特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

オハイオのスプリングスティーンと『ポリーニ・パースペクティヴ2012』第1夜

 米大統領選もたけなわだが、選挙の結果を左右する激戦州のオハイオで先週18日、ブルース・スプリングスティーンクリントン元大統領一緒にオバマ支援のステージを行ったそうです。NYタイムスは『オバマはとうとう、特大の兵器を投入した』と報じている。


●各誌の記事
http://jp.wsj.com/US/Politics/node_533822
[http://www.nikkei.co.jp/category/offtime/eiga/music/article.aspx?id=MMGEzw001022102012:title]
Springsteen Helps Obama Lure Blue-Collar Votes in Ohio - The New York Times

 年初には『政治には失望した』と述べていたスプリングスティーンですが、同じ18日にホームページでも『今 選択すべきなのはオバマ』と言う声明を出しました。更にアイオワ、ヴァージニアでもオバマ支援のコンサートをやると言う。

Bスプリングスティーン:オバマ大統領のためにコンサート | HIGH-HOPES(洋楽ロック)

 結局 政治はどっちがマシかという話でしょう。オバマは経済を完全に回復させることはできなかったし、ウォール街や保守層への妥協的な態度も目立ちましたが、それでも医療保険の導入など現実的な範囲でやれることは結構やったのではないでしょうか。

                          
 日本のマスコミではあまり取り上げられないが、財政政策が使えない今 アメリカでも日本でも、先進国で景気回復のためにやるべきことは決まっていると思います。オバマもオランドも言っていることです。つまり、富裕層への増税によって、99%の層への配分を増やす。それによって消費を増やし実体経済をゆっくりとでも立て直していくこと。

 マネーサプライを増やすのは応急策としては良いと思うが、実体経済を強めることには繋がらない。今年2月に日銀が金融緩和したときのように一時的な効果しかないのではないか。あまったカネはグローバル経済の中でどこかへ流出し、バブルを引き起こすのが関の山です。

 ましてロムニー(ついでに日本の新自由主義者、それに頭の悪い維新の連中が言っているように富裕層減税と規制緩和だけで、どうして経済がよくなるのか。そんなことはブッシュ時代に散々やってきた。挙句 このざまだ(笑)。1%の側が99%側を収奪するのを強めるだけ

 オハイオクリントンは『今まで色んな仕事をしたが、スプリングスティーンの前座を務めるのは初めてだ。』と述べて満座の笑いを誘ったそうです。昔 クリントンが浮気がばれた翌日(笑)にスーダンにトマホーク・ミサイルをぶち込んだときは『極悪人』と思いましたが、ブッシュみたいなノータリンのあとでは名大統領のようにすら見える。それだけ世の中がひどくなったってことでしょうか。
                                                             
                                               
 昨日23日は六本木でマウリツィオ・ポリーニ、『ポリーニ・パースペクティヴ2012』の第1夜。

 これは全4回に分けて『現代音楽とベートーベンを組み合わせ、過去と現代における『革新』を展望(パースペクティヴ)する』というものです(他に室内楽が2回)。世界ではパリ、ベルリン、スイスのルツェルン、東京などで2年間かけて行われるもの。

(ボクは全然知りませんが)現代音楽の選曲はパンフレット曰く、ポリーニ氏が選んだのはマンゾーニ(伊)、シュトックハウゼン(独)、シャリーノ(伊)など社会に対するメッセージが色濃い、イタリア左翼の知的伝統が表れた作曲家だそうです。一方 現在では古典と呼ばれるベートーベンは発表当時は革新的な音楽だった。特に今回演奏される中期以降の全ソナタ!はそういうものらしい。

 前回の来日の際 ポリーニ氏は新しいことを作り出すという点では現代音楽もいくつかの古典音楽も、その本質は同じだと言っていた。ベートーベンだけでなく、バッハもモーツァルト印象派もマイルスもビートルズスプリングスティーンも登場したときは皆パンクだったのだから、全く同感です。Perfumeももいろクローバーだって登場したときはそうかも(笑)。

 今回の宣伝パンフ曰く『キアズマ(交差)から生まれる革命の夢』だそうです。格好良すぎですな(笑)。
 これから毎週1回 4週間に渡って六本木通い。やるほうは滅茶苦茶大変だろうけど、見るほうも大変です(笑)。
                                                                                       
 ということで、革命とは全然関係なさそうな連中が集まるサントリーホールへ(笑)。場内にはNHKの録画カメラも入っている。この日は前から3列目のど真ん中(えへん!)という我ながら良い席ですが、放送に自分のマヌケ面が写ってたら興醒めします。
●雨のサントリーホール

