いよいよ11月も後半。冬の足音が足早に聞こえてきました。
高市の支持率が依然高いそうですが、この国の国民の頭って大丈夫なんでしょうか(笑)。
高市だけでなく与野党ともに補助金だの減税だのバラマキばかり議論しているけど、それじゃあ、こうなるのは当たり前。
何とかにつける薬はない、というのはいつもの話ですが、政治家よりこの国の国民の脳みそをどうするのか、の方が遥かに問題なのかもしれません。
マジかよ。NY市長が最低賃金4500円を掲げてる時代に、1500円の将来の目標すら撤回される我が国。本当にド貧乏な国になったなあ。たまげたね。 / “【速報】高市総理が石破政権の最低賃金目標を事実上撤回 「2020年代に全国平均1500円」を明示せず | TBS NEWS DIG” https://t.co/PivOFbyWiz
— 深町秋生・文庫版「探偵は田園をゆく」8月7日。 (@ash0966) 2025年11月14日
と、いうことで映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』(Deliver Me From Nowhere)
アメリカのロック歌手、ブルース・スプリングスティーンの伝記映画です。
日本での知名度、人気はいまいちかもしれませんが、70歳を過ぎても3~4時間以上も演奏する熱狂的なステージと文学的な歌詞でアメリカは勿論、最近は特に欧州で絶大な人気、尊敬を集めています。
これは有名な78年のライブですが、初めて見たときはそのエネルギーにびっくりしました。
www.youtube.com
今年の春 この人がトランプを『無能な大統領』と批判して大きなニュースになったのは記憶に新しい。
本作はスプリングスティーンの生涯を辿ったものではなく、81~82年の2年間に焦点を当てたものです。
80年『ザ・リバー』という作品が初めての全米1位になり、それに続いた全米ツアーも大成功。レコード会社やファンはさらなるヒットを期待していました。
彼は何故、そんな作品を出したのか。そして、そのあとに続く世界的なメガヒット『ボーン・イン・ザ・USA』とどうつながっていくのか。
『クレイジー・ハート』でアカデミー賞を取ったスコット・クーパーが監督した作品です。
話せば長くなりますが、ボクはロック音楽、特にブルース・スプリングスティーンの音楽には人生を救ってもらったと思っています。大げさではなく。
初期の彼の作品は街で過ごす孤独な若者を描いたものでした。
10代のボクは彼の歌を聞いて、初めて自分を肯定することができたんです。その頃はまだパンクというものはなかった。親、学校、社会、自分を取り巻く抑圧に対してNOと言ってもいい、ということを始めて、教えてもらった。
彼が描くニューヨークやニュージャージーと東京は違うけれど、『こんな気持ちを感じているのはボクだけじゃなかった』ということが判ったんです。世界は広い。
親でもない、教科書でもない、学校でもない、ボクは初めて自分自身の言葉を持つことができた。世界にはここではない何処かがある。自由というものを教えてもらった。
ところが『ネブラスカ』はこれまでのように若者ではなく、様々な理由で犯罪を犯した者たちを取り上げた作品です。スプリングスティーンの視点が初めて自分たち以外の人に向いた。
その後 彼は、孤独な若者が大人になり、結婚し、子供や孫も生まれ、老人になることを描くようになります。
大ヒットした『ボーン・イン・ザ・USA』でラストベルトの不況に苦しむベトナム帰還兵を取り上げただけではなく(レーガンやトランプが愛国賛歌と勘違いして、選挙キャンペーンに使おうとしたイメージとは全く逆)、彼の歌の中の登場人物はリストラや不況、911やイラク戦争のような事件に直面する。原発、地方の衰退、権力など世の中の不条理にも苦しめられる。近年は友との死別も取り上げるようになった。
彼の歌は我々と一緒に歳をとってきました。スーパースターになっても普通の人の気持ちや人生を描き続けているのは、この人だけかもしれません。ディランは他人のことは描きませんから。
世の中を変えようと、かってシカゴの慈善団体で働いていたオバマ元大統領は『自分が大統領になったのはボス(スプリングスティーンの愛称)のようにはなれないからだ』と言っています。退任後 彼はスプリングスティーンと一緒に本を書きました。退任後 彼が書いた本は回顧録とこの本だけです。
因みに彼の回顧録の題名は『A Promised Land』、スプリングスティーンの曲と同名です。
しかし、この映画の企画を聞いたときムリがある、と思いました。
