特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

きっと、他人事ではない:映画『フルートベール駅で』

暑かった夏が過ぎたと思ったら、もう9月も終わりです。人間の時間の認識はその人が生きてきた時間の長さに比例するというけれど、そうだとしたら歳を取るにつれて時間が短く感じるのはうなずける話です。今のボクの生きる望みは仕事とかしがらみとかから一刻も早く逃れて、隠遁生活に入ることですが、その希望の時間があっと言う間に過ぎていくとしたら辛いなあ(笑)。


昨日のNHKスペシャル『老後破産の現実』はやっぱり目が離せなかったです。ほぼ想像していた通りの話ではあったけど、実際の画面で見るとやはりインパクトは大きいです。
NHKスペシャル
20140928 #NHK スペシャル「老人漂流社会 "老後破産"の現実」 - Togetter
一人暮らしの高齢者600万人のうち300万人が生活保護水準以下の収入しかなく、そのうち200万人が生活保護すら受けていないそうです。特に、介護サービスに払う費用がなくて外を散歩することすらできないという足が悪いお婆さんの話は殆ど犯罪者の軟禁と変わらない、と思いました。もちろん、これは他人事ではない。明日は我が身の問題だ。誰だって死ぬときは一人です。生活保護叩きをやってるマスコミや政治家、それに国民は実にアホだ、とつくづく思います。捕捉率の低さを考えてみても日本では生活保護はむしろ足りないのです。もちろん予算の問題はあります。番組で述べられていたように収入別の保険料にするのも必要でしょうし、まず、原発に使う補助金をこういうことに使うべきです。もちろん原発だけでなく、商店街など無駄な補助金は山ほどあるはずです。
これは多くの人の間でコンセンサスは得られる問題だと思うんですが、政治家も国民もどうしてそういうことを考えないのでしょうか。問題ははっきりしていないのに見えないふりばかりする、時々 日本人は集団自殺でもしたいのかと思ってしまいます。



                                    
4月に見たこの映画はなかなか感想が書けなかったんです。感動したんだけど、インパクトがありすぎたからかも。DVDが9月に発売されたので、チャレンジしてみます。
新宿で映画『フルートベール駅で就職活動を始める時期にはすでに地肌が透けて見えるくらい薄毛が進行|育毛体験談

舞台はサンフランシスコ、2009年の大晦日。地下鉄の駅で無抵抗の黒人青年が白人警官に射殺された。彼には妻も子供も居た。映画は彼の生涯の最後の1日を描く。

フルートベール駅で [DVD]

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映画はいきなり、主人公が至近距離から警官に射殺される衝撃の場面から始まります。地下鉄に乗り合わせていた観客が携帯電話で映した実際の映像です。人はこんなにあっさりと死ぬものなのか
そう、これは実話です。サンダンス映画祭2013 作品賞&観客賞W受賞、最初は7館での公開からどんどん広がって、最終的には全米1000館以上で公開されたそうです。
                                                   
その日の朝の夫婦喧嘩。浮気をしたとか、しないとか、そんな話です(笑)。どこの家庭でもありそうな話?(笑)。主人公はどこにでもいる一人の若者であることが示されます。
●主人公と妻

実は主人公にはドラッグの売人だった前科があります。出所してスーパー勤めをしていたが、今は失業中。妻も子供も居る彼は生活を立て直すために職を探そうとしている。当然のことながらそんな彼にだって生活があります。クリスマス用の料理を教えてくれる優しいおばあちゃん、スーパーの同僚、友人、厳しくも優しい妻、子供。映画は彼の生活を生き生きと描いています。だらしないところもあるけれど、人には親切で冗談好きの彼のキャラクターは憎めません。明るくて、すごく魅力的な人間です。映画は彼の生活を追ってドキュメンタリー風に進んでいきますが、携帯で話す会話が画面の中で文字に置き換わったり、演出も斬新だから全然飽きない。主人公はカネも職もないけれど、何もない一般人の暮らしがいかに豊かなものか、わからせてくれるのです。
●父と娘

