特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『パンドラの約束』と『ネルソン・マンデラ釈放の真実』

23日になんちゃって国賓(笑)で来日するオバマは迎賓館でなく、何故かオークラに泊まるらしい。まあ どうでもいいけど、今週はあの近辺は身動き取れなくてどうにもならないだろう。頼むから日本の政治家がロクでもないお土産を進呈しないでもらいたいなあ(笑)。
                                       
とりあえず渋谷でドキュメンタリーを2つ見てきた。まず原発推進のドキュメンタリーとして話題の映画『パンドラの約束』。

          
内容は環境問題の立場から原発を推進すべき理由を挙げていくドキュメンタリー。サンダンス映画祭2013上映作品。
ドキュメンタリーにしてはお客さんは入っている。といっても50人くらい(笑)。2週間限定公開の初日、最初の回だから、これが多いのかどうかは判らない。

                  
ボクは自分の考えと反対の意見は積極的に聞きたいと思っている。左右を問わずどこかのバカ(笑)みたいに、自分の考えが絶対的に正しいなんて思わないし、むしろ(集会などで)自分と同じ意見ばっかり聞いているとまるで自分がアホになっていくような感覚に陥ってしまう気持ち悪い(笑)。だから原発についても、推進すべきという意見は意識して自分から触れるようにしている。そのうえで自分で判断する。勿論、くだらないものに時間を割くのは無駄なので、真面目に論じたものに限るけど。中国に行ったことないのに中国の悪口ばかり言っている櫻井よしこ(笑)が推薦コメントを寄せているこの映画も若干不安だったが(笑)、それでも期待して見に行った。公開初日の最初の回に出かけるくらい。
●フクシマ1Fのすぐ近くまでロケしている。左が監督

映画はかって反原発の立場だった環境運動家、学者、作家などが登場して原発を推進しなくてはならない理由を述べていく。ちなみに監督もそういう人らしい。論拠はこんな感じだ。
1.地球温暖化を防ぐためにはCO2を出さない原発がエネルギー源として最もふさわしい。
2.自然エネルギーはまだ開発途上の技術だし、化石燃料を代替するのは量的に無理。また自然エネルギーは不安定だし、補助として化石燃料を必要とする
3.発展途上国が経済発展していくにつれてエネルギーの需要はどんどん増える。それを賄うためには原発が必要だろう
4.原発事故の被害は大したことない。スリーマイルでは誰も死んでないし、WHOなどの国際機関の調査(チェルノブイリ・フォーラム)ではチェルノブイリでは数十人しか民間人は亡くなってないし、奇形児が生まれたなんて話はない。
5.現在使われている軽水炉は商業的な観点から導入されたもので、本当は安全な原発はある。90年代アメリカではメルトダウンの恐れがない一体型増殖炉の研究が進められていたが、民主党の費用削減で開発が中止になってしまった。また現在研究が進められている増殖炉を使えば、核ゴミの問題も解決することができる。つまり原子力発電を進めていけば人類のエネルギー問題は解決する。

            
こんな感じ。ボクは『自然エネルギーなんか、まだ当てにならない。』と思ってるので、その点は同感。あとはちょっとなあ〜と言う感じ。数字的な裏付けが殆ど提示されないし、論理も首をかしげるものが多いのだ。
CO2の件はよく言われる話だ。温暖化の問題はあるかもしれないが(これから寒冷期が来るという説もある)、そうだとしてもCO2を減らすのに最も有効なのは地球上でもっともガバガバ、エネルギーを使っているアメリカ&中国の排出量を減らすことだ。そのためには原発ではなく省エネ技術の普及が急務だろう。SUVみたいな燃費が悪い車をなくすことの方が原発より余程 地球温暖化防止に効果があるはずだ。環境保護の観点に立ってる割にはそういうことは言わないのね(笑)。また素人考えだが、ボクは地球温暖化は大気中に排出される熱量の総量が問題だと思っている。普通に考えたらそうだよね。つまりエネルギー変換効率が重要なのだ。原発のエネルギー変換効率は30〜40%、最新のガスタービン火力は60%なのだから、答えは明確だ。ちなみにこの映画は温暖化のことを指摘する割には、何故か原発の温排水のことは全く触れない。