主役のジェレミー・アレン・ホワイトはアメリカではエミー賞を連続して獲った伸び盛りのスターです。ルイ・ヴュトンのアンバサダーとしても有名です。
その彼が繊細で素晴らしい役者さんなのは今年の映画『フォーチュン・クッキー』を見て良く判りました。
しかし、彼はスプリングスティーンとは全く違う。右がジェレミー・アレン・ホワイト、左がブルースです。
それにバックのEストリートバンドやマネージャーのジョン・ランドゥらをどうするのか。み~んな、特別な人たちです。
映画のテーマも超地味です。『ネブラスカ』はカセットテープに録音した弾き語り作品にも関わらず、全米3位の大ヒットにもなりました。芸術的にも素晴らしくて、名優ショーン・ペンは自身の監督デビュー作『インディアン・ランナー』はネブラスカの中の一曲『ハイウェイ・パトロールマン』をそのまま映画にしました(これも名画です)。
しかし、大ヒットしたクイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』のようなドラマティックな話ではないし(面白かったですが)、だいたいクイーンみたいな下品かつコマーシャルな音楽とは種類、質が違う(笑)。
『ネブラスカ』は判る人には判るけど、判らない人には絶対に判らない(笑)。ボクは聞いたとき、頭を殴られたようなショックを受けた作品ですが、最近の観客にはどうなんでしょうか。まして、日本人にはムリムリ(笑)。こんなテーマを良く、商業映画にしたと思いました。
だけど10月末に公開されたアメリカでは初登場で興行収入4位と健闘しています。これは驚いた。さあ、どんな作品でしょうか。
原題の『Deliver Me From Nowhere』を訳すと『虚無から連れ出して』と言った感じでしょうか。パワフルなロッカーというパブリックイメージとは異なる、スプリングスティーンの内面を象徴する言葉です。
映画は1957年、ニュージャージーから始まります。当時9歳だったブルースが酒場で飲んだくれている父親を恐る恐る迎えに行く。貧しい運転手だった父親は酒を飲むと家族に暴力を振るうような男でした。幼いブルースはビクビクしながら父親に声をかける。
次に画面は80年のブルースのステージに変わります。発表したばかりのアルバム『ザ・リバー』は2枚組の大作にも関わらず全米1位、シングルカットした『ハングリー・ハート』は初のベスト10に入ります。全米のみならず、ヨーロッパまで回ったツアーは全てソールドアウト。
ステージが終わって消耗しきったブルース。ツアーが終わると彼は故郷に一軒家を借ります。ツアーの疲れもあります。
でも、やっと訪れたプライベートの時間は彼にとっては苦痛なのです。
いつの間にか彼は大スターになっていました。街を歩いていても声をかけられるし、ラジオをかければ自分の歌が流れてくる。彼にとってはそれが耐えられない(笑)。下積みの時代が長い彼はヒット曲が欲しくなかったわけではありませんが、それでも彼にとってヒット曲は苦痛なのです。彼にとって大事なことは商業的成功ではないからです。
彼は家に一人籠って、自問自答を始めます。しかし場所は故郷です。かって住んでいた自分の家や見かけた光景を見るたびに幼い頃の悪夢がよみがえってくる。
彼はフラナリー・オコナーの短編を読み、深夜テレビで伝説の名監督、テレンス・マリックの長編第一作『BAD LANDS』に巡り合います。実在の殺人犯のカップルを描いた、これまた伝説の名画と言われている作品です。今年4Kにリマスターされて、日本でも公開されました。
美しい映像のなかでマーティン・シーンとシシー・スペイセックのカップルが殺人を犯しながら逃亡を続ける、そんな作品です。
ブルースはそれを見て創作意欲が掻き立てられます。図書館で当時の事実関係を調べ上げ、その事件をテーマにした歌を作り始める。
それを日本製の4chカセットレコーダーでデモテープにしていきます。
彼はスーパー・スターになった今に至るまで、故郷のライブハウス、ストーン・ポニーに度々出演し、地元のアマチュアバンドとセッションをしていることで知られています。その頃もそうでした。
そこでウェイトレスとして働くシングルマザー、フェイと知り合います。
最初は彼は『俺は他人と一緒にいて喜んでもらえるような人間じゃない』と彼女を拒否します。今やスーパースターでも、彼はあくまでも自分に自信がないのです。それでもブルースは彼女に惹かれていきます。ちなみにこの映画の登場人物は全員 実在しますが、彼女だけは何人かを組み合わせた架空の人物だそうです。

