特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』

 良いお天気の穏やかな週末でした。気持ち良かった。日比谷公園では梅の花が開き始めました。

 この週末は、先週亡くなったバカラックのCDをかけながら来月半ばに迫った引っ越しの準備で大忙しでした。いつまでも寝ている訳にも行きません。
 今の家は長年整理しないまま、モノがあふれているんです。自分では物欲はないと思っているのですが、食欲と知識欲は卑しい程あるらしい。

 新しい家は今より若干狭いマンションなので、2000枚くらいあるCDも、500枚くらいありそうなDVDも、数が判らないくらいある本も整理して、不要なものは捨ててしまわなければどうにもならない。欠かさず購読している雑誌’’ミュージックマガジン’’も40年分あったのを捨てました。気が遠くなりそうです( ´艸`)。
 

 と、いうことで、有楽町で映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家

2020年に亡くなった『荒野の用心棒』『アンタッチャブル』など多数の映画音楽を手掛けてきた作曲家、エンニオ・モリコーネ氏のドキュメンタリー。サーカスでトランぺットを吹いていた父のもとに生まれ、やがてクラシック音楽を学んだものの、かっては芸術的地位が低かった映画音楽に携ってきた半生を回想したもの。クエンティン・タランティーノクリント・イーストウッドウォン・カーウァイブルース・スプリングスティーンオリヴァー・ストーンクインシー・ジョーンズらがインタビューに応じている。
gaga.ne.jp

 多くの映画やテレビ作品で音楽を手掛け、2020年に逝去したエンニオ・モリコーネ氏を描いたドキュメンタリーです。奇しくも先週亡くなったバート・バカラック氏と同じ1922年生まれです。

 60年代から現在まで、世界中で大ヒットした多くの作品で賛辞に包まれた人ですが、出身のクラシック界からは中々認められなかったり、晩年までアカデミー賞が与えられなかった葛藤があった。監督は『ニュー・シネマ・パラダイス』でモリコーネ氏と組んだ、ジュゼッペ・トルナトーレ

 映画では生い立ちから、晩年までが時系列で描かれます。彼の父はサーカスのトランペット吹きでした。トランペットを吹くことで家族を養うことに誇りを持っていた人です。エンニオも父の影響でトランペット吹きになります。

●元々はトランぺッターでした。

 やがて彼はクラシックの専門教育を受けることになりますが、クラシックでは中々仕事が得られなかった。心ならずも彼は映画音楽の仕事を請け負うことになります。

 彼の作曲風景がフィルムに収められています。彼は楽器を使わずに作曲する。頭の中でオーケストラが鳴っているんです。絶対音感どころの騒ぎではありません。どういう頭の構造なんでしょう(笑)。

●家でこうやっているうちに曲ができます。楽器を使わないのが驚きです。

 やがて彼は小学校の同窓生だったセルジオ・レオーネ監督の『荒野の用心棒』の映画音楽で脚光を浴びます。クラシックの作曲技法に前衛音楽の手法を取り入れた彼の作風は、キャッチーなメロディに口笛や効果音を散りばめた独創的な映画音楽に結実し、人々に強い印象を与えます。
 ちなみに『荒野の用心棒』は黒沢明監督の『用心棒』を参考に作ったそうです。

●荒野の用心棒のタッグ

 レオーネ監督らのいわゆるマカロニ・ウェスタンは世界中で大ヒット。モリコーネの音楽も大ヒット。しかし、彼の仕事は出身のクラシック界ではバカにされていました。モリコーネは理論的な前衛音楽を学んでいたこともあって、恩師や同窓生に『映画音楽なんて売春と同じ』とまで言われるのです。

●レオーネと

 映画では映画音楽の芸術的価値が低かった当時の苦しい胸のうちを正直に明かしたり、『荒野の用心棒』での成功の喜び、『アンタッチャブル』で3度目のアカデミー賞ノミネートとなるも受賞を逃し、落ち込む様子なども描かれています。

 それとは対照的に、モリコーネのファンは世界中に広がります。一見畑違いのように見える人たちからも彼の音楽は愛されました。

●10代の頃からファンだと言うスプリングスティーンもインタビューに答えています。貧しかった10代、場末の映画館に入り浸ってマカロニウェスタンを見ていたそうです。

 84年の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』はクラシック界からも高く評価されます。同窓生は謝罪の手紙を書いてきたほどです。
 しかしモリコーネは映画界最大の栄誉であるアカデミー賞には無視され続けていました。候補には上がるものの、中々受賞することができない。60年代、70年代、80年代と彼の活躍は続きますが、心のうちは複雑だったようです。

 失望した彼は映画音楽から離れようとしますが、当時は無名の若手だったジョゼッペ・トルナトーレ監督が強引に脚本を送って来て、仕事を依頼してきます。モリコーネは脚本を気に入り、『ニューシネマ・パラダイス』の作曲に着手します。

●トルナトーレ監督

 再び大成功を収めたモリコーネ氏は映画音楽作りを続けます。ヒットの有無より、彼の心の中で映画への愛情を確認できたのです。やがて彼はアカデミーの名誉賞を受賞し、そしてモリコーネの大ファンだったタランティーノ監督の15年の『ヘイトフル・エイト』でアカデミー賞を受賞します。マカロニ・ウェスタンへのオマージュでもある西部劇『ヘイトフル・エイト』では今まで彼が手掛けていた西部劇とは全く異なる作風の音楽だったのが、面白いです。

●晩年のモリコーネ

 上映時間が2時間半と結構長いのですが、次から次へと過去の名作と音楽が紹介されるので仕方がないかもしれません。時間が足りないと言えば足りないくらいです。
にもかかわらず、だれるようなこともなく、様々なインタビューと本人のインタビューが組み合わさって心の内を探っていく2時間半はドキュメンタリーとしてはかなり質が高い。
  モリコーネは映画を愛することによって救われ、彼自身が世界中の人から愛された。そういう人生でした。そして、この映画を製作した側にもモリコーネに対する愛と尊敬が溢れているのが判る。映画って、映画音楽って、本当に良いものだなあと思わせてくれる傑作ドキュメンタリーです。


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