特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

やっぱり、愛がなくちゃね:映画『おとなの事情』と『ラ・ラ・ランド』

日曜日から今朝にかけて東京は文字通り冷たい雨でした。3月も末だと言うのに、今朝の雨はみぞれまじりでしたから『催花雨』なんて優雅なことは言ってられない(笑)。寒かった。日曜日は家でずっと半身浴をやってました。
●半身浴のあと、ベイブ君にお茶を付き合ってもらいました。ちょっとバタバタして落ち着いた時間にならなくて、ベイブ君には申し訳ないことをしました。雑な泡立てに、心の持ちようが暴露されています。ベイブ君は優しいから文句を言わないけれど、予めお茶をたてる時間を決めておくなど、自分なりに時間の作り方の工夫をしないといけないと思いました。



日曜日の夜のNHKスペシャ私たちのこれから 認知症社会【NHKスペシャル】 私たちのこれから Our Future|NHKを見てたら『2025年には認知症認知症予備軍が1300万人!』になるんですって!。ボクも高齢の叔母が今 二人も入院しています。明日は我が身、です。

                
普段 ボクは日本の将来は文句言うしか能がないネトウヨ排外老人だらけの貧乏国って憎まれ口叩いてますけど、認知症&予備軍が1300万人じゃ洒落にならない。経済も安全保障もアウト、でしょ。海外派兵どころじゃないよ(笑)。おまけに介護の2025年問題。以前にも書きましたが、8年後は38万人も介護人材が不足するそうです外国人問題と中国映画2題:『ブラインド・マッサージ』と『人魚姫』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)。移民は嫌、とか寝ぼけたこと言ってる場合じゃありません。認知症予防には栄養と運動、それに対人関係。自分から『活動したい』と思わなくなったらヤバいそうです。ボクは今だって他人とおしゃべりするのも、自分から活動したくもないからなあ。めんどくさいもん。これはまずい。けど、ムリ(笑)。
良くも悪くも将来は『認知症が当たり前の社会』になる。現実は受け止めなくてはならないし、打つ手がないわけではない。製薬会社の友達に聞いたら、あと10年位したら認知症のクスリができるという話もあるし(薬の値段は判らないけど)。番組はそれほど内容は深くなかったけど、認知症の人や介護している当事者の人たちが出演していたのも良かったです。


さて、今回も非常に面白かった映画2本の感想です。
まず、新宿で映画『おとなの事情映画『おとなの事情』 | 3月18日(土) 新宿シネマカリテほか全国順次公開!

月食の夜、ホームパーティーに集まった7人の友人たちが、携帯にかかってくるメールや電話を公開するゲームを始める。年頃の娘を抱えた中年夫婦、セックスレスの中年夫婦、子づくりを始めたばかりのカップル、恋人ができたばかりのバツイチ男性、それぞれにはそれぞれの事情があって- - -

監督はCM界出身のパオロ・ジェノヴェーゼという人(そういう名字があるんだなと思いました)(笑)。イタリアでは大ヒットし、イタリアのアカデミー賞と言われるダヴィット・ディ・ドナテッロ賞で作品賞と脚本賞を受賞したそうです。



今やたいていの人には欠かせないものになっている携帯電話。会社支給とは言え、ボクですら持つようになってしまった。電話は一切出ないけど(笑)。小さな機械にそれぞれのプライヴェートが目一杯詰まっています。
この映画で、パーティーに集まったのは中年の男女7人、昔からの仲良しばかり。ふとしたことから携帯をお互い公開するゲームを始めます。でも、彼らは、結婚しようがしまいが、齢を取ろうがとるまいが、生まれてから死ぬまでずっと恋をする(笑)?イタリア人。何も起こらないわけはありません。
●賑やかなホームパーティー。イタリア人の食べ物描写って、いつも上手いと思います。人生の中で、食べることの優先順位がかなり高いんです。

                               
パーティが行われているマンションを舞台にした室内劇です。7人の会話と心理描写の妙を楽しむ映画。
『男と女は違うのよ。ウィンドウズとマックくらい』
『男はウィンドウズ。ウィルスに弱くて、複数の事を同時に出来ない』
『女性は頭の回転が速く、直感的で優雅だからマック。値段は高く、互換性は悪いけどね』
こんな会話を交わしながら、男と女たちの話題はビオワイン(無添加ワイン)、美容整形、カウンセリング、風俗嬢からのメール、元カレからのセックス相談、齢の差の恋、性欲、家庭崩壊、思春期の娘と母との葛藤、嫁姑のもつれ、転職、失業、格差、性同一性障害、同性愛、浮気、様々なお話が飛び出します。それぞれの過去や関係性も暴かれていく。ちなみに舞台となる美しい月食は登場人物たちの心の秘密の象徴だそうです。
                     