やがてブルースは家に一人籠り、誰とも連絡を取らなくなります。自らを孤独に苛まれるに任せているかのようです。NYパンクのSUICIDEに夢中になり、病的な症状すら出てくる。

ブルースはカセットに録った『ネブラスカ』をバンド録音しようとしますが、うまくいきません。彼が表現したかった感覚がバンドの音に埋もれてしまうのです。
今年45年前にお蔵入りになったバンドバージョンが発表されましたが、そんなに悪くはなかったんですけどね。
とうとう、ブルースはカセットテープのまま作品にしようとします。しかし音質も悪いし、テープレコーダーがぼろくて音程も狂っている。そして内容はとにかく暗い(笑)。
次の大ヒットを求めていたレコード会社はもちろん、ブルースのアドバイザーでもありマネージャーのジョン・ランドゥ(ジェレミー・ストロング。映画『アプレンディス』でトランプの師匠の悪徳弁護士、ロイ・コーンを演じて今年のアカデミー賞にノミネートされました)も反対です。
しかしブルースにとっては自分が感じていた疎外感、罪悪感を犯罪者の心境に投影した大事な作品でした。かってブルースのステージを見てショックを受け、音楽評論家を辞めて彼のマネージャーになった経歴を持つジョン・ランドゥはブルースを信じて、レコード会社を説得します。

一定以上 お互いの関係を深めようとしないブルースをフェイが『あなたこそ真実に目を背けている。現実に怯え続け、逃げ回っている。あなたは自分に向き合っていない』と難渋するシーンがあります。
運転手の職を転々とした彼の父はアル中で酒癖が悪かっただけでなく、強度の鬱病でした。実はブルースも鬱を患っていたのです。ステージで演奏しているときだけは鬱から逃れられる。だから彼は狂ったようなエネルギーを放出しながら長時間のステージを続けている。しかし普段は自分がいつ父のようになるか、怯え続けている。だから人間関係を作ることができない。ボクと一緒じゃん(笑)。
『人を傷つけるのが怖い』と吐き出すように呟き、涙を流すブルース。彼はそのあとも自分を責め続ける。
『ネブラスカ』はツアーなし、シングルなし、記者会見なしで発売されます。まったくコマーシャルなアルバムではないにも関わらず全米3位の大ヒットになります。そして、ネブラスカで使わなかった曲を集めてバンドで録音した『ボーン・イン・ザ・USA』が生まれる。
ジェレミー・アレン・ホワイトはブルースとは違います。しかし、ステージを降りた彼の怯えたような表情が醸し出す繊細さは素晴らしい。彼の涙はマジにしか見えません。
ブルースだったら、こういう表情を示すだろうと思いました。
演奏も自分でやっている彼はギターも歌も猛特訓したそうですが、部屋での弾き語りや怒りを込めて『ボーン・イン・ザ・USA』をスタジオで歌うところは十分説得力がありました。彼は意味を理解して歌っている。
予告編で見たときはステージでのジャンプの高さが低い、とは思ったんですが(笑)、彼の起用は大成功だったと思います。
ロックスターのお話ですが、麻薬もアルコールも出てこない、パーティーや乱痴気騒ぎもない。実際、ブルースはそういうことに興味がない人です。
ドラマティックな展開がある訳でもないし、ハッピーエンドもない。躍動感のあるステージが描かれるわけでもない(役者さんが再現するのは無理)。過去、現在のトラウマに悩み、名声を得ても自分を無くしてしまうことを恐れ続ける一人の男の話です。
ブルースはその後も活躍を続けて大ヒットも出しているし、ツアーも世界中で大観衆を動員している。20年くらい前に強度の鬱であることをカミングアウトして、76歳になってもまだ4時間近いステージを続けている。鬱とも戦っている。
アーティストにとって創作とはどういうものなのかだけではなく、疎外感・罪悪感を抱えた一人の人物がどうやって生きていくのかを描いた映画です。人間関係を作れない、そして疎外感、罪悪感を抱えたまま生きていくのはボクにとっても他人事ではありません。
今も彼はここではない、no whereを追い求めているのでしょう。Promised Landというけれど、安住の地なんかどこにもないかもしれない。虚無の中で我々はどうやって生きて行ったらよいのか。
この映画は大スターであるブルース・スプリングスティーンを聖人にもせず(笑)、一人の人間として、それもかなり欠陥のある一人の人間として描くのには成功しています。
感動するとか劇的な話ではないですが、他人事の話ではない。我々一人一人の話、自分が生きていくときに傍らにいてくれるような映画です。それこそ、静かに心象風景を歌った『ネブラスカ』のように。ちなみに2回目を見たときはより感動が深まりました。そういう映画です。






![クレイジー・ハート [Blu-ray] クレイジー・ハート [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51uoIrD7LgL._SL500_.jpg)






![インディアン・ランナー [DVD] インディアン・ランナー [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/51S8FPVDBFL._SL500_.jpg)






![地獄の逃避行 [Blu-ray] 地獄の逃避行 [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51rmBz-Xr2L._SL500_.jpg)















