特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

立って見せろ!この負け犬!:映画『百円の恋』

昨日は民主党の代表選がやってたけど、全然関係ないな(笑)。政権時の公約破り(消費税)を反省する候補者はいなかったし集団的自衛権原発の再稼働民主党としてどうするのか、未だにはっきりしない始末だ。旧態依然とした、そして何度も失敗を繰り返している岡田が代表になって、自民党は内心大喜びじゃないだろうか。

それと違うのがアメリカのオバマ大統領で、年頭の一般教書演説で富裕層への増税を打ち出した。年収6000万以上の家庭のキャピタルゲイン(株など投資からの利益)への最高税率を現在の20%からレーガン当時の28%に戻すのだという。また6兆円以上の資産を持つ銀行に新たに課税する、それを源資に中間層の子育て支援を行うそうだ。
米、富裕層に大幅増税案 オバマ氏、一般教書演説で表明へ :日本経済新聞
これが議会で通るかわからないけど、キューバとの国交回復にしろ、もう失うものがないから自分の思うとおりにやろうということなんだろう。ウォール街規制にしろ格差是正にしろ、今いち、はっきりしなかったのがオバマの問題点なんだろうが、これらはオバマに投票した人の多くが待ち望んでいた政策だと思う。やっと、だ。ここまで4年かかった。
                                                                                                         
今回の代表選を見ても、日本の民主党は労組の顔色は見ているかもしれないが、彼らに投票した人が何を望んでいたか考えてもいないと思った。お客さんを見ない企業と同じで、自衛権原発などの基本的な問題すらはっきりできないんじゃどうしようもない。それじゃあ、政権交代どころか対立軸にすらならないよ。
もちろん、実行においては立場が異なるものを足して2で割るやり方が必要な時もある。例えばオバマケアはそれで躓いたが、導入しただけでも凄い、という見方だってできる。これで医療費が減るという効果試算すらあるようだ。堤未果のような短絡的な単細胞じゃないかぎり、もう少し時間が立たなければまともな評価はできないだろう。かといって某共産党のように態度がはっきりしてても非現実的じゃあ、お話にもならないが(笑)。

                                         
                              
たぶん国民の大多数、それこそ年収が約900万以下の収入が社会の下位90%の人、それに年収がもっとあっても理性的な人の考えていることはあまり変わらないと思う。アメリカのように格差が大きく拡大しない、戦争の危険や放射能のリスクに脅かされない、それにもっと暮らしやすい社会だ。アベノミクスに対抗して、その最大公約数を目指す政策を考えることがそんなに難しいのだろうか。ボクには不思議でならない。
                                                                                           
そんなアベノミクスでも、株価が上がったことだけは成果と思ってた。今や東証の取引額の約7割が外人で、外人が買ったから株価が上がったわけだが(野村総研リチャード・クー氏に曰く『日本のことを良く知らない外人が勘違いして買った』)、アベノミクスが始まってからの日経平均株価の動きを円建てとドル建てとで比べてみた。

●2013年1月〜2015年1月までの日経平均株価の推移(2013年1月を100とする)(黒が円建て、赤がドル建て)

確かに株価は上がった。黒線の円ベースでみると昨年末には13年1月より70%も上がっている。安倍政権の命綱は株価ということで、金融緩和やらGPIFに株を買わせたり、政府は株価対策に必死だった。だが赤い線のドルベースで見てみると大したことはない。確かに13年1月と比べればドルで見ても株価は上がってはいるけれど14年1月に30%弱値上がりしたのがピークで、あとは横ばい、いや、低下傾向だ。
要するに円安だ。円を安くするということは国際的に見ると日本の富を毀損していることでもある。つまり国がどんどん貧乏になっているということだ。アベノミクスを国際的にみれば、日本を貧乏にして、国内の格差を広げる政策だ。これでいいのかなあ。野党、いい加減にしっかりしろよ。立って見せろよ!




新宿で映画『百円の恋

舞台は日本の地方都市。30歳を過ぎても実家の弁当屋ニート生活をしている一子(安藤サクラ)は家族と大喧嘩して、自活のために100円コンビニでアルバイトを始める。だが店員も客も一子自身もやる気がない人間ばかり。ある日 彼女は近くのジムでトレーニングしている中年ボクサー(新井浩文)と知り合うことになるが。
                                                          
ボクは主演の安藤サクラという女優さんがあまり好きではない。演技力が高く評価されている女優ではあるけれど、演技が押し付けがましくてウザく、感じるからだ。ということで、彼女が主演するこの映画は最初スルー予定だった。いつも名文を拝見しているぷよねこさんが褒めておられたので2015/1/4 シャドウボクシング - ぷよねこ減量日記 2016、とりあえず見に行ってみた。