よく『ありのままで』とか言いますけど(笑)、長く生きていれば誰だって、男も女も、大なり小なり様々な問題を抱えざるを得ません。そんな平板な人生なんてありえないし、○か×かで割り切れる話なんて、実は世の中ではあまりない。映画はそれを正面から見据えています。容赦がない、苦い話もあります。ボクは人間関係とかどろどろした話題は大嫌いなのですが、この映画は見ていてあまり苦痛に感じません。現代音楽っぽい上品な音楽をうまく使った非常にセンスの良い展開脚本の中に人間に対する深い愛情があるからです。下世話なワイドショーとは根本的なところが違うんです。男も女も『おとなの事情』を抱えていますが、話を良く聞けばそれぞれの事情には大抵 共感できるものがある。思わぬことで傷つきながらも、登場人物たちは相手も自分も愛することを失わない。ここは素晴らしい。観ていて後味が全然悪くならないんです。
●こうやって皆で自撮りをしている最中にも携帯にはメッセージが届きます(笑)。描写はまったく容赦ない。

●インテリアやファッションも見ていて楽しいです。それもイタリア映画の魅力

                        
特に昨年 非常に印象に残った映画『神様の思し召し『自由への恐怖』と映画『神様の思し召し』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)で主人公の偏屈な男性医師を演じていたマルコ・ジャリーニと『カプチーノはお熱いうちに『民意の受け皿は?』と『8月の実質賃金』、それに映画『カプチーノはお熱いうちに』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)の主人公の美人女優カシア・スムトゥニアクが離婚寸前の中年夫婦を演じています。どちらも大好きなキャラクターだったし、俳優としても素敵だったので、今回も嬉しかった。この映画の中でも、夫婦も子供も心が通い合わなくなった家庭について語る彼の率直な思いは非常に感動的でした。
●医師(左、マルコ・ジャリーニ)とカウンセラー(右、カシア・スムトゥニアク)は一見理想的なカップルですが、問題を抱えています。

●しかし、それだけではありません。お互い『おとなの事情』を抱えつつも、根底にはお互いへの尊敬と愛情がある。まさに『おとな』であるわけです。


それにしても、こういう映画がつくられてヒットするイタリアは日本とは精神年齢が大人と子供くらい違うのではないか、と思います。甘くて、苦くて、はらはらする、そして人間に対する深い愛情に包まれた映画。観終わったあとプログラムを買ってしまったくらい面白かったし、良くできた映画です。ボクはかなり好き! 大好き!



もうひとつ、新宿で話題の『ラ・ラ・ランド
映画『ラ・ラ・ランド』公式サイト

ハリウッドでピアニストとして成功を目指すセブ(ライアン・ゴスリング)と女優を目指すミア(エマ・ストーン)の出会いと別れを描いた恋愛ミュージカル


アカデミー賞で史上最多の14ノミネートされ、監督賞や主演女優賞などを6つを獲得しました。王道のラブストーリーに加えて、本格的なミュージカルということで、日本でも大ヒットしていますよね。
●人物も衣装も景色も実に美しい。

監督のデイミアン・チャゼルは本格的な作品としては前作の『セッション』に続いて2作目、アカデミー監督賞は史上最年少(32歳)だそうです。ドラマーになることを目指していたけれど、ハーバードに入って映画制作を志したというユニークな経歴の持ち主です。
ボクは前作の『セッション』はあんまり好きじゃないんです。監督がアカデミー脚色賞にノミネートされたり、助演男優賞を獲得したり、低予算映画としては異例の成功をおさめただけでなく、すごーく良くできた映画です。面白かった。

だけど主人公が徹頭徹尾 幼稚でバカで我儘なクソガキでした。自分が女の子を口説いた癖に練習の邪魔になったら捨てるようなアホガキはボクは大嫌いだし、全く共感できない。クライマックスの演奏シーンも素晴らしいんだけど、音楽の楽しさが全然 伝わってこない。監督は元ドラマーだけあって演奏を見事な迫力で描いているけど、ただそれだけ。この監督は人間も音楽も嫌いなんだろう、って思いました。

                                  
個人的には人間嫌いは許せますが(笑)、音楽を描いた映画で音楽が好きでないと言うのは説得力に欠けます。例えば同じ音楽映画でも『はじまりのうた』や『シング・ストリート 未来へのうた』のジョン・カーニー監督は使われる音楽や演奏が素晴らしいだけでなく、音楽によって人間が成長する/救われることを描いています。多くの人と同様 ボクは音楽や映画に自分を救ってもらった体験があるから、ジョン・カーニー監督に心から共感します。この監督はボクの友達、仲間と思ってるくらい。『シング・ストリート』でも監督は観客に『すべての兄弟たちへ』と呼びかけていますから、彼も同じ気持ちでしょう。でも、デイミアン・チャゼル監督は素晴らしい演奏シーンは描くけれど、ただそれだけ、なんですね。 音楽で人間が変わったり、成長したりすることはないんです。それじゃなんのために音楽があるの? それじゃぁ、精神が貧困すぎるでしょ(by本田勝一)(笑)


