特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『この世界の片隅に』(2回目)(笑)と『ラン・ラン ピアノ・リサイタル@サントリーホール』と映画『シーモアさんと、大人のための人生入門』

心配していたオーストリアの大統領選は極右が負けて、緑の党の候補者が勝ちました。イタリアの国民投票は議会改革のための改憲案が否定された。どちらも良かったと思います。オーストリアの極右が負けたのは勿論ですが、イタリアも実質的な一院制なんか目指したら、5つ星運動みたいなポピュリストが政権を握るリスクが高まります。バカなマスコミはトランプ現象と同一視して、また既存政治への不満とか言ってますが、今回の改憲案にはEU残留派の人も大勢反対しています。問題の本質は、そんな改憲案なんてヤバすぎってこと。イタリア国民投票 両刃の剣 :日本経済新聞
反EUの5つ星運動の37歳のローマ市長、驚くくらいの超美人(好きっ!)とは思うんですけど(笑)、ルックスと政治とは別だからなあ。EUに入る以前からイタリア経済はダメだったんだし(笑)、EUから離脱してイタリアになんの得があるんでしょうか。
世の中が複雑になり、なおかつ景気が悪くなってくると、人間は判りやすい答えを求めたくなります。だけど、人生にそんなものはない(多分)。今 大事なのは、『世の中に簡単な答は無いってことに耐える知的な体力』だとボクは思ってるんですけど、そんなこと言っても無駄なのかなあ。

                   
さて、昨日の日曜日は朝から映画『この世界の片隅にこの世界の片隅に【映画】をもう一回 見に行きました。相変わらず大盛況です。

1回目では見落としていたこと、勘違いしていたことが随分ありました。とにかく情報量が多い。見れば見るほど、これはどうなってるんだと思ってしまう。これは良し悪しだなあ。でも新鮮味は落ちませんでした。
先週 映画評論家の町山智浩氏が、のん(本名 能年玲奈)の旧所属事務所のレプロが彼女のマスコミへの出演を妨害していると暴露していましたが、今回 彼女も改めて素晴らしいと思いました。声や息遣いだけでこれだけ感情表現ができるものなのか。言葉が必ずしも多くない主人公のすずさんの気持ちを抑揚やせりふ回しで工夫して表現しているのが感じられました。殆ど、すずさんとのんちゃんが同一に見えてきた(笑)。

前回より落ち着いて見られたので、美しい画面をより強く感じられて、文字通り豊かな色彩のシャワーの中に自分が包まれているような感じがしました。あと世の中には男はいらないってことも良くわかった(笑)。結局 このお話は主人公のすずさんも義母も義姉も妹も、そしてすずさんが広島で出会う子供も、要するに女性たちが生き抜いていく姿を描いたものです。それとは対照的に戦争始めたのも男だし、いざってときは、あいつらは全然役に立たない(笑)。これが男視線の女性映画(監督のインタビューより)たる所以なんでしょうけど。
最後ではうわーっと大声をあげて泣きたかったのに、さすがに映画館では大声はあげられない。これはかなり問題大きい(笑)。1回目に見たときより、2回目の方が、すずさんたちのたくましさと希望をより強く感じました!

●如何にインディーズに近い規模の映画とはいえ、この映画、まともに紹介しているTVはNHKだけだそうじゃないですか。政府の意向を忖度するのも大手芸能プロの意向を忖度するのも、マスコミの本質は同じ、ということでしょう。

●『プロデューサーは市民映画と言っていた』: 監督と町山智浩氏との対談。昨日見た時、女子学生たちが歌いながら行進するシーンはボクも気になっていたんですが、こういうことだったとは。これを読んで、もう1回泣きました。
「この世界の片隅に」女子アナ・戦艦大和… 片渕監督が貫いたリアル - withnews(ウィズニュース)

                    
 
                                    
そのあと、六本木で『ラン・ラン ピアノ・リサイタル@サントリーホール
映画の後、六本木でカレーでも食べようかと思ったんですが、金曜のキューバ料理が少しジャンキーだったので我慢してお昼ごはん抜き。代りにサントリーホールシャンパンを一杯(笑)。

                                      
中国のピアニスト、ラン・ランと言う人は可愛い顔をしています。特に女性に大人気だそうで、毎回チケットは争奪戦になります。来年 NHKの大河ドラマの主題歌も担当するそうです。個人的には全く興味ないんだけど(笑)、『ワールド・ピア二ストシリーズ』という年間チケットを買ったら、この人の分も付いてきた。夜だったら嫌だけど、日曜の昼だったらいいかな、と思って出かけてみました。
客席は若い人、年配の人、とにかく女性で一杯でしたよ(笑)。
<セットリスト>

アンコール


もっと大仰で下品な演奏を想像していたんですが、そうではなかったですね。上手いし、とにかく優しい音を出します。あと、やたらと演奏にタメを入れる。やっぱり、ちょっと仰々しい(笑)。それくらいはいいんですが、肝心なところで音が濁る。これはちょっとなあ。演奏が終わると四方八方お辞儀して非常に愛想が良い人です。で、女性陣からの熱い拍手(笑)。演奏が終わってステージへ最初に花束を持って行ったのは老年の白人女性でした。そのあとはもう、続々と(笑)。ボク自身は感動するとか、演奏がスリリングとか、新しい発見をしたとかは全くありませんが、それでも休日の昼にシャンパンを飲みながら、のんびりときれいな音を聞くのは時間の過ごし方としては悪くなかったです。