                                                                                             
冒頭に出てくる、スエットから背脂をはみ出させてTVの前でコーラを飲んでいる主人公、一子の姿は、この映画の寂れた世界を一目で表しているけれど、その容赦のなさが、いかにも安藤サクラという女優が自分の演技を観客に見せつけているいう感じがして、最初はやっぱりウザかった。
                                                    
一子の実家の弁当屋はしっかり者の母親が朝から夜遅くまで働いて切り盛りしている。そこにはテレビゲームとスナック菓子ばかり食べているニートの一子、存在感のない父親、子供を抱えて出戻ってきたヤンキーの妹が暮らしている。舞台は山口県周南市だそうだが、人けの少ない町で低価格の弁当を朝から晩まで売ってなんとか存続している感じだ。お弁当の中身は揚げ物ばかりで健康に気を使っている感じが全くないのも、時代に取り残された感じをよく象徴している。
●軽トラでのデート

                                                                               
一子が勤める100円コンビニも務める店員も客も、性格や能力に難がある、一癖も二癖もあるダメ人間ばかりだ。不平不満ばかりで働かない店員、レジから金をくすねる店員、廃棄弁当を盗みに来る元店員、唯一まともだった店長はうつ病で入院してしまう。弁当屋も100円コンビニも共通するのは低賃金できつい労働環境だ。
●やってくる客も店員もロクなもんじゃない。

                                         
この映画は時代の変化に取り残され、衰退している日本の一部を非常によく象徴している。いみじくも舞台となった山口県安倍晋三の地元だ(笑)。
一子も含め、この映画の登場人物は皆、やたらとたばこを吸う。昨年の素晴らしかった『ここのみにて光輝く』でも貧困に喘ぐ登場人物たちはやたらと煙草を吸っていた。現実の世界では、アメリカ企業の管理職クラスで喫煙者なんか見たことないし、日本の企業でも禁煙、分煙が進んでいる。喫煙者にとっては肩身が狭いだろうが、歩きたばこやポイ捨てなど喫煙者が社会に与えている害悪を考えたら、日本はまだまだ甘い。自己管理できない、他人に迷惑をかけることへの感受性が鈍い人間がタバコを吸うと判断されているわけだが、この映画の中でもタバコは人生の敗者の象徴として機能している。
●登場人物たちはやたらと煙草を吸う。

                                                
映画としては語り口に破たんもないし、ちゃんとできている。主演の安藤サクラ新井浩文も殆ど喋らず、演技だけでお話を進めていくところも良い。貧困と言っても良い主人公たちの置かれた厳しい環境、それに無自覚な、ただ時間をつぶしのためだけに日々を過ごす登場人物たち。まったく息が詰まりそうな閉塞感だ。そんな中で新井浩文氏の無愛想なダメ男役はサイコー、ぴったり(笑)。
●ボクサーを引退して、職を転々とする男(新井浩文

                                    
ところが後半 一子がボクシングを始めると景色は一変する。練習を重ねるうちに一子のパンチも動きもどんどん早くなっていく。最後のころはパンチが見えなかったもん。だらしなかった体つきも引き締まって、実際に何キロ体重を落としたんだろうか。
●前半とは全く表情が違う

                                              
一子の表情も引き締まり、彼女ははっきり自分の意思を表現するようになる。それも言い出したら聞かない、『中年女が試合なんかやっても無駄』というジムの会長の言うことも全く聞かない意思の強さだ。肉体の変化に裏打ちされた、この説得力には恐れ入った。肉体にウザさはない(笑)。ボクは、彼女がいじめられて帰ってきた小学生に殴り方を教えるところで涙があふれてきた(笑)。何の変哲もないシーンが感動の場面になるなんて。あとはもう、彼女がただシャドーボクシングをやっているだけでも涙が止まらない。泥沼のような日常から、懸命に立ち上がろうとしている人間がいる。この映画は肉体という説得力でそれを見事に表現している。素晴らしい。
試合自体はどうでもいいような気がしたが、時々本当にブッ飛ばしてるんじゃないかと思うようなド迫力。凄かったなあ。今日のブログのタイトルはその時、新井浩文演じる無口な男が初めて自分の意志を表現したセリフから引用した。
  
                                                                                           
百円の恋』はボクシング映画というより、『ブラス!』や『フル・モンティ』などグローバリゼーションに苦しめられる地方の人間たちが立ち上がる名作映画に似ている。登場人物は本当にダメ人間ばかりだけど、映画は最後に淡い希望を描いてみせる。
ということで、一見の価値が絶対にある凄い映画。面白かった〜。