特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『グランド・フィナーレ』と『最高の花婿』

北海道の補選は大変残念でした。新聞の出口調査によるとこんな結果が出ています。

投票率は前回よりやや下がった。
・20〜40代は和田に多く投票した。池田氏が優位だったのは50代以上。職業別にはサラリーマン、自営業は和田が優位、公務員、非正規は池田氏が優位。
有権者の関心は『社会保障』、『景気』。『安全保障』はその次に過ぎない
毎日+北海道放送の調査でも論点は『社会保障』、『経済』ですから、その点は間違いないでしょう。『経済』が心配な人が和田に投票した。

                                          
最初から判っていたことですが、『戦争法案反対』はメインの論点になりえない、というのもはっきりしています。戦争法反対と言ったって政府に平和のための安保法だと言い返されるのが関の山(笑)。敗因は投票率が低かったのが問題なのか、池田氏無党派の7割しか取れなかったのが問題なのか、見方はあると思いますけど、結果としては元々与党が強い選挙区ですから、野党は大善戦ではあると思います。それに民進党共産党と組んでも大きな問題はなかった。

●奥田君と産経、奇しくも同じことを言ってます(笑)


                                        
今朝 安倍晋三が衆参W選挙を断念したという話が出ましたが、地震だけでなく今回の善戦の成果でもあるでしょう。                            

 
今夏の参院選では野党は若い人にアピールするテーマ、経済に関連するテーマを打ち出していかなければいけない。若い人の票を狙えば、将来を心配する心ある高齢者の票だって取れるでしょう。アベノミクスが失速している今、元来だったらチャンスなんだよなあ。消費税延期・格差対策を早く打ち出した方が勝ち、なんだと思います。



さて、齢を取ってくると、自分はどうやって死んだらいいのかを時折、夢想するようになりました。上野千鶴子先生じゃありませんが、死ぬときはどうせ一人なんだし、どうやって死んだらいいのか、色々なシチュエーションを考えます。例えば311の時はSF小説『渚にて』に出てくる老人たちみたいに、放射能で死ぬなら美味しいワインを飲みながら泥酔して死にたいと思った。今のところは杞憂に終わり、万一に備えてケースで買ったサッシカイヤ(イタリアのワイン名)はもったいなくて飲めず、そのまま残っています(笑)。いずれにしても死は自分が思っている形ではこないのでしょう(笑)。
                                         
新宿で映画『グランド・フィナーレ』(原題Youth)。『グレート・ビューティー/追憶のローマ』などのパオロ・ソレンティーの新作です。

80歳になり現役を退いたイギリス人作曲家フレッド(マイケル・ケイン)は、親友の映画監督ミック(ハーヴェイ・カイテル)と共にスイスの高級ホテルに滞在していた。ミックは彼の遺言ともいうべき新作の準備をしている。ある日フレッドの元にエリザベス女王の使者がやってきて、女王の誕生日に代表作の指揮をしてほしいと依頼する。頑なに断る彼だったが。

パオロ・ソレンティーノ監督の前作、アカデミー外国映画賞を取った『グレート・ビューティ』は大好きだったんですが、ブログで感想を書くことができませんでした。お話は65歳を過ぎた老作家が若かりし頃の初恋を回想するだけで、はっきり言ってくだらない(笑)。でも映画はローマの遺跡やお洒落なファッションや会話、それに音楽などの圧倒的な美に溢れていました。それを言葉にできなかったんです。

グレート・ビューティー 追憶のローマ [DVD]

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そういう映画こそ何度も見返したくなります。ボクは平日は一切お酒を飲みません。40を過ぎた頃 自分の人生の残り時間を考えるようになって、ボクは勤務先では『一滴も飲めない』と言い張るようになりました(笑)。時間がもったいないからです。でも、週末にプライベートでワインを飲みながらこういう映画を観るのはかなり楽しい。自分が死ぬときも、美味しいワインを片手にこういう映像を見ながら死ねたら、さぞ幸せだろう、と思うんです(無理だろうけど)。
●人生を象徴するかのような主人公(マイケル・ケイン)の深い皺。こんな恰好をしているマイケル・ケインはイギリス労働者階級の出身、典型的なワーキング・クラス・ヒーローだそうです。

                         
今作も同じ作風です。舞台はアルプスのふもとの高級リゾート。主人公の作曲家や友人の映画監督などセレブが休暇を過ごしています。高級リゾートですから高齢者が多い。原題『Youth』の通り、若さは美しいです。だけど老人たちの弛んだ体や深い皺も美しい。アルプスの光景や高級ホテルのセンス良いインテリアにはむしろ、そちらの方が似合う。映像も音楽も実に美しい。ここでは音も映像もセリフも俳優のルックスもインテリアも見事に調和しています。
●圧倒的に老人が多い高級リゾートの光景