前置きが長くなりました。『ラ・ラ・ランド』も前作『セッション』の延長線上にある映画です。
勿論 前作より遥かに予算もあるし、出演者も豪華、お話も面白い。テンポも演出のキレも良い。すっごく面白いA級の映画です。特に主演女優賞を獲ったエマ・ストーンの演技は最高ですよ。主人公たちの造型はやっぱり性格も悪いし最初から最後までバカで、あんまり好きになれないんですが(笑)、エマ・ストーンが熱演しているから共感しちゃう(笑)。特に中盤のオーディションシーンは最高です。演技は感動します。エマ・ストーン、まさに可憐という言葉がふさわしい。
●この二人が出ているとどうしてもロマンティックに見えてしまう。


ミュージカル映画ということで、音楽も良くできています。名曲ではないけど、かなり良くできている。滝廉太郎まで流れます。過去の作品にオマージュをささげつつ、テンポも速いし、今風になっている。ノスタルジーじゃありません。大したもんです。


だけど問題あり、なんです。例えば主人公のセブの音楽学校時代の友人でキースというミュージシャンが出てきます。ジャズを愛するセブですが生活の為に売れ線狙いのキースのバンドに加わって成功をおさめます。その演奏シーンも実際 かなりカッコいい。キースを演じるのはジョン・レジェンドグラミー賞アカデミー賞も獲った、アメリカでは大スターです。音楽がカッコいいのは当然。でもこの人は売れ線狙いのカネに身を売ったミュージシャンではなくて、甘いラブソングが中心で有りながら革新的な良い音楽を作ってきた人です。公民権運動をテーマにアカデミー主題歌賞を獲ったこの歌↓は記憶に新しいところです。ついでに彼はゲイ、カミングアウトしてからLGBTの権利の為にも積極的に声を挙げています。
●2年前のアカデミー賞の授賞式。ピアノを弾いて歌っているのがジョン・レジェンド。このパフォーマンス見るといつも感動して泣いてしまいます。観客席の並み居るスターたち、デカプーくんとかも泣いてる。

●これは名盤です。甘くて逞しい音楽



設定とは言え、そういう人、そういう音楽を単なる売れ線狙いの音楽として描いてしまうところは、監督は音楽の事をあまり判ってない、思い入れが無いんだろう、と思ってしまいます。ジョン・レジェンド演じるキースはこの映画の中で主人公たちの次に重要なくらい大きな役ですが、お話の中ではどこかちぐはぐです。カッコいい演奏シーンだけが浮いている。あんなカッコいい音楽をやっているんだから、主人公のセブが悩むわけない、と思ってしまう(笑)。
他にもこの映画のクライマックスの回想シーンは素晴らしいんだけど詰めが甘いのも、監督の音楽に対する思い入れの無さに起因している、と思います。クライマックスは『シング ・ストリート』の講堂のシーンとコンセプトは似ているんだけど、説得力が全く違う。切実さが違うんですね。ただ『ラ・ラ・ランド』の場合、クライマックスは惜しくても、そのあとのラストはOKですから嫌らしい(笑)。

                   
お話のほうは過去の色々な作品が下敷きになっている、オマージュをささげているんでしょう。『シェルブールの雨傘』の悲恋や『カサブランカ』のダンディな別れ、他にも『パリのアメリカ人』など様々な作品が下敷きになっているそうです。そういうところは悪くないです。主人公たちの人間描写はほぼないけれど、脚本の出来もいい。
●超美人ってわけじゃないけど、可愛げがある。見せ場はびしっと、想像以上に素晴らしく演じ切る。

●昨年 トランプの当選に抗議して、彼女はマシュー・マコノヒーナタリー・ポートマンマイケル・シャノンなど他のスターたちと共に『I Will Survive』(私たちは生き残る)を歌いました。1枚目が彼女のリハーサル光景。超可愛いです。2枚目が完成版。2日間で100万回以上閲覧されたそうです。


                                                     
なによりもエマ・ストーンとライアン・ゴスリング。ただ歌って踊るだけでなく、タップダンスして、アカペラで歌って、宙づりになって踊って、ちゃんとピアノを弾いて、見事に泣かせます。エマ・ストーン最高です。彼女の主演女優賞はなんの文句もない。素晴らしい。この二人が出てなかったらダメ映画になってたかも。
●ライアン・ゴスリング、楽器を弾けなかった彼はピアノを覚えて、ちゃんと指を音に合わせているそうです。


良くできているし、面白いし、完成度の高い見事な映画です。綿密に計算された画面はいちいち絵になってるし、美しいです。それにラストは感動して泣いちゃいましたよ。だけど手放しで絶賛、という感じではありません。この映画には愛が足りない(笑)。
でも、これだけの質が高い作品を大画面で見るとやはり、映画って楽しいなーと感じます。そして、見た後にこうやって感想をいろいろ書きたくなるような映画ではある。絶対に見た方がいい映画であることは間違いありません。