がほぼ主演の『トッド・ソロンズの仔犬物語』も上映されています。

                                       
この子の造型がすごくいいんです。自立心はあるんですが、ギスギスしてない。何事も自分でコントロールしようとするんですけど、どこか抜けている。独力で妊娠しようとするのも、ダメ男に恋するのも、ダメ男を前妻に返品しようとするのも彼女なりに一生懸命考えた結果です。特にダメ男を前妻に返品しようとするのは、そのほうが彼が輝くから、と思ったからなんです。善意から出てくる物語ですので、お話にはドロドロ感は殆どありません。
●彼女は子育てもばっちらり。自分の子も前妻の子もまとめて面倒見ます。が、段々怒りが(笑)。画面には水色が多用され、ほんわかした世界を描いています。

                             
で、イーサン・ホークが演じるジョン。この造型もすごく上手い。インテリで優しいんだけど、優しいのは自我が確立してないことの裏返しでもあります。冷たい年上妻に家事育児を押し付けられているのも、単に気が弱くて反抗できないだけ。人類学者として業績があるのに小説家になるという夢をあきらめきれない彼は魅力的ですが、いい歳こいて現実に適応できない、非現実的でだらしがないダメ男でバカ男です。彼がいまだに80年代のブルース・スプリングスティーンが大好き、という設定も上手い。彼の『ダンシン・イン・ザ・ダーク』が二度にわたって、非常にうまく使われます。イーサン・ホーク、本領発揮?のはまり役です。監督の容赦ない描写はまるで自分のことを責められているような気がしました(笑)。居心地悪かったですよ〜(笑)。
●熱々の関係も数年たてばお互い幻滅します。ベットは一緒でも心は別々。お互い自分の世界。

●Dancing In The Darkのビデオ。ブライアン・デ・パルマ

                      
で、ジュリアン・ムーアが演じるジョーゼット。名門大学で業績を積んでキャリアまっしぐら。家事育児はジョンに任せっぱなしなだけでなく、ジョンのことも普段は殆ど関心を示さない。だけど、自分の都合次第でジョンにべったり依存する。離婚したジョンに毎日電話をかけてきて、仕事のアドバイスを求める。これ、汚いですよね(笑)。まさに女性が男をコントロールする方法、支配する方法です。一緒に暮らしているマギーはジョーゼットに対して腹を立てますが、それを断れないジョンにはもっと頭にきます。
●名門大学の教授⇒学部長というキャリアを突き進むジョーゼットですが、失ってみると昔の男も支配したくなります。

                        
ちなみにリアルで怖いけどユーモラスなお話はレベッカ・ミラー監督の友人でもあるジュリアン・ムーアから聞いた彼女の友達のことを膨らませたものだそうです。主人公のマギーが30代、ジョンがおそらく40代、前妻のジョーゼットが50代という設定もギャップがあって面白いと思います。
●当然の事ながら女性二人は、当初は複雑な感情を抱いていましたが、途中で結託します。二人とも『ジョンのため』ってことは意識してるんです。バカなジョン本人は判ってないけど、ダメ男のジョンも案外人徳があるんです。

                              
映画自体に流れる雰囲気もとてもいい感じです。NYの街並み、3人を取り巻く友人たち、主人公マギーのファッション。21世紀版アニー・ホールという人もいますけど確かにそれは言えている。映画のお洒落な雰囲気、人物描写、登場人物のファッション、NYの街。個人的には『アニー・ホール』より意地悪描写がないだけ、登場人物たちに共感できる。

●言うまでもなく『アニー・ホール』はウディ・アレンアカデミー賞受賞作。この映画の衣裳を担当したことでラルフ・ローレンは有名になりました。


                                                    
レベッカ・ミラー監督はこの映画についてこう言っています。
自分の人生は自分で築けるということに気付くのは素晴らしいこと。でも謙虚さも必要。運勢を切り開けても、運命のすべてをコントロールすることはできないから。それでも、自分の生き方は選べるし、それは人生において正しい姿勢だと思う略奪婚したけど夫を元妻に返したい…妙にリアルなストーリーはこうして生まれた! - シネマトゥデイ