                                             

深夜 彼は妻や友人と地下鉄で新年のカウントダウンの花火を観にでかけます。帰り道の電車の中で昼間スーパーで親切にしてあげた白人女性に再会して軽口を交わします。そのあと出会った売人時代の悪い仲間に、既に足を洗った主人公は絡まれる。喧嘩を避けようと電車を降りた彼らのもとに警備の警官がやってくる。何もしていない主人公を警官たちは押さえつけ、いきなり発砲する。その白人女性は彼が殺される場面を携帯カメラに記録していました。それが冒頭の場面です。
●無抵抗の彼はこの後 警官に撃ち殺されます

                                                
                                                         
この事件のあまりの酷さにアメリカ各地で抗議や暴動が沸き起こり、警察や地下鉄の責任者はクビになりました。だが主人公は帰ってこない。先日もセントルイスの近くで黒人男性が白人警官に射殺されたが、同じような事件は今も続いています。 ここまで書いてきて、ボクは憤りつつも、正直どこか他人事のように感じないでもない。ボクの日常では正直 あからさまな人種差別をあまり感じることはないからです。だが、それは見せかけだけのことに過ぎません。
例えばこれ。神田の大手書店 『書泉グランデ』が嫌韓本にわざわざ差別的な手書きPOPを自店でつけて販売しているのが話題になっています。これが外国だったら店頭にデモが押し寄せるでしょう。アメリカやヨーロッパの企業だったら、これを書いた店員は勿論、責任者だって即刻クビ。企業としての姿勢の問題だからです。そんなの、ビジネスの常識だ。
書泉グランデで『中国人は雑巾と布団の区別ができるのか』という本(なんちゅう、下品な書名だ)につけられた『2メートル毎に一か所、タンが吐かれている国のリアル』という嘘つきPOP。現地で測ってきたのかよ!

*ちなみに、このバカ書店はtwitterでも在特会の本を宣伝して謝罪している。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140929-00000009-it_nlab-sci
書泉グランデが「嫌韓」本PRで炎上、ツイート削除・謝罪へ - ねとらぼ
ボクは、書泉という本屋では未来永劫 買い物をしません。こんなバカ本屋はさっさと潰れてしまえばいいのに。

けれど、この日本でも人の心の奥底に差別的な意識が根深くあることに愕然とします。おそらく本人たちには悪気はないのでしょう。ただバカなだけ。物事を考えたり、検証しないだけだ。この『考えない』病はバカ本屋や嫌韓とか言ってる白痴だけでなく、TVや新聞やネット、それに日常で毎日目にするものでもあります。例えば原発に反対する人や憲法9条を守れと言っている人だって物事を考えたり検証しない人は山ほどいます書泉グランデの連中はとんでもなく無知で愚かだが、程度の差こそあれ、その愚かさは他人事ではありません。沖縄の問題にしろ、性差別にしろ、時折この社会に生じる、ふとした割れ目から『本音』という名目のもとで表出します。


                                  
映画『フルートベール駅で』はその対極にいます。派手なシーンもないし、声高な非難もない。けれど美しい画面と斬新な演出とユーモア、環境音楽のような控えめな音楽が、見る者に深い印象を残します。その余韻は見る者に我が身を振り返らせる。重苦しさはそれほど感じない。だが、この映画の奥深くには静かな怒りと悲しみが地下水のように脈々と流れています
                                         
住む国も違えば、年齢も違う、主人公はボクにとって見ず知らずの人間です。だけどこの映画は彼はボクと同じ人間であることを深く思い知らさせますこれは決して他人事ではない。この不条理に対して、ボクに何ができるだろうかを問いかけます。
傑作!
●監督インタビュー
あまりにもドラマチックだった最後の1日…新鋭監督が語る、黒人射殺事件の舞台裏 - シネマトゥデイ