特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

ロバート・ライシュ先生のインタビューと映画『バックコーラスの歌姫たち』

アベノミクスの唯一の成果、株価も最近見る見るうちに下がって先週末には14000円を割り込み、年初来安値になった。昨年5月以来の数字です。 そもそもの株価上昇が『日本を良く知らない外国人投資家の勘違い』(リチャード・クー)でしかなかったので、いつかは化けの皮が剥れるのは当然といえば当然。

バランスシート不況下の世界経済 (一般書)

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これで法人税減税とか金融緩和とか、一部企業や金融関連の優遇に一層 拍車がかかるでしょう。一般国民の生活は益々苦しくなり、いずれ、『中産階級が資本主義を維持しようとする動機がなくなり、資本主義が終末へ向かう。』(水野和夫氏)。デフレが失業率を高めるのは問題だけど、インフレは富者をより富ませ、弱者をより貧しくさせます。実際 昨年の7月以来ずっと、『賃金以上に物価は上昇している』のだから、国民は貧しくなり続けています。

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

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一時的な緊急避難なら金融緩和や公共事業をやっても良いが、本質的には所得税を強化して富の再配分を変える、そのことによって「中間層を底上げして需要を増やす」のが根本の解決策、だとボクは思います。もちろん女性の社会進出はそれ以前の問題(笑)。何だかんだ言ってもアメリカではロバート・ライシュ先生みたいな人が『格差縮小による需要増』という金持ちや金融関連に都合が悪い景気回復策を指摘するが、そういうことは日本では議論すら、ありませんい。
●拡大したら読めるかな?ロバート・ライシュ先生のインタビュー(日経4月7日)。こんなにリベラルな人が、かって閣僚だったというのは信じられません(笑)。


  
                                                                                
さて今年のアカデミー賞絡みの映画は実話もの、近現代史ものが非常に多かったです。 ちょっと前に起きた事件を描いた『アメリカン・ハッスル』、『ウルフ オブ ウォ―ルストリート』、『ダラス・バイヤーズクラブ』、『あなたを抱きしめる日まで』、黒人の歴史を描いた『大統領の執事の涙』、『それでも夜は明ける』。演出はコメディだったり、シリアスだったり色々ですが、どれも事実を元に自国の恥部を容赦なく見つめた傑作揃いです。
一方 日本でやっている映画はどうだろう(笑)。大手で公開されている様な映画では宮崎駿の『風立ちぬ』くらいか。『永遠のゼロ』は戦闘場面のCGはすごいという話はあっても(笑)、馬鹿な戦争を始めた責任者や特攻の責任者のことに言及しているなんて話は聞きません。きっと何か意図があるんでしょう(笑)。しょせん、そんなものでしょ(笑)。

        
日本人は現実を直視することを避けたがります。政治家もマスコミもやたらとコトバを改変して現実をごまかそうとするし、なんだかんだ言って国民はそれを受け入れる。。太平洋戦争の『敗戦』を『終戦』と言い換えるのも、原発事故当時メルトダウン』というコトバを使った官僚が更迭されたのも、『冷温停止状態』も『収束宣言』も、安倍晋三の『アンダーコントロール』も、それに『風評被害』っていうのも多くはそうです。
失敗続きにも関わらず、今だに税金を垂れ流し続ける「もんじゅ」や「六ヶ所村の再処理施設」なんかはその最たるものですその六ヶ所村の再処理施設にアメリカが疑問を投げかけているといいます。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140414-00000003-asahi-soci

報じているのは朝日だけなので、ボクはまだ信用していません。だがアメリカは日本に、特に安倍晋三には核兵器を持たせたくないことだけは確かでしょう。 結局 外圧頼みなんでしょうか。この外圧頼みは論理的な行動を取れない日本人自らが招いているような気がします。ムードだけで動く、しかも健忘症の日本人に核兵器なんて、そりゃあ、『キ●ガイに刃物』だもの(笑)

                


さて、今年のアカデミー賞絡み、最後の感想はこれ。渋谷で映画『バックコーラスの歌姫たちcenter20.com - このウェブサイトは販売用です! - 映画 アニメ動画 ドラマ動画 映画動画 海外ドラマ リソースおよび情報。今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門の受賞作品。音楽映画のようでありながら、先ほど挙げた作品のように黒人の現代史にシンクロするものになっています。

                         
内容はポピュラー音楽のバックコーラス専門、無名の黒人女性シンガー6名の人生にスポットライトを当てたもの。
映画はブルース・スプリングスティーンのインタビューから始まります。彼は言います。『ステージのセンターのマイクがあるところから、バックコーラスのところまでたった20フィートしかない。だが、その20フィートがとてつもなく遠いんだ。』