知的でおしゃれで自立した大人のラブコメディ。不自由な世の中で、欠点を抱えた登場人物たちは自分たちなりに自由に生きようとします。男はバカ、女は強欲。そして、どちらも可愛いらしい(笑)。レベッカ・ミラー監督は名優ダニエル・デイ・ルイスの奥さんだそうですけど、見ている間中 女友達に2時間、愛情あふれる説教をされているような気がしました(笑)。面白かったです。ボクは大好き!こういう作品こそ、見る価値があると思います。



もうひとつ、銀座で映画『スノーデン

                               
米NSAが世界中を盗聴していることを暴露した、元CIA,NSAの職員、エドワード・スノーデンを描いたオリバー・ストーン監督の新作です。ボクの大好きなジョゼフ・ゴードン=レヴィット君がスノーデンを、『きっと、星のせいじゃない2015-04-13 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)で好演したシャイリーン・ウッドリーが恋人役を演じると言うことで、非常に楽しみにしていました。しかも主題歌は尊敬するピーター・ゲイブリエル先生の久しぶりの新曲『The Veil』です。


2013年6月香港で元CIA,NSA職員のエドワード・スノーデンは英ガーディアン紙のコラムニスト、グリーンウォルド氏とドキュメンタリー映画の監督、ポイトラス氏のインタビューを受けていた。彼が語る内容はCIAやNSAが世界中を盗聴・監視ししているという驚くべきものだった。秘密を暴露する彼のこれまでの歩みは驚くべきものだった- - -
●オタク役が多いジョセフ・ゴードン=レヴィット君はスノーデンと親和性あるかも。

                           
映画は香港のホテルでスノーデンが取材を受けるところから始まります。グリーンウォルド氏とポイトラス氏の取材を受けながら過去を回想するという作りになっています。
ところが、そのポイトラス氏がインタビューの最中にカメラを回したシチズン・フォー』というドキュメンタリーが既に公開されています鳥越俊太郎 渋谷大街宣@渋谷ハチ公前と映画『シチズンフォー スノーデンの暴露』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)

シチズンフォー スノーデンの暴露 [DVD]

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そちらは文字通り、本物。スノーデンもジャーナリストたちも文字通り命を懸けて国家機密を暴露する過程が描かれた作品ですから、さすがに迫力は全然かなわない。緊迫感が全く違います。既にアカデミー長編ドキュメンタリー賞をとった『シチズン・フォー』と全く同じ場面を映画の中心に置いた、というのはこの映画の制作側のミスだと思います。どうしたって同じ土俵の上の勝負になりますから。

ただ『シチズン・フォー』は緊張感は凄いけど、内容は結構難しい。専門用語もそのまま出てきますから。そういう意味ではこの『スノーデン』は判りやすいです。誰が見ても内容は判る。それにグリーンウォルド氏もポイトラス氏もそっくりなのは感心しました。
●左からポイトラス氏、スノーデン、一人置いて右端がグリーンウォルド。みんな結構そっくり。

                                  
                                        
主演の俳優二人はとても良かったと思います。実際にオリバー・スト―ン監督もジョゼフ・ゴードン=レヴィット君もシャイリーン・ウッドリーちゃんもロシアへ渡って実在のスノーデンと恋人に会いに行ったそうです。二人ともとても丁寧に演技していることは伝わってきました。スノーデンはもともとリバタリアン的考えを持つ人間だったこと、だからテロとの戦いの為に自ら志願して軍隊に入ったし、後に入ったCIAやNSAの実態を見るにつれ幻滅して段々考えが変わっていったこと、恋人の存在が大きかったことが良くわかります。恋人二人の物語はとてもよかったです。