発展途上国の問題はその通りだと思う。以前行ったベトナムでもしょっちゅう停電があって、みんな困ってた。だが途上国がアメリカや中国と同じようにガバガバ資源を垂れ流すようになったら地球が亡びるだろ(笑)。だからこそ効率的なガスタービン火力と省エネ技術の普及が必要なんだよ。ちなみに、このくだりになると映画から環境保護の視点が消えて、エネルギーをガバガバ使うぞという立場になってしまうのが面白かった(笑)
チェルノブイリ事故の被害については『被害の程度は諸説ある』が事実だろう。大きな被害を報告したベラルーシかどこかの公的な報告書もあったはずだ。勿論 一部の反原発団体が言っている100万人単位の被害というのはどうかと思うけど、奇形は生まれなかったとまで言うのは、ボクはアカデミー賞を取ったドキュメンタリー『チェルノブイリ・ハート』の壮絶な映像をこの目で見ているので『嘘つき!』という感想しかない。
最後の『安全な原発はある、増殖炉で核ゴミの問題も解決できる』という話は、メカニズムの説明がなかったのでウソかホントかわからないけど『そういうものが、ちゃんと完成してからの話にしてね』(笑)というだけ。映画で取り上げられてた自然エネルギーの話とおんなじだ。ただ、核軍縮で廃棄されたソ連の核弾頭をアメリカが買い取って、原発の核燃料にリサイクルしているという話は知らなかったので面白かった。
●反原発で著名な(らしい?)医師ヘレン・カルディコット氏にもインタビュー。ヒステリックで無知なおばさんのように描かれている。

                                                      
どんなものにでも良い点もあるし、悪い点もある。原発推進でも原発廃止でも同様だ。でもこの映画は原発はバラ色という一方的な立場からの観点で、しかも詳細を説明しない。それに矛盾も多い(笑)。電力会社のキャンペーン映画ならわかるけど、こんないい加減なドキュメンタリー作っていいのかよ!という感じ。あともう一つ、原発を進めるに当たっては地震津波の問題があるけど、わざわざ双葉町にまで出かけてロケをしたこの映画ではそのことは一言もなかった。
学ぶところがあるかもしれないと思って、それなりに期待して見に行ったんだけど、がっかりした。原発を推進したいと思ってるんだったら、もうちょっと真面目にやれよ!(笑)


                                                                  
その日 もう一つ見たドキュメンタリーは『ネルソン・マンデラ釈放の真実』(原題は『Plot For Peace』)

ネルソン・マンデラ釈放の裏で、南ア政府と数か国にまたがる『平和への策略』があったという。その『策略』を、それに関わった謎のフランス人実業家オリヴィエを中心に、当時の南ア白人政府の閣僚をはじめとした関係者、それに対する黒人側、コンゴの大統領、キューバ共産党中央委員、アメリカの国務次官補などの証言で浮かびあがらせていく。


                                     
1980年代初頭。相変わらず続く南アのアパルトヘイト。国際世論は南アに対して非難が渦巻き、経済制裁が実施されていた。南ア経済は疲弊するが政府は黒人たちの運動を暴力で弾圧し、ネルソン・マンデラ氏は依然として獄中にあった。さらに南アはアンゴラなど周辺諸国へ侵攻も進め、それに対してアメリカは陰で援助を行っていた。
そのような状況を目にしたのがフランス人実業家オリヴィエ。石油や穀物の貿易で富を築いた彼は南アのアパルトヘイトを『間接的に崩壊させる』ことを決意して、自分の富と人脈を生かして人知れず活動を始める。獄中のネルソン・マンデラ氏を釈放させることがアパルトヘイト崩壊につながると考えたのだ。
マンデラ氏とオリヴィエ(右)

                                              
オリヴィエはまず、母国フランスのシラク首相に交渉させようとした。南ア政府に経済的利益と引き換えにマンデラを釈放させようというのだ。彼はコネを使って南ア政府の要人に会い、ボタ大統領にシラクと会談させることを約束させた。そして彼はシラクにも話をつける。だが当時は極悪非道の南ア政府と交渉していることが公になっただけでも国際的に非難される時代。彼が秘密裏に立ち回って実現させようとした会談は直前になって中止に追い込まれる。当時のアフリカ諸国の指導的立場にあったコンゴ共和国の大統領がフランスを非難したからだ。失意に追い込まれるオリヴィエ。だが彼は今度は、そのコンゴ共和国の大統領を使って南ア政府と交渉させようとする。強硬なコンゴ共和国の大統領(もちろん黒人)と自国内の黒人に平気で銃を発砲するような(その記録フィルムが映画で映されてびっくりした)極悪な南ア政府との間をオリヴィエはどうやって仲立ちをするのか???
コンゴの大統領はバンバン・バリバリの共産主義者(笑)

                                       
             