                                                   
<セットリスト>
●マンゾーニ:
II rumore del tempo (時のノイズ)
(ヴィオラ, クラリネット、打楽器、ソプラノ、ピアノのための)
 [ルツェルン・フェスティバル委嘱作品、日本初演]
 ニコラス・オッジ(ピアノ)
 クリストフ・デジャルダン(ヴィオラ)
 アラン・ダミアン(クラリネット)
 ダニエル・チャンポリーニ(打楽器)
 チョー・ジョー(ソプラノ)


ベートーヴェン:
ピアノ・ソナタ第21番 ハ長調 op.53 「ワルトシュタイン」
ピアノ・ソナタ第22番 ヘ長調 op.54
ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 op.57 「熱情」

 マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)

                                                    
 マンゾーニの作品はタイトルが『時のノイズ』というだけあって、まさにノイズミュージック。『This Heat』とかの80年代のニューウェイヴ/オルタネイティヴロックのアコースティック版みたいな感じ。

 曲は女声ソプラノとヴィオラが拮抗するように始まる。張り上げるようなソプラノに対して、ヴィオラはキーキー、ノイズを奏でる。次にソプラノにピアノという組み合わせ。ピアノは音階に基づかない節(要はメロディではない)を奏でながら、時折 硬い音の固まりをぶつけてくるのが印象的だ。さらにソプラノ+ドラム(お化け屋敷のBGMみたいだった)、ソプラノ+クラリネットという組み合わせで曲が進んでいく。歌詞はロシア、ドイツ、イタリアの1910年代の詩人たちの詩だそうです。

 そして最後にソプラノが奏でる『何故 お前の沈黙の中には喜びが満ちているのかと。』という一節に全ての楽器が唱和して終わります。
 こういう前衛的なノイズミュージックはどうしても、適当に弾いてんじゃないの?ボクでもできそう(笑)、と見えてしまう(笑)。だけどこの日のそれは緊迫感も盛り上がりもあって、なかなか良い演奏でした。作曲者のマンゾーニ氏も最後に客席の後ろから登場して演者と一緒に会場からの拍手を受けていた。

                                              
 休憩の間にステージを組み替えてポリーニ先生の登場。70歳だそうだが、近くで見ると歳をとったなあと言う感じがします。
 いつもどおり、席に座るといきなり弾き始めます。

 軽快な筈の『ワルトシュタイン』がゆっくりとしたペースで始まったから一瞬、『あれ?』と思った。彼のエンジンの係り具合の問題かもしれないが、今回はこのペースが新鮮で心地よい。段々と打鍵のスピードが上がっていき、第2楽章の終わりくらいからフルスロットルの暴走状態(笑)。力強いアタックと優雅なペダリングで演奏された第3楽章はすばらしかったです。

 そのまま、なだれ込んだ第22番もほぼ完璧。しきりに転調が繰り返される、この22番とか『ワルトシュタイン』や『熱情』の第2楽章では、時折挿入される不協和音や唐突さがさっきのマンゾーニを思い起こさせたのは面白かった。

熱情』では、この曲にふさわしく、さらに鍵盤へのアタックがどんどん強くなった。もう、ガンガン鍵盤をたたいている感じ。硬質な音の塊はマンゾーニ作品とも共通するが、強烈さはそれどころではない。

 そうやってパッションを表現する様は圧巻というしかなく、会場の空気を完全に支配している感じだった。この人がここまで情動的な表現をするとはおもわなかった。その反面、終盤には疲れからか、多少ミスタッチも目立った。

                                
 終わると場内は大拍手。多くの人が立ち上がっている。ロックコンサートでもこれだけの盛り上がりは少ないと思います。ポリーニ翁は拍手に答えて、なんども優雅に頭を下げる。弾いているときはまったくわからないが、足がちょっと悪いのだろうか。燕尾服を着てふらふら歩く後姿はペンギンみたいで、少しユーモラスに見えた。
 ご本人は疲労困憊、ピアノにつかまって立っていると言う感じで、この日のアンコールはなし。

 この人の場合はどうしても期待値が高いので、その基準からするとこの日の演奏は必ずしもベストではないかもしれません。けれど、ものすごい物を目の前で見たのは間違いない。技術だけでなく、熱気のこもった演奏はすごく楽しかった。あっという間の2時間は得がたい体験でした。11/2の第2夜も楽しみ。