                                  
ちなみにジョセフ・ゴードン=レヴィット君もシャイリーン・ウッドリーちゃんもノーギャラ、正確にはこの作品のギャラ全額を『アメリカ自由人権協会』というNGOに寄付したそうです。二人ともかっこいい。特にシャイリーン・ウッドリーちゃんは工事中のダコタ・パイプライン(環境を破壊するとして昨年 オバマ大統領が工事の中止命令を出したが、トランプが工事を再開させようとしている石油パイプライン、ちょうど先週土曜のTBS報道特集でも取り上げられていました)の建設反対運動に参加して、昨年 逮捕されたそうです。売り出し中のちょっと演技力がある可愛い子ちゃん俳優と思ってた。舐めててごめんなさい。この映画でも彼女はカリスマと言ってもいいくらい、強烈な存在感を発揮しています。体型もやや骨太ですけど、存在感も骨太でした(笑)。これは褒めてます。

                                
ただ、オリバー・ストーン監督はスノーデンを美化しようとしすぎています。映画では彼が諜報業務にも従事したように描かれていますが、彼はシステム要員でそんなスーパーマンじゃなかったし、肝心の機密情報を盗む手段がSDカードにデータをダウンロードするっていうのは、幼稚すぎてさすがにウソだろ、って思います。天下の諜報機関がみすみすデータをダウンロードさせるわけがない。実際のスノーデンは1年かけて徐々に秘密を盗んでいったそうですが、映画とは言え、あんまりいい加減な描写を入れられてもシラケちゃうんだよな〜。やばいから本当の手口は描けないでしょうけど、そこは説得力ある描写をしてくれないと。

                                        
映画ではスノーデンの師匠役として架空のCIA幹部を登場させていますが、それもどうかと思います。『1984年』のビッグ・ブラザーみたいな雰囲気を出したかったんでしょうけど、オリバー・ストーンの考えを押し付けすぎ、と思いました。
●これはこれでいいんだけど、どっかの映画で見たことあるようなシーン。

それでもやっぱり日本に関わるシーンは興味深かったです。スノーデンが恋人と知り合うのは日本のアニメ『攻殻機動隊』を語るSNSだったし、NSAが日本側に盗聴への協力を要請するも断られ、アメリカ側がぶつくさ言ってるのも面白かった。

横田基地に配属されたスノーデンが、日本が同盟国でなくなったときに発動させるウィルスを通信網やダムなどの基幹インフラに仕込んだというのも面白かったです。それはそうなんでしょうね。映画の中でNSAがシリアの通信網を破壊するシーンが出てきますが、日本でも通信網を司るルーターにでもウィルスを仕込んでいるんでしょうか。ご存知のように通信をつかさどるルーターっていう機械は殆どアメリカのシスコ社製ですからね。ちなみに米政府からシスコ社へのデータ提供要請は既に明らかになっています。

                                   

この映画、スノーデンの複雑な話を分かりやすく伝えるという点では良いと思います。主演の二人は魅力的だったし、恋人二人のストーリーも中々良かったです。

でも映画としてはもっとやり様があるだろうと思います。映画が終わった後 拍手してた人がいました。映画会社の手先か、反体制的な使命感に駆られてたんでしょうか(笑)。この映画はそんな作品ではないです。説教くさいと言うか、押しつけがましいというか。『マギーズ・プラン』と違って説教に愛がない(笑)。また あり得ないようなディテールやいい加減なフィクション部分がわざとらしさを感じさせるから、メッセージ性を弱めてしまっている。シラケちゃうんですね。
                                      
それでも、この映画はそれほど悪くはないです。主役二人は凄く良いし、映画として普通に面白い。でも説教臭さは好きじゃないし、迫力も完全ドキュメンタリーの『シチズン・フォー』にはかないません。小難しくて緊張感が溢れる『シチズン・フォー』を見ていなければ、面白いし、ためになる映画と感じられるかもしれません。