●六本木のアークヒルズにも華やかなクリスマスのデコレーションが。ボクには関係ないけど(笑)。


                            
今回は 先週封切りになった素晴らしい映画『ハンズ・オブ・ラブ 手のひらの勇気』を取り上げたかったんですが、ちょうど良いので、少し前に観たこの映画の感想を書きます。超地味な作品ですがスルーは勿体ないので。

銀座で映画『シーモアさんと、大人のための人生入門

イーサン・ホークは自分が俳優を続けるべきか迷っているとき、マンハッタンのパーティでピアニスト、シーモアバーンスタインに出会い、アート、ステージへの恐怖、成功への誘惑などについて語り合った。もっと多くの人がシーモアの話を聞くべきだと考えたホークは彼をテーマにドキュメンタリーを作った----

 
将来を嘱望されていたにもかかわらず、ピアノ教師と作曲に専念するため50歳でステージを去った80過ぎのクラシック・ピアニスト、シーモアバーンスタインの人生を本人や周辺へのインタビューで描いた作品です。俳優のイーサン・ホークの初監督作品。
●この人がシーモアさん。

                                           
シーモアバーンスタインという人は現在80歳を超えたピアノ教師兼作曲家です。ピアノ教育の分野では有名なようで日本語に訳されたピアノ教授法の本が何冊も出ています。かっては嘱望されていたピアニストで、ガーシュインの『ラプソディ・イン・ブルー』を日本で初演した人でもあるそうです。そんな彼は50歳で現役を引退、教育の道へ歩み始めます。この映画はそんな人生を選んだ彼の心境、音楽についてのインタビューです。
イーサン・ホークは監督も兼ねています。

                                                   
有名俳優のイーサン・ホークはかって悩んでいたそうです。彼自身は自分で劇団を作っているほど、真面目に演技をしたいのに演技への評価は必ずしも彼への評価とは結びつかない。自分自身がくだらないと思っていた作品に限って商業的な成果を挙げ、彼自身はホトホト嫌気がさしていたそうです。どの作品のことを言っているのでしょうか(笑)。そんな時、シーモア氏に会って迷いが溶けたと同時に、多くの人が彼の話を聞くべきだ、と考えたそうです。

                                         
映画は彼が指導する光景とインタビュー、演奏が織り交ぜて進んでいきます。指導光景がすごく面白いんです。世界各国から集まってきた生徒たちですから、技術的にはしっかりしているんでしょうが、シーモア氏は技術的な事より、気持ちの込め方や筋肉の使い方を指導するんです。気持ちの込め方は判るんですけど、身体の使い方というのは非常に面白かった。精神的なことだけでなく物理的なことも視野に入れる指導法はある意味 プラグマティックなアメリカ人らしい発想だと思いました。日本人だったら、曲の解釈まで雁字搦めに指導するんでしょうけど(笑)。
●指導風景

                                           
シーモア氏はNYのアパートメントに独り暮らしです。家には小さなピアノと僅かな本が置いてあるだけ。お金は無いわけではないんでしょうけど、豪勢な家具があるわけでもないし、洋服が揃っているわけでもない。自分の人生に必要なものだけを削り落としていったらこうなったんでしょうか。
●深夜、一人の部屋で

彼が演奏活動を止めたことについて、結構執拗にインタビューが続きます。『演奏を辞めてしまうのは才能の無駄遣いじゃないか』とか、『世の中に貢献することを止めてしまったのか』とかインタビューアーは尋ねるんです。いかにもアメリカ的な質問ですよね。

シーモア氏は『演奏時のプレッシャー、商業的なプレッシャーから、演奏活動をリタイアした』と答えます。その気持ちは判ります。たまに大勢の前や重要な会議で話さなくてはいけない時、そんなプレッシャーに耐えて何の得があるんだろう、と思いますもん。『才能の無駄遣いなのでは?』という質問に対しては、『自分は後に続く人たちに自分の才能を注ぎ込んでいるんだ』と答えます。素敵な生き方ですよね。ボクは非常に共感できる。地位とか名誉とか所詮は他人が与えてくれるものです。他人にどう思われようと、大局的には自分の人生にあまり関係ない。うるせえよってこと(笑)。特に歳を取ってきて、自分の人生とはなんだろうかと考え始めたとき、本当に大事なものはなんだろうか、そんなことを考えます。
                                           
音楽に対する彼の考え方や作曲家の作品への感想も面白かったです。柔らかな曲想のシューマンに対して、彼はベートーベンの音楽を男性優位主義と切り捨ててましたけど、確かにそういう風にも聞こえるなあと思いました。この映画はいわばシューマンの映画、です。貸出用のピアノがごろごろ並んでいるスタインウェイ社の地下も面白かった。

                                        
彼の穏やかな心境と柔らかな音、まるで哲学を映像にして見せられているみたいです。音楽に興味がある人はもちろん、自分の人生に疑問を抱いた人には楽しめる作品だと思います。ボクは大変面白かった。レンタルビデオで見ても十分楽しめる、深い映画です。ただ、ピアノの音がとてもきれいなので、でかい音で聴いた方がいいです(笑)。
ではでは!