スプリングスティーン


この映画の原題『20 Feet From Stardom』はこの言葉から来ています。そのあとルー・リードの『Walk on the wild side』が流れ、その中の黒人女性コーラスが最高潮に達したところで本編が始まる。もう、ぞくぞくするような格好良さ。この時点で、この映画が傑作であることは決まったようなものです。


まず1950年代からのポピュラー音楽の流れが語られる。当時は女性黒人コーラスは異端だったそうだ。バックコーラスは良家のお嬢さん風の衣装を着た白人女性ばかり、もちろん、メインを張るのはビング・クロスビーとかフランク・シナトラみたいな白人の男性シンガー。だが60年代に入り、元来黒人音楽であるロックンロールが出現すると、黒人女性コーラスも出番が出てきた。彼女らの多くは教会の聖歌隊の出身で、そのソウルフルな歌声は次第に市民権を得てきます。
それ以降も道は平坦ではありません。例えばフィル・スペクターBe My Babyなどのヒットで60年代 一生を風靡しましたが、彼は文字通り悪徳プロデューサーでした。ダーレン・ラブという黒人女性シンガーはスペクターの曲を売るために見栄えの良い女性シンガーの替え玉として散々歌わされ、それ以降も悪徳契約で縛られてソロデビューはさせてもらえませんでした。
あまちゃん』に出てきた話、そのまんまです!
●ダーレン・ラブ

メリー・クレイトンという黒人女性シンガーは74年にアメリカ南部の保守的な白人バンド、レナード・スキナードのバックコーラスをやりました。南部の黒人差別を糾弾したニール・ヤングの『サザン・マン』へのアンサーソングである『スイート・ホーム・アラバマ』のバックコーラスをすることに彼女は葛藤を覚えたが、彼女は黒人シンガーの実力を示すために敢て唄ったのだといいます。また彼女のストーンズの「悪魔を哀れむ歌」でのエピソードも驚き。ミック・ジャガーの声をミキシングして小さくして聞いてみると、これは圧倒的な名演なんだということが良くわかります。そういう歴史を知ると、普段は聞き流しているポップス音楽がなんとも感慨が深く感じます。そこには黒人シンガーたちの葛藤があったんだ。
●メリー・クレイトン

彼女たちの音楽史を飾るいくつもの名演で、やがて黒人女性のバックコーラスはごく一般的な存在になっていきます。もはやポピュラー音楽には欠かせないものになっていると言えるでしょう。だが最近はポピュラーミュージック界では経費削減や多重録音が手軽になったため、バックコーラスは下火になってきているそうです。
      
ここに出演しているバックコーラスシンガーのことは殆ど知らなかったけど、挿入される昔のミュージシャンの演奏風景やインタビューが見るものを飽きさせません。特にアイク&ターナーの頃のティナ・ターナーやプラスティック・ソウル(白人のジャンキーによるソウルミュージックをやっていた頃のデヴィッド・ボウイの格好良さには改めてしびれてしまいました。またスプリングスティーンミック・ジャガー、スティング、U2のボノなど豪華スターの率直なインタビューも見所たっぷり。


この映画が素晴らしいのは、取り上げられたシンガーたちは自分がバックシンガーであることを悔いていないところです。もちろん自分がスターになりたくてなれなかった人も居るし、この前ストーンズのバックで来日したリサ・フィッシャーのようにスターになれたのに性格的に裏に居たくてバックに戻った人も居るけれど、誰もが共通しているのは唄うことが楽しくて仕方がない、というところです。自分のやってることが好きで好きで仕方がない、っていいですよね。
そのなかでもダーレン・ラブが一時期 歌手を諦め、家政婦をやっているとき、その家のラジオで自分が替え玉シンガーをやったヒット曲が流れてきて再び歌手を志した、というエピソードは感動的でした。今では彼女はかっての功績を認められロックの殿堂入りしています。
●真ん中の女性ジュディス・ヒルは日系のハーフ。マイケル・ジャクソンのデュエットの相手役に抜擢されたが、彼の急死でパーになってしまった。

結局 世の中を変えたのは「歌うことが好き」という彼女たちの純粋な気持ちでした。そういう気持ちが幾つもの名演を生み、音楽界を変えていった。彼女たちの歴史、文化史的な価値を知ることは勉強になったけど、無名の彼女たちの歌が素晴らしいから見ていてとても楽しい。アカデミー長編ドキュメンタリー受賞のこの映画、めちゃくちゃ面白いです。DVD出たら買っちゃうかも。

●おまけ。銀座でmatsukentoさん、お薦めの鳥取ラーメンを食べてきた。牛骨ベースのスープは臭いかなと思ったけど、そうでもなくあっさりしています。朝鮮料理のクッパスープにも通じるかも。日本海を挟んで文化的な交流があるんでしょうか。