オリヴィエは殆ど私費で動いていたという。自分のプライヴェートジェットが戦闘機に追われて撃墜されそうにもなったらしい。事後にビジネス上のメリットがあったかどうかはわからないが、彼の努力は交渉に費やした数年という時間を考えるとビジネスとしてはとても引き合うものではない。彼は自分の行動の理由をカメラに向かって語る。彼はかってフランスの植民地だったアルジェリアで植民地の独立に反対して投獄された。アルジェリアは独立派と独立を阻止する側とで文字通り血なまぐさい抗争が行われたことで有名だ。オリヴィエは当時の閉塞しきった南アの社会を見て、アルジェリアと同じことが起きていると思ったのだそうだ。間違いは繰り返したくない、と。また周囲の人間はこうも語っている。『妻も子供もいないオリヴィエは平和と言う自分の作品を世の中に残したいと思ったのではないか。』


コンゴ大統領が南アと本気で交渉する気になったのは、オリヴィエのアドヴァイスで用意した夕食に出たバッタ料理(アフリカ料理らしい)(嫌がっていると思われないように)南アの使節が無理やり食べるのを見て、『こいつらはナチとは違う』と思ったからだそうだ(笑)。そんな小さなキッカケを生かしながらオリヴィエは時間をかけて当事者間に血道に信頼を積み上げていく。
                                              
やがて南アは敵対していたアンゴラの石油施設にテロをしかけ(!)、その実行犯の特殊部隊の軍人が捕まるという事件が起きる。オリヴィエはアンゴラへ赴き、コネを使って政府要人と面会する。その席でその軍人を釈放させるよう交渉を始める。粘り強い交渉の結果 特殊部隊の軍人の解放を実現させたことで当事者間の信頼が成立し、それはやがてキューバアメリカを巻き込んでアンゴラでの紛争の終結が実現する。
当事者たちの証言が面白い。キューバ共産党の中央委員によると、キューバと南アの交渉なんて当初はまるっきり子供の喧嘩だったそうだ。そりゃあ、水と油だもんなあ。

                                            
またアメリカの国務次官補チェスター・クロッカーの率直な証言。『俺たちが南アを支援しているのは秘密だったのに、(アホの)レーガンが記者会見で、水面下で支援を行っていると喋っちまった(笑)』とか『とにかく南アの資源を守ることが重要だった。俺たちは慈善事業をやってるんじゃないんだよ(そのあとニタア〜と笑う)
たしかにそうだろう。もちろんトンでもない連中だが、アメリカはそうやって損得のソロバン勘定ができるだけ、靖国とか一文の得にならないことに血道をあげる日本の政治家や役人より遥かにマシなのだ。
●いかにも頭が良さそうなチェスター・クロッカー国務次官補。悪い奴なんだ、これが(笑)。結構 気に入って写真をネットで探してしまった(笑)


                                                    
諸外国と交渉を続けるうちに、国際的に孤立していた南ア政府の中でも、もう自国のアパルトヘイトは維持できないことが理解できる人間も出てくる。強硬派のボタ大統領は失脚し、南ア政府はネルソン・マンデラを釈放し国際的な孤立を解こうとする。勿論 マンデラ氏の解放はやがてアパルトヘイトの撤廃に繋がっていく。
マンデラ氏にも存在が知られないほど秘密に活動していたオリヴィエだが、大統領になってその存在を知ったマンデラ氏はオリヴィエに勲章を授与したという。

                                                                                                                                 
全然知らなかった文字通りの秘話だし、複雑な話だけど、とてもとても面白かった!学ぶべきところが一杯ある。まず、当事者双方にメリットを生じさせるように交渉を導くオリヴィエ氏のビジネスマンらしい交渉力。当時の南ア政府と交渉するなんて世界中から人悲人扱いされる行為だが(南アの特殊部隊のテロリストを釈放させるなんて、それこそ左派や人権団体が大騒ぎだ)、オリヴィエはそうすることでしか南アに平和をもたらせないとして粘り強く交渉を続けた。彼は、不完全でも、手持ちのカードでベストを尽くしたのだと言う。
また、当時の南ア政府のかたくなさは、それこそ何を言っても通じない安倍晋三に近いものがあると思う(笑)。南アは核兵器まで持ってアパルトヘイトを維持しようとしていたのだ。それでも南アのアパルトヘイトは倒れた。マンデラ氏のような不世出のリーダーがいたことも大きな理由だが、オリヴィエのように現実的な手段で少しづつでも世の中を良くしようと動いた人(個人!)が数多くいたこともその理由の一つだ。これは安倍政権で閉塞感溢れる(笑)日本でも参考になることではないだろうか。南アのナチもどきの連中だって粘り強く取り組めば交渉はできたのだ。物事は変えることができる。監督はそう言っている。
                                                         
真剣に学ぶべきことが多い、とても面白い映画だった。埋もれるには勿体ない傑作ドキュメンタリー。見ると勇気をもらえます。

●先日 来日したオリヴィエ本人(左)と監督。監督が口説いて、やっと秘話の全貌を明かしたという


●来日時のオリヴィエ氏のTVインタビュー。感動的です。