                                
人生への諦観を前面に表現しているようなマイケル・ケインの深い皺も、世俗のチンピラ臭がいい具合に出ているハーヴェイ・カイテルも、美の体現者のようなレイチェル・ワイズもひたすら美しい。
●夫から棄てられた主人公の娘(レイチェル・ワイズ)が超美しい。主人公は彼女から男相手の過去の不貞を責められます。

幻想的な映像の中で人生への幻滅と愛が表現されているところはフェリーニに似ていると思いました。彼が亡くなって何年も経ちますが、久しぶりにそういう表現を見て、なんか懐かしかった。
●水の上を歩く主人公。

音楽も実に美しい。冒頭に流れるホテルのバンドの演奏からしてやたらと格好いい。懐かしいソフィー・マルソーの映画の主題歌『リアリティ』もカバーされます。そして、物語のアクセントのようにドビュッシー前奏曲第1の6番が何度も流れる。このコントラストがいいんです!帰宅して直ぐ、iTunesでサントラを買ったくらいです。この映画の実質的なテーマでもある『シンプル・ソング』は今年のアカデミー主題歌賞にもノミネートされています。名曲です。

Youth

Youth

                                      
失われてしまった若さに憧れを持ちながら人生を受け入れていく映画監督の悲劇的な結末も、そこから主人公が立ち直る姿も素敵でした。
●主人公(マイケル・ケイン)と親友の映画監督(ハーヴェイ・カイテル


                                 
自分もこういう風に齢を取りたいなあ。人生を刻み込んだようなマイケル・ケインの皺、これですよ!緊張感あふれる最後の演奏シーンも素晴らしくて、ここだけは大画面でみなければ伝わらないシーンかもしれません。とにかくお子ちゃまには判らない映画(笑)。特に前半の映像美が圧倒的で、あらすじが展開する後半はやや失速したのは若干残念でしたが、非常に良かったです。そもそもこの映画はお話自体はどうでもいいんです(笑)。本当はゆったりしたシートでシャンパンでも飲みながら見たかった。DVD出たら絶対買います。この映画もまた、何度も見たいです。



恵比寿で映画『最高の花婿

舞台はフランスの片田舎、ロワール地方。のどかな田舎に住む老夫婦には4人の娘がいた。そのうち3人が結婚した相手はイスラエル系のユダヤ人、アラブ系のイスラム教徒、中国人。保守的な老夫婦は娘たちの結婚を祝福しつつも、誰も自分たちと同じカソリックと結婚していないことに内心忸怩たる思いを感じていた。ある日 唯一未婚だった末娘が結婚相手を連れてくる。今度の相手はカソリックと聞いて大喜びする老夫婦だが、花婿はコートジボアール出身の黒人だった- - -

●田舎の老夫婦。習慣も宗教も文化も全く異なる娘たちの婿と仲良くしようとは試みますが、内心では残った4女には自分たちと同じ白人のカソリック教徒と結婚してほしいと思っています。

この映画は2014年にフランスで興収1位、1200万人の動員でフランス人の5人に一人が見たという大ヒット作品です。しかし、あまりにも2016年の今にピッタリのコメディです。老夫婦の娘たちは仲良しの4姉妹ですが、花婿たち4人はケンカばかりしています。
●美人4姉妹が画面に映っているだけで目の保養でした(笑)。4女(左端)が連れてきた婿(中央)は老夫婦はカソリック教徒と聞いて喜んでいたのですが、彼はコートジボワール出身でした。

アラブとイスラエル、それに中国系に、黒人。現実の国際関係も絡めて、4人は宗教や食事などの生活習慣や考え方の違いでちょっと何かあると大喧嘩です。最初は仲裁しようとする舅ですが、自分が抱えていた移民に対する違和感が段々現れてきて、家族は四分五烈の状態に陥ります。
●アラブ人とイスラエル人、それに中国系。婿たちは顔を合わせるとごく自然に喧嘩になります。

お話が進むにつれ、お互いの仲たがいの原因は単にお互いがお互いのことを知らないだけ、というのが次第に判ってきます。気落ちした老夫婦の為にバカな男たちが4女の結婚を妨害しているうちに、次第にお互いのことを理解していきます。
●仲が悪い婿たちでしたが、老夫婦のために4女の結婚を懸命に妨害しようとします。服がお洒落でしょう。そういうところも見ていて楽しい。

全然似てないけど、超美人の4姉妹を見て目の保養をしながら、バカだけど人が良い男たちのマヌケなドタバタ劇を楽しめます。あとフランス映画の常で、洋服の着こなしがとても勉強になる。華美なものは出てこないんだけど、黒人も中国人もユダヤ人もアラブ人もいわゆるフランク系の白人も、それぞれ自分を生かす服をさりげなく着ている。フランスやイタリアの映画のこういう点にはホント、いつも感心します。

すごく良くできているとか感動するとかいう作品ではありませんが、上映時間の1時間半、誰でも楽しめること請け合いの映画です。面白かったです。