特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

AKBと、時代の終わりを哀しむ歌:『グランド・ブダペスト・ホテル』

週末の東京は梅雨の合間の穏やかな天気でした。
数か月ぶりに床屋へ行って村上春樹が通ってた、その床屋の主人と話をしていたら、もうすぐやってくる盆踊りの話になりました(東京は新盆)。盆踊りの準備をするそのあたりの町会は全て、町会長が軒並80歳を超えているそうです(笑)。地方の高齢化ということはよく言われるますが、東京の渋谷あたりだってこの有様。この国はもの凄いスピードで年老いた社会になりつつある、ということなんでしょう。
                       
                                          
                                                           
日比谷で映画『グランド・ブダペスト・ホテル映画『グランド・ブダペスト・ホテル』オフィシャルサイト
イカとくじら』や『ムーンライズ・キングダム』などマニアックな作風のウェス・アンダーソン監督の新作。今回は豪華スターが出ていることもあって、アメリカでも日本でも大ヒット中

1930年代のヨーロッパの架空の国。山間にある豪華ホテルのコンシェルジュレイフ・ファインズ)は上流階級のお客様へのお世話、特に女性のお客様への公私を問わないお世話で好評を博していた。ある日 彼は死去した伯爵夫人から遺産を譲られる。それを快く思わない遺族から殺人の罪を着せられた彼は弟子のロビーボーイとともにドタバタの冒険を繰り広げる
                                                
そんなお話。
主人公は優雅な物腰で老婦人たちを虜にしている伝説のコンシェルジュ。彼のおかげでホテルは繁盛しています。相棒は中東あたりから逃れてきたらしい無国籍のロビー・ボーイ。この設定もなかなか一筋縄ではいきません(最後にはすべてネタ明かしがされます)。
●お話はこの二人を中心に展開される。コンシェルジュレイフ・ファインズ)とロビー・ボーイ

                                                                                 
監督独特の、極彩色のおもちゃ箱をひっくり返したような夢の世界でお話が進んでいきます。今回 色濃く描かれているのは戦前のヨーロッパの文明社会。と言っても監督はテキサスの田舎者だし、見ているボクだって、そんなものは知りません。あくまでも想像上の世界として、ワインやオーデコロンや豪華な建物に彩られた優美な暮らしが描かれています。現実感の無さが逆に観客の想像力を刺激します。
●独特の色彩。文字通り夢の中の世界のようだ。

                                     
お話のところどころに有名俳優が出てくるのが良いアクセントになっています。弁護士役のジェフ・ゴールドプラム、犯人を追いかける軍人役のエドワード・ノートン、仇役のエイドリアン・ブロディ、探偵兼殺し屋のウィリアム・デフォー、執事仲間にビル・マーレー、その他にもジュード・ロウに、ハーヴェイ・カイテル
●左から殺し屋(ウィリアム・デフォー)、遺産の横取りを狙う伯爵夫人の息子(エイドリアン・ブロディ)、執事仲間(マチュー・ブロデリック)、コンシェルジュレイフ・ファインズ

                                   
                                           
コミカルでブラックで、夢のような世界を描いたこの映画で一番感じるのは『哀切さ』です。主人公たちが活躍する優美な夢の世界にはファシズムや戦争という黒い雲が迫ってきます。お話の中で主人公は彼が生きてきた優美な文明社会を守るために、ある時はユーモラスに、ある時は懸命に黒雲を振り払おうと抵抗し続ける。だが彼はやがて思いもよらぬ形で命を落とします。

シャンパンと楽しいお喋りを楽しむ主人公と老婦人たち。今はいずこに。

                                
                                                       
やがて過去は去り、残ったのは遺物のようなホテルと思い出のみになってしまう。映画はそれが若い人に引き継がれていくことを暗示して終わる。もちろん、それは未来への希望でもあります。それでもボクはこの映画の感想は『哀切』という言葉でしか表現できません。この映画が言外に述べていることは今 落日の日本で起きていることとあまりにも似ているからです。
      
                                              

                                                                             
7月1日、当初からの予定通りの出来レース解釈改憲閣議決定したその日から、AKB出演の自衛隊リクルートCMが流れているそうです。

     
                                         
また、内閣府・防災担当の公式Twitterアカウント「@CAO_BOUSAI」が5日午後AKB48ノコギリ襲撃事件の被害者 川栄李奈が傷跡を公開し、話題に!! 画像を見る⇒(URL)と書かれたツイートを誤って投稿した、そうです。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140707-00000049-zdn_n-sci
役人は『仕事中に何やってんだよ』ということは置いておいても(笑)、これではまるで内閣府自ら『日本にはサイバー攻撃への備えはないし、する気もない』ということを公言しているようなものです(笑)。日本なんて所詮そういう国なんだよ集団的自衛権なんて1000年くらい早いし(笑)、原発事故もまたやるに決まってる。ボクはAKBはよくわからないですが、安倍政権ってAKBと相性がいいと思います。ターゲットは自分たちに都合の良い国民だけ、そして、そういう国民は理屈より情緒に反応するものだ、と一方的に決めつける。
                          
ボクは、今のこの国は文明というものをないがしろにしているとしか思えないです。総理大臣と称する公務員を筆頭に、安っぽい感傷に溺れながら、未来への緊張感と創造力を欠いたまま、時代が進もうとしている
                                          



                      
映画のエンドクレジットには『この物語はオーストリア人作家シュテファン・ツヴァイクにインスパイアされた』という表記が出てきます。平和主義者でユダヤ人だった彼はナチズムが席巻するヨーロッパを逃れてアメリカ大陸に亡命し、そこでヨーロッパとその文化の未来に絶望して1943年に自殺したそうです。日本軍によるシンガポール陥落の知らせを聞いて直ぐ、だったらしい。
                                                                                        

                                               
おもちゃ箱をひっくり返したような、そしてユーモラスなこの映画は見ていて単純に楽しい。だがお伽噺のように笑ったり、ハラハラしたりしながら見る画面の裏には絶えず哀切な通奏低音が流れていますこういうのを哀歌って呼べばいいのだろうか。『グランド・ブダペスト・ホテル』は1つの文明の終わりを哀切に描いた秀逸な物語でした。
                                     

                                 
●おまけ。ロキシーミュージックの名曲『ヨーロッパ哀歌 A Song